僕を殺しに来た勇者は悲しい顔をしている
僕はどこで生まれたか分からない。家族は居ない、友人もいない、そんな僕が分かるのは、自分の生きる理由だけだ。
「それで、なんでアポも取らずに来たんだい?」
僕のいる玉座の間。そこに人族の不審者が入ってきた。この国の法律だと不法侵入で100万シータ分の奴隷になる。
「お前を倒すためだ!!魔王!!」
「ふーん。それじゃあ極刑でいいかな。」
魔王と言うのは良く分からない。身に覚えがないし、そもそも僕から人間界に手を出したことはない。そんな無実の僕に魔王なんて言う悪の根源みたいなことを言うのだ。
これは特例の処置で殺してもいいだろう。そもそもこの国のルールは僕なのだから。
「僕たちの国の仇を!!」
勇者は光輝く剣を鞘から取り出し、僕に向かって振るってくる。
「そんな玩具で何をしようとしてんのだか。」
こいつの国なんて知らないし、剣を突き立てられる理由も分からない。ただ、めんどくさいなと言う感情だけが湧いてくる。
「おりゃぁああ!!」
僕の心臓に剣を突き立てる。勇者は何もして来ない僕に容赦なく振るってくるが、その玩具は体は愚か服にすら傷の一つも付けることが出来ていない。
「くそ!傷すらつかない!」
「本当に何も出来ないんだね。面白い事をやってくれるかと思ったから生かしてるのに。」
勇者は僕から距離を取り詠唱をし始める。
「【スキル 限界突破】!!これは奥の手だったが最初っから全力だ!」
限界突破とは将来生きることが出来た寿命を消してその際に出来たエネルギーを使って強化する術だ。なんで、こんなに説明できるかって?勇者に【スキル 鑑定】を使っているからだ。
さっきよりも100倍ほど早くなっている、頑張って練習したのだろうかその速さに戸惑わず思いっきり地面を蹴ってさっきと同じように剣を振った。
ガガッ!!
100倍強くなったとしても結果話変わらない。僕の圧倒的な力にはかなわないのだ。勇者はこれでも敵わないと分かったのかもっと強く【限界突破】を使い始めた。
200倍、300倍、どれだけ強くなっても子供の肩たたき程度の衝撃だ。
「なんで、切れないんだ!!」
質でダメなら数だ。同じ場所に何度も連撃を与える。それでもさっきと何も変わっていない。
だが、だからこそ勇者は覚悟を決めたようだ。
「【スキル 分裂】」
寿命を半分にしてもう一人の自分を作るスキルだ。寿命を半分にしながら寿命を削るスキルを使っている。この勇者は寿命を削る事が好きなようだ。ここまで来たら後には引けない。逃げるボタンは自分からなくして前に行くしかなくなった。
「これで終わらせる。【融合魔法 シャイニング】!!」
二人でしか使えない特殊魔法だ。特別な二人で完璧に息を合わせなければいけないのだが、その効果は絶大で、僕が知っている融合魔法の中では一撃で海を割ることが出来る奴もいた。
ここで僕は気になっていた事がやっと解決した。
「君、相方さんはどこにやったの?」
「ッ!」
そもそも、ただの人間がここにやってくることは不可能なはずなんだ。それが勇者だったとしても、結界で道を阻まれて、その後も僕の配下が死に物狂いで殺しに行く。
そんな中をこの程度の人間が無傷で通れるわけがない。と言う事は何らかの禁術を使用してきたのだろうと予想着く。だが、その禁術の予想が付かなかったのだが、今融合魔法を使ったことでやっとわかった。
古臭く残酷な【禁術 無限再生】を使ったのだろう。この儀式は発動する条件が非常に外道で卑劣なものだったから誰も使わずに、人々の記憶からも少しずつ無くなり消えていくだろうと思っていた位だがよく使ったものだ。
「うんうん、やっぱり体にくっついているね。」
【禁術 無限再生】の儀式を行うには二つの用意が必要だ。一つは心から信頼している大切な人。もう一つは物質を歪ませるほどの魔力だ。
ここでもう気が付いた人もいるかも知れないが、無限再生の正体は大切な人の成れ果てだ。大切な人に対して大量の魔力を流すことで性質を変化させる。流す過程で体は崩壊して行き性質が変化する頃には肉塊になる。それが無限再生のもとだ。今回だと勇者の相方さんだろう。
