続・あなたの心に異世界転生
あれから俺たちは、ずっと踊り続けてる。LOVE LOVE DANCE FOREVERとはよく言ったもんだぜ。
俺の肉体はトラックに轢かれ滅びている。いまの俺は精神だけの存在なんだ。だからいくらでも踊れる。何時間でも、何日でも。それこそ永遠に。
実際にいま、俺は四時間もぶっ続けで踊っている。
そして、普通に飽きた。
俺は真っ白な空間にビターン! と大の字になって寝転がり、女神に話しかけた。
「女神よ」
「なんですか、俺さん」
俺たちは互いの名前をまだ知らない。だから便宜上、俺のことは「あい」、女神のことは「とわ」と呼び合っている。
俺と書いて愛と読み、女神と書いて永遠と読む。
つまりはそういうことだ。
俺は言う。
「ダンス、やめないか? というか、もうやめてる」
女神の表情がみるみるうちに曇っていく。
「なんでですか、俺さん! 私たち、永遠に踊ると決めたじゃありませんか! まだまだ純愛の16ビートに乗ってヒィアウィーゴーしていましょうよ!」
「落ち着いてくれ。そして聞いてくれ。女神は、永遠に踊るってどういうことだと思う?」
「え……どういうって……」
俺の深淵な問いかけに、女神は困り顔で黙り込んでしまった。別に俺は彼女を困惑させたかったわけではないので、間を置かずに話を続ける。
「俺はな、踊っているときと、踊っていないときがあるから、踊っているという行為に意味が生まれると思うんだ。逆を言えば、永遠に踊っていたら、それはもう踊ってないのと同じなんじゃないか?」
「はッ!」
「俺が踊るのをやめたのは、むしろ踊り続けるためなんだ。踊らないことで、逆説的に踊ってるんだよ」
「すご~い!」
女神は感動したように声を弾ませた。そんなに喜んでくれるなら、とんちのしがいもあるってもんだぜ。
「でも、踊らないとするなら、なにをしましょう? 私が言うのもなんですが、この空間はあまり娯楽のある場所ではありませんし……」
「じゃあ、世界救っちゃおうぜ」
「え?」
「異世界に行こう。そして世界を救ったら、またここで踊ろう。それでどうだ?」
女神は見るからに不安そうな顔をした。
「な、なにをおっしゃるんですか! 私は女神という立場上、異世界にいけないんです! 俺さんを異世界に送ってしまったら、私たち、離れ離れになってしまいます! 私、そんなの嫌です!」
「ふっ、なぁ~に言ってんだ」
女神はどうやら勘違いをしてるようだ。俺がお前を置いていくわけがないじゃないか。
俺は彼女を安心させるために、こう言ってやったのさ。
「女神として来れないのなら、俺の恋人として来ればいい。そうだろう?」
「ズキューンズキューンズキューンズキューンズキューンズキューン!」
「七回も言ったな」
「六回です」
そうか……六回だったか……。
「しかし、その手がありましたか……目から鱗です! そうですわね! 女神としてついていきさえしなければ、ノーカンですものね!」
女神は目の前の空間に手をかざし、扉を出現させた。
「そうと決まれば、さっそく行きましょう、世界を救いに! それじゃあ異世界に……レッツら、ゴーッ!」
なんかちょっと古臭い掛け声だなと思っていると、俺たちの足元に魔方陣が浮かび上がった。そのまま俺たちは光に包まれ、異世界へと飛び立ったのだった。
ところで、魔法陣でワープするならなんで扉を出したんだ……? なあ、女神、なんでなんだ……? その扉はなんだ……? なんなんだ……? 頼む、教えてくれ……気になるじゃんかよ……かよ……かよ……。
気がつくと、くすんだ灰色の空の下、俺たちは立派な城の前に立っていた。
このお城っていうのがこれまたすげーんだ! こう、なんか、でかくて、ヤバいんだよ! 昔やった中世ファンタジーのゲームに出てきたお城にそっくりで、こう、まじキャッスルって感じ!? いやー、感動したぜ! 俺、本当に来たんだな、異世界に!
俺は異世界のキャッスルを前にしばし興奮状態に陥っていたが、途中でふと違和感を覚えた。
よく見ると、お城が少し寂れているような気がするのだ。雑草は生え散らかっているし、なんなら建物自体が少し傾いてる。
それに、城の真ん前にいるというのに、人の気配や生活の匂いをまったく感じない。これはどういうことなんだ?
「女神、ここはどこなんだ」
「魔王が世界を支配し、人類が滅ぼされたあとの世界です」
「難易度高ェッて!」
大声が出たわ。
いや、びっくりしたぁ。人類滅んでるって……嘘だろ?
