僕は迷った。
世界観は『ぎぶ!あんど!!ていく!!!』と同じで二十年後の世界です。前作を読んでいなくても特に問題はないです。
ポンから定食、390円。
正直、今の僕の手持ちの財産では厳しい出費なのだけど。腹が減っては戦はできないわけで。つい、誘惑に負けてしまいました。
「いただきます」
まず、ポン酢にたっぷりの大根おろしを入れて、そんでもってから揚げを箸で持ち上げる。そして、そのから揚げをポン酢の海に沈め、ポン酢と大根おろしが絡み合ったから揚げを一口で食す。うん、おいしい。ご飯がすすむ君だ。箸が止まらない。そして、僕はから揚げ君を頬張りながらこの春から通う高宮学園のパンフレットに目を通した。学園のとある校舎が写った写真の表紙に始まり、学園の中庭、学園祭の様子、体育祭の様子等の写真が飾られている。白い校舎でメルヘンな建物、綺麗だな。それに大きいしね。これからの学園生活にますます期待が高まってくる。
「よーし、頑張るぞー」
そして、僕は再びから揚げを食べようと視線を山盛りのから揚げの入った皿に移すが………あれ、さっきより結構減ってる?おかしい、まだ僕は二個しかから揚げ食べてないんだぞ。確か、定食屋のおばちゃんが持ってきた時は10個くらいのから揚げと大量のキャベツが盛られていたはずだ。なのに、何で残り二個とか悲惨な状態になっているんだ。おまけにキャベツも何か減ってるし。
「モグモグ……から揚げ、うめぇー。なっ、お前もそう思うだろ?」
右隣から声が聞こえてきたので、僕は振り向いた。そこにいたのは、現在進行中で何やら固形物をムシャムシャと頬張っている1人の男がいた。見た目からその男は僕と同じくらいの年齢、頭には黒いバンダナを装着しており、顔つきは端整でいわゆるもてそうな顔立ち、いわゆる美少年という感じだろうか?……まぁ、そんなことはどうでもよくて。それより……
「………ちょっと、何食べてんですか」
「ガム」
くちゃくちゃ
「何、真顔であからさまな嘘ついてんですか。それ、僕のから揚げでしょ?あと、人が喋っているのに口を動かすの止めてくれます?」
「おぇ」
男の人は何やら噛み砕かれた物体が僕の皿に吐き出した。
「ちょっ、ちょっと!何やってんですか?!あんた!僕、口を動かすのはやめろと言いましたけど、何も吐けとは言ってないでしょ!?」
「じゃあ、お前は俺にどうしろと言うんだっ!!!」
「何で逆ギレしてんですかっ!?僕が怒りたいぐらいだっ!!!」
「ははっ、そんなにキレんなよぉ〜〜〜!こ〜いつぅ〜〜〜♪」
僕の肩を抱き寄せ、ツンツンと僕の頬をつつく謎の男。なんで初対面にこんなにフレンドリーなんだこの人……
「お前の肉を食ったのは悪かったな、モグモグ。すまんっ、はは。でも、ここのおばちゃんの揚げるから揚げは最高だよな、モグモグ」
「謝りながら引き続き何、僕のから揚げ食ってんですかっ!?全然、誠意が感じられないんですけどっ!?」
「おーい、おばちゃーん、ライス大盛りと冷たいお茶、ちょーだい♪」
「あんた本格的に僕のから揚げ食べる気まんまんじゃないですかっ!?殺しますよっ!?」
春なのに夏並みに僕の身体に強烈な紫外線を浴びせる太陽。
母さんから貰った学生寮の行き道を示した簡易的な地図。簡易的どころではない、まるで幼稚園児が書いたような落書き。そして、さっきの定食屋から出てから金魚のフンのように僕の後を付回すバンダナの男。
不愉快だっ!実に不愉快だっ!一体、僕が何をしたって言うんだっ!なんで、しょっぱなからこんなにイライラしなくちゃならないんだっ!
