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僕は落ち込んだ。

夕刻を示す茜色の空、綺麗だ。

……でも、僕の今の心境は鼠色だ。はぁ〜、結局今日はクラスの子達と会えなかったな……明日に持ち越しかぁ。一刻も早くクラスに馴染みたいのに。……まぁ、クラスに海斗と明美ちゃんと美帆ちゃんがいるから少しは気が楽だけど。……うだうだ言ってても仕方ないっ!明日も頑張るぞー!

「じゃあね、あたしこっちだから」

僕と海斗と美帆ちゃんの3人で帰っていると美帆ちゃんは寮とは正反対の住宅街の方へ帰ろうとする。

「え?美帆ちゃんって寮じゃないの?」

おかしい、美帆ちゃんのお兄さんの礼二さんは寮住まいなのに。僕はちょっとした疑問を美帆ちゃんに尋ねてみた。

「ううん、あたしマンションで一人暮らししてるの」

「え……?礼二さんと同じ寮に住んでないの?」

「お兄ちゃんはスポーツ推薦でここに入ったからね。少しでも学園の近くに住みたかったから学生寮を選んだんだよ。あたしは実家の方に住んでいるんだよ」

「……え?でも、一人暮らしって……」

「……あはは、もうお父さんとお母さん死んじゃったんだ」

……あ。

「ご、ごめんっ!」

「あはは、そんなに気にしなくていいよ。じゃあ、またね。海斗、春っち」

美帆ちゃんは手を振りながら、笑顔で住宅街の方へ駆けて行った。……何故か、その時彼女の背中が寂しく思えた。……まだ、この世に両親がいる僕は幸せな方なのかな……もう、あの頃の元の家族には戻れないけど。

「なぁーに、シリアスな顔しちゃってんのよぉ!はーるーあーきーちゃ〜〜〜ん♪」

海斗は僕の肩に腕をまわし、引っ付いてきた。

「……海斗は悩み事がなさそうで羨ましいよ」

「なにぃ!俺だってなぁ、悩み事ぐらいあるぞっ!例えばなぁ……今目の前で歩いている子の穿いているパンティは白か黒か……?清楚な子に見えて実は過激な黒を穿いているんじゃないか……?いやっ!実はその裏をとって白と黒の縞のパンティじゃないのか……いやっ!俺の想像を斜め上を行くド変態な痴女じゃないのか……!?そう、例えば……ノーパンの可能性……いやいやっ!あの可愛らしい制服の下はボンテージの可能性も……Oh、なんとも悩ましい問題だぜっ……!」

……やっぱり、ロクな悩み事じゃなかった。

「海斗ー」

聞いたことがあるような声が聞こえた。声の方に振り向くと雫ちゃんがトテトテと駆け寄ってきた。

「おぉー、雫!」

雫ちゃんは躊躇無しに海斗の胸元に飛び込み、抱きついた。

「おぉ〜よしよしっ!高いたか〜〜〜い♪」

海斗は雫ちゃんの脇腹辺りを両手で持ち、高く持ち上げあやしていた。当の雫ちゃんは頬をほんのり赤く染め嬉しそうだった。……海斗と雫ちゃんの体格差でそんな事をやっていると、どう見ても仲の良い親子にしか見えない……そして、お願いだからこんな不特定多数の見ている前でそんな行動をしないで欲しい……僕が恥ずかしくなるんですけど。

