僕はマヨった。
隠れオタクって言葉がある。
意味はそのまんまで、隠れてフィギュアやらガ○プラやらギャルゲーやらをこよなく愛するオタッキーな人達のことを指す。僕もまさにその人種である。メイドさんを始め、巫女さん、ナースさんは大好きだし、流行にも結構敏感だ。ちょっとエッチぃ妄想で興奮したりもする。でも、僕は人前でオープンにそんな本性を見せたりしないし、絶対見せたくない。それは女の子に軽蔑されるかもしれないという一種の固定観念があるからなんだけど……すいません、僕と全く逆の思考を持つ人には失礼かもしれないね。……と、まぁとにかく僕は今までそんなオープンな人を見たことなかったんだ。隠れオタク三年やってるのにね、変だよね。オープンなオタクの知り合いもいないなんて。だからかもしれない、僕は目の前にいる男子に唖然としたんだ。
「ふ、ふひっ、こ、このっ、白くてすべすべした精巧な作りいいねぇ……ぷひっ、キュー○ーたんモエ〜」
……隠れオタク経験値三年の僕だって理解できない趣向はある。今、僕の目の前にいる男子はキュ○ピーマヨネーズのマスコットキャラのフィギュアを頬でスリスリしたり、舌でペロペロ味わったりしている。……うん、なんだろう。もう、フィギュアを愛すとかそんなレベルじゃないね。一心同体と言うか……うん、何か取り付いているみたいな、そんな感じ。
「……ねぇ、海斗?この人誰?」
僕が海斗と美帆ちゃんに引きずられて連れてこられた場所は第二視聴覚室。その部屋に入ると……待っていたのは大量のフィギュアと大量の同人誌が散乱し、部屋の奥には山積みされているエロゲー等々……そんなまぁ一言で言えば汚い部屋だった。その部屋の奥で髪がボサボサでまるで幽霊のようにやせ細った一人の……えーっと、人間らしき……男子がいた。で、最初の台詞に戻る。
「こいつ、俺のマブ達、略してブ達」
海斗は淡々とした様子でそんな事を言う。……それ、略す意味あるの?
「やぁ……君が間宮君か。僕、海斗のフレンドのセレブ。よろしくね」
……セレブ?
「あぁ、こいつ本名で呼ばれると何故か発狂するんだよ。だから『セレブ』って呼んでやってくれな。なっ、南森辰之助♪」
「キィイイイイイイイイイーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!ぼ、僕をぉおお、ふ、フルネェームで呼ぶなって言ってんだろうがこのスケトウダラがぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!うきぃいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
セレブ君は両手で髪を掻き毟り始め床でのた打ち回る……な、何なのこの人……変な人(汗)
「え、えっと……僕は間宮春明です。よ、ヨロシクね……」
「……あっと、取り乱してすまないね。ところで、間宮君………マヨネーズ好き?」
セレブ君はヨロヨロと起き上がり猫背で立ち、僕にそんな事を聞いてきた。
「……えっと、まぁ、その……好きと言われれば好きですけど……」
「そう、君とはいい友達になれそうだ」
……なんで友達と書いてマヨネーズなの?何か意味なく気持ち悪いんですけど……
「もぉー、セレブはいっつも脳内はマヨネーズ色なんだね。アハハー」
美帆ちゃんはセレブ君を指差しながらニコニコ笑っている。コラコラ、人様に指を差してはいけませんよ。
「女にはマヨネーズの良さが分からないさ。ねっ?間宮君」
「は、はぁ……」
僕に振らないで欲しい……
「ところで間宮君。女の子に精●を顔射って興奮する?」
「………は?」
いきなりこの人は何を言い出すんだろう………
「僕は興奮しないよ。だって、ありえないじゃない、かぁいい女の子の顔に男の汚い精●をぶっかけるなんて」
………いや、あえてコメントしないけど。そうなの?
「やっぱり女の子にマヨネーズを顔射するのがいいよね?興奮するよね、『ご主人タマにマヨネーズかけられちゃったですぅ〜(///)』とか言われたらもう僕……ホントどうにかなりそう」
……何で?いや、あえてコメントしないけど。何で?