「お〜い、待ってくれよ。俺を置いていかないでくれよ!ヒロヒコ!」
「ついてこないで下さいっ!ヒロヒコって誰だよっ!」
とにかくっ……!仕方ない、この落書きを何とか解読して早く学生寮を見つけよう。
「おっ、俺この場所知ってるぜ」
そして、地図(という名の落書き)を眺めていると僕の右肩からにゅっとバンダナの顔が出てきた。
「うわっ、近っ…!ちょっ、離れてくださいっ!」
僕は咄嗟に荷物を地面に放り投げ、バンダナの男から距離を取った。
「へー、お前、ここの生徒だったのか。見ない顔だけど、よっしゃー!なら、俺に任せろ兄弟っ!」
そして、バンダナの男は僕の荷物を担ぎ、どこかへ走り去っていった。
「あっ、コラ!待て!」
僕は必死でバンダナ男の走っていった方向に向かって追いかけたが、見失ってしまった。速すぎる……僕の荷物を持ちながらあの疾走は異常だ、いや僕が単に遅いだけなのかもしれないけど。
「……どうしよう、もう夕方だ」
日が沈み始め空は茜色に染まっていく………どうしよう、道に迷ってしまった。僕、この辺の土地勘無いし………荷物は全部、あの変な男に奪われるし………うっ、うぅ、泣きたくなってきた。昔からいつも僕はこうだ。ロクな事がない。小学生の頃はクラスの皆から何もしてないのに馬鹿にされるし苛められるし、中学生の頃はヤンキーの人達にカツアゲやらイジメやらetc………
『あー、おい見ろよー!トイレで春明がウンコしてるぞー!キタねークセー!ギャハハハハーーーー』
『やーい、やーい!ウンコマーン!ウンコマーン!ウンコマーン!ウンコマーン!ウンコマーン!』
『おい、春明、てめぇ、アンパンと食パンとカレーパン買ってこいや、クラァ』
『なにぃ?金、持ってねぇだとぉ〜〜〜?その場でジャンプしろやゴラァ!!!』
あぁああぁあああああああぁあぁあああぁぁ…………………
何でこんな時に僕はあの頃の嫌な思い出を思い出すんだっ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!もう、忘れるんだっ!もう、僕はあの頃と違うっ!今日から新しい人生を生きていくんだっ!
「泣いちゃダメだ………早く、探さないと」
そう、僕は生まれ変わったんだ……あの頃に戻りたくない。そうと決まれば……早く、あの男を見つけ出して荷物を奪還しないと……
「……ここは、多分、学園の中庭」
確か、パンフレットでここの風景の写真があった。じゃあ、この辺に学生寮が………
「あっ、あいつ………っ!あんなところに………っ!」
中庭の端の方、丁度、校舎で日陰になった場所のベンチであのバンダナの男は足を組んで、タバコをふかしていた。どうやら、あそこでおくつろぎの様子。
「おいっ!お前……っ!」
僕は憤慨した。今日の僕の不幸は昔から始まったことだけど、今日の不幸は全部あいつのせいだっ!
「おっ、兄弟。やっと来たか。探したんだぜ〜」
ニッと爽やかな笑顔の顔を向けるバンダナの男。………はぁ、僕はそんな憎めない笑顔を見て怒る気がとうに失せた。もういつもの事だし………僕が我慢すれば世界は救われる、それでいいんだ。昔からそうやって我慢してきたじゃないか。
「ほら、お前の荷物。あっ、そうそう名前言うの忘れてたな、俺は橘海斗、海斗って呼んでくれ。お前の名前は?」
「………春明、間宮春明です」
「春明か……ミツバチハルッチーって呼んでいいか♪」
「………やめてください」
「兄さんっ!」
女の子の声、あきらかにこちらに向けて発せられたものだった。僕はその女の子の声がした方向に顔を向けた……
「はぁはぁ………こんなところに、いたんですね………」
「おぅ、明美。どしたっ?そんなに息を切らして………ま、まさかっ……!ダメだ、やめろ。お前にまだア○ルは早い………」
「何言っているの、意味わかんない」
学生服、この学園の生徒だろう。息絶え絶えで汗でビッショリ。手には………ラケット、確かそのラケットは……ラクロスだったっけ?珍しいな。海斗とかいうバンダナ男よりは身長は低いが、僕より高い(僕はチビ)……それに普通に可愛い。ツインテールで髪の色は海斗と同じ茶髪。………あぁ、やっぱりいいな女の子……でも、僕には今まで女の子とのまともな会話をした記憶はなくて。
『何コイツ、オタクキモーイ。ついでに存在もキモーイ』
「うぁあああああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!!!僕はオタクじゃないぃいいいいいいいいーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!見た目はそうかもしれないけれど、普通に美少女フィギュアに恋する三次元フィジカルボーイなんだぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「キャッ!?な、何っ!?何なの!?誰、その子?(汗)」
「おぅ!こいつなぁ〜〜〜俺の親友の間宮春明!なぁ〜〜〜?ハルっち〜〜〜♪」
肩を抱き寄せ、また僕の頬をチョンチョンとつつく海斗。だからなんでコノヒトは初対面なのにこんなにフレンドリーなんだろう………
「ふ、ふ〜〜〜ん………んっ、私は橘明美、ヨロシクね」
あっ、あぁあああ〜〜〜〜〜…………今の微妙な反応……引いたっ!絶対引かれたよっ!
