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記号たちは明日へ進む  作者: 八番出口
第四章

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レッツ☆ダイナマイ 2/?

 メーベルは、白鷺しらさぎから事件の詳細を聞くにあたり、メモ用紙代わりにスマホを使おうと鞄から取り出したところで、あることに気づいた。


 青柳あおやぎ植人うえひと部長からメッセージが来ている。


 メーベルは『突然音が鳴るのが嫌い』という理由で基本的にスマホから音が出ないようにしているのだが、それがあだになった。


 メッセージの受信時刻はおよそ二十分前。内容は簡素なものだった。


『これから白鷺しらさぎ光流こうるくんという僕の友人が謎部に行く。彼の謎解きを手伝ってくれないか』


 なんだ。これを最初に知っていたら話が早かったのに。気づくのが遅かった自分が悪いのだけれども。


「白鷺先輩、青柳部長と知り合いだったんですか?」


 メーベルは部長のメッセージを見せながら、白鷺に質問する。すると彼は、先ほどと同じように頭をかきながら恥ずかしそうに笑った。


「まだそのことも話していませんでしたね。すいません、昔から順序立てて説明するのが下手で……よくお前の話は下手だって言われるんです」


 たしかに、順序立てて説明するのが上手かったら、出会い頭に『ダイナマイ部二年、白鷺です』を三連発もかましてこないだろう。


 しかし彼にはダイナマイという芸術の才能がある。あえてわかりやすいキャラクター性に当てはめるとしたら、『感覚派の天才』といったところか。言語よりも芸術で喋るほうが流暢だというタイプの人はまれにいる。


植人うえひとくん――ええと、青柳先輩とは昔から近所付き合いがあるんです」


「近所のお兄ちゃんみたいな感じですか?」


「いや、どっちかっていうと同年代の友達って感じです。学校では先輩ですけど。その植人くん――じゃなくて、青柳先輩は頭の回転が早い人なので、今回の件について相談しようと思ったんです。それで放課後すぐに先輩の教室に行ったんですけど、今日は三年生は実力テストだって言うので……」


「そうみたいですね」


「そしたら青柳先輩が、『今日は僕は行けないけど、謎部の部室に金髪の後輩がいるはずだから、謎解きなら彼女に相談してみるといい。力になってくれると思う』って言ったんですよ」


「ああ、そういう経緯でここに来たんですか」


 つまり、本当なら青柳部長に行くはずだった相談事が、メーベルに回ってきたということだ。これは部長に信頼されていると考えていいのか、それとも、厄介事を回されただけなのか。


 どちらにしても、白鷺が謎部に相談してきた理由はわかった。


「では、肝心の事件について聞かせてもらえますか?」


「はい。と言っても、それほど込み入ったことではないのですが」


 メーベルと白鷺が会話しているあいだ、朱音としづくは、「ぶーん!」と言いながら部室を走り回っている。なぜ急に幼児退行しているのだろう。


 それを見た白鷺が「そう言えば、飛行機に乗ったことあります? 僕はありません」と、早くも話が脱線しかけたので、メーベルはそれとなく本筋に戻るよう促した。


「えっと、では改めて説明します。部室に保管してあったダイナマイの作品――およそ二十作品ほどが、すべて破壊されていました。気づいたのは僕が朝練に来たときだから……今朝の七時十分頃ですね」


「最後に作品が無事だったのは?」


「昨日の夕方の十八時五十分頃です。最後に僕が鍵をかけて帰りました」


「ほかに残っていた部員は?」


「いえ、いません。僕一人です」


「鍵は?」


「職員室に返しました。もちろん今朝取りに行ったときも、鍵はありましたよ」


 鍵がかかっているはずの部屋で、作品が壊された。なるほど、密室と言えば密室だ。


「犯行がおこなわれたのは、白鷺先輩が下校してから翌日登校してくるまでの、およそ十二時間のあいだですが、実際にはそう単純な話ではなさそうですね。夜間は警備とかありますし」


 学校は二十四時間開いているわけではない。夜間に侵入なんてしたら、警備会社のセンサーに引っ掛かってしまう。そんなリスクを負ってまで、わざわざ夜間という時間帯を選ぶだろうか?


