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爆笑王決定トーナメント 5/?

「勝者は――ルシア選手です! 理由は、かわいかったからです!」


『ブレねーなコイツ!』


 勝敗を告げる校長。そしてマイク越しに暴言を吐く森林。


『校長先生、そういうのはやめてくださいって言ったじゃないですか。真面目に評価してください!』


「――まず、栃ノ木善行くん。モノボケだというのに、ただ金属バットを振り回していただけでしたね――これは考えようによっては斬新な試みだったと言えるでしょう。ただし、狙ってそれをやっていたのであれば……ですが。意図的に外しにいけるのは、高い技術がある証拠です。しかし残念ながら、彼が意図的にそれをおこなっていたのだとは、私には思えません。彼はお姉さんにばかり目がいってしまっていて、この大会のことを忘れてしまっていたのではないでしょうか? 栃ノ木善行くん、反論があるなら聞きましょう。…………ないようですね。であれば、今回のきみは、ただルールを無視して暴れ回っていただけです。なるほど、なにものにも縛られない破天荒さも、ひとつの面白さと言えるかもしれません。しかしこれは大会で、私は大会の審査員です。立場上、競技と真摯に向き合おうとしない者を評価することは、私にはできません。

 一方のルシアさんは、三回連続でバドミントンのラケットを使用しました。これは栃ノ木善行選手と同じ行動をとっているように見えますが、実はそうではありません。彼女は同じ道具を使いながら、その都度趣向を凝らし、毎回違った笑いに挑戦していました。私はその心意気を買いたい。よって、勝者はルシア選手だと、私は判断しました」


『ええ……真面目に喋れたんですか……じゃあ逆にさっきの輪ゴム部から余計クレーム来ますよ……』


「じゃあ私はいったいどうすればいいのかね? ふざけても文句を言う。真面目に喋っても文句を言う。きみは言っていることがめちゃくちゃだ。退学にするぞ」


 森林は急に人格が変わったかのように「すいません、僕が悪かったです!」と従順に頭を垂れた。


『えー、というわけで、決勝戦第一試合の勝者は……ルシア選手です! ラフ&ピース部、一勝目を上げましたーッ!』


「やったーっ!」


「よっしゃー! すげーぞ!」


 ちょっと結果発表がグダグダだったけれど、勝ちは勝ち。春心と朱音は飛び跳ねて喜びながら、ルシアのもとへ駆け寄った。


「ううん、運がよかっただけだから」

 

 と、ルシアは謙遜する。


「えーっ、全然そんなことないよ! 面白かったよ! 私あの潜入捜査ってやつ好き! 潜入捜査~!」


「あの、春心ちゃん? 改めて言われると、ちょっと恥ずかしいかも」

 

 ルシアの顔が赤くなる。


「いやー、ちょんまげもよかったぜ。ちょんまげ~っつってな! あはは!」


「えっと、朱音ちゃんも、その……あんまり繰り返さなくていいから!」

 

 ルシアの顔がどんどん赤くなっていく。


『おおっと、ラフ&ピース部のみなさん、喜ぶのは早いんじゃないでしょうか! これは三番勝負です! まだまだ勝負はここからですよ~!』


 森林が釘を刺すように、試合がまだ終わっていないことを強調した。


 彼の言う通り、これは三番勝負。ラフ&ピース部が勝つにはあともう一勝が必要だ。たしかに大事なのはむしろここからなのだろう。


 ただ、そうは言っても、せっかくボケることに不慣れなルシアが勝ったんだから、ちょっとくらいは勝利の余韻に浸ってたっていいじゃないかと春心は思う。


 あとどうでもいいけれど、森林の口調が安定しない。彼もまた、自分の在りかたに悩む、迷える十代なのだろう。そんな感じなのだろう。


「二試合目は春心に頼んでもいいか?」


 まだ次の競技内容が明かされてもいないのに、朱音がそう提案してきた。春心はそれをちょっと意外に思う。


「え、いいの? 栃ノ木先輩と勝負したいんじゃなかったの? 自分で言うのもなんだけどさ、次で私が勝っちゃったら、もう終わっちゃうよ?」


 試合前の会話では、朱音も栃ノ木も、互いに対戦ができることを楽しみにしていたように見えた。しかしこの試合は三番勝負。そのうちルシアが一勝している。そして次に春心が勝った場合、最終戦を待たずして二勝〇敗でラフ&ピース部の勝利が決まる。要は、朱音が試合に出る前にすべてが終わってしまう可能性があるのだ。