「おっ、なんだなんだ〜〜〜?春明もやって欲しいのか?たかいたか〜〜〜い♪」

「して欲しくないです」

「……何だ、間宮もいたの………」

そして、僕に気付いた雫ちゃんはギロッと僕を睨んできた……相変わらず嫌われてるなぁ、僕。

「……は、はぁ……雫ちゃん、お帰り」

「………チッ」

……何か舌打ちされた……(汗)何で僕、こんなに嫌われてるんだろう……

「じゃあ、帰るとしますかー腹も減ったしな」

僕ら三人は夕方の寮へ向かう路地を歩いて帰っていった。






「あらぁん、三人ともお帰りぃ〜〜〜」

寮の一階の共同リビングに入ると既にフリフリエプロン姿で夕食を調理しているゲンさんがいた。……良い匂い、今日は筑前煮だろうか。

「今日は春明ちゃんの大好物の筑前煮よぉ〜〜〜楽しみに待っててね、春明ちゃん♪んふっ♪」

ゲンさんは僕に投げキッスをし、台所に戻っていった。……何で僕の好物を知っているんだろう。

「………」

リビングには何故か不機嫌な様子の礼二さんが足を組んでくつろいでいた。

「おぉ〜礼二ちゃ〜〜〜ん♪もう、帰ってたんだぁ」

海斗は礼二さんの不穏な様子に全く動揺せず隣のソファーに座り、礼二さんの肩に手をまわした。

「触るんじゃねぇ、殺すぞ」

礼二さんは海斗の手を払い、そんな事を言った。……やっぱり、不機嫌だコノヒト……怖い(泣)

「もぉー連れないね。このツンデレちゃんは」

海斗は礼二さんにでこピンした……あ、あの……もうその辺でお止めになったほうが……(汗)

「てめぇ……」

きゃ、ぎゃぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

お、お願いだから海斗っ、も、もぉ、その辺でヤメテェえええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!もうこれ以上、彼を刺激するのやめてぇえええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(泣)

「もぉ〜〜〜何で怒ってんですかねーーー礼二ちゃんは」

「……てめぇ、今日、間宮を連れ出して授業ブッチしやがっただろ」

あ、あれ……?何で礼二さんがその事知ってんのっ!?

「してないです。僕はしっかり授業を受けました」

海斗は真顔でしかも平気で嘘を吐いた。……ホント、この人一体どんな神経しているんだろう。一度、この人の頭の中を覗いてみたいよ。

「この野郎……しらばっくれてんじゃねぇぞコラ。今日の放課後にお前の担任の姫川に泣きつかれたんだぞ?いつまで経っても転校生君は職員室に来ないし、海斗や美帆も来ないわ、関係ない個人的な日常の愚痴をうんたらかんたら……一体何時間あの泣き虫女教師の愚痴に付き合わされたか。そのせいで部活も遅れたしな。俺は今すこぶる気分が悪い、どうしてくれる?」

礼二さんは海斗の胸倉を掴み、明らかに不機嫌な顔でそんなことを言った。海斗に対する鬱憤が溜まっているんですね、分かります。僕も被害者ですから。

「春明君を殴れば気分が落ち着くと思います」

この野郎ぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!何て事を言うんだっ!今にもこの場で殴ってやりたい衝動に駆られたが、この空気、それに加えヘタレな僕。この二つの条件が重なって、答えはNO。無理です、できません。あぁ……こんな性格になった自分に嫌気が差す……早く変わりたいのに。180度世界が反転するような、そんな自分に生まれ変わりたいのに。あぁ、でも一応礼二さんには謝っておこう。心の底からのまるで自分の全てを捧げるような丁寧で痛ましい謝罪は人間関係においてうまく良い方向に収束する………浅はかな考えだけど。うん、でもいいんだこれで。きっと世界は救われる……そう、信じよう。

「ごめんなさい」

僕は礼二さんの前で正座し、頭を床につけ謝罪した。……大丈夫、僕の謝罪は世界一だ。どんなエロゲーのヘタレ主人公にも劣らないっ!清楚なメイドさんにも負けないっ!最高の謝罪だっ!今なら、謝罪選手権でトップになれる自信もあるっ!

「……間宮、何でお前がそこまで謝る必要がある?」

礼二さんは胸元を掴んでいた海斗の手を離し、僕の方に振り向いた。礼二さんは何故か僕をキッと睨みつけ、ゆっくりこちらに近づいてきた………え?何で?僕のフラグ管理ミスった?え?コレ、バッドエンドルート?

「あ、あの……僕は、うっ!?」

ガシッ

僕は何か言い訳を言う前に今度は海斗に変わって僕が礼二さんに胸元を掴まれる形となった。……な、何で?どうして……謝罪に何か不備があったか……うぅ、何でだ……どこも対応に目立つミスは無かったはず。それなのに……どうして、どうして僕は礼二さんに胸元を掴まれているんだ……

「間宮……もう一度聞く。……どうして、お前が俺に謝る必要あるんだ?」

礼二さんはさっきより強い語調で僕にそう聞いた。うぅ、どうしようっ!何で怒られているのか分かんないけど何か言い訳を……そ、そうだっ……!いい事を思いついたぞっ!さっきの海斗の嘘を逆手に取ればいいんだっ……!……よし、自分の中でイメージできたぞ。今度はフラグ管理もばっちしだ。謝罪ルートの攻略法はこれだっ!!!

