今宵あなたとSINGINGトゥナイ…… 4/4
【♪おっぱいプラネタリウム/ヴィーナス親子】
(すごいタイトルだあ……)
そんな下ネタみたいな。
いや、偏見はよくない。下ネタっぽいタイトルだけど、実は名曲――みたいな曲は割とあるはず。しづくは知らないけれど。でも、そういう曲はきっとある。そして結善が選んだこれも、その類に違いない。
自分で選曲したくせに、結善はなぜかちょっと恥ずかしそうに歌いだした。
「おっぱいみたいな輝きの~、星空がぁ~♪」
(どんな曲……?)
でも、聴き進めていくうちに「あれ、名曲かも?」という気配が出てきて、さらに進んでいくと「んー、でもトータルで見たらやっぱり下ネタかも……」という雰囲気になるという、変な曲だった。
初対面の人間が集まるこの場で、結善はなぜ一発目でこの曲を選んだのだろう。しかも堂々と歌えばいいのに、妙に恥ずかしそうに歌うせいで、どんどん場が気まずくなっていく。
と思いきや、この場にいる人間の大半が、気まずいという概念を知らない人たちなので、全然変な空気にはならなかった。
「いい曲を選びますねェ」と言って小松はニヤニヤしているし、ペンタトニックは手拍子をしながら、時折ガスマスクをちょっとずらし、フライドポテトを口にしては「濃い!(味が)」と叫んでいる。
しづくは下ネタは苦手だけど、気まずい空気は苦手じゃない――どころか、むしろちょっと好きかもしれないので、やはり結善の暴挙は気にならない。
唯一、据野だけが気まずそうに俯きながらカルピスを飲んでいた。
しかし『私、常識人です』みたいな雰囲気を醸している据野だが、コスプレみたいな恰好をしているので、見た目のおかしさで言えば、ガスマスクをつけているペンタトニックと双璧をなしている。
結善は最後まで歌い切ると、それまで恥ずかしそうにしていたのが嘘だったかのように、急に真顔になった。
もしかしたら、わざと恥ずかしそうに歌っていたのかもしれない。だとすればどうしてそんなことを? 謎は深まるばかり。
「それじゃあ、次はあっしが歌いますかねェ!」
結善と入れ替わるようにマイクを取ったのは小松だ。彼が選曲したのは――
【♪ハマチ/三丁目のモニカ】
(ずっと知らない曲だ……)
知ってる・知らないはもうどうでもいいと、しづくは先ほど思ったばかりだけれど、こうも知らない曲が続くとさすがに気になってくる。みんなどこで仕入れてくるのだろう。
「誰が決めたァ♪ 序列の地図♪ ブリになったら偉いだとォ♪」
そして小松が選んだこのハマチという曲、一見ネタのようで、人間が魚に『出世』という概念を押しつけることへの皮肉や怒りを込めた名曲だった。特にサビの部分の、
「俺の名前は」\ハマチ!/
「自由を奪うな」\ハマチ!/
「出世なんて」\クソくらえ!/
「魚は魚で生きてんだ!」\ぎょ!/
というコール&レスポンスの部分は、最高に盛り上がった。
小松が歌い終わったあとは、しづくの番だ。
さすがにメジャーとは言えない曲が続いているので、いちおうしづくなりに気を遣って、ここは誰もが知っている曲を歌おうということで【♪恋はマグマでも足りない/みぃしぃ】を歌った。
「そろそろペンタトニックも歌ったら……?」
歌い終わったあと、しづくはペンタトニックにマイクを向ける。
「そうだなッ! 満を持して俺がウティッ!」
「ウティ……?」
「舌、噛んだぜ……」
「大丈夫……?」
「もう治ったぜ」
「強いね……」
「シヅク、ちょっといいか?」
ふと、ペンタトニックが真剣な目を向けてくる。いや、ガスマスクをつけているから、目線も目つきもよくわからないのだけれど、たぶんシリアスな視線を向けてきている。
「俺はさっきから、すべての意味がわからねェ。なんだその声がでかくなる棒は? 人や風景が映るその板はなんだ? どうして演奏してる人間がいねえのに、音楽が流れてくるんだ? すべてが意味不明で、頭がどうにかなっちまったぜ」
「もうどうにかなっちゃったんだ……。でも、そうだよね、びっくりするよね……」
声がでかくなる棒とはマイクのことで、人や風景が映る板とはモニターのことだろう。ペンタトニックはいま、五万年分のジェネレーションギャップを受けているのだ。そりゃ頭がどうにかなってもおかしくはない。
五万年分て。
「だけど、俺はひとつわかったぜ。どんだけ長い時を経ても、人類は歌うのが好きだってことがなァッ! 人類って単純だぜぇえええええええッ! フウウゥゥゥゥゥウウウウウッ! だから俺も歌うぜッ! でっけえ声で歌うぜッ! まずはこれを叩くんだろ? 見てて学んだぜッ!」