 試合に出ないことには、栃ノ木と当たることだってできない。それなら、確実に試合に出られるうちに出ておいたほうがいいんじゃないかと春心は思うけれど。


「いや、どうせ姉御は自分たちが負けるだなんてちっとも思っちゃいねえよ。あの人は堂々と大将戦に出てくる。そういう人だ。だったら私もそれに合わせて最終戦に控えとくしかねえ。だから二試合目は春心、お前に頼む。……ああ、でも気は遣わなくていいかんな。勝てそうなら次で決めてこい」


「そういうことなら……おっけ、わかった!」


 春心は最初から優勝にこだわっていない。だから、ここでわざと負けて朱音に出番を繋ぐということも、場合によってはしていたかもしれない。


 でも、ルシアが懸命に闘った姿を見たあとのいまの春心には、その選択肢はなかった。


 ――ルシアちゃんがあんなにがんばったんだ。私だって、がんばらなきゃ!

 

 気合いはばっちり。さあ、どんな競技でも来い!


『それでは第二試合に参りましょう! 次の試合は、反復横跳びです!』


「え?」



 ※



『勝者、正座部!』

 

 第二試合の内容は、反復横跳び対決だった。一分間で跳んだ回数の多いほうが勝ちというシンプルなルールで、春心はなんの見どころもなく惨敗した。


「お前、なにあっさり負けてんだよ」


 春心の情けない負けっぷりに、朱音はもう、声からして呆れていた。


「ごめん! ほんっとにごめん!」 


 まず春心は平身低頭、素直に謝った。この展開は確かに自分が悪い。だけどそれをわかったうえで、言わせてもらう。


「でもお願い! 言い訳させて!」


「……いちおう聞いとくか」 


「あのさ、なんで私のときだけ純粋な体力勝負なの!? 爆笑王とかじゃないじゃんこんなの! 体力測定じゃん! しかも相手男子だったし! それに私は私でスカートだし! こうなるってわかってたらジャージ着てきたもん!」


「あのな、私が怒ってんのは、負けたことじゃねえよ。お前、本気でやんなかっただろ」


「だって、それはほら、スカートだし……」


「お前なあ、スカートなんて気にしてんじゃねえよ! パンツくらい見せてやれ!」


「私だって守りたいものくらいあんの!」


「いいか、冷静になれ! パンツと優勝賞品のYYやっちゃんよっちゃん、どっちが大事なんだ!? 天秤にかけて考えてみろよ!」


「天秤ガッッッシャーンなるわい! パンツの重みでYYが宇宙まで飛んでくわ!」


「なるわい!www なるわい!www」


「真似しないでよ!? なんでそこに反応しちゃうの!? いいじゃんなんか、勢いとかでそういう口調になっちゃっただけじゃん!」


「ははは!」

 

 朱音は機嫌良さそうに笑った。春心が負けたことを本気で怒っているわけではないようだ。


「ま、いいぜ。普通なら説教するところだが――今回は許してやるよ。なんせ、やっと姉御と戦えるからな」


「ええ。わたくしも、楽しみです」


 と。


 春心の背後に、いつの間にか栃ノ木結善が立っていた。


「月は青く、天は高く、稲穂は頭を垂れ、淀みのない波長は一対の弾丸となって、あなたとわたくしの幻想を、最果てまで連れて行くことでしょう。あなたは言ったわね。あの電波塔、まるで五寸釘みたい……って。そうよ、わたくしの神経はとってもヘルシー。焼肉ジュウジュウ美味しいにゃん。にゃんにゃんにゃんにゃん。わたくし、栃ノ木結善です」


 春心は戦慄した。栃ノ木がなにを言っているのか、全然わからない。


『さあ、いよいよ最終戦に参りましょう! 三番勝負、最終戦の競技は……“フリートークパン食い競争”です!』


「そしてなんか変なのが来たよ!」

 