「え、まじで言ってる? 本当にもう人類滅んでんの?」
「はい。ひとっこひとりいません。根絶やしです」
「ええ……じゃあどうすんだよ……人類滅んでんのに、こっからどうやって世界を救うんだよ……え、なにをもって救ったことになんの……? あれ、“救う”ってなんだ? なんだこれ、スタートとゴールがわかんねえ……」
俺が頭を抱えていると、突如背後から謎の声がした。
『『『『遅かったな、転生者よ』』』』
「誰だッ!」
振り返ると、なんかヤバくて強そうな四人組が横並びで立っていやがった。そいつらは四人全員でしっかりと声を揃え、こう言ったんだ。
『『『『我らは、ダークネス四幹部』』』』
「ダークネス……四幹部!?」
『『『『我ら四人は、魔王さまの部下の中で最も強く、そして最も篤い忠誠心を持つ者なり』』』』
「四天王みたいなものか……」
『『『『違う、我らは、ダークネス四幹部』』』』
「まあでも、実質四天王だろ?」
『『『『我らは、ダークネス四幹部』』』』
「譲らないな……まあいいけど……」
敵だって生きてるんだ。愛着やこだわりくらいあるだろ。許す。
『『『『自己紹介をしましょう』』』』
ダークネス四幹部はぴったり息の揃った声でそう言うと、丁寧に一人ずつ名を名乗り始めた。
『我は、“力”のパワー』
『我は、“翼”のウイング』
『我は、“速さ”のスピード』
『我は、“動き”のムーヴ』
クソッ! ものの見事に全員変な名前だッ!
それにスピードとムーヴはちょっと属性被ってないか? ムーヴもちょっと素早そうな感じではあるぞ。『素早い動きをしてください!』って頼んだ場合、スピードとムーヴはどっちが上になるんだ?
……いやいや、待て。そういう目線で見始めたら“翼”のウイングだって結構速そうだぞ。翼って言うくらいだから空は飛べるだろ。そんでスローで空を飛ぶやつなんてあんまりいないからな……。
もしかして、魔王の部下って人材不足なのか? 属性がスピード方面に偏ってるし。俺がもし魔王だったら“地獄”のヘルとか、“大地”のガイアとか入れるけどな。いないの? そういうやつら。
『貴様の相手は我が務めよう』
俺があれこれ勝手なことを考えていると、ダークネス四幹部の中でも一番ムキムキマッチョで、鎖付きの鉄球を持ったヤバそうな巨漢が進み出てきた。
『我は“力”のパワー。ダークネス四幹部の中で、最も強い力を持つ者なり』
パワーは鎖付きの鉄球を強調するように掲げ上げた。
『我はこの鉄球を、一キロまで飛ばすことができる』
「弱ッ!」
俺は思わずツッコんでしまっていた。
パワーの目の奥が険しく光る。
『……弱い? なぜだ』
「だって、一キログラムの重りくらいだったら俺だって投げ飛ばせっから! 弱ッ! 一キロって! なにが力のパワーだよ!」
パワーが声を荒らげて反論してきた。
『ちっ、違うし! 我が言いたいのは、一キロメートル先まで投げ飛ばせるってことだから! グラムじゃない、メートル!』
「はぁ!? じゃあもっとわかりやすく言えよ! バーカバーカ!」
『なんだと!? 我を侮辱するなァッ!』
「うるせー! お前なんかどうせあれだよ! 影で部下から『パワーさんって説明下手だよね』『そうそう』とかって言われてるかんな! 説明不足な上司が一番厄介なんだよ!」
『そんなことないし! そんなことないし! 部下たちはいつも『パワーさんは理想の上司です』って言ってくれるもん!』
「はいそれおべっかでーす! 方便でーす! 一般的に部下は上司に気を遣うもんなんですーっ! そんな発言を真に受けて自分をいい上司だと思ってるなんて、老害ー! 無能上司ー!」
『はぁーッ!? うちは地位や立場に関係なく、のびのびと発言ができるアットホームな職場ですぅー! だいたい貴様、まだ小僧じゃないか! 社会人の経験があるようには見えんぞ! それなのにどうして部下と上司の関係性を語れるんだ! さては貴様、誰かが言っていた発言を、さも自分が考えたことのように語っているな!?』
「ちちちちっ、違いますー! 自分で考えた言葉ですぅーっ! SNSとか普段あんまり見てないしぃーっ! ……なんだよちくしょー! 腹が立ってきた!」
俺は女神の方を振り返る。
「女神! 決めたぞ! 俺はこいつらをぶっ潰す! なんで異世界に来てメートルとかグラムの話をしなきゃいけないんだよ! 嫌になってきたわ!」
「まあ! さすがですわ! ……でも、あんな強そうな偉丈夫を相手に、どうやって戦うのです?」
「決まってるだろ、踊るのさ! 俺たちのラブラブダンシングを見せつけて、あいつらをキュン死させてやんだよ!」
異世界なんて関係ない!
俺と女神がビートを刻めば、そこはどこでもダンスホール!
「さっそくいくぜ! ミュージック……スタート!」
「待ってください! 俺さん、ここには音楽を流せる機器なんてありませんよ!」
「ふっ、なぁ~に言ってんだ」
またまた女神は勘違いしているようだ。だから俺は教えてやるのさ。
「あるじゃないか、お前のその声が。女神のその美しいVOICEは、鳴っているだけで至上の音楽なんだぜ?」
「ズキューン!」
「じゃあ今度こそいくぜ! とっておきのディスコビートを頼む!」
「ドッツクパッチッwww ドッツクパッチッwww ドッツクパッチッwww ドッツクタカタカwww」
「オッケェーイ! レッツ、ダンシングオールナイト……イィィズ……ビギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィーン!」
こうして俺たちは踊り始めた。
相手は人類を滅ぼした悪魔たち。
だけど俺はなにも怖くなかった。俺がいて、女神がいれば、それだけで極上のハッピーエンドだからさ。
それでは LOVE LOVE DANCE FOREVER。
またどこかで会いま塩麹。
作風変わった……?




