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記号たちは明日へ進む  作者: 八番出口
ヘル話その2
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続・あなたの心に異世界転生

 あれから俺たちは、ずっと踊り続けてる。LOVE LOVE DANCE FOREVERとはよく言ったもんだぜ。


 俺の肉体はトラックに轢かれ滅びている。いまの俺は精神だけの存在なんだ。だからいくらでも踊れる。何時間でも、何日でも。それこそ永遠に。


 実際にいま、俺は四時間もぶっ続けで踊っている。


 そして、普通に飽きた。


 俺は真っ白な空間にビターン! と大の字になって寝転がり、女神に話しかけた。


女神とわよ」


「なんですか、あいさん」


 俺たちは互いの名前をまだ知らない。だから便宜上、俺のことは「あい」、女神のことは「とわ」と呼び合っている。


 俺と書いてあいと読み、女神と書いて永遠とわと読む。


 つまりはそういうことだ。


 俺は言う。


「ダンス、やめないか?  というか、もうやめてる」


 女神とわの表情がみるみるうちに曇っていく。


「なんでですか、あいさん! 私たち、永遠に踊ると決めたじゃありませんか! まだまだ純愛の16ビートに乗ってヒィアウィーゴーしていましょうよ!」


「落ち着いてくれ。そして聞いてくれ。女神とわは、永遠えいえんに踊るってどういうことだと思う?」


「え……どういうって……」


 俺の深淵な問いかけに、女神とわは困り顔で黙り込んでしまった。別に俺は彼女を困惑させたかったわけではないので、間を置かずに話を続ける。


「俺はな、踊っているときと、踊っていないときがあるから、踊っているという行為に意味が生まれると思うんだ。逆を言えば、永遠に踊っていたら、それはもう踊ってないのと同じなんじゃないか?」


「はッ!」


「俺が踊るのをやめたのは、むしろ踊り続けるためなんだ。踊らないことで、逆説的に踊ってるんだよ」


「すご~い!」


 女神とわは感動したように声を弾ませた。そんなに喜んでくれるなら、とんちのしがいもあるってもんだぜ。


「でも、踊らないとするなら、なにをしましょう? 私が言うのもなんですが、この空間はあまり娯楽のある場所ではありませんし……」


「じゃあ、世界救っちゃおうぜ」


「え?」


「異世界に行こう。そして世界を救ったら、またここで踊ろう。それでどうだ?」


 女神とわは見るからに不安そうな顔をした。


「な、なにをおっしゃるんですか! 私は女神という立場上、異世界にいけないんです! あいさんを異世界に送ってしまったら、私たち、離れ離れになってしまいます! 私、そんなの嫌です!」


「ふっ、なぁ~に言ってんだ」


 女神とわはどうやら勘違いをしてるようだ。俺がお前を置いていくわけがないじゃないか。


 俺は彼女を安心させるために、こう言ってやったのさ。


「女神として来れないのなら、俺の恋人として来ればいい。そうだろう?」


「ズキューンズキューンズキューンズキューンズキューンズキューン!」


「七回も言ったな」


「六回です」


 そうか……六回だったか……。


「しかし、その手がありましたか……目から鱗です! そうですわね! 女神としてついていきさえしなければ、ノーカンですものね!」


 女神とわは目の前の空間に手をかざし、扉を出現させた。


「そうと決まれば、さっそく行きましょう、世界を救いに! それじゃあ異世界に……レッツら、ゴーッ!」


 なんかちょっと古臭い掛け声だなと思っていると、俺たちの足元に魔方陣が浮かび上がった。そのまま俺たちは光に包まれ、異世界へと飛び立ったのだった。


 ところで、魔法陣でワープするならなんで扉を出したんだ……? なあ、女神とわ、なんでなんだ……? その扉はなんだ……? なんなんだ……? 頼む、教えてくれ……気になるじゃんかよ……かよ……かよ……。





 気がつくと、くすんだ灰色の空の下、俺たちは立派な城の前に立っていた。


 このお城っていうのがこれまたすげーんだ! こう、なんか、でかくて、ヤバいんだよ! 昔やった中世ファンタジーのゲームに出てきたお城にそっくりで、こう、まじキャッスルって感じ!? いやー、感動したぜ! 俺、本当に来たんだな、異世界に!


 俺は異世界のキャッスルを前にしばし興奮状態に陥っていたが、途中でふと違和感を覚えた。


 よく見ると、お城が少し寂れているような気がするのだ。雑草は生え散らかっているし、なんなら建物自体が少し傾いてる。


 それに、城の真ん前にいるというのに、人の気配や生活の匂いをまったく感じない。これはどういうことなんだ?


「女神、ここはどこなんだ」


「魔王が世界を支配し、人類が滅ぼされたあとの世界です」


「難易度(たけ)ェッて!」


 大声が出たわ。


 いや、びっくりしたぁ。人類滅んでるって……嘘だろ?