「……えっと、その……実は、僕が海斗を商店街に連れ出して……その、遊んでいたんです。だから……その、いわゆるさぼっちゃったというか……えっと、だからそういうわけなんで……すみませんでした」

「………はっ」

礼二さんは僕の言い訳を聞き終わると、軽く鼻で笑い、僕を見下すような貶すような軽蔑するような………とにかく、あきらかに嫌悪な目で僕を見つめる。そして、僕の胸元から手を離し……

ボスッ

「うっ」

……今、何が起こったんだ。お腹に……痛みが走る。……殴られたのか。そして、僕はその場でうずくまった。

「けほっ、けほ……」

……あぁ、やっぱり殴られたんだ。そして僕はもう一度礼二さんを見ようと顔を上げたが、既にそこには礼二さんの姿も海斗の姿も無くリビングの食卓に僕以外の寮生が集まっていた。

「春明ちゃ〜〜〜ん、そんなところで何してるのぉ?早く、こっちに来なさぁい」

ゲンさんに催され、僕はリビングの食卓に着いた。






その日の夕食は僕の大好物のオンパレードだった。

けれど……

昼間のことがあってか明美ちゃんは僕の前では押し黙ったまま。

雫ちゃんはいつもの様に無言で箸を進める、いつも以上に彼女が寡黙に感じたのは僕の気のせいか。

海斗はいつものように空気を読めないような、どうでもいいような話題を一人でくっちゃべっている。

ゲンさんは不穏な空気を感じ取ったのか、沈黙を保っている。

礼二さんは………その夕食の席にはいなかった。ゲンさんから聞いた話だが、今は食欲が無いから後で部屋に持ってきて欲しいとのこと。……僕のせいだ。

そして、僕は……大好物な夕食を目の前に喉が通らず、半分以上残してしまった。






……風邪が気持ちいい。春なのにすこし冷たい風が僕の身体を冷やしていく。それもそうか、ついこの間まで冬だったのだから。でもそれは決して冬の思わず身体を縮みこませるような、そんな冷たさでは無かった。これから、春がスタートする冬の最後の名残を刻み込ませるような、そんな心地よい冷たさだった。

「あ〜〜〜……きもちいい〜〜〜……」

僕は自分の部屋の窓から顔を出してぼけ〜っと夜風に当たっていた。僕は中学生の頃、天文部に所属していた。僕の存在は早くから幽霊部員になっていたけれど、それでも転校前に住んでいた故郷で嫌なことがあったときや傷ついた時はよく夜空を眺めていた。夜空を眺める理由はもちろん星を探すことなんだけれど、そうやって一人で星を探していると……心が落ち着いた、何だか今まであった嫌な出来事が吹き飛んでしまうかのよう。だから、僕は今夜も星を探そうと窓から夜空を見上げた。……今夜の東京の夜空は灰色に濁っていた。そのせいで綺麗な夜空を眺めることも断念した。

「……はぁ、明日は雨かな……」

お天気お姉さんの週間予想天気予報は見ていないから何とも言えないけれど。もし、雨だったらやだな。僕は携帯のi-modeで明日の天気予想を見た。

「……明日の天気は、雨。降水確率90%です……か」

じゃあ、残りの10%は晴れですね。キャッホーウ!いぇーお天気お姉さんの天気予想ははずれましたーじゃあ、罰として脱ぎなさいーあっはっはっはっはー……はぁ、馬鹿馬鹿しい。ほぼ雨じゃん、雨だよ。明日は雨だよ……はぁ〜……

「……なぁ、クマ子?僕はどこで何をどう間違えたんだろう………」

僕はクマ子を自分の眼前に持って行き、返ることのない答えを求めた。クマ子、それは星空観察に続いて僕の心の拠り所その2だ。まぁ、ぶっちゃけちゃうとマイベストヌイグルミだ。ボロボロでパサパサ、でも使い込まれたそのヌイグルミはどこか哀愁を漂わせていた。長年、持ち主が大切に、大事に、いわゆる念を込めてヌイグルミを所有していると所有者の念がヌイグルミに入り込み動き出すといったちょっとした都市伝説……かどうかも分からないけどオカルトめいた話をよく耳にする。……ぶっちゃけ、そうなってもおかしくないくらい僕はこの人形を愛し続けていた。

