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記号たちは明日へ進む  作者: 八番出口
第一章 ボツキャラクターの日常
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檸文高校の七不思議 1/2

 檸文高校、一年七組のとある昼休み。


 弁当を食べ終えた春心が言った。 


「ちょっと購買部に行ってこよっかな」


 それを聞いて呆れたような表情をしたのは、春心と共に弁当を食べていたメーベルだ。


「えぇ~、まだ食べるんですか?」


「なんだか今日はお腹が減っちゃって……」


「時々ならいいかもしれないですけどね、食べすぎが癖になったら太りますよ?」


「わかってるって」


 春心は弁当を片付けると、財布を手に席を立った。


「待ってください。私も行きます」


「あれ? メーベルちゃんもなにか食べたくなった?」


「違いますよ。確かめたいことがあったのを思い出したんです」


 そう言って、メーベルも席を立った。


「実は先週、とある噂を耳にしましてね」


「噂……どんなの?」


「七不思議ですよ」


「ななふしぎ?」


 春心はきょとんとした。


 ななふしぎ……ななふしぎ……。そう言われて思い浮かぶものは……。


「ええと、七不思議って、あの怖い話とかで出てくる、学校の七不思議のこと?」


「そうです。この学校の――檸文高校の七不思議ですよ」


「うそ、この学校にもそんなのあるんだ!」


 学校の七不思議という概念は知っていたものの、まさか自分の通う学校にも存在していたとは。


 そう驚く春心とは対照的に、メーベルは平然としたものだった。


「そりゃそうですよ。檸文高校には千人以上の生徒がいるんですよ? 毎日それだけの人数が集まって生活していれば、どこかで不思議な噂が生まれたっておかしくはありません」


「そう言われてみると、そんな気がしてくるかも……」


 春心がいままでその噂を耳にしてこなかったのは、単にこの学校に在籍してる期間が短いからなのかもしれない。なにせまだ六月。新入生にとってはようやく学校生活に慣れてきたという段階だ。


 逆に考えれば、学校生活に慣れてきたからこそ、一年生のあいだでもそんな噂が流れ始めたと言えるのかもしれない。


「それでその七不思議の一つが、この学校の購買部に関係しているらしいんですよ」


「え、購買部?」


 まさにいまから向かうところだ。


 いままで特別怖いところだと思ったことも感じたこともなかったが、はっきりと購買部がそうだと言われると意識してしまう。 


「ちなみに、どんな噂なの?」


 怖さ半分、興味半分で聞くと、メーベルはもったいぶらずに教えてくれた。


「“偶数月の第三木曜日になると、購買部のおばちゃんがカラーコンタクトを入れてくる”です」


「いや不思議だけど!」


 ずっこけそうになった。


「もっとこう……あるじゃん! 学校はこう……広いんだから、絶対もっとほかにあるじゃん! 七枠しかない七不思議のうちの一枠を、購買部のおばちゃんのカラコンで埋めちゃうの!? いやね、たしかに不思議だよその噂は! でも、うちの学校はそれでいいの!? 校長はそれで満足してるの!?」


「いや、私に言われましても……」


 春心の勢いに、メーベルがちょっとだけ引く。


「ともかく、今日は条件が揃ってるんですよ。今日は六月の第三木曜ですからね。確かめられるうちに確かめておこうと思っていたんです」


「……まぁ、次に確かめようとしたら八月だもんね。いや、八月じゃ夏休みと被っちゃうのかな? すると次は十月……うーん、結構空いちゃうね」


「そうなんですよ」


「じゃあ、やっぱり今日しかないね」


 学校の七不思議に相応しいかどうかはともかく、春心としても、購買部のおばちゃんの噂は気にならなくもない。


 そうじゃなくても、もともと購買部には行く予定だったのだ。ここで悩む理由はない。


「とにかく、見に行ってみよっか」


「ですね」


 教室の時計を見れば、昼休みはすでに後半に差し掛かっている。午後の授業が始まる前に、春心とメーベルは急いで教室を出た。


「おう、二人してどこ行くんだ?」


 廊下に出てすぐに、朱音と鉢合わせになった。今朝スベッた女だ。


「購買部だよ。パンを買いに行こうかなって」


「あと、七不思議の調査です」


 朱音は、メーベルの七不思議の調査という部分に反応した。


「なんだ、お前らも七不思議のこと調べてんのか」


 メーベルが眉をひそめる。


「朱音もですか?」


「まあな。んで、お前らはどの七不思議を調べてんだ?」


「“偶数月の第三木曜日になると、購買部のおばちゃんがカラーコンタクトを入れてくる”ってやつです」


 すると、朱音は「ああ、そっちのほうか」と呟いた。その言い方が気になって、春心は思わず尋ねる。


「“そっちのほう”って、それ以外にもなにかあるの?」


「そりゃ七不思議だぜ? ほかに六つもあるだろ」


「あ、そっか」


 購買部のおばちゃんのカラコンの噂が強烈すぎて忘れかけていたが、あくまでそれは七不思議の一角なのだ。


 となると、この学校には残り六つの不思議な噂が存在することになる。


「じゃあ、朱音ちゃんはどんな噂を調べてるの?」


 春心が尋ねると、朱音は得意げに教えてくれた。


「“偶数月の第三木曜日になると、購買部のおばちゃんが太陽と月のイヤリングをしてくる”ってやつだよ」


「層が薄い!」


 ずっこけた。


「待って待って待って! うちの学校なに!? 七不思議のうち、二つが購買部のおばちゃんなの!? どんだけ層が薄いの!? 田舎の野球部みたいになってるよ!? 人数が足りないから、地区大会当日にバレー部の人にキャッチャーをやってもらうくらい薄いよ! もっとあるでしょ!? 音楽室とか、体育館とか、探せば絶対あるでしょ! うちのオカルト大丈夫なの!?」


「んなこと私に言われてもなぁ」


 鼻をほじりだしそうなくらいの無責任そうな顔で朱音は言った。実際、彼女に責任はないのだけれど。


 しかしそれでは、このやり場のない感情はいったい誰にぶつければいいんだと、春心は頭を抱えそうになる。


 学校の七不思議にクレームを入れたい場合の連絡先はどこなのだろう。PTAだろうか。


「……はぁ、まあいいや。どうせカラコンを見るのもイヤリングを見るのも同じようなもんだしね。うん」


 ちょっと投げやりになってきた春心だった。


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