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棚橋衣奈の心労 信条編・陰謀編  作者: TNネイント
第六話「人に優しくすること」
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6-2.人々の理解

 この部分は、他の部分より若干短めになっています。

※通常約5500字前後の所、この部分は約5000字ほど

 やけに周りからの視線を集めていて、会話の雰囲気も冷たかった。

 こちらを見て話していた人のほとんどが、癖で話しかけた事のある人だった。


 よく話を聴いてみると、良い意味でも悪い意味でも私の話題で持ち切りだった。

「悪い人じゃないけど本当にそれだけ」とか、「会話終わったら困り顔でチラチラ」とか。

 自覚している事も多かったが、「これが"癖"の恐ろしさなのか」と不安になった。


 そんな私のもとにやってきたのが―――――その"癖"の影響で知り合った、美夏さんと美佐さんだった。


「なんだよ、今日は。 お前の話ばっかりじゃねえか」

「そうなんですよ。 ニュースになってたみたいで……」

 美佐さんの方は若干呆れ気味にしていて、こちらとしても困るような返事しか出来なかった。


「見たぞ、それ。 別に、あたしは……言われてる風には、その……思ってなんか、ねえから……」

 するとそれを見た彼女は頬を赤らめ始め、たどたどしい口調で話し始めた。


「そうですね。 棚橋さんを家に呼んだ時も、帰った後に誰よりも寂しそうにしていたんですよ?」

「言うなって……」

 そんな中に入ってきた、美夏さんが微笑みながら話した出来事には、そのままの態度で止めようとしていた。


 こうした流れもよくある方だが、その話を聴いていて、少し微笑ましく思った。

 彼女の事を憎めなくなったが、未来の事が不安にもなった。

「もし美夏さんや私に何かがあって、以降彼女の元からいなくなったらどうするのか?」など。

 こんな考えばかりするのも、良くない事は分かってはいるのだが―――――。


「もしかして……私が大切な存在だったりしますか?」

「そ、そんなわけ……!」

 笑顔を作って訊いたのに対し、彼女の緊張はさらに強まっていた。

 この問いが出た理由として、私も相手を大事に思うあまり、慎重になりすぎる所があり、彼女にとっては私が該当している可能性があった。


 美夏さんはというと、状況を楽しんでいそうな表情をしていた。

 これもまたいつもの事なのだが、その度にどうしてそんな気持ちでいられるのかが気になってしまう。


 それから学園前のバス停で下車するまで、私は二人との会話を弾ませた。

 その中で、美佐さんから「恋人」についての言及があった。


『あたしとお前って、友達……という事でいい……んだよな?』

 その時に思い出したのが、以前に呼びかけられた時、後ろにいた二人のうちの一人だったが、その人はもともと美奈さんの知り合いで、他の姉妹と協力しながら、自分に付き添わせるようにしていたという。