その後に、勇者がその肉塊を全て食べる事で魔力が共鳴して【禁術 無限再生】完成だ。
共鳴するには融合魔法を使えるくらいの大切な人でないとだめだ。そして性質変化してから1分以内に食べきらなければいけない。
これが無限再生が禁術たる証拠だ。1分以内に食べなければいけないから、出来るだけ近くで叫び泣き助けるを求めて、そして肉塊になる所を見て、まだ生暖かくドクドク言っている大切な相方を目べなければいけないのだ。
ちなみにだ、さっき勇者が使っていた【スキル 分裂】でも融合魔法が使えていただろう。融合魔法が使えるなら分裂した自分でも【禁術 無限再生】を使えるのではないか?と思うかも知れない。
結論から先に言おう。使えるのだ。
だからこそ、奥の手と言っていたのは【スキル 限界突破】だったのだろう。【スキル 分裂】を使ってしまえば相方の犠牲は無駄になってしまう。その一心で使いたくなかったのだろう。
だが、使ってしまった。相方さんの犠牲は無駄になったのだ。隣にいたはずの相方さんは自分のクローンになってしまった。
「人間と言う物はかわいそうな生物だね。」
「くぞが!!」
【融合魔法 シャイニング】で強化した剣を我武者羅にでも正確に攻撃する。自分が二人になったからだろう。完璧に行動が合っていて融合魔法も合わさって避けなければいけない程の攻撃に昇格した。
僕が避けるほどの攻撃が出来ているのに勇者はなぜか苦い顔をしている。
「ふふ、さっきの言葉は撤回しようか。君の選択は最善のようだったみたいだね。相方さんを肉塊して、それよりも強い自分を次の相方にする。多分だけど前の相方さんよりも戦いやすいんじゃないの?」
僕の挑発は勇者の一番痛い所に入ったのだろう。先ほどの苦い顔も戦略を考えていた頭も放棄して、無限に回復する体と【スキル 限界突破】による何も考えない正面突破に戦法を変更してしまった。
「ん~これだと面白くないな。」
確かに挑発したのは僕だがここまで無鉄砲に攻撃されると飽きないと思たものも飽きてくる。
「しょうがないか~。」
勇者に対してギリギリ死なないくらいの腹パンをかます。
ドン!と大きな音がした後に勇者とクローンがどちらとも飛んで行き壁にぶつかった。ワザと目が覚めるように攻撃をした。
勇者は実際に死ななかったようで、立ち上がり覚醒したような顔でこちらを向いた。「
「待ってくれてありがとな。やっとこいつの声が聞こえるようになった!」
勇者は胸に手を当てて再開だと体を起こす、どこか吹っ切れたようだ。僕はその様子を見ながら王座に戻っていくその様子はまるでお終いだと言っているようだった。
「よっしゃ!行くぜ!【スキル 限かぃとpp」
勇者は限界突破を使おうとした瞬間、床に倒れて動かなくなってしまった。
「・・・寿命切れか。これだから限界がある物を使うのは嫌なんだよ。」
勇者はこれまでずっと【スキル 限界突破】などの寿命を削るようなスキルを使ってきたのだろう。だからこそ100倍や1000倍にまでなった【スキル 限界突破】を使いこなせていた。そして、さっき勇者に【スキル 鑑定】をしたとき面白い物があったのだ。
それは【禁術 代償と補修】だ。超簡単に言えば、自分の能力の一部を捨てる事で別の物を獲る事?と言えばいいだろうか。
そして、この勇者は寿命を削るスキル以外を獲得した瞬間それを全て捨ててその代わりに才能を貰っていたみたいだ。
寿命を削るスキルは瞬間的な効果が強いから、僕に勝つなら確かにこのくらいしなければ行けないだろう。勇者自身が決めた事だから僕が何か言う事ではないが少し寂しい物だ。
読んでくれてありがとうございます。文字数は短かったと思いますが、私が書きたかったものは書けたので、私は満足です。
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物語上の質問がありましたら包み隠さず、すべて答えますのでどうぞよろしくお願いします。