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爆笑王決定トーナメント 2/?

【輪ゴム部】

国内外問わず、様々なメーカーの輪ゴムを蒐集しゅうしゅうし、愛でる部。

また、輪ゴムの可能性を追求する活動も並行しておこなっている。電気レンジのスイッチに向けて指で輪ゴムを弾き飛ばし、その輪ゴムを当てた衝撃でスイッチをONにできるかどうか、というチャレンジをしているうちに、いつの間にか冬を越してしまっていたという逸話を持つ。


――檸文高校部活動大全より抜粋





『それでは一回戦のルールを説明しマース!』

 

 司会者部の森林もりばやしが、威勢よくマイクに向かって叫んだ。


『勝負は三番勝負! 先に二勝した部の勝利デース! 勝負の内容は一試合ごとにランダムに変わりマース! さてさて、輪ゴム部対ラフ&ピース部、第一試合の内容は……はい、【大喜利対決】デース! これはいきなり面白い対決になりそうですね~! なお、参加人数は一名デース! 各部ともに出場選手を決めてくだサーイ!』


 勝負の説明を聞くや否や、朱音が率直に言った。


「ルシア、いけるか?」


「い、いきなり?」


 ルシアが戸惑いの表情を浮かべる。


「三番勝負なら、一本は負けられるだろ? だったら一番最初に出ていくほうが気楽でいいんじゃねえか? 一勝一敗の大将戦で出番が回ってくるほうがプレッシャーだろ」


「そっか……そうね。たしかに」


「まあ、思いっきりやってこいよ。ルシアが負けても、私と春心で二勝すりゃいいんだ」


「朱音ちゃん……わかった。私、がんばってくるね!」


 どうやら、ルシアが一番手で決まりのようだ。その順番には春心も賛成だった。ルシアには勝敗を意識しなくていいポジションで、伸び伸びとやってほしい。


 そのぶん、勝ち負けのウェイトは自分にのしかかってくるけれど――正直、春心はそこまで勝ちにこだわっていないので、プレッシャーは感じていない。優勝したところで、もらえるのは伝説の大秘宝『やっちゃんよっちゃん』だけだ。欲しいかどうかで言えば、まあ、いらない。


「気楽にね」


 春心はルシアの背中を叩いた。


「うん。でも、大喜利なんてやったことないから、どうやったらいいのか……」


「いきなり面白いことを言おうとしなくてもいいんじゃない? さっき朱音ちゃんも言ってたじゃん。まず実際にやってみることが大事だって。今日はもう挑戦した時点で成功ってことでいいんだよ。面白さは二の次ってことで!」


 ルシアはぱちぱちと目を瞬かせたかと思うと、やがて「あぁ、そっかぁ」と深く感じ入ったように息を吐いた。


「それ、どういう反応?」


 春心が尋ねると、ルシアは照れたように笑う。


「いや、春心ちゃんも朱音ちゃんも、すっごく頼りになるなぁって。そうよね、いきなり上手くなろうとしてもしょうがないわよね。ありがとう。ちょっと緊張が解けたかも」


「それならよかった」


 春心とルシアが喋っているあいだに、輪ゴム部の出場メンバーも決まったようだ。


 ほどなくして、対戦カードの発表となる。


『それでは出場選手を発表していきましょう! ラフ&ピース部の代表は……ルシア・リフレイン選手! 対する輪ゴム部は……おおっと、いきなり部長の登場だァ! 輪ゴム部部長、八犬伝はっけんでんドルマークスゥ!』


「はッ、八犬伝はっけんでんドルマークスぅ!?」

 

 と、春心は思わず反応してしまう。


「え、え、輪ゴム部の部長さんってそんな名前だったの!? かっこよすぎない!? 朱音ちゃん、知ってた?」


「噂には聞いたことあるけどな。ま、いまどき国際的な名前なんてそんなに珍しいもんじゃねえだろ」


「国際的っていう次元なのかな……。てか、キャラが濃いって! ルシアちゃんに名前のインパクトで完勝しちゃうような人がさ、こんな場面で出てくる? もったいなくない?」


「お前、人の名前にもったいないもクソもないだろ。失礼だぞ」


「は、はい……」


 朱音が物凄い正論で返してくるので、春心は黙らざるを得なかった。


『それでは両選手ともに、回答席のほうへお越しくだサーイ!』


 ここ、武道場は主に二つのエリアに別れている。板張りになっている剣道場と、畳張りになっている柔道場。ちょうど半々だ。


 剣道場のほうに、クイズ番組で見たことがあるような、回答席が用意されていた。椅子と机、フリップとペンに、ランプのついたボタン。きっと押したら光るのだろう。


 柔道場は今回の対決では使わないようで、控え室兼観戦席のようになっている。春心と朱音は畳の上に腰を下ろし、ルシアに応援の声を飛ばした。


「がんばってねー!」


「緊張すんなよー」


 ところが、回答席に着いたルシアはガチガチに緊張しているみたいで、どうもこちらの声は届いていないらしい。見ると、ルシアは自身の掌になにか文字を書いて――たぶん『人』の字だ――それを何度も飲み込んでいた。なんて古典的な。実際にそれをやってる人を、春心は初めて見た。