 二人とも、異性に求めるのは「人間性」との事で、すぐに笠岡くんが浮かび上がったが、周りの事も考えて教えなかった。

 今から接触させるのもどうかと思った、という点も大きいが―――――。


 作戦に協力させるとしても、四つ子である事を考えれば、あらゆる面で厳しいと思った。

 秘密にできるかとか、生活と両立した活動ができるかとか。


 学園に立ち入ってからも、周りからは陰口を叩かれたり、嘲笑されたりもしたが、そんな相手に対しても、挨拶だけは欠かさなかった。

 もちろんそのような人は全体からすればごく一部で、好意的な態度を取ってくれた人よりやや少なめだった。

 大多数は気にしていなさそうだったが。


 というか、ニュースが広まってから、周りから私への声が、段々と正直になってきている気がする。

 校門周辺も、異様に物騒だったし―――――。

 正直、今更な気もしなくはない。

 あの出来事があってから、私が敏感になっただけという事もあるのかもしれない。


 そして一組の教室、問題の「隣の席」こと井原さんの席の周りには―――――いつもの取り巻きたちがいなかった。


 周りをよく見てみると、その中の二人が自らの席にいた。

 以前詰め寄られていた人たちだ。


 後ろを通りかかる前に、彼女の方に挨拶をしてみたが、無視された。

 反応そのものは、いつものパターンのうちの一つでしかないのだが。


 それから、午前は特に何もなく、昼休み。


 笠岡くんの席の周りに向かうと、四人ほどの女子とも鉢合わせた。

 左から内藤さん、辻さんと服部さん、中村さんだった。

 その人たちにも、こちらについて心配させてしまった。


「ちょうど、衣奈の話をしてた所だったんだ」

 ただ、私は良いタイミングでやってきたらしい。


「あの、棚橋さん。 いろいろ聴いてるよ、拓くんから」

 そんな中で話しかけてきたのは、服部さんだった。


「噂で聴いていたよりかは良い印象を持てる人だと思った」という。


 この話を聴いた時、『時期の変わり目』の予感がした。

 今まで別の方に向けられていたカメラや光が、今度はこちらに向けられ始めているかのような―――――。


 それと同時に、大切に思う友達が笠岡くんだった事が、私にとってどれだけ幸運だった事かを改めて認識した。

 そして、周りの人々にとって、彼に相当するような存在でありたい、と改めて決意した。

 こういう事自体はよくあるのだが、事件をきっかけにして変わった、と思わせるのには丁度いいタイミングだった。


 それからは大きな出来事のないまま学校が終わり、いつものように帰ろうとした、が―――――。


「そっちじゃないでしょ、衣奈?」

 バスを待っていた所に、母さんが肩を叩いて、こちらに話しかけてきた。


「誰?!」

「私の母さんです」

「全然似てない……」

「てか、若くない?」

 一度困惑する周りの方を見て少し左手を振った後、母さんについていくと、学園の近くの駐車場に止められていた、見慣れたナンバーの水色のワゴン車が見えた。


「正直、意味がわからないです……」

「だって、警察が話聴いてくれるのって夕方までだから」

 その助手席に乗った後、雑談を交わしながら母さんと一緒に向かったのは、花坂警察署だった。

 改信院には警察署が無く、代わりにそこが管轄する事になっているためだ。


 署内では、しばらく警察の人と母さんと私の三人で、殺害予告の事で話し合った。

「緑の悪魔」というのは、自分を不快に思う人の間でのあだ名の一つだとか。

 学園の関係者などへの聞き込みで大体把握はしていたようで、今回は情報が正確かどうか改めて確認する意味合いもあるという。


 その中でも、特に「癖」については執拗に質問された。

 何が原因で発生するのか、いつからどうしてその癖が付いたのかとか。

 話を聴いてくれた警察の人は、こちらの事を割と本気で心配した上で、「誤解を招くような行動は極力しないように」という旨の内容の話をしてくれた。

 また、この手の事件について、いつもはどう動いているのかについても少し話してくれた。

 今回は書き込みを発見した学園の関係者から、相談があったのが最初だったという。


 その後、少しの間の車内での会話を楽しみながら、改信院市内のお祖父さんのお店に向かったが、営業時間外だった。

 そもそもが昼間だけの営業だったのだ。


 ただ、お祖父さんとの接触には成功し、母さんとの三人で、近況や将来の事について話し合った。


 その中で、分部にあるお祖父さんの姉のお店についての話題があった。

「あつらどん」のメニューを開発する際にその人からうどんの麺について協力を求められたとか、その見返りとしてメニューのレシピを教えてもらったとか、私が連れてくれた時に店内にあったカメラは、全国ネットで放送されている番組の取材によるものだったとか。

 この際にも、その方から「メディアの取材は受けるべきか?」という内容の相談があり、「店に夢を持っているなら受けるべきだが、店に身を縛らせたくないなら受けない方がいい」と答えたという。


 それから家に戻ってきたのは、午後六時半頃の事だった。

 晩ご飯は、仕事で家にいなかった父さんを除いた四人で食べた。


 食べ終わってからの勉強中に、高梨さんからSENNで電話がかかってきた。


 少し話がしたかったとの事で、勉強しながらそれに対応していた。

 その話の内容のほとんどは、復讐に関するものだった。

 相手となる三人について思い出した事があるようで、二人は以前私が接触していた人たちで間違いないとか、あと一人は三年の人で、二人のうちの片方の姉にあたる可能性があるとか。


