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棚橋衣奈の心労 信条編・陰謀編  作者: TNネイント
第五話「褒められる所は褒めること」
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5-3.繋げたいもの

「美佐さんって、こういう時に一番楽しそうにしてるじゃないですか。 あなたにとって、それが一番の幸せなのかなって」

「お前……バカにしてんのか?」

「してませんよ」

 困惑する彼女に、どうして幸せそうに見えたのかを説明すると、頬を赤らめて、怒るかのような話し方で返された。


「大体、幸せ……とか、そんなんじゃねえよ。 あたしには、美夏達といる時が一番……楽しい。 家だったらもっと良い。 ……人の目、気にしなくていいから」

 この直後の話も、その表情のままで、若干ちぐはぐな話し方になっていた。

「楽しい」と話す時に、「幸せ」と言いかけていたのが気になったが―――――。


「私には、そういう状態にあるのが羨ましく見えるんです」

「そうかよ。 じゃあ、なってみろよ……あたし達、みたいに」

「流石にそこまでは……」

 その事は口に出さず、なるべく彼女に自分が不幸だと思わせないように返事をした。

 ここまで彼女の話を聴いていて思ったのは、やはり兄弟姉妹からの態度も変わってくるという事だった。



 ――――――――――



『衣奈とティメディカ観たくない! だって嫌いそうだもん!』


『衣奈は勉強でもやってろよ。 ゲーム、嫌いなんじゃないの?』

 彼女達が事実上四人一組のような状態であるのとはほとんど逆で、私は愛奈と勇とは仲が良くなかった。

 私自身が末っ子だったし、二人の父さんとの交流だって簡単に出来る事ではなかったし、二人も二人で改信院に馴染めていなくて、家に居場所を求めていたという事情もあったのかもしれない。


 小学四年生辺りで、愛奈とは筆箱の件で、勇とは漫画へのエロ栞の件で仲直りはしたものの、まだ根に持っている部分は全くないというわけではなく、今でもこの二人だけは下の名前で呼び捨てにしている。


 ちなみに、エロ栞の件というのは、絵を描くのが得意だったという勇が、遊んでいたゲームの女性キャラクターの格好をほとんど裸にして、所々に太い直線を描き足して隠したようなイラストを描いた紙を、勝手に私が父さんに買ってもらっていた漫画の単行本に挟んでいたというもの。