ペンタトニックは雄叫びを上げながら、端末を引き寄せ、両手の薬指で画面を連打し始めた。
選曲をするために画面をタッチしているようではない。画面を叩く行為そのものが、歌う前におこなうべき儀式なのだとペンタトニックは解釈しているようだ。
力強く、だけどしなやかに、両手の薬指で画面を連打し続ける。その結果、偶然選ばれたのがこの曲だった。
【♪お勉強しといてよ/ずっと真夜中でいいのに。】
※実際にある曲です。
「この曲でいいの……?」
「おうッ! 運命が『これ、歌えや』って言ってるゥ! 『歌えや』って言ってるゥ! 聞こえる聞こえるゥ!」
「うん……。でも、これなら知ってるよ……。いくらなんでもゼロから歌うのは大変でしょ……? 私、一緒に歌ってあげるよ……」
「ありがとうッ! 感謝感激ブリザードッ! チーン!」
ということで、しづくがリードしながら、ペンタトニックとデュエットすることになった。
当然ながら、最初は全然歌になっていなかった。しかし曲が進むにつれ、ペンタトニックの調子が上がっていく。
もともと才能があるのだろう。ペンタトニックは声の伸びも、声量も、リズム感も圧倒的で、高い音もなんなく出せている。言語がめちゃくちゃなこと以外は完璧だ。
やがて、ロボットと原始人の歌声が、完全にシンクロした。
それを、情報屋を自称する謎の男と、正座を愛しすぎる妙な女と、結果的に常にコスプレをしていることになってる変な女が、温かく見守り、盛り上げる。
音楽は国境を越えると言うが、しかしいま、音楽は、五万年もの時を越えていた。
その後もカラオケ大会は続き、最後にはみんなで肩を組んで【We Are The World】を熱唱した。
そして、「またこの五人でカラオケに来ようね」と約束を交わしたのだった。
後日、しづくがこの話を春心にしたら、「どんな五人だよ」とツッコまれた。
※
カラオケ大会を終えて、しづくとペンタトニックは帰路に就く。駄菓子屋の地下にある研究施設の入口で、夏目が二人を出迎えてくれた。
心なしか、夏目がぐったりしているように見える。なにか嫌なことでもあったのだろうか。しづくが心配しながら見つめると、夏目はただ、
「とんでもないことになったよ」
とだけ呟いた。
その直後、通路の奥から二人の半裸の男が現れた。それを見た瞬間、ペンタトニックの表情に歓喜の色が灯る。そして彼は大きく手を振りながら叫んだのだった。
「お~ッ! “お前らも”来たか~ッ!」
お前らも……?
まさかと思い、しづくは夏目の顔を見る。夏目はゆっくりと頷いた。
「そう、そのまさかだよ。また、原始時代から人間が来ちまったんだよ」
現れた二人の半裸の男とペンタトニックは、スポーツ選手がたまにやるような、肘でハイタッチをするような仕草で、お互いの再会を喜び合った。「ウェ~イ!」という歓声が上がる。
「シヅクッ! 俺の仲間、フリジアンとミクソリディアンだ! 覚えてるだろッ!? この前洞窟で見たもんなッ!」
春心なら「いや、誰が覚えてるんだよ!」とツッコミを入れそうなところだが、しづくにとって、五万年前にタイムスリップしたあの出来事は強烈すぎる体験だったので、いまだにすべてをはっきりと覚えている。
あのとき、しづくは原始人たちに【爆笑タイムズ】というショーを披露してもらった。そのショーに登場していたのが、フリジアンとミクソリディアンだ。
フリジアンは【面白い動き】で笑いの渦を生み出し、ミクソリディアンは【マンモスあるある】で会場を揺らしていた。
そう、あの二人だ。
「どの二人だよ!」という春心の声が聞こえてきそう。
ペンタトニックが元の時代に戻るどころか、新しい仲間が二人増えてしまった。
原因がわからない以上、原始人が全員現代にやってきてしまう可能性もあるわけで、夏目が頭を悩ませるのもわかる。でも――
(でも、これはこれでいいのかな……。一人でいるのは、寂しいもんね……)
たった一人で知らない時代に飛ばされる怖さを考えたら、仲間がいること自体は悪いことではないと、しづくは思う。
ペンタトニックが、仲間二人に号令をかけた。
「よっしゃお前らァ! シヅクとナツメに、とっておきの芸を見せてやれェ!」
「オッケェ! 面白い動きやりまーす!」
「じゃあ俺は、マンモスあるある言いまーす!」
騒ぐ原始人。頭を抱える現代人。 We Are The World。
このタイムスリップ問題がどんな結末を迎えるのかは、また別のお話。
ペンタトニック、現代に残留!
フリジアンとミクソリディアン、加入からの残留!




