僕は暴発した。
あれは僕が小4の真夏の出来事だった。
小4にもなるとクラスの女の子は羞恥が芽生え始める。
特に、その羞恥心がはっきり分かったのは体育の水泳の時間だった。
それまで水泳の時間は男の子と女の子は一緒に教室で着替えていたが、中学年くらいからは男の子も女の子も別々に分かれて二つのプールの更衣室を利用していた。
『更衣室に忘れ物がありました。これに見覚えのある人は取りに来てください』
更衣室での忘れ物、必ず一つや二つあるよね。ましてや、まだ小学生のなんだからついつい忘れちゃうなんてことあるよね。かくいう、僕も更衣室で忘れ物をしたんだ。
『……いないんですかー?いたら、先生のところに取りに来てくださーい』
……だけど、その忘れ物が問題だった。水泳の授業が終わった後、先生は教室でその僕の忘れ物をクラスの皆に見えるように持ち上げ、忘れ物を取りに来るように促す。
『うっわ〜〜〜誰だよ、ブリーフなんて忘れる奴っ!』
『おいっ!あれ見ろよ〜〜〜あのブリーフのケツの部分、茶色になってねぇ!?汚ねぇ〜〜〜』
僕の隣に座っているクラスの男の子の会話が耳に入ってきた。
……ごめんなさい、あの汚いブリーフ僕の忘れ物です。僕はいつも、水泳の日は替えのブリーフを一枚持ってきており、その日は脱いだ方のブリーフを忘れてしまったのだ。でも、そんな恥ずかしい忘れ物なんて取りにいけるわけなくて。男の子だけならまだしも、女の子もまるで親の敵のようにじっと食い入るように僕のブリーフを見つめている。それに加え、美人の女先生が僕のブリーフを持っている。あぁ、そんなに僕の恥ずかしい忘れ物をまじまじと見ないで……仕方ない、もうあのブリーフは諦めよう、そんなことを思いながら、僕は先生がその忘れ物から話題を逸らすのを息を潜め待ち続けていた。……でも、それは無意味な行為だと知ることはそう時間を要さなくて。
『……本当に居ないの?困ったわねぇ……あら、帯のところにフェルトペンで名前が………何々?……まみや、はるあき………』
綺麗な先生の透き通るような声、その声に僕は戦慄した。
正直、身体中の汗という汗が噴出して、しまいにはちょびっと失禁してしまった。
あぁ、やめてっ!先生ぇ!クラス全員に分かるような大きな声で僕の名前を言わないでぇーーー!!!
『間宮君っ!これ間宮君のブリーフでしょっ!?どうして先生が言った時に来なかったの!?』
……先生、それは無いですよ。忘れ物がゴーグルや帽子ならまだしも、ブリーフですよ?もうちょっと気を遣ってせめて、先生のところまで取りに行かせるとか配慮してくださいよっ!!!でも、当時の僕は子供ながらにただ俯いてモジモジしているだけだった。恥ずかしい、恥ずかしすぎて死んでしまいたい。俯いているので顔は見えないが、クスクスと小さく笑っている皆の声が耳に入った。あぁ、嫌っ!女の子の声までする……もう、帰りたい……僕はそんなことを思いながらその日は学校で一日中、俯いて過ごしたのだ。
今の僕の心境はまさにその時と近い状態、恥ずかしいってのとはちょっと違うけど、背筋に寒気が走った。その後の出来事が目に見えて……戦慄した。
「……えっ?」
僕が入り口に入ると視界には一糸纏わぬ女の子が写った。
白い肌、ふっくらと発展途上らしき二つの丘、お湯でしっとりと濡れた肢体。
「……なっ」
僕はその信じられない甘美な光景に眩暈がした。な、なんでこんな所に……裸の女の子がっ……!クラクラする……鼻の下を触ると、血、鼻血が出ていた。なっ、なんだ……このエロゲーのような展開は……っ!ラッキー!クッキー!ボッキー!!!