 対して、ルシアの隣の席に座っている八犬伝ドルマークスは、余裕ありげな顔をしている。彼は現役の力士と言っても通用しそうな立派な体格をしていて、回答席から横にも縦にも大きくはみ出ていた。


 しかしそんな貫禄のあるイメージに反し、彼から発せられる声は甲高かんだかい。


「ラフ&ピース部のみなさん、悪いですが、勝つのはあっしら輪ゴム部です。恨まないでくださいね。キョキョッ!」


「あっし!? キョキョッ!?」

 

 と、春心はやっぱり反応してしまう。


「ねえ朱音ちゃん、やっぱあの人キャラ濃くない!? 普通キョキョとか言う!?」


「実際言ってるんだよなぁ」


「あのさ、仮にも私たちってボツ“キャラクター”じゃん。“キャラクター”じゃん。なのに、なんであの人が一番キャラっぽいの? もったいないって!」


「お前な、ちょっと騒ぎすぎだ。メロンくんだってそう思うよな? 『うん、メロンくんもそう思うでちゅ~。でちゅでちゅ~』。……ほら」


「は?」


「…………」


「ねえ、説明は?」


「…………」


「ねえって。メロンくんの説明は?」


『お静かにお願いしマース!』


 森林のアナウンスによって、春心の追及が遮られてしまう。メロンくんとは結局なんだったのか。一種の怪奇現象だったのか。いまとなっては、誰も教えてくれない。


『それではこれより、ラフ&ピース部対輪ゴム部の、大喜利対決を始めマース! 大喜利の出題及び判定は校長先生です! それではお願いします!』


 森林が校長にマイクを手渡す。だがやはり校長は受け取ったマイクを使わずに、ちょっと大きな声で話し始めた。


「準備はいいですか!? では、大喜利のお題はこちら! 


【春が来た、春が来た、どこに来た?】


 さあ、お答えください!」

 

 お題が発表された瞬間、ルシアと八犬伝ドルマークスは同時にペンを取った。ルシアが難しそうな顔でフリップに向かっているのとは対照的に、八犬伝ドルマークスは時折「キョッキョッ!」という声を漏らしながら、愉快そうにペンを動かしている。キョッキョッってなんだ。


 さて、自分だったらどう答えるようかな――と春心が考えていると、隣から朱音がこう言ってきた。


「なあ春心。『心の上に春が来ました、春心です!』って言いながら前に出て踊ってこいよ」


「なにそれ!?  恥ずかしい!」


 しかし、じゃあ代わりになんと答えたらいいのかと言うと、これが意外と出てこない。セオリー通りにいくなら、序盤は、本家『春が来た』の歌詞の『山に来た 里に来た 野にも来た』あたりから探っていく感じになりそうだけれど。


 果たしてどんな試合展開になるのかと思った矢先に、回答ボタンが押された。

 

 なんと、意外にも先にボタンを押したのはルシアだった。


「はい、ルシア選手。


【春が来た、春が来た、どこに来た?】


 さあ、お答えください!」


 ルシアはフリップを出しながら答えた。


「【鼻に来た】。か、花粉症……だから…………」


 言っている途中で恥ずかしくなってきたのか、どんどん声量が小さくなっていく。やがて彼女は赤面しながら叫んだ。


「ごめんなさいっ! やっぱりなしでっ!」

 

 それを見ていた校長が一言。


「カワイイ! ラフ&ピース部の勝ちっ!」


「はあああああああああああ!?」

 

 異論の声を上げたのは、八犬伝ドルマークス。さすがに春心も「はあ?」と言いたくなる気持ちはわかる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! じゃあ、あっしらの負けってことですか!? そんな、なんで!?」


「恥じらいがよかったです!」


「いや、爆笑王決定戦でしょう!? 笑いで決めるんじゃないんですか!?」


「はい!? なんすか!? なんすか!? じゃあきみはもっと面白い回答できるんすか!? なら答えてくださいよ、はい、【春が来た、春が来た、どこに来た?】」


「【輪ゴムのパッケージのデザインに来た】……ほら、春限定商品みたいな……」


「はい負けーッ! ルシアっちのほうがかわいかったでーすッ! しかもあなたの回答は意味不明でーすッ!」


「ふ、ふざけんな!」


「お、校長になんだね、その口の利きかたは。はい、輪ゴム部、失☆格」


「なっ!? いくらレクリエーション的な大会とは言え、その扱いは差別的だ! PTAに訴えてやる!」


「どうぞご随意ずいいにー! どうぞどうぞー! PTAが怖くて教師なんてやってられるかってんだヨォ! ほら、どうぞどうぞー! どうぞどうぞー! どうぞどうぞーッ!」


