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棚橋衣奈の心労 信条編・陰謀編  作者: TNネイント
第九話「混ぜて出す薬は何がいいか?」
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9-1.彼女とは、世界がレンズ越しに広がっている者同士である。

「作戦」の新しい標的が決まった―――――なんてとんでもなく悪い言い方になるが、内藤さんと二人きりで会話をした日の帰り。


 六島さん、笠岡くん、玉野さん、私の四人で、バス停で別れるまで雑談をしていた。

 ただ、今日はいつもと違う。


 バスが来るまであと数分のところ、先程まで後ろにいた井原さんが何かやるのを警戒してか、笠岡くんが私の斜め前に立っていた。

 彼も彼で、私と彼女の関係が良くないのは認知しているし、その対策だろうか。


「さようなら、()()とも」

 結局その井原さんはというと、私には睨みつけただけで通り過ぎていったため、気にしすぎ、という事にはなった。

 誰かが―――――おそらく私が人としてカウントされていない気がしたが、それに対する我慢ができていなかったら、間違いなく喧嘩になっていた事だろう。


 彼女とのやり取りと言えるのは、通り過ぎたその背中を見て、困ったような顔のまま、それに向けるようにして右手を数回左右に振るだけだった。


 その後少しして、待っていたバスが停車したので、二人とも別れて乗車した。

 この際、互いに挨拶と片方の手を振る仕草はしていたが、二人と違って、私だけが笑顔でいる事ができなかった。


 それからも、私はとても気分が良いとは言い難いような様子になってしまっていた。


 そんな中で考えていた事―――――それは、『より私が人に愛されるにはどうしたらいいか?』

 これを考えている間にも、より己を否定する方向へと発展してしまっていた。

 そして、良いとは言えなかった過去の記憶も、続々と頭の中に浮かび上がっていた。


 笠岡くんどころか高梁くんとも出会う前の私に、今の私が現れて、高校生になった自分自身だと聴かされると、恐怖でしばらく寝込んでいたかもしれない。

 その頃の私がどんな人間だったのかというと、良くも悪くも今の私とは対照的だったか。

 頼りにできたのは両親だけだったり、動物は怖くないのに人は怖かったり、亀や蛙を無言で見守るのが最大の楽しみだったり―――――。


 この時期というのは、一人でいる事にも、いない事にされる事に対しても抵抗がなかった。

 それが生まれたのは、おそらく笠岡くんたちとの繋がりができた事で、『側に頼れる誰かがいる事』が当たり前になってからだろうか。

 よくいじめられずにいられたものだ―――――とも思ったが、今考えれば、それも愛奈と勇に嫌われていて、二人の気分を損ねないように意識していた事が理由の一つだったりしていたのかもしれない。


 家に帰ってからも考え事はやめられずにいたが、相談はした相手にとって迷惑になると思ってしまい、できなかった。



 ただ、それから土曜日と日曜日は、ほぼいつも通りに過ごしていた。

 変わった事、といえば、勇パパのお店が井本のテレビ番組に登場していたそうで、こちらでもその放送があると母さんに教えられて一緒に観ていた事くらい。

 まず一人が旅をしに行く動画が流されるのだが、その動画の中でお笑いコンビの二人にとって気になる所があれば、ボタンを押して停止させてツッコミを入れる、という内容の番組だったようだ。

 その放送では衿さんも出演してていた。

 動画の出演者とは、「父の元カノとその元カノと別の父の子が親子で店に来た事があった」なんて話もしていたらしい。


「元カノが、別の父との子と、親子で?」

「どんなシチュエーションやねん! 別の番組でも出てたんか?!」

 結構散々に言われていたが、思わず笑ってしまった。

 特に葉畑でも非常に有名なお笑いコンビの二人に驚かれるとは思わなかった。

 それに、ネットで番組の名前を聴いた事自体はあったが、こんな内容だとも思っていなかった。


 そもそも動画の一部が田島市内で撮影されたものだったようで、母さんは利用した事のある建物などが映り込むたびに興奮していた。

 私にはどう反応すればいいのか分からなかった。


 そして、月曜日―――――。

 いつもは教室に向かう所、内藤さんに訊いてみたい事があったので、彼女を探そうと一年の教室周辺に寄り道をしていた。


「高梨さん……? ああ、セナさんの事ですか?」

「はい。 結構酷い目に遭ってるみたいで……。 知ってる事とかあったら……」

 訊きたかったのは、彼女と同学年である高梨さんについてだ。


 面識はあり、今も同じクラスだという彼女から話されたその内容は、私には信じ難いものだった。


 高梨さんの方から二人に嫌がらせをしたのが最初だったとか、もともとネット上でも嘘と本当を混ぜた自慢を多数投稿していたとか。

 その二人も二人で、彼女が言うには「高梨さんが手を出す前からもあまりいい話というのは聴いた事が無かった」そうだ。

「二人が何をしていたのか?」と訊いてみたところ、些細な事で周りにマウントを取っていたとか―――――。

……個人的に「制裁」する事で、周りから自身へのイメージを良いものにさせようとしていたのだろうか?