『オタク?キモイ!氏ねっ!』とか絶対思ってる顔だよあれはぁ〜〜〜〜(泣)
「よ、ヨロシク……(汗)」
僕のテンションガタ落ち、ついでに目の前の女の子の評価もガタ落ち。
「そ、それよりっ!兄さんっ!早く出してくださいっ!」
「ん?何を?コレか?」
海斗は笑顔で自分のジーパンのチャックを開けようとする………
「な、何言っているんですかっ!?(///)き、汚い!しまってくださいっ!」
「じゃあ、何を出せっていうんだぁ〜?」
「とぼけないで下さいっ!下着ですっ!部活の後、皆の下着がなくなっていたんですっ!とぼけても無駄ですよっ!?兄さんが部室から出て行く姿を目撃していた子がいるんですからっ!!!」
ぶっーーーーーー!!!!!!し、下着ぃ……?あ、あの、ぶ、ぶらじゃーとか………そ、そのお、おぱんちゅとかのことですかっ!?何てもん盗んでんだこの人はっ!!!は、鼻血が出てきた……ハァハァ(///)
「何それ?俺、しらないよよよ〜〜〜ん。ヒュ〜♪」
絶対、嘘だっ!この顔は絶対嘘をついている人間の顔だっ!
「と、とぼけないでくださいっ!ネタは上がってるんですよっ!?」
口笛を吹きながらとぼける海斗の胸倉を掴む橘さん………な、何?一体、今から何が始まるのっ!?(汗)
「ヒュ〜……あっ、鞄」
「えっ」
海斗の視線の先には僕の鞄、そしてその声に反応して振り向く橘さん。
「ま、まさか……ちょ、ちょっとその鞄貸してっ!」
「あっ!?ちょっと!?」
僕が持っていた鞄は橘さんにひったくられ、そして有無を言わさず橘さんは僕の鞄のチャックを開く………
「な、何よ……コレ」
僕の鞄、チャックを開くと中身にあったものとは………
「げっ!?し、下着っつ!?」
そう……まず、目に飛び込んできたものはおぱんちゅやらブラジャやらー……一つ、二つどころではない。数え切れないほどの様々な種類の下着が溢れかえっていた。
「な、何だコレっ!?ぼ、僕は知らないっ!こんなの知らないですにゃあ!!!(泣)」
「……ぁ、あ、こ、コレ、私の下着……」
「嘘っ!?」
と、ということは………この下着は………
「おいおい〜〜〜ハルっちぃ〜〜〜初っ端から下着ドロか?サカッってんな〜〜〜お前(笑)」
「ぬ、濡れ衣だぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(泣)」
「スマヌ、明美。俺、白状するよ。実はコイツに『マブダチの証として女の子の使用済みの下着持って来い、げへあへ』とか言われて仕方なく持ってきたんだ………うぅ、本当にすまない、明美」
「うぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!この人、全部僕に罪をなすりつける気だぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
さ、最低だっ!この人っ!(泣)
「あ、貴方が……私達の」
や、やばいっ!ぷるぷる震えていらっしゃるっ!こ、殺されゆっ!(汗)
「ち、違うよ……ぼ、僕は」
「それにコイツ、から揚げが大好物らしくてな。定食屋で『肉欲最高っ!!!』とか思いっきり叫んでいたしな……あれはマブの俺でも引いたぜ」
「ち、ちがっ……!それは何か………ってそんな台詞僕は言ってないっ!(泣)」
「さ、最低っ!!!」
バキッ
「うぼぁああああーーーーー!!!!!」
ラクロスのラケットで僕は思いっきりしばかれた。そして、僕はフェードアウトするのであった………
橘兄妹との出会い、まさかそれが僕の人生を覆すほどのイベントだったとは知るよしも無かった。