配信二十九回目:防寒具
『かわいい』
『もこもこしてる!』
『れんちゃんれんちゃん! くるっと!』
「んー? こう?」
れんちゃんがその場で一回転。かわいい。何度も言う。かわいい。もう一回言う。かわいい。
「大事なことなので三回言ってついでに三回言う! かわいいかわいいかわいい!」
『落ち着けお姉ちゃんw』
『間違い無く俺たちよりも興奮してるw』
『こんな保護者で大丈夫か?』
『大丈夫じゃないけど手遅れだ』
いやだって、本当に、かわいい。もこもこっていいよね。とりあえず後ろからぎゅっとしてみる。おお、ふわふわもこもこ……。
「あったかい……。アリスさんありがとー!」
「いえいえ、どういたしまして。……すごいね、ミレイちゃんが急に抱きしめても動じてないよ」
『日常茶飯事なんやろなw』
『てえてえ……?』
『てふてふ』
『なんて?』
いやあ、役得役得。お前らが何を言おうとも、この場所は譲らないよ。ふふん。
「アリスさん。このちっちゃい帽子ってもしかして……」
「うん。ラッキーの帽子」
「わあ!」
頭で寝ていたラッキーをれんちゃんが両手で持ち上げる。起きたラッキーがふわ、と眠たそうに欠伸をして、小さく震えた。さすがに寒いのかな?
そんなラッキーの頭に、れんちゃんが小さな帽子を被せてあげた。れんちゃんとお揃いの帽子だ。ラッキーは不思議そうに首を傾げていたけど、すぐに嬉しそうにれんちゃんのほっぺたを舐めた。まあ、多分、分かってはないだろうけど。
「ラッキーかわいいよ!」
「わふん」
おまかわ。
「おまかわ」
『おまかわ』
うん。みんなの心が一つになった気がする。
「おねえちゃんは?」
「ああ、うん」
れんちゃんから離れて、私もアリスからもらった衣装を装備した。
私の方はシンプルだ。赤いコートで、首回りがちょっともふもふ。生地は柔らかい素材みたいで、なんだかちょっとマントみたいにひらひらしていた。
シンプルだけど、ちゃんと防寒具扱いみたいでぬくぬくしてる。うん。いいと思う。
「ミレイちゃんは鎧を装備することもあるからね。ちょっとシンプルにしてみたよ」
「うん……。ありがとう、アリス。気に入った」
悪くない。むしろ私の趣味だ。さすがアリス、分かってる。
「おねえちゃん! くるって! くるって!」
れんちゃんの要望があったのでその場で一回転。くるっと。ほれほれ、どうかなれんちゃん。
「おねえちゃんかっこいい!」
「そっかそっか。よしアリス、言い値で買おう!」
「うん。落ち着こうかミレイちゃん。前も言ったけどあげるから」
さすがアリス太っ腹! いや、まあ、実際は請求されても払えないんだけどね。アリスの服って高いからね……。いや、本当に、頭が上がらない。
「いつもありがとうございます」
深々と頭を下げると、アリスが少し慌てたのが分かった。
「いやいや急にどうしたの!? いいから! そんなのいいから!」
それよりも、とアリスが続ける。
「れんちゃんに、お願いしたいことがあってね……」
「なあに?」
「その、今度でいいから、ホームに呼んでほしいなって。私もレジェをもふもふしたい……!」
ああ、そう言えば……。アリスは、結局レジェに触ってないんだよね。れんちゃんがレジェをテイムした後、アリスはイベントが始まったみたいで、終わった時にはセカンの広場にいたそうだ。私たちも気付いたら同じ場所にいて、レジェはすでにいなかった。
当たり前と言えば当たり前で、あんな街中で始祖龍が出てきたら大騒ぎだ。アリスはクリアの喜びなんて吹っ飛んでもふもふできなかったことを心の底から悔しがってたけど。
あの後はれんちゃんがログアウトしないといけない時間だったからすぐに解散したけど、そうだよね、アリスも触りたかったよね。
れんちゃんはぱちぱちと目を瞬かせた後、
「いいよ!」
にっこり笑顔でそう言った。
「ありがとうれんちゃん! 楽しみにしてるね……!」
『くっそ羨ましいんだけど』
『まあまあ。俺たちもイベントの時には触れ合えるわけだし……』
『ああくそ、今から楽しみすぎる……!』
羨ましい、というコメントが多いけど、さすがに全員招待なんてできないししたくない。アリスなら歓迎するけど、正直エドガーさんでも微妙なところだ。
ホームはれんちゃんの聖域だ。だからこそ、招待する相手は慎重に選びたい。
「まあでも、今はキツネさんだよね。邪魔してごめんね!」
アリスとエドガーさんが一歩下がる。エドガーさんはひらりとドラゴンにまたがった。なにあれかっこいい!
れんちゃんもきらきらとした瞳でエドガーさんを見つめていて、エドガーさんは照れくさそうに頬をかいた。
『処す? 処す?』
『処す』
『エドガー。戻ってきたら覚悟しておけ』
「なんで!?」
うん、まあ、なんだ。がんばれエドガーさん!
「それじゃあ、またね!」
手を振るアリスとエドガーさんに、私たちも手を振る。そしてドラゴンはあっという間に見えなくなってしまった。
「さてさて……。気付けば時間も残りわずか。せめて、村までたどり着きたいかな」
「村?」
「そう。そこでクエストがあるんだよ」
というわけで、出発だ。入口の側にいるNPCに頭を下げて挨拶して、横を通る。れんちゃんも同じようにしていた。何故かその頭のラッキーも。ぺこって。
さくさくとした雪特有の感触に、れんちゃんは顔を輝かせていた。私の見える範囲でラッキーと走り回ってる。すごく楽しそうだ。
「あはは! すごい! 気持ちいい!」
『れんちゃん楽しそうだなあ』
『初めての雪なら感動するだろうな』
『雪なんていいものじゃないって思ってたけど、少し好きになった』
『北国の人か。大変だよな』
こんなに喜ぶなら、先に雪遊びしても良かったかもしれない。まあでも、今更か。時間も残り少ないし、まずは村に到着してから考えよう。
れんちゃんと一緒に雪に覆われた道を歩いて行く。リアルだと絶対に途中で疲れるこの道も、ゲームだけあって楽に歩いて行ける。れんちゃんもずっと走り回ってるぐらいだ。そろそろ落ち着いてほしいけど。
十分ほど歩き続けて、やがて小さな村にたどり着いた。
壁|w・)お話しかしてない……すみません……。
で、でも村にはたどり着きました……!
次回は、キツネさんをもふもふしますぱーとわん。
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