 そんな彼女の話を聴いた私は驚いていたが、話の内容から一つ確信した。

「『ぎゃふんと言わせる』だけでは、絶対にこの問題は収まらない」と。

 しかし、前のトイレのような様子を目の当たりにして、高梨さんに謝れなどと迫るのは、私には無理だ。


 内藤さんと別れた直後、最適解はどこにあるのかと考えてようとしていたところで、その高梨さんと鉢合わせた。


 挨拶をしてみたが、普段とあまり変わらない、少し暗めの雰囲気だった。

 先程聴いていた事については、あえて確認などはしなかった。


 そして、昼休み。

 弁当を食べ終わり、笠岡くんの席に視点を向けてみると、内藤さんたち同じ部活の三人の姿があった。

 様子をよく見てみると、彼女は自分が話をしていない間、視線を時折私に向けていたりもしていた。

 それに対して、すぐには反応できず、見つめるままになってしまった。

 すると、彼女がこちらを見る顔も真剣そうになっていた。

 これが会話中ずっと続くのかと思ったが、彼はすぐに気付いたようで、少し驚きながらも視線をその方へと向けていた。


 この二人が中心になったと思われる話では、途中笠岡くんがこちらに振り向きだしたのに対して焦ってしまったりもしていた。

 それにしても、先週伝えてあった事も、この会話の際にこなしてくれているだろうか。


 このあと、私も弁当を片付けてから、彼の席の方へと向かった。

 この瞬間、その席の周りの全員が少し笑っていた。

……とは言っても、人によって温度差はあり、笠岡くんたちは楽しそうなのに対して、私は戸惑いが残っていた感じだったし、内藤さんに至っては口で笑顔を作っただけだった。


「……何ですか?」

「また会ったな、って」

 すぐ視線に気付き、困惑するような顔をしていた彼女に話しかけてみた。


「一つ確認したいんですけど、何故私を狙うんですか?」

「狙うとか、そんなつもりはないですよ」

 呆れや怒りも混じっていたような、冷静な話し方からの質問は他の人より鋭く感じたが、内容自体は想定内だった。


『私まで、標的になりえると? それはちょっと……』

 そういえば、前に話題になっていた時、彼女は警戒気味でいたか。


 この後、笠岡くんから「何かあったのか?」と訊かれたので、「朝に彼女と同学年の知り合いについて訊いていた」と説明した。

 聴いた彼は、納得したような表情を見せていた。

 この際は三人も会話中で、その方についてはちゃんと聴き取れなかったが、おそらく内容はこちらとあまり変わっていなかっただろう。


 それから、席周りでは主に生徒会長選挙の話題で盛り上がった。

 私が「出ないと決めていた」と話した時、三人の中の内藤さん以外の二人が少し驚いていた。

 ただ、それ以外の時間の私はというと、悪口の元になったりしないかと、ほとんど井原さんの席周辺を気にしていた。

 午後の授業が始まる五分ほど前で解散してから、元の席に戻った。


 そして、その授業も終わって、下校に向かう時の事―――――。

 笠岡くんが井原さんと一緒になっていたので、六島さん、玉野さんとの三人で下校する事に。


 校門前まで、玉野さんを中心として、三年のクラス分けの予想等の話をしていた。

 彼女たちもまた、笠岡くんと同じクラスを望んでいるらしい。


 そこで別れてからの私は、また別の人を待っていた。

 途中、通りすがる他の人たちの中の何人かに心配させてしまったりもしていたが、説明しておくと納得したような態度を見せて去っていた。


「こんにちは」

「待ってくれていたんだね」

 二時間近く待って、その人―――――福山さんがやってきた。

 手を振ったりして、迎えるように振る舞うと、彼女は微笑んでくれた。


 最近彼女の席周辺に行けていなかったので、まず校門を通ってから、学園前の歩道の脇で選挙についての確認をしていた。

 実はまだ立候補の届け出ができていなかったようだが、監督や顧問に相談の上、今週中にはするらしい。


 この際、連絡先の交換も行った。

 フレンド登録した彼女のSENNのプロフィール画像は、私服姿で街を歩く二色ムウを描いた、可愛らしいイラストだった。

 メッセージで訊いてみたところ、そのキャラと「スタイルモール·アラカワ」という全国規模のチェーン店の服屋さんのコラボアイテムが発売する、というPlanterの投稿を見て、その中のパーカーをムウに着させたらどうなるのかを想像して描いたものらしい。