 どんな競技だ。

 

 そしてやっぱりなぜ自分だけが反復横跳び対決だったのか、納得がいかない春心だった。


『先ほどまでと同様に、参加人数は一名……ですが、どうやら両部とも、出場選手はすでに決まっているようですね?』


 森林の問いかけに答えるように、朱音と栃ノ木が、同時にニヤリと笑った。ニヤリというか、ニチャリというか、ミュピァリというか。とにかく、なんか気持ち悪い笑みだ。


『さて、フリートークパン食い競争のルールを説明しましょう! まず、こちらの指定するお題に沿って、二人でフリートークをしていただきます!』


「それ厳密にはもうフリーじゃなくない?」


『そうしてフリートークをしているあいだに、校長先生がピストルを鳴らします! ただし、それがどのタイミングで鳴るのかは秘密です! 一分後かもしれないし、五分後かもしれないし、一週間後かもしれません! そのときが来るまで、二人にはフリートークをし続けていただきます!』


「特殊部隊の訓練か!」


『ピストルの音が鳴ったら、武道場の端に吊るされている、あんぱんの元に走ってください! そしてあんぱんを完食したあとに、座右の銘を言って、その座右の銘が面白かったほうの勝ちとなります!』


「わかりずらいってそのゲーム!」

 

 頭がこんがらがりそうになる。

 

 春心は一旦、頭の中でゲームの概要を整理してみた。


 フリートークをする→ピストルの音が鳴る→パン食い競争スタート→パンを完食する→座右の銘を言う→座右の銘が面白かったほうが勝ち。


「もう最初から座右の銘の大喜利でいいじゃん!」


「春心ちゃん。ずっと叫んでるけど、喉、大丈夫? お茶かなにか、買ってくる?」

 

 ルシアが心配そうな表情で、春心を見ていた。


 そう言われてみると、たしかにさっきからなんで自分だけこんなに叫んでるんだろうと、恥ずかしくなってくる。


「いや、大丈夫だよ。でもありがとね、心配してくれて」


「ううん。大丈夫ならいいの」


「まあびっくりするよね。びっくりって言うか、不安だよね。『特殊部隊の訓練か!』とか、『大喜利でいいじゃん!』とか、急に隣で騒ぎだしたらね。……なんかもうさ、ツッコミを入れるのが癖になっちゃってて」


「そっか」


 それってなんだか、羨ましいな――と、ルシアは呟いた。そのときの彼女は、いつもの優しい目つきではなくて、どこか遠くを見るような、憂いを帯びた目つきだった。


 春心はルシアのその瞳の意味を知っている。知っているけれど、それについて掘り下げることは、いまはできなかった。


 もう、最終戦が始まってしまう。


『それでは、出場選手は、指定の席に移動してください!』


「じゃ、行ってくるぜ」


 朱音が移動を始めた。


 最初のフリートークは、剣道場の壁際にあるパイプ椅子の上でおこなうらしい。そしてあんぱんが吊るされているのは、その反対側の壁際。最終戦は、剣道場の端から端まで使うという、それなりにダイナミックな戦いになるようだ。


「朱音ちゃん、がんばって!」


「がんばって!」

 

 春心とルシアは、パイプ椅子に向かって歩く朱音に声援を送った。


 朱音は振り返ると、意味ありげに目配せをしながら、左ひざを素早く二回曲げた。それがなんのジェスチャーなのか、春心には全然わからない。ルシアも隣で首を傾げている。

 

 やがて朱音と栃ノ木が席についた。森林の熱のこもった声が、武道場に響き渡る。


『さあ、泣いても笑ってもこれが最後です! 爆笑王決定トーナメント、決勝戦、ラフ&ピース部対正座部、最終戦を始めていきましょう! フリートークパン食い競争、トークテーマは【朝食はパンかご飯か】です! それではお願いしまーッす!』

 






 ※突然ですが、ここからは対談形式の文章でお楽しみください。






 -スペシャルトーク-

【繰田 朱音×栃ノ木 結善】    


朝食は、パンかご飯か   


栃ノ木:こうして朱音さんと改まってお喋りをするというのは、なんとも不思議な気分ですわね。


繰田:そうだな。


栃ノ木:『朝食はパンかご飯か』っていうテーマですけれど、わたくしはパン派です。


繰田:ははッ!