「はっ!」
僕は我に返った、いけない。ここは三次元だっ……!リアリティワールドだっ!アニメティワールドでもネバーランドでもないっ!そして、僕は再び意識を裸の女の子に向けた。
「………」
……女の子は、呆然と、一体何が起こったか分からないような……そんな顔で僕を見つめてくる……ん、んんん〜〜〜?ちょっと、待て。この女の子……どこかで、つい最近……見たことあるぞ?端整な顔つき、くりっとした大きな瞳、ロングの茶髪……待て、よく思い出せ僕、確か夕方の……茶髪のツインテール、美少女。
『ふ、ふ〜〜〜ん………んっ、私は橘明美、ヨロシクね』
「あ、あぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!橘明美さんだぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
そうかっ!今は髪を下ろしているから分からなかったが、間違いないっ!この子は橘明美さんだっ!間違いないっ!記憶力だけは人一倍だと自負している僕だっ!忘れるわけがないっ!
「……え、えっ?な、何……?何で私の、名前……知っているの……?だ、誰……?」
えっ、あっ、うぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!覚えてない!忘れられているっ!一方通行!投げても返って来ないキャッチボールッ!青い春と書いて青春!そんなもんここには一切ねぇ!そこには恋に発展する予感ゼロッ!ゼロッ!フラグなしっ!攻略不可能っ!
「……そ、それに……あ、あぁ、あっ……」
僕を見ながら徐々に赤に染まっていく顔、瞳に溜まってゆく涙……や、ヤバイッ!これはヤバイッ!か、考えろっ!クールになれっ!間宮春明っ!落ち着け、落ち着くんだ春明……今、この最悪の場面をどう乗り越えるか……それだけを考えるんだっ!
1.素直に「ごめんなさい」と謝る。
2.何事も無かったかのように振る舞う「じゃあ、僕、そろそろあがるから」
3.逃げる、とにかくこの場から離脱する。
ぐぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
こんな場面に遭遇する経験なんて無いから、僕の第三のエロゲー脳がフル回転してしまったじゃないかぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!違うっ!!!こんな、エロゲーの経験値に身を任せては駄目っ……!真っ向から彼女と向き合わなければっ……!
「……か、身体……その……す、すごく綺麗だね、エヘへ」
……あぁあああ〜〜〜………ち、違うっ!違うぞっ!これは何かすごく違う気がするぞっ!?む、向き合うどころかっ……!むしろ、火に油を注いでいるような気がするぞっ!?いやいやいやいやいや!!!!!!僕が言いたかったのはこんなことではないっ!!!僕が言いたかったのはもっと、女の子を包み込むような優しくて偉大なジェントルメェーーーンの様な台詞………って、よく考えたら今の台詞はまるで正反対だろっ!!!ただのスケベなおっさんが言うような台詞じゃないかっ!!!
「……いっ、いやっ!!!来ないでっ!!!変質者っ!!!」
橘さんは胸やら下腹部を隠し、僕から距離を置く………ぎゃぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!本日二度目の変質者扱いっ!!!完全に僕を強姦魔か何かと勘違いされておられるっ!!!や、ヤバイッ!!!もし、こんなのを誰かが目撃したら……明日の夕刊の片隅に載ってしまうっ!
『S県S市在住の容疑者の間宮春明(17歳:職業オタニート)、風呂場に押し入り、女子高生にレイプ』
い、嫌だぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!そんなお先真っ暗な展開はいやぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!な、何とかしないとっ……!今ならまだ間に合うかもっ……!僕のこれからの人生がかかっているっ!!!
「あぁあああ………ち、違うんですぅ、こ、これは完全なる誤解でありまして、その、決して貴方の未成熟なおっぱいやら柔らかそうなお尻やら太ももを堪能したいわけではないんですぅーーーーー!!!!!(泣)」
って、ぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
ぼ、僕は何を口走っているんだっ!!!これじゃあ、完全に怪しい男じゃないかっ!!!
「な、何を言ってるのっ!?こっちに来ないでぇっ!!!(///)」
セッケンやら桶やら僕に向かって飛んでくるっ!う、うわぁっ!!!し、死ぬっ!セッケンとか当たったら僕のやわな身体じゃ骨、折れるっ!
「と、とにかくっ!僕をっ!うおっ!?セッケン!?信じてっ!!!うわっ!ちょっとっ!かすった!今、頬にセッケンかすったっ!」
僕は彼女が投げるセッケンやら桶を華麗にかわしながら、彼女との距離を詰めていく。って、彼女に近づくのは逆効果なんじゃないかっ!?でも、今、後ろを振り向いたら絶対、飛んでくるセッケンにぶつかってしまうっ!かといって、立ち止まる事もできないっ!前進するしかないっ!
