表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/165

あなたの心に異世界転生

 気づくと、俺は真っ白な空間にいた。


「目覚めましたか」


 女性の声がした。見ると、俺の目の前には艶やかな金髪をなびかせた、絶世の美女が立っていた。


「はじめまして、私は女神です」


「女神……? あなたが……」


「ええ。名乗るほど立派な名は持ち合わせておりませんが……。ところで突然ですが、あなたにお聞きしたいことがございます」


 本当に突然だなとは思ったが、突っぱねることもないだろう。


「構いませんよ」


「ありがとうございます。それでは――」


 女神がにこりと微笑んだ。


「あなたはリンゴとミカン、どちらがお好きですか?」


「リンゴとミカン、ですか」

 

 質問の意図はわからなかった。しかし、考えてもしょうがない。

 

 俺は答えた。


「リンゴでしょうか」


「パイナッポォ!」

 

 女神は懐からトマトを取り出し、俺の顔面に思いっきり投げつけた。


 俺の顔全体に、トマトが爆散する。目に入ってしみるが、口に入ってきた汁はとても甘かった。今朝採れたばかりなのだろう。新鮮だ。


 女神は神妙な面持ちで言う。


「それにしても、お気の毒でしたね。あなたはトラックにかれ――」


「待てよ!」


 俺は言った。


「なんか言うことあるだろ!」


「なるほど……それでは一発ギャグをやらせていただきます」


「なんで!?」


「一発ギャグ、『爆速で“プリン”と言える人』」


「おい!」


「プリンッ」


「おいクソ女神!」

 

 俺が怒鳴ると、女神は黙って姿勢を正し、改めて俺にこう告げるのだった。


「あなたはトラックに轢かれて死にました」


「え、そうだったんですか……」


「覚えていませんか。無理もありません。一瞬のことでしたから」


「じゃあ、いまの俺は……ここはいったい……?」


「そのことについてですが…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 女神がおもむろに、なにもない空間に向かって手をかざした。すると、扉が現れた。これが魔法というものだろうか。

 

 女神は俺に微笑みかけながら、その扉の中に入っていってしまった。







 それから体感で三時間は経っただろうか。女神は扉から出てくると、俺の顔を見て言った。


「あら、まだいらしたのですね」


「おおぉい!」

 

 叫んだ。


「いるわ! 俺、いるわ! なんでいないと思った!? お前が明らかに話の途中でいなくなったんだろ! 絶対一区切りついてねーからな、さっきの! んで三時間も空けんな!」


「あらあら、元気のいいかたですこと」


「なんだとこのクソ女神!」


「パイナッポォ!」

 

 女神は懐からトマトを取り出し、俺の顔面に思いっきり投げつけた。

 

 だが、俺に二度同じ攻撃は通用しない。

 

 俺は小首を傾げ、最低限の動きでトマトを回避した。トマトは遥か後方、真っ白な空間の彼方へと飛んでいく。


「甘いですわね……そのトマトのように」

 

 女神が指の先をくいっとやった。

 

 その動きと連動して、俺が避けたはずのトマトが、まるで逆再生でもするかのように高速でバックしてきて、俺の後頭部に当たった。後頭部に当たったので、トマトの味はわからない。

 

 俺は呆れながら言った。


「なあ女神さま、いい加減に教えてくれよ。ここはどこなんだ、俺はなんで呼ばれたんだ。なんもわかんねえんだよ、まじで」


「そうですね……あなたはトラックに轢かれて死にました」


「それはさっき聞いたわ! なんで死因だけは繰り返し教えてくれるんだよ! そこはそんな聞きたくないわ! 気が滅入るわ! 自分の死因なんて!」


「すいません。実はあなたの死因は……トラックに轢かれたことではないのです」


「嘘かよ! すっげえ意味のない嘘!」


「おやめなさい。意味のある嘘なんて、世界中のどこを探してもありませんよ。たとえどんなに優しさが込められていようとも、嘘は嘘であり、罪なのです」


「じゃあお前は罪人だよ!」


「あなたの本当の死因は、○×クイズで×のほうに飛び込み、着地に失敗したことです。当たり所が悪く、そのまま死亡しました」


「だっせえ死にかた!」


「しかも答えは◯のほうでした」


「完全敗北じゃん! 俺! なにそれ、そんなんで死んで……ええ……俺の告別式の空気、大丈夫だった?」


「だめでした」


「見てたのかよ!」

 

 はあ、と俺はため息をつく。


「女神さんよ、俺にどうしてほしいんだよ。ぶっちゃけアレだろ? これ、異世界転生ってやつだろ? 俺は死んだ。だから別の世界に行く、違うか? なのになんであんたはなんも教えてくれねえんだ」


「……寂しいから、でしょうか」


「は?」

 

 女神が、不意に切なげな表情を浮かべた。


「私、色々なかたを、色々な世界にお送りして参りました。それが私の、使命だからです」

 

 女神の目は、真剣そのものだった。


「でも、なぜでしょう。私はあなたを、どこの世界にも引き渡したくはありません。どこの世界にも送り出したくはないのです! こんな気持ちになったのは初めてです……。笑いますか? 女神がひとめぼれなんて……」


「…………」

 

 突然の告白に、一瞬、言葉を失った。

 

 それでもかろうじて、俺は会話を繋ぐ。ここで黙るのは卑怯だと思ったから。


「だからあんたは散々、時間を稼ぐようなことをしたのか」


「はい、すいません。しかし、もういいんです。こんなこと、よくないってわかってるんです。安心してください。私は私の使命を果たします。これからあなたを、異世界にお連れしましょう」


「そうか」

 

 俺は頷いた。


「安心しろ、あんたの使命はもう果たされたよ」


「え?」

 

 目を丸くした女神に、俺は言ってやった。


「俺はもう、異世界転生してるのさ。あんたの心にな」


「ズキューン!」

 

 俺は手を差し出した。


「踊ろうぜ」

 

 女神は手を取った。


「喜んで」

 

 そうして俺たちは、踊りだした。

 

 俺たちはまだ互いに名前を知らない。でも、なぜだろう。名前なんて必要ないと思えたんだ。

 

 俺と書いて愛と読み、女神と書いて永遠(とわ)と読む。それで十分じゃないか。

 

 それでは LOVE LOVE DANCE FOREVER。

 

 またどこかで会いまショーン・K。

何これ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