 学校が開くのは毎朝七時。完全下校時刻は十九時。それを考慮すると――


「現実的には、白鷺先輩が帰ってから完全下校時刻までの十分間か、学校が開いてから白鷺先輩が登校してくるまでの十分間のどちらかでしょうか」


「……短いですね」


「ええ、短いと思います」


 犯行に使える時間は、せいぜい十分程度。


 もちろん学校は、下校時刻が過ぎた瞬間に問答無用で敷地外に飛ばされるようなシステムではない。完全下校時刻を過ぎても、粘れば多少は校内に残っていられるだろう。


 しかし、それを足したって焼け石に水だ。犯行に使える時間はそう変わらない。


「白鷺先輩、壊された作品っていうのは、いくつあるって言いましたっけ?」


「だいたい二十作品――正確に言うなら、二十二です」


「二十二……。壊されているっていうのは、どの程度ですか? ちょっとパーツが折れているとか?」


「いえ、割とがっつりやられてますね。半壊か全壊かで言えば、全壊です」


「それは……」


 どうも引っ掛かる。


「ダイナマイの作品って、紙粘土ですよね? 二十個以上ある紙粘土の塊を壊そうとしたら、一つに三十秒しか使わなかったとしても、それで十分以上かかってしまいますよ」


「時間が足りない……だったら、やっぱり夜のあいだにやったのかな……」


「でもそれだと、犯人はどうやって夜間の警備をかいくぐったのかが謎なんですよね」


 そもそも部室の鍵はどうやって開けたのか? 犯人の動機は?


 疑問が山積みだ。情報がなさすぎる。


「ここで考えていてもわかるわけがありませんね。一度現場を見せてもらっていいですか?」


「はい、もちろん」


 それでは移動しようかと、メーベルが椅子から立ち上がりかけたそのときだった。


 白鷺が思い詰めたように言った。


「今回の件は内密にお願いします。まだ顧問の先生にも相談していないんです」


「理由を訊いてもいいですか?」


 メーベルは薄々、白鷺はまだ教師に報告していないんだろうなという気はしていた。しかしその理由までは察しがつかない。


「今回の件、なんとなくですけど、僕はダイナマイ部の部員がやったような気がしているんですよ」


「身内が身内の作品を壊しまくったってことですか?」


「はい。でも、これは理屈じゃなくて、なんというか、うまく説明できないんですけど……」


「いえ、わかります」


 その可能性は結構ある、とメーベルは考える。


 今回の事件、通りすがりの赤の他人がやったにしては、手間とリスクをかけすぎているように思えるのだ。


 逆に、手間をかけてでも作品を壊したいと思っている人物――つまり、ダイナマイに良くも悪くも思い入れがある人物が犯人だとするなら、それがダイナマイ部の身近にいたっておかしくはない。


「意外かもしれませんが、ダイナマイの競技人口はとても少ないんです」


「……はい」


 全然意外じゃないですけど……とメーベルは思ったが、余計な口は挟まない。


「ですから、ダイナマイターの皆さんとは昔から顔馴染みで、仲間のようなものなんです」


 ダイナマイのプレイヤーのこと、ダイナマイターって言うんですかと思ったが、余計な口は挟まない。


「僕はなぜ、仲間が仲間の作品を壊したのか、その理由を知りたいんです」


「…………」


「顧問の先生に報告すれば、今回の件は大人たちの預かりになって、きっと僕たち生徒は干渉できなくなってしまうでしょう。その前に、僕は作品を壊した人と話したい。どんな思いで、なぜこんなことをしたのかを、知りたいんです。自分の手で犯人を捕まえたいとか、罰したいとか、そういうことではないんです。善悪ではなく、なぜ作品を壊すに至ったか、その感情を、思いを、理解したいんです」


「理解……ですか」


「はい」


 中性的な顔つきをしているが、白鷺はれっきとした少年だ。しかしこのときばかりは、彼は少女のように柔らかい笑みを浮かべたのだった。


「それが僕の、ダイナマイどうですから」


 ダイナマイ道ってなに?

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