「なぁーなぁ〜〜〜……答えてくれよぉ〜〜〜クマ子ぉおおおお〜〜〜〜〜………」

ヌイグルミにまでそんな情けないこと呟く僕はちょっとどころかかなり痛い子かもしれない。でも……ね、それしかないんだよ。心の拠り所。二次元に走るっていう手もあるけど、そんな気分になれないくらい今日の僕のダメージは想像以上に大きかった。……こんな情けない姿、絶対誰にも見せられないけれど。

「……そういえば、海斗がいないねクマ子。……ま、いっかあんな奴。いない方が気が楽だし」

……そうさ、あんな奴……いない方が良い。僕の不幸はアイツに始まりアイツで終わる。最近の僕の不幸はほとんどアイツが直接的に、もしくは間接的に絡んで起こっている。まるで僕の疫病神みたいな奴だ。

「……死ねばいいのに」

……はぁ、もちろん今の冗談だけど。つい、そんな事を呟いてしまうほど僕は精神的に参っていた。『死ねばいいのに』じゃなくて、『死ねば助かるのに』僕がね。……助からねぇよ、バカ。そんなんで逃げてんじゃねぇよ、バカ……はぁ、憂鬱だ。海斗、やっぱあんな馬鹿でアホで嫌な奴だけれど、騒がしい奴がいた方が気が紛れる……何でこういう時に限っていないんだよ、バカ……

「……僕は一体何をしているんだろう」

母さんに無理言って転校させてもらったこの学園。まだ、始まってもいない学園生活。明日はちゃんとクラスの人達と顔合わせできるだろうか。はぁ……その矢先、礼二さんに完全に嫌われた。そして、明美ちゃんと微妙に気まずくなる。僕は別にもう何とも思っていないんだけれど……明美ちゃんは気にしているようで、僕と目も合わそうとせず、さっさと自分の部屋に入ってしまった。

「……はぁ、人間関係って難しい」

職場でもよく言うけれど、実は仕事より何より大変なのはその職場での人間関係。人間関係が崩壊すれば、その職場に居づらくなる。やがて、自分の居場所がなくなっていき……自主退職。そんな話はよく耳にする。でも、それは何も社会人に限ったことではなくて、小中高学生にも当てはまる。僕のスタートラインは嵐だ。いきなり人間関係がギクシャクした。

「……僕はやっぱりここに来なかった方がよかったのかな……」

馬鹿な、だから故郷に戻って……何をするんだ。親に迷惑をかけるだけじゃないか。親不孝者以外の何者でもない。後戻りはできない、かといって突っ走ることもできない。地獄だ……まさに、生き地獄。

「……もう、寝よう……」

僕は部屋の電気を消し、そのまま布団にダイブ……できず、そのまま硬い畳にダイブしてしまった。……布団敷くの忘れてた。まぁいいや、メンドクサイし。そして、僕は畳の上でそのまま深い眠りについた。






夢を見た。

それは不思議な夢で、本当に何がなんだか分からない夢で、いや単に僕の欲求不満が生み出した一種の妄想かもしれないけれど。

『………間宮、どうした。そんな所でぼけーっと突っ立って』

……いや、ぼけーっと突っ立ちたくもなりますよ、雫さん。

今、僕の目の前に腕を組んで突っ立っている美少女。でも、その少女は僕に対して冷たくて、僕は嫌われていて……なのに、どうしてそんな貴方がちょっと恥ずかしそうな顔で僕を見つめるんですか。僕の妄想ですか、分かります。いやだっ!分かりたくないっ!何だコレは!この現実リアルとのギャップはっ!萌えるじゃないかっ!雫ちゃん可愛いよ、かぁいいよ雫ちゃん!ハァハァ……こほん、ところで雫ちゃん……






……どうして貴方の格好は白スクなのですか?






僕の妄想が生み出した産物ですね、分かります。分かりたくねーよっ!!!

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