 その出来を褒めると、素直に喜んでくれた。

 この後も彼女とは、SENNのグループに招待してもらったり、雑談をしたりしていた。


 帰ってきてから勉強までは、ほぼいつも通り。

 その勉強していた時間も、途中その招待を受けたグループの中で他人とのやり取りをしていたくらいで、特に大きな変化はなかった。


 入れてもらったグループの中では、福山さん以外は誰も私の下の名前を知らなかったとか。


『棚橋と言います』

『棚橋です』

 ただ、最近は自分から『衣奈だ』と名乗る事自体がほぼなかったし、「そう思われてもおかしくはないもの」として解釈して、特に怒ったりはしなかった。


 福山さんがフォローしてくれたのはありがたかったが、それと同じか、更に言えば上回ったりもするかもしれないくらい「申し訳ない」という思いが強かった。

 というか、このグループからの通知にはいちいち反応のしようがなくて、フォローについて分かったのも、風呂上がりに一度端末を確認してからの事だった。


 翌日の朝―――――。


「おはようございます。 授業―――――の前に、皆さんにね、伝えたい事があるの」

 午前の授業の開始前に、先生から話があった。


 私への殺害予告についてのものだった。

 私の両親とも話し合いを行った上で、書き込みについての開示請求を行う事になったとか。

 後日行われる裁判の結果によっては、学年全体での臨時集会や、厳しい処分が行われる可能性もあるという。

 この話の間、周りを見渡したりもしていたが、確認できた範囲では誰も焦ったりはしていなかった。


 誤魔化している、などと疑うのも良くないのだが―――――。


 午前中はこれ以外に大きな変化はなかった。

 井原さんたちからどこを悪く言われているかとか、それくらいしか分からなかった。

 その悪口も、大抵は見た目又は言動のいずれかだけが対象で、ほぼ毎日のように聴いている。

 そんな話題がほぼずっと尽きないのは、私が直そうとしていないせいでもあるのだろうか。


 それから、昼休み。

 弁当を食べ終わった私は、五組の福山さんの席周辺にいた。


 話題の中心は生徒会長選挙。

 井原さん以外に誰が立候補する可能性があるのかとか、陣営としてのイメージ戦略とか、想像より内容は真面目に見えた。

 グループの中の役割については既に話をしてあったようで、私の場合は「人々の投票先を誘導する事」、と伝えられた。

 要は広報活動だろうか。

 この活動の間は、福山さんの名前を出さなくていいらしい。


『ちゃんとできるのか?』とか、『人を裏切る事にならないか?』などと不安になったが、すぐに『私に向いていると思って与えられた役なんだ』と思い直した。


 これ以外についてもある程度彼女たちと雑談をした後、私は授業まで残り数分のところで別れて、一組へと戻ろうとしていた。


 ところが―――――。


「おい、棚橋」

「棚橋さん?」

 その教室の前で、内藤さんと美佐さんと鉢合わせた。

 二人とも、こちらに気付くと近寄ってきた。

 それまではにらみ合っていたようだったが―――――まさか、喧嘩でもしていたのだろうか?


「こいつ……棚橋の何なんだよ?」

「私の台詞です。 この方について説明してください」

 怒るような視線で詰め寄る二人に対して、適切な言葉が浮かばない。


 片方の側に付けば、もう片方を怒らせてしまうという不安があったのだ。

 片方を叱るわけにも、無理に擁護するわけにもいかなかった。

 それに、どちらが先に手を出したか等も分からなかった。

 対応を間違えて、その人に嫌われる事も嫌だ。


「私の友達……ですけど」

 結局、この言葉しか出てこなかった。

 それも、困るような表情で、不安定な声量で。


「えっ?」

「ああ……ごめん」

 やはり、二人を困惑させてしまった。

 ただ、その後の反応は違いがあり、美佐さんはどこか申し訳なさそうで、内藤さんは突然の出来事があったかのようだった。


 この反応の違いは、実際に私を友達と認識しているかどうかの違い……なのだろうか?


「私と棚橋さんって、そんな関係でしたっけ?」

「一応……そういう事で……」

「だったら、もっと教えてくれてもいいんじゃないですか? 普段のあなたについて」

「確かに……」

 真剣さの増す表情の内藤さんに更に近寄られ、圧倒されてしまう私。

 ここで振動が起きれば、不可抗力で抱き着いてしまっていたかもしれないほどには身体同士が密着していた。

 両手も捕まれていたし、横を向くわけにもいなかった。


 彼女が美佐さんの左横に戻った瞬間、そちらの顔に視線を向けてみると、頬を赤らめていて、口を両手で塞いでいた。


 どうしたのか、と思ったが、ここで一つ、家での出来事を思い出した。

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