 また、彼女からも私の身の異変を心配された。

 今日も三人のうちの二人から嫌がらせを受けたそうで、「なるべく早くなんとかしてほしい」との事だった。


 対応できなかった事を謝った後、「私が駐輪場から教室付近まで同行する」と提案したが、彼女が強く反対したため断念した。


 確かにこれではまた誤解が生まれそうだ、とその返事を見て思い直した。



 翌日―――――。

 バスに乗車してすぐに、笑顔を作って、同乗していた学生たちに挨拶をして回った。


 同じようにして返事をしてくれた人、嫌そうにしていた人、困惑する人、そもそも無視する人もいたが、どんな反応をされても、態度や表情を変えなかった。


 これで印象が良い方に―――――向いたという訳ではなかったのは、回り終わってから聴こえてきた話の内容で察する事ができた。


 下車して学園に入ってきてからも、すれ違った人には必ず挨拶する事を徹底した。

 冷やかしを受ける事も多かったが、絶対に怒らずにやり過ごした。


『その緑髪と眼鏡の見た目と、不自然なまでの優しさ。 裏で悪さでも企んでいるのでしょう?』

 途中、また井原さんの言葉が頭の中を(よぎ)って立ち止まる事もあったが、『もう根に持っていられない』と自分に言い聞かせて乗り切った。

 ささやかな交流が目的で、その人を貶めようとは考えていなかったし。


 教室に来てからも、その場にいた全員に挨拶をして回ってから席についた。


 そんな日の昼休みは、四組の教室に向かった。


 上野くんと話をしたかったのだ。


「こんにちは」

「冷やかしに来たのか?」

 しかし、いざ席の前に立って話しかけてみると、逆に彼から質問された。


「もし暇だったら会話でも……」

「その眼鏡を外したら聴いてやるよ」

 目的を話すと、私にとって厳しめの条件を提示された。


 初めて視力検査を受けて以後、どうしても外さないといけない場面を除いて、人前で眼鏡を外した事はあまりなかった。

 寝る前だったり、プールやお風呂といった水が絡んでくる場所では外しているが、それは健康や眼鏡本体の事を考えた上での事だ。

 家族や親しい人を前にしても、「裸眼の私」は滅多に見せていない―――――というか、なるべく自分から見せないように、意識して生きてきた。

 それなのに、会話の交換条件という釣り合っているとは言い難い条件で、顔見知りというだけの人に、そんな私を見せてもいいものなのだろうか?


「すみません、それは無理です。 では、失礼します」

 迷いに迷って諦めて、四組の教室を後にした。

 彼の興味や関心には応えたかったが、また変な噂になって冷やかされるのも嫌だったし―――――。


 それから、一組の教室に戻り、大きな変化もないまま午後の授業が終わった。


 今まで意識してこなかったが、下校中にも周りから声をかけられる機会が増えている気がする。



 それから特に大きな変化はなく、いつものようにして一日を終えた。



 翌日―――――。

 登校時にいつものように、すれ違った人への挨拶を続けていると、福山さんと鉢合わせた。


「おはよう、棚橋さん」

 挨拶はこちらが返す形になった。


「突然だけど……君は、生徒会選挙には出ないのかい?」

「はい。 私には務まらないと思うので……」

「……そうか。 だったら一つ、お願いがあるんだ」

「何ですか?」

「私は会長選挙に出る。 君には、選挙の手伝いをしてほしい」

 対面してしばらく話していると、彼女から選挙について提案された。

 真面目に見えたその顔は、彼女の選挙に対する気持ちを感じた。


 そういえば、前にも言及はしていたか。

 ただ、その場合でも力になれるのかとか、気にしている所はあった。


「手伝い……ですか?」

「選挙における君の力は、とても無視できるものではないと思っていたんだ」

 しかし、この彼女の言葉で、そのような不安はほとんどなくなった。


 私としても、仮にもし選挙活動に関わる事になるとするなら、井原さんの側でさえなければいいと思っていた所はあった。

 関係のためなら、妨害になるような事はしたくないし、今度は投票を巡って、周りから浮いたりしないか心配になったが―――――。


「……今は決められないか。 もし決まったら、また私の所に来てほしいよ」

 結局その場では、どうするか決められなかった。

 こういう二択に非常に弱いのは、相変わらずだった。

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