「む、むむ、むむむぅ……チクショーッ!」


 言い返す言葉が浮かばなかったのか、八犬伝ドルマークスは悔しそうに叫ぶと、回答席から飛び出し、武道場から走り去ってしまった。残ったほかの輪ゴム部員たちが、彼のあとを追いかけていく。


 司会者部の森林が、鼻息を荒くしている校長からマイクを奪うと、やるせなさそうに言った。


『えー、じゃあ、輪ゴム部の棄権ということで、ラフ&ピース部の勝ちです』 


「オッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 朱音が両の拳を天高く突き上げ、歓喜の声を上げた。心なしか、その両目は潤んでいる。

 

 そのテンションに、春心はついていけない。


「え、喜べる? いまの勝ちかたで?」

 

 ほどなくして、ルシアが気まずそうに戻ってきた。


「か、勝ったけど……」


「なんか、お疲れ。うん、ごめんね、こんなとこ連れてきて」

 

 春心はこんなイベントにルシアを巻き込んだことを、あの回答席に座らせてしまったことを、心から申し訳なく思った。


「ううん、全然気にしてないよ。それよりも私の答え、どうだった? あんまりよくなかったわよね……」


「いや、かわいいのは事実だったよ」


「そうじゃなくてね、あの、そういう話じゃなくて……面白くはなかったよね?」


「えっと、花粉症のやつだよね?」

 

 大喜利は前後の回答の流れもあってのことなので、一問だけではなかなか評価しづらい面はあるけれど、


「回答そのものは、そんなに面白いわけではなかったと思うんだけど、あれをルシアちゃんが真面目に答えてると思うと面白かったよ」

 

 ね、と春心は朱音に同意を求める。


「ああ、そうだな。もしかしたらルシアは『真面目に、一生懸命やる』っていうスタイルが合ってんのかもな。奇抜なこととか、予想外のことをしてやろうとか思わないで、ただ真面目に全力でがんばるっていう。それが性格的にも合ってる気がすんな」


「真面目に……それって、面白いのかしら?」


「これが不思議なもんでな、『その人が言うと面白い』っていう現象があんだよ。やっぱ人柄ってあんだろうな。さっきの【鼻に来た】って答えな、ほかのヤツが言っても面白くなかったと思うんだよ。でも普段ふざけたりしないルシアが真面目に言うと結構面白いんだ。で、それってやっぱり最強の武器だぜ。上辺だけで真似できるもんじゃねえからな。自分の持ってる性格とか雰囲気ってのは大事にしたほうがいい」


「朱音ちゃん……」

 

 ルシアが、朱音の目を見つめたまま、一瞬言葉を詰まらせた。


「お、どした?」


「いや、朱音ちゃん、すごくちゃんとコメントしてくれるんだなって思って。それでちょっと……嬉しくなっちゃって」


「はっ、依頼を受けた以上は全力でやる。それがラフ&ピース部なんだぜ」

 

 ――あれ、かっこいいな。と、傍で見ていて春心は思った。朱音は一度も茶化さず、ボケず、ルシアから受けた相談に正面から向き合っている。それがなぜだか、言いようもなく嬉しい。

 

 と、思ったけれど、さっきの『メロンくん』のくだりが頭をよぎって、複雑な気持ちになった。あの急に『でちゅでちゅ』言い出したのはなんだったのか。あれは正常な人間の言動ではない。


「ねえ、今日の朱音ちゃん、難しいよ」


「難しいってなんだよ」


「温度差がね、なんか」


「なんだそれ」


『さて、波乱が起きましたが、気を取り直して次にいきましょーッ! 次の試合はエクストリーム・アイロニング部対正座部デースッ!』


 司会者部の森林はなんとか気持ちの整理をつけたようで、大会が始まった直後のテンションを取り戻していた。


 次に勝負の舞台に上がるのは、エクストリーム・アイロニング部と、正座部。


 輪ゴム部と違い、春心はどちらの部もよく知っていた。


 エクストリーム・アイロニング部には、ラフ&ピース部として何度か助っ人に行ったことがある。トリッキーな競技だけど、部員たちは意外と普通の高校生だというのが春心の印象だ。


 問題は、正座部のほう。ここは絶対にヤバい。


 春心は正座部の人たちと深い関わりはない。なのに、どうしてヤバいと断言できるのかと言えば、あの朱音ともっとも仲のいい部活だからだ。


 正座部の部長が朱音をいたく気に入っていて、朱音もまた正座部の部長のことを「姉御」と呼び慕っている。相思相愛なのだ。それだけで、充分ヤバいと言える根拠になり得る。


 そして実際、次の試合は想像を絶するヤバい結末を迎えることになるのだった……。

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