 彼に描いていたキャラを訊いてみた所、「カストフォース2」というゲームに登場する「ソルム」だと言っていたか。

 土と水を操る能力の使い手で、青緑に黄色のメッシュの入ったセミロングに垂れ目の黄色の瞳で、彼が言うには「元からしてエロいキャラ」らしい。

 そのゲームが十五歳以上対象だったなんて、知る由もなかったが―――――。



 ――――――――――



「棚橋さんにも、兄弟とかっていたりするんですか?」

 今度は、美夏さんの方から話を訊かれた。


「腹違いはたまに聴きますけど、種違い……ですか。 何か"ワケ"のありそうな……」

 説明してみると、彼女は何か企んでいるかのような笑みを浮かべた。


「ないわけでもないですけど……詮索するほどでもないですよ?」

「そう……でしょうかね?」

 どちらとも言えないような言い回しをすると、彼女は食い気味になっていた。

 焦りながら首を縦に振ると、少し納得するかのような表情を見せてから、いつもの様子に戻った。


 この後も、四つ子と会話を弾ませながら学園を出た。

 直後に美奈さん、美来さんと別々になった。



「あの、棚橋さん」

「はい?」

「私達の家に、興味はありますか?」

 バスの中でも、二人と一組のようになっていた所で、美夏さんから誘われた。

 本当はそこまで興味は向かない―――――が、今の彼女はかなり機嫌が良さそうで、断ったら損ねてしまう可能性も捨てられない。


「まあ、どちらか、といえばあると……」

 挙動不審になりながら返事をした。

 美佐さんの方に視線を向けてみると、かなり恥ずかしそうにしていた。


 瀬戸さんの家は、普段私が乗り降りしているバス停より、学園から三つ先の所にあるという。

 一度そこで降りてすぐに行ったのは、端末での父さんへの連絡だった。

「少し遊びに行くので遅れる」、と―――――。


 緊張する美佐さんと、その緊張を和らげたい美夏さんのやり取りを後ろから見ながら、緩やかな坂を登っていると―――――。


「ここですよ」

 途中で美夏さんがこちらの方に体を向けて、一軒の家に右手の人差し指を指した。

 その先にあったのは、二階建てで角張った、白系の色の壁の大きめの一軒家だった。


「立派な家……」

 思わず、考えていた事が声に出た。


「ですよね? 実は―――――」

 美夏さん曰く、この家について、親族にはかなり無理をさせていたとか。


「そうなんですね」

「あ、その先は秘密ですよ?」

 流石に詳細は教えてくれなかったが、その顔つきは何か真面目な話をする時のような、真剣なものだった。

 私には関係がないと考えれば、そうなるのも理解のできる所ではあったが。


 家では彼女に案内されるがままに、玄関で靴を脱ぎ、スリッパへと履き替えて、二階の一室へと入っていった。

 白い壁とフローリングに、木目調のテーブルの下には淡い青色の円形のカーペットが敷かれていた。

 家具や家電も大きめのソファーに冷蔵庫に大きなテレビと台と充実していて、ここが家のリビングと言われても納得がいく。


 二階は広い部屋が二つあるだけで、その階のほぼ全体が美夏さん達四つ子の空間だという。

 案内されたのは居間の方で、寝室はここと同じくらいの広さだとか。


 そこでの話―――――と言っても、机で互いに向かい合うように座っていた美夏さんは、質問の内容が自分達姉妹の事ではないと見れば、すぐに真剣なトーンで「秘密」か「内緒」と言うし、美佐さんの方はソファーに寝転がっての読書に夢中だった。


「どんなものなんですか?」

「『柳井(やない)とあらかわ』。 お前みたいな奴も出てくるから参考にしてる」

 覗いてみようにもよく見えず、直接内容を訊いてみたところ、タイトルと一緒に大体教えてくれた。


 周りから浮いた存在になりつつあった二人の女子高生『柳井さん』と『荒川さん』の出会いから始まる「異質な関係」を描いた物語で、今彼女自身が読んでいる小説と、それを原作とした漫画とアニメがあるという。


「そうなんですね。 でも、どうしてこれを?」

「表紙で漫画と間違えた」

 理由についても、緊張している時と同じような仕草を見せつつ話してくれた。


 姉妹だけで古本屋さんに行った際、当時人気だった少年漫画がどこにあるかが分からず、本のサイズや表紙のキャラのイラストなどから漫画と勘違いしたまま買っていたのだが、読んでみた所あまり見慣れない内容で衝撃的だったとか。