「いいやっ!やっぱ、女の子にはおろしポン酢を顔射が一番だろっ!興奮するだろっ、『ご主人タマにおろしポン酢かけられたですぅ〜目がシミシミするのですぅ〜〜〜(///)』」
海斗はそう反論する。……おろしポン酢?おろしポン酢って何?どこに興奮する要素があるの?それ?
「うーん、あたしはデミグラスソース派かなぁ……」
美帆ちゃんは海斗に続きそんな事を言い出す。……美帆ちゃん、コノヒトタチの言っている話の内容理解できてる?いや、理解されたら困るんだけど。ていうか、海斗もセレブ君も一応、目の前に女の子がいるんだから少しは自重して欲しい………
「あぁ、そうだった。ゴメン三人とも。お茶出すよ」
セレブ君はそう言うと、台所の方へノロノロと歩いていった。うん、何で視聴覚室に台所があるんだとかのツッコミはしないよ。
「……ねぇ、海斗。ここ……なんなの?」
僕は純粋に思った。どう見てもここは部活とかそういう雰囲気の場所じゃない。どちらかというと……生活の空間といった感じの場所だ。
「あぁ、ここ、あいつ部屋」
「えぇっ!?何それっ!?もしかして、ここに住んでいるのっ!?あの人!?」
「あぁ」
「いやいや……ちょっと、待ってよ。じゃあ、何?あの人は……無断でこの学園の一室を自分の部屋にしちゃってるの!?」
「ううん、違うよー。セレブっち、この学園の警備員なんだよー」
「えぇっ!?あの人、警備員なのっ!?生徒じゃなくて!?」
「ううん、生徒兼警備員だよー」
………兼って何さ。兼って。
「まーまー、春明よー。細かいことはいいじゃん。つまりはあいつはマヨネーズでお前はケチャップってことだよ」
「全然意味分かんないんですけど」
「おまたせー」
そんなイミフな会話をしていると背後からセレブ君のしゃがれた声がした。
「はい、お茶どうぞ」
ちゃぶ台の上に置かれたのは一本のマヨネーズ。
「お茶じゃないじゃん」
「お茶だよ」
セレブ君はいたって真面目にそう答えた。
「……えっと、君の目は腐ってるの?コレどう見てもマヨネーズなんだけど」
「マヨネーズ≧お茶、だよ」
「何、勝手にそんな不等式成立させちゃってんの?成立しないよ、そんなの」
「マヨネーズ≧サル≧お茶、だよ」
「何で間にサル入れちゃったの?ていうかお茶最下層じゃん」
「何言ってんだっ!おろしポン酢≧おろしポン酢≧おろしポン酢だろっ!」
全部おろしポン酢じゃん。
「もぉー!二人ともそんなんじゃだめだよっ!おじいちゃん≧みかん≧サル≧あの頃の香しき思い出、だよっ」
君も何を言ってるの?美帆ちゃん?
「君達はマヨネーズの偉大さが分かってないね。ねっ?間宮君」
だから僕に振らないで欲しい。……何だろう。この人達といると頭が……毒電波でも放っているのだろうか?これ以上、この場にいると何か脳内に悪影響を及ぼすような気が………
「あっ、もうこんな時間。悪いね。三人とも、今日はお開きってことで」
綺麗な茜色が架かった頃、ようやくお開きの時間となった。あぁ……長かった。
「何かあるんですか?」
「うん、日課のマヨネーズオ●ニーしなくちゃならないから」
「……はい?」
……今なんて?
「そうだなー、それならしゃあねぇな。春明、美帆、そろそろ帰ろうぜ。じゃあな、セレブ。今日も悔いなくマヨれよ」
マヨるって何さ?
「うん、そうだねーじゃあねーセレブっち♪」
「え、えぇ〜?」
「じゃあねー、またマヨりたくなったら僕のところにおいでよ」
だからマヨるって何さ?
そして僕はまた引きずられていくのであった……お願いだから普通に歩かせて。
バタンッ
ドアを閉めると、第二視聴覚室から『マヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨマヨ』という不気味なしゃがれた声が聞こえてきた。……何か怖い(汗)