栃ノ木:あら。わたくし、なにかおかしなことを言ったかしら。


繰田:いやいや、姉御よぉ、先週正座部の部室で「米しか勝たん!」って言いながら全裸で踊ってたろ。


栃ノ木:わたくし、パン派とは言いましたけれど、パンしか食べないとは言っていませんわ。米を食べるときだってありますのよ。白黒をつけることは、ときには人生を味気なくさせる――わたくしは、そう思っていますの。


繰田:全裸は否定しないのな。


栃ノ木:全裸を否定することはできません。この世の誰にも。


繰田:まあ、人間本来の姿だもんな、全裸って。全裸を否定するってことは、命を否定するってことだもんな。


栃ノ木:ところで最近思ったのですけれど、恥骨って、とっても素敵だと思いません?


繰田:ずいぶんトばしてんな。なんの話だ?


栃ノ木:体の部位の名称って、学者先生のような、偉い御方が決めておられるのですよね? 学者先生って、お堅いイメージがありますのに、その先生ですら「恥ずかしい」って思ったのですよ? これは恥ずかしい骨だなぁって、知識人が思ったのですよ? これは大変なことです。学者先生にまで、恥ずかしいと言わしめるだなんて。


繰田:そう言えばそうだな。もうそれ、学術的に恥ずかしいってことだもんな。


――すいません、お二人とも。少し話題が逸れているようですが。


栃ノ木 あら森林さん、ごめんなさい。




全裸にならない人はいない


繰田:テーマはたしか、パン派かご飯派かって感じだったよな。パンと言えばよ、どういう仕組みでパンツって体にくっついてんだろうな。だって、穴に足を通してるだけだぞ? 重力もあるのに、なんで下に落ちねえんだよ。   


栃ノ木:本当に不思議ですよね。考えてみれば、服は金具やネジで体に固定しているわけではありません。ただ布に開いた穴に、体の一部分を通しているだけです。


繰田:もしかしたら私たちは皆、布をまとっただけの全裸なのかもしれないな。


栃ノ木:ええ、そうだと思いますわ。思い出してみてください。わたくしたちは生まれた時に服を着ていましたか? 着ていませんよね? そういう意味で、一度も全裸にならない人はいないのです。


繰田:むしろ服のほうが後付けだよな。


栃ノ木:服は借り物なのです。体の一部になることはないのですから。――いえ、きっと、人生のすべてが借り物なの。若さもそう。


繰田:若さも?


栃ノ木:ええ。きっとそれは、わたくしたちのものではないのです。いつかは返さなければならない。青春が貸出期間のうちに、やれることはやっておきたいものですね。後悔は、したくないですから。


繰田:姉御、めっちゃいいこと言うな。いまの、私が言ったことにしていいか?


栃ノ木:どうぞ。




脱げるからこそ、いい    


栃ノ木:でも、服が体の一部になりえないからって、悲観することはありませんわ。むしろ脱げるからこそ、いいことだってあると思いますの。


繰田:たとえば、どんなところが?


栃ノ木:気分や目的によって、着るものを変えることができるというところでしょうか。わたくしはわたくしでしかありませんが、わたくしの着ている服は変えることができます。


繰田:気軽さって大事だよな。それに救われることもあるしな。ほかにはなにかあるか?


栃ノ木:そうですね、あとは……一般的に、借り物って大事に使いますよね? それと同じです。自分になりえないものだからこそ、大切にしようと思えるのではないでしょうか。


繰田:今日の姉御すげーな! 名言製造機かよ!


栃ノ木:ありがとう。


繰田:それじゃあ一旦まとめに入るか。ずばり、姉御にとって服とはなんだ?


栃ノ木:脱ぐと興奮するものです。


繰田:ぅわ~お。




 ――パァン!


 そして、ピストルが鳴った。

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