 私を友達と見なしてからは、『(のち)の嫁である』など、同じ原作者の作品とその漫画版を含めて何回も読みまくっていたらしい。


「そこまでやってたんですか?」

「勉強になる……と思った」

 緊張からか、学園で話をするように喋りがちぐはぐになり始めた彼女に対して、少し戸惑うようにしながら反応すると、今度は話を聴いていた美夏さんが微笑んでいた。


「わ、笑うな!」

 そちらに顔を向け、先程から一転して怒鳴るように話す美佐さん。

 しかし、それに怯む様子はない。

 むしろ笑っていた。


 美夏さんに訊いてみた所、こうしたやり取りは家ではよくある事だとか。


「……嘘つけ」

 美佐さんの方からは嫌味のような独り言が聴こえてきたが、それを彼女に伝える事はしなかった。


 その直後に、美奈さんと美来さんも帰ってきたので、そちらに振り向き、少し右手を振った。

 この際、二人と美夏さんのやり取りがあり、その中で私を家に誘った理由についても話していた。


「より攻めた内容の話がしたかった」……らしい。


 それから、美佐さんは起き上がって読み終わった本をテーブルに置き、美来さんは端末に夢中、美奈さんはテレビゲームの準備を始めていた。


「やる? 「フファスタ」!」

 テレビの画面に映し出されたのは、「フレンドリーファイヤースターズ プロミネンス」という対戦ゲームだった。

 別のコントローラーを接続する機器に、人数分のコントローラーまで用意されている徹底ぶりだ。

 それ自体の色と貼られているシールによって、誰が使うのかが分けられているとか。

 美夏さんの方から私に、と用意されたものは、橙色のものに緑のハートのシールが貼られていて、普段は彼女自身が使っているとか。

 ちなみにこのコントローラー、元々は今より三つ前のゲーム機のものだが、上手い人や長年シリーズ作品で遊んでいる人は大体使っているらしい。


 全員で集まり、少し美佐さん達と対戦した後、操作するキャラクターが三回倒されたら負け、アイテムの出現はなしというルールの上で、一対一の総当り戦が行われる事に。


「美夏さんは?」

「観戦です。 頑張ってくださいね」

 その際に見せられた組み合わせ表に、美夏さんの名前がなかったので訊いてみた所、彼女の方から話してくれた。

 事実上、私がその代役のようなものらしい。

 私に務まるとは思えないが―――――。

 こういう人は、たまに一番強かった人が決まった時に乱入してくる事もあるが―――――他の三人が言うには、そんな事もないらしい。



 ―――――――――



 総当り戦は美来さんと美奈さんが二勝一敗で並んで二位以上が確定。

 この二人の優勝決定戦の前に、美佐さんには勝っていた私と、美奈さんには勝っていた美佐さんで、三位決定戦を行う事に。


 不機嫌そうな彼女の感情など知らない、と言わんばかりの後ろの三人のテンションに戸惑いながら、勝負は始まった。


 互いにあと一回倒されたら負けの状況になり、三人も観戦に集中。


「ああ……まずい。 まずい、まずい、まずい!」

 すると今度は美佐さんが慌て始めた。

 そこから一方的に攻め込み、とどめを刺して私が勝利した。


 最下位となった彼女は感情を抑えきれなくなったのか、泣きじゃくりながらコントローラーを強く握った後、立ち上がってテレビ台に寄りかかった。

 私のせいでこうなったと考えて、申し訳ない気持ちになった。


 その時は、場にいた全員が彼女を心配していた。 

 この動きは、彼女がそれくらい集中していた、という証拠でもあった。


 こちらに向かって振り向いた時の顔は真っ赤で、良く見ると涙を流していた跡もあった。

 もう一度振り向いた時は、しかめっ面をしながら十数秒こちらを見つめていた。


「ああ……悪い。 続けてくれ」

 そこから彼女は冷静になって、美夏さんの左隣に座った。

 私はその彼女のまた左隣に座って、優勝決定戦を見届ける事にした。


 ただ、彼女の機嫌は、二人の対戦が始まっても良くならず、観戦していた美夏さんの下半身に抱きついては、独り言を呟いていた。


 白熱する対戦とは対照的な重い空気―――――。

 対戦中の二人にも、精神的に悪い影響が起きている恐れがあると思うと、より心配になった。

 言葉をかけようにも、それが逆効果になる可能性も捨てきれない。


「元気が無いですよ。 一緒に楽しく観戦しましょう」

「……そうですね。 あなたの言う通りです」

 そんな私も含めて、気持ちを前向きにさせようとしたのが、美夏さんだった。

 結果的に、この言葉のおかげで気分が前を向き、盛り上がる事ができた。

 本当は私が言わないといけない所だったのかもしれないが―――――。


 ちなみに、優勝決定戦は美来さんの勝利という結果で終わった。

 終始一進一退の攻防で、見飽きない展開だった。


 直後に端末で時間を確認した後、美夏さんに時間を理由として帰る事を伝えると、素直に受け入れてくれた。


「ありがとうこざいました。 また、こういう機会があるといいですね」

「だったら、また誘いましょうか?」

 玄関で靴に履き替えて家から出る際、四つ子全員が立ち会ってくれた。

 美夏さんと笑い混じりのやり取りをした後に、美佐さんの顔を伺ってみると、機嫌を悪そうにしていた。


「美佐さん……」

「大丈夫です。 私の方でなんとかします」

「……そうですか」

 心配そうにしてみると、彼女は美夏さんを盾にするようにして隠れていた。

 美夏さんの話を聴いた時は、安心で困り顔だったのが元に戻った。


 それから私は、四人の方に数回右手を左右に振ってから、ドアを開けて家から出た。


「あれ? 誰だ……?」

 その矢先、帰ってきてすぐと思われる、若干大柄な男性の姿があった。

 黒にスポーツを思わせる雰囲気の模様の入ったジャージ、大きく釣れ気味の目、少し焼けているような肌は、人を怖がらせるのにはうってつけに見えた。


「いや、知っとるよ。 あの美佐の友達やろ?」

「あの、って……?」

「なんもないわな」

 名前を名乗ってみたが、既にこちらの事は認知しているようだった。

 家内の話題で、私の名前が出る事があるという。


 この方は、瀬戸さんたち四つ子の父さん。

 外出からの帰りだったようだ。


 その方と少し話をしてから、家を出た。



 それから、バスが走る道に沿って、私の家に帰る途中で、また知り合いと思われる自転車の男子とすれ違った。


「あれって、もしかして……?」

 立ち止まり、自転車の進んでいた方向に体を向け、後ろ姿をよく見て、ピンクと薄紫の中間のような髪色という事だけは分かった。

 その髪色の人とは、幼い頃の思い出がある。



 ――――――――――



 それは、小学二年生の頃のバレンタインデーの事。

 誰にもプレゼントを贈ろうとも思っていなかった私には、不可解な出来事が起こった。


『……何、これ。 チョコ……?』

 靴箱や机の裏などに、なぜか複数個の小さい袋が入っていたのだ。

 私には送り主も宛先も分からず、とりあえずとすべて家に保管しておくつもりでいたが、家族の反応を想像しては怖くなっていた。


『ごめん! 俺が「もし入れられそうになかったら棚橋の所に入れておいて」って言ったんだ!』

 その犯人は、同日の放課後に名乗り出た。

 当時のクラスメイトだった「晴太(せいた)」―――――こと、高梁(たかはし)くんだ。

 前者は下の名前、後者は苗字になる。

 彼も運動神経が良く、気さくな所があって、クラスの中では有名人だった。

 この件で彼の方から「迷惑をかけてしまったので何かしたい」と友達になり、登校日ではない日においても一緒になる機会も増えた。

 ただ、それ以降は互いに悪い事の連続で、笠岡くんと出会う頃には「知り合い」程度の関係になっていた。


……翌年のバレンタインデーを除いては。

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