「そ、そんな、そんなナリで信じられるかっーーーーー!!!!!!と、とにかく、ここから出て行ってよぉーーーーー!!!!!(///)」
ごもっともっ!出て行くから、そのセッケンやら桶やら投げるのやめてくれないですかっ!?飛び道具としては凶器ですよっ!?それっ!?くそぅ!一体、僕はどうすればいいんだぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(泣)
その頃、海斗と礼二は……
現在の時刻、午前2時。
「……おい、海斗。あれからもう一時間経つ……そろそろ、間宮を助けに行ったほうがいいんじゃないのか……?」
「だぁーいじょーぶだってぇ〜〜〜♪ぐびっ!ぐびぐびっ!」
「おいっ……!飲みすぎだ、海斗っ!それに、本当にシャレにならん事態に陥ったらどうする気だっ……!?お前の妹だろっ……!?どうなってもいいのかっ……!?」
「そんときゃあ、既成事実つくっちゃえばぁいいんだよぉ〜〜〜(///)」
「くっ……もう、いいっ!俺が止めてくるっ……!」
「なんだよぉ〜〜〜礼二ちゃん、のりわるいなぁ〜〜〜俺の酒に付き合えよぉ〜〜〜」
「こ、コラっ!ひ、引っ張るなっ!絡み酒かっ、コイツっ!……(くっ、何とか理性を堪えてくれ……!間宮!もうすぐ、そっちに行くからなっ……!)」
「ちょっ、落ち着いて!!!橘さんっ!!!僕は、変質者じゃ、うわっ、ないっ!!!」
「お、落ち着けるわけないでしょっ!?ていうか、何で貴方は私の名前を知ってるのっ?!このっ!このっ!このっ!」
アレから、橘さんによるセッケンと桶の飛び道具による攻撃が続いていた。僕は何とか避けながら、橘さんを説得しているところだ。くそぉ……何とか、誤解を解かないとっ!
「だから僕はっ!海斗さんの勧めでこの時間帯にお風呂に、入りに来たんだっ!うわっ!?痛っ!」
僕の肩にセッケンが直撃するっ!ぐぁああああーーーーー!!!!!やっぱり、ものすごく痛いっ!!!
「兄さんの名前まで持ち出してっ……!確かに、あの人はちょっとどころかすごく変態ですけどっ!でも、実はちょっと優しいところもあるんですっ!変態ですけどっ!って、何で私が変質者の貴方にこんな事まで話さないといけないんですかっ!?(///)早く、気絶しちゃって下さいっ!このっ!このっ!」
駄目だっ!全然、僕の話を聞く耳持たないっ!クソッ!クソッ!どうすればっ!
「このっ!このっ……!……あっ!?」
橘さんは、驚きの表情を浮かべる………何だ、まさかっ………!尽きたのかっ!?セッケンと桶っ!?
「……ハァハァ、さ、さぁ、ようやく話を聞いてくれるね」
「……うぅ」
橘さんは少し怯えた表情を浮かべる。……何だ、このシチュエーション。なんか、少しドキドキしてきたぞ。……って、何て事考えてんだっ!僕はっ!(汗)彼女と落ち着いて話し合うことが目的だろっ!?
「……あ、ぼ、僕、目隠しするから………ちょっと待って」
僕は手拭いのタオルを使って目隠しした。……く、暗い、何も見えない。でも、何だっ!?これはっ!?何か変な気分になってくるぞっ!?どんなプレイだっ!!!(汗)
「……いっ」
「さぁ、もうこれで大丈夫……橘さん。僕とゆっくりお話を………」
「いやぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!下ぐらい隠せぇえええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(///)」
バチィイイイイイイイイイーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!
「うぼぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
僕は橘さんに頬を打たれて、そのまま風呂の床に転倒した………
『おいっ!橘っ!間宮っ!大丈夫かっ!?』
意識が落ちる瞬間、誰かの声……あぁ、礼二さんの声が聞こえた。そして、僕はまたフェードアウトするのであった。