ファトス2
多くのプレイヤーが訪れる街だけあって、最初の街のファトスはとても広い。ただ、広いといっても、正直なところこの街は……。
「あのね、お姉ちゃん。ここって、街なの? 村じゃなくて?」
「街と言えば街なのです。まあ、多分他と統一してるだけで、村だよこれは」
「だよね……」
ファトスは初心者さんが初めて降り立つ噴水を中心として、その周辺の少しは石造りの街並みで整備されてるんだけど、そこを少しでも外れるとのどかな田園地帯になる。プレイヤーの人数も、他に選べる街と比べると少し少なめだ。
「多分れんちゃんは説明を飛ばしちゃったんだと思うけど、最初に選べる三つの街は、実はすぐ側にあるんだよ。この街の隣はもう一つの街、セカンがあるし、そのもう少し向こう側には最後の一つのサズがあるの」
「そうなの? じゃあ、どうして別々にしてるの?」
「プレイスタイルによってわけられてるみたいだね」
と、説明されるはずだったんだけどね。間違い無く説明を飛ばしちゃったねこれ。
ファトスは、農耕とか釣りとか、そういった自然を活かした生産スキルを教えてもらえることができる街だ。ファンタジーライフ、というよりも、田舎の生活に近いかもしれない。
セカンは物作りなどの生産スキルが主になる。当然ながら物作りの職人が多くいるので、攻略ばかりしている人もセカンにはよく訪れる。だから一番栄えている街だ。
サズは、戦闘メイン。すぐ側には初心者用のダンジョンもあるし、戦闘スキルの使い方を教えてくれる修練場なんてものもある。私も一度だけお世話になったけど、本当に丁寧に教えてくれて助かった。
それをざっと説明したんだけど、ふーん、の一言で片付けられた。興味なしですかそうですか。
「まあ、うん。テイムはここファトスに分類されてるから、ここを選んでもらったってわけだね」
「んー……」
「えっと……。イメージと違った? セカンに行ってみる?」
すでにテイムも覚えてテイムモンスターもいるなら、ここにこだわる理由はない。いわゆるファンタジーライフはセカンが一番イメージに合うと思う。そう思って聞いてみたんだけど、れんちゃんはゆるゆる首を振って、にぱっと笑った。
「ここがいい。のんびりしてて、好き」
「あー……。そっか。そうだね」
確かに、セカンより向こう側はなかなかに騒がしい。ここを拠点にしている人はゆっくり過ごしている人も多いし、動物と戯れるならここだろうね。
れんちゃんを連れて案内して場所を教えるのは、道具屋や武具屋など、施設関連。しかしそれらは場所だけ知っていればいいのです。目的地は、村の……じゃなかった、街の郊外にある、ここ!
「テイマーズギルド!」
「おー」
大きな木造平屋の建物。でもメインは、その向こう側に広がるギルドの所有地! ここはテイマーさんたちが交流する場所で、その所有地の放牧地ではテイムしたモンスターと一緒にみんなで遊ぶことができるのだ!
まあ遊ぶというか、我が子自慢ばかりだけどね! 自分がテイムした子が一番かわいいと言い張って譲らない連中だからね! 変人ばっかりだね!
まあ私もシロがかわいいけどね? 一番かわいいのはれんちゃんです、当たり前だよね。
「なんか、おねえちゃんの目が気持ち悪い」
「ひどい」
しょんぼりしつつ、ギルド内へ。ギルド内は椅子とか机とかは最小限で、ここでもみんなテイムしたモンスターを出して自慢してる。
「わあ……! たくさんいる……!」
れんちゃんの瞳が輝いて、あっちこっちに視線がいってる。大きな鹿に興奮したかと思えば、巨大な水槽に浮かぶイルカのような何かに歓声を上げて、とても楽しそうだ。
「え、うそ、子供?」
「どう見ても小学生だよな? まさか合法ロリ!?」
「そんなもんいるわけねえだろ。……いや、でも、そうだとしたら小学生? どうやって?」
居合わせた人はみんなれんちゃんに驚いて、そして、
「なあ、あの子が抱いてるのって、まさか……」
「うそ!? 小さいウルフ!? テイムしたのか!?」
「うわあ! ふわふわもこもこしてる! さ、触ってみたい……!」
ラッキーに釘付けになった。さすがは動物好きが集まるテイマーズギルド。幼女よりも子犬とは、さすがだ。
「れんちゃんこっち」
建物の奥、カウンターにれんちゃんを連れて行く。
「何するの?」
「まずはギルドに登録。お姉さんに話しかけてみて」
「うん」
登録といっても、難しいものじゃない。基本的な情報はシステムに登録されてるわけで、ここでするのは利用しますという宣言みたいなものだ。特に何か聞かれることもなく、名前を告げて、畏まりましたと言われておしまい。本来はそのすぐ後に説明もしてもらえるけど、今回はれんちゃんに必要な部分だけ私がすればいいので省略。
「それじゃあれんちゃん。メニュー出して」
「うん……」
「メニューに新しい項目できてるでしょ? ギルドホームってやつ。そこに触れてみて」
頷いたれんちゃんがメニューに触れた直後、れんちゃんの姿が消える。とりあえずは無事に移動できたらしい。私も早く追うとしよう。
私もメニューのギルドホームをタッチする。するとれんちゃんにはない、別のメニューが出てくる。マイホーム、と、れんのホーム、という項目。保護者特権だ。ふふん。