「え、まじで言ってる? 本当にもう人類滅んでんの?」


「はい。ひとっこひとりいません。根絶やしです」


「ええ……じゃあどうすんだよ……人類滅んでんのに、こっからどうやって世界を救うんだよ……え、なにをもって救ったことになんの……? あれ、“救う”ってなんだ? なんだこれ、スタートとゴールがわかんねえ……」


 俺が頭を抱えていると、突如背後から謎の声がした。


『『『『遅かったな、転生者よ』』』』


「誰だッ!」


 振り返ると、なんかヤバくて強そうな四人組が横並びで立っていやがった。そいつらは四人全員でしっかりと声を揃え、こう言ったんだ。


『『『『我らは、ダークネス四幹部』』』』


「ダークネス……四幹部!?」


『『『『我ら四人は、魔王さまの部下の中で最も強く、そして最もあつい忠誠心を持つ者なり』』』』


「四天王みたいなものか……」


『『『『違う、我らは、ダークネス四幹部』』』』


「まあでも、実質四天王だろ?」


『『『『我らは、ダークネス四幹部』』』』


「譲らないな……まあいいけど……」


 敵だって生きてるんだ。愛着やこだわりくらいあるだろ。許す。


『『『『自己紹介をしましょう』』』』


 ダークネス四幹部はぴったり息の揃った声でそう言うと、丁寧に一人ずつ名を名乗り始めた。


『我は、“力”のパワー』


『我は、“翼”のウイング』


『我は、“速さ”のスピード』


『我は、“動き”のムーヴ』


 クソッ! ものの見事に全員変な名前だッ!


 それにスピードとムーヴはちょっと属性被ってないか? ムーヴもちょっと素早そうな感じではあるぞ。『素早い動きをしてください!』って頼んだ場合、スピードとムーヴはどっちが上になるんだ?


 ……いやいや、待て。そういう目線で見始めたら“翼”のウイングだって結構速そうだぞ。翼って言うくらいだから空は飛べるだろ。そんでスローで空を飛ぶやつなんてあんまりいないからな……。


 もしかして、魔王の部下って人材不足なのか? 属性がスピード方面に偏ってるし。俺がもし魔王だったら“地獄”のヘルとか、“大地”のガイアとか入れるけどな。いないの? そういうやつら。


『貴様の相手は我が務めよう』


 俺があれこれ勝手なことを考えていると、ダークネス四幹部の中でも一番ムキムキマッチョで、鎖付きの鉄球を持ったヤバそうな巨漢が進み出てきた。


『我は“力”のパワー。ダークネス四幹部の中で、最も強い力を持つ者なり』


 パワーは鎖付きの鉄球を強調するように掲げ上げた。


『我はこの鉄球を、一キロまで飛ばすことができる』


「弱ッ!」


 俺は思わずツッコんでしまっていた。


 パワーの目の奥が険しく光る。


『……弱い?  なぜだ』


「だって、一キログラムの重りくらいだったら俺だって投げ飛ばせっから! 弱ッ! 一キロって! なにが力のパワーだよ!」


 パワーが声を荒らげて反論してきた。


『ちっ、違うし!  我が言いたいのは、一キロメートル先まで投げ飛ばせるってことだから! グラムじゃない、メートル!』


「はぁ!? じゃあもっとわかりやすく言えよ! バーカバーカ!」


『なんだと!? 我を侮辱するなァッ!』


「うるせー! お前なんかどうせあれだよ! 影で部下から『パワーさんって説明下手だよね』『そうそう』とかって言われてるかんな! 説明不足な上司が一番厄介なんだよ!」


『そんなことないし! そんなことないし! 部下たちはいつも『パワーさんは理想の上司です』って言ってくれるもん!』


「はいそれおべっかでーす! 方便でーす! 一般的に部下は上司に気を遣うもんなんですーっ! そんな発言を真に受けて自分をいい上司だと思ってるなんて、老害ー! 無能上司ー!」


『はぁーッ!? うちは地位や立場に関係なく、のびのびと発言ができるアットホームな職場ですぅー! だいたい貴様、まだ小僧じゃないか! 社会人の経験があるようには見えんぞ! それなのにどうして部下と上司の関係性を語れるんだ! さては貴様、誰かが言っていた発言を、さも自分が考えたことのように語っているな!?』


「ちちちちっ、違いますー! 自分で考えた言葉ですぅーっ! SNSとか普段あんまり見てないしぃーっ! ……なんだよちくしょー! 腹が立ってきた!」


 俺は女神とわの方を振り返る。


女神とわ! 決めたぞ! 俺はこいつらをぶっ潰す! なんで異世界に来てメートルとかグラムの話をしなきゃいけないんだよ! 嫌になってきたわ!」


「まあ! さすがですわ! ……でも、あんな強そうな偉丈夫いじょうふを相手に、どうやって戦うのです?」


「決まってるだろ、踊るのさ! 俺たちのラブラブダンシングを見せつけて、あいつらをキュン死させてやんだよ!」


 異世界なんて関係ない!


 俺と女神とわがビートを刻めば、そこはどこでもダンスホール!


「さっそくいくぜ! ミュージック……スタート!」


「待ってください! あいさん、ここには音楽を流せる機器なんてありませんよ!」


「ふっ、なぁ~に言ってんだ」

 

 またまた女神とわは勘違いしているようだ。だから俺は教えてやるのさ。


「あるじゃないか、お前のその声が。女神とわのその美しいVOICEは、鳴っているだけで至上の音楽なんだぜ?」


「ズキューン!」


「じゃあ今度こそいくぜ! とっておきのディスコビートを頼む!」


「ドッツクパッチッwww ドッツクパッチッwww ドッツクパッチッwww ドッツクタカタカwww」


「オッケェーイ! レッツ、ダンシングオールナイト……イィィズ……ビギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィーン!」


 こうして俺たちは踊り始めた。


 相手は人類を滅ぼした悪魔たち。


 だけど俺はなにも怖くなかった。俺がいて、女神とわがいれば、それだけで極上のハッピーエンドだからさ。


 それでは LOVE LOVE DANCE FOREVER。


 またどこかで会いま塩麹しおこうじ

作風変わった……?

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