れんのホームをタッチすると、すぐに視界が切り替わった。短い草と少しの木、そして小さい家しかないフィールドだ。
「あ、おねえちゃん! なにこれなにこれ!」
れんちゃんがぱたぱた腕を振り回して聞いてくる。すごく興奮してるのが分かるけど、いつもと違う仕草がとてもかわいい。
そのれんちゃんの側には、尻尾をぶんぶん振ってるディアがいた。犬か。犬だな。
「ここはプレイヤー一人一人に与えられるフィールドだよ。広さはあまりないけど、定額課金で広くすることもできるよ。で、ここのフィールドには、テイムしたモンスターが全部いるからね。名付けしてなくても、ね」
れんちゃんと一緒にフィールドの奥へと視線を投げれば、草原ウルフが走ってくるところだった。わあ、とれんちゃんが歓声を上げて、遊び始める。思わず頬が緩む。
このフィールドは、いわゆるハウジングシステムの代わりだ。最初はそれぞれの街で実際に家を購入できるようにしていたらしいんだけど、プレイヤー数が想像を遙かに超えてしまったために足りなかったらしい。
それならと運営は、プレイヤーが管理できる小さいフィールドを提供して、街にある家々はクラン専用として、クランマスターのみが購入できるようになった。
ちなみにクランっていうのはプレイヤーが集まるコミュニティみたいなものです。ほとんどのオンラインゲームにあるいつものやつだね。
と、ここまで口に出してはいたんだけど、れんちゃんは興味がないらしい。まあいいんだけど。
「れんちゃんれんちゃん。もうちょっといいかな」
「はーい」
れんちゃんがディアに乗って戻ってくる。……いやちょっと待って。
「なにそれ!?」
「え? のせてってお願いしたら、のせてくれたよ?」
「うそお!?」
ウルフに乗れるなんて聞いたことないんだけど!?
試しにシロを呼び出して、のせて、とお願いしてみる。何言ってんだこいつ、みたいな顔をされた。ひどい。
でもどうしてだろう、と少し考えて、れんちゃんの初期スキルを思い出して納得した。
「このための騎乗スキルか……!」
さすが運営だよ本当に! 私もあとで取りに行こう。馬に三十分ほど乗って練習すれば取得できるスキルだったはずだ。多分。
「おねえちゃん?」
「あ、ごめんごめん。あれ、気付いてる?」
私の後ろを指差して、れんちゃんと一緒に振り返る。そこにあるのは、小さな可愛らしいログハウス。
「わあ!」
「あれ、れんちゃんのお家だからね。好きにカスタマイズ……模様替えしていいからね」
それにしても、太っ腹な運営だ。本来の初期状態なら、本当にシンプルで何もない家のはずなんだけど、れんちゃんのお家は最初から小さい庭も完備されているし、中を見てみると小さいながらも椅子やテーブルも完備されていた。至れり尽くせりだね。
「じゃあ、今日はここでのんびり遊びましょう。モンスターもテイムした子以外は出てこないから、好きに遊んできて大丈夫だよ」
「はーい!」
家の中をきょろきょろ見回していたれんちゃんだけど、私がそう言うとすぐに外に駆けだして行った。やっぱり家よりもふもふらしい。その気持ちはよく分かる。
「もふもふと戯れるれんちゃん……。後ろ姿なら、いいかな」
ちょっと自慢したくなったので、後ろ姿が写るように写真を撮る。頭にラッキーを載せて、ディアに抱きつくれんちゃんだ。
「れんちゃんれんちゃん。顔は見えないようにしておくから、ちょっと写真を公開してもいい?」
「いいよー。テレビだっけ? それで顔出てるし、別に気にしないよー」
「あ、うん……。なんか、ごめん……」
あれ。れんちゃんもしかして結構気にしてたのかな……?
許可ももらえたので、公式サイトのスクリーンショット掲示板に投稿しておこう。コメントは、私の妹は世界一、と。
夜。
なんか、コメントがたくさんついてるんだけど。お気に入りすごいことになってるんだけど。なにこれ。お前らみんなロリコンか何かなの? バカなの?
いやでも、れんちゃんだからね! さすが私の妹! ふふん!
で、ちょっとだけ心惹かれる書き込みがあった。動画で見たい、だって。
ふむう……。まあ、私も、もっと自慢したい気持ちはあるけれど。どうしようかな。
このゲームは、とある大手の動画投稿サイトと提携していて、ゲーム内の様子を生配信できる。このサービスを使えば本来の配信に必要な機器は必要ないので、いつもそれなりの人数が配信してる、らしい。私はあまり見ないけど。
それを使えば、もっとみんなにれんちゃんを自慢できるかも。んー……。
とりあえず、れんちゃんに聞いてみようかな?
壁|w・)名付けしてないテイムモンスターたちはホームに行きます。
ホームにもふもふがいっぱい!
なお、今のところ広さは変わらないので、このままだとあふれるかも……。
ようやく配信の兆し……。長かった……。
今回はたくさんブクマやポイントをいただいちゃったので、お礼代わり突発投稿なのです。
……お礼になっているのかは、さておき……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






