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準備期間2


「れんちゃん、新しい友達はいる?」

「また?」

「いらない?」

「いる!」


 鞄から今月のお小遣いで買ったぬいぐるみを取り出す。手触りが良いまるっこい犬のぬいぐるみだ。れんちゃんに渡してあげると、れんちゃんは顔を輝かせて受け取った。


「ふああ……。かわいい……」


 ぬいぐるみをもにもにして、ぎゅっと抱きしめるれんちゃん。頬ずりまでしてる。見ていて、なんだか心がぽかぽかしてくる。

 れんちゃんのベッドにはいくつかのぬいぐるみがあって、棚にはさらに多くのぬいぐるみがある。れんちゃんは毎晩あの棚からぬいぐるみを交換して一緒に寝ているらしい。

 れんちゃんは動物とぬいぐるみが大好きなのだ。いつか、本物の犬を一緒に見に行きたいものだ。


 ちなみにれんちゃんは一日一時間だけ、限界まで暗くしたテレビを見るんだけど、必ずアニマルビデオを見ている。れんちゃんのお気に入りは子犬がたくさん戯れる動画。私も一緒に見たことあるけど、その時のれんちゃんの顔は、とても、羨ましそうだった。

 動物と直接触れ合いたい。それが、れんちゃんの、ささやかな願い。


 ならば! 頼れるお姉ちゃんとして! 叶えてあげるしかないでしょう!

 というわけで。


「れんちゃん」

「んー?」

「今日はれんちゃんに、もう一つ、とびっきりのプレゼントがあります!」

「へ? えっと……。わんちゃんならもうもらったよ?」


 ぬいぐるみを抱きながら小首を傾げるれんちゃん。まあ、私のプレゼントって、ほとんどがぬいぐるみだからね。そう思ってしまうのも無理はない。

 しかし! お姉ちゃんはがんばったのだ!

 鞄からごそごそ取り出したのは、紙袋。それを渡すと、れんちゃんは不思議そうにしながらも紙袋の中身を取り出した。出てきたのは、ゲームソフト。


「なにこれ?」

「アナザーワールドオンライン。VRMMOだよ」


 なおも首を傾げるれんちゃんに、私はざっくりと説明することにした。




 フルダイブ技術が確立されてから、はや六年。数多くのゲームが開発されて、VRMMOもまた多く発売されてきた。あまりにも競争率が高くて八割以上のゲームがサービス終了しちゃったけど。

 アナザーワールドオンライン、略してAWOはその中でも高い人気を誇るゲームだ。システムは一昔前のMMOそのものなのでそこは賛否両論だけど、特筆すべきは他の追随を許さない圧倒的なグラフィックとNPCの高度なAIにある。まるで本当に剣と魔法の世界で生きているようだと評判なのだ。


「ふうん……」

「あまり興味なさそうだね」

「うん……。戦うのとか、やだ」


 それはそうだろう。れんちゃんは優しい子だからね。でも、その部分はわりとどうでもいいのだ。


「圧倒的なグラフィックって言ったよね」

「うん」

「動物たちもリアルです。かわいい犬さん猫さんたくさんいます」

「え!」


 おっと、れんちゃんが食いついた! さっきまでの冷めた目に一気に熱が入っていってる!


「テイムスキルがあります。つまりテイマーになれます」

「テイム?」

「簡単に言うと、動物やモンスターと友達になれるスキルだ!」

「わあ!」


 れんちゃんが期待に目を輝かせてる! きらきらしてる! でも、すぐにしょぼんと落ち込んでしまった。悲しげにゲームを見つめて。


「でも、お医者さんが許してくれるかな……」

「その点は大丈夫。許可は取ったよ」

「え? 本当!?」

「うん」


 れんちゃんは病室にこもりっきりだけど、小学二年生、勉強をしないわけにもいかない。どうやってそれをしているかと言えば、ここでフルダイブ技術の出番だ。

 脳波がうんぬんかんぬんの難しい話はよく分からないけど、VRマシンとフルダイブは問題なく使えるとのことで、れんちゃんは日中はVR空間で勉強をしてる。ただ、長時間続けると気分が悪くなるそうで、朝二時間、お昼二時間、夜二時間の使用のみという形だ。


 れんちゃんは勉強の成績は優秀らしくて、れんちゃんの主治医の人に相談してみたら、夜の二時間をゲームで使ってもいいということになったのだ。

 しかもそれだけじゃなくて、あらゆる方面の許可もその先生がわざわざ取ってくれた。


 許可というのは、実はVRゲームは小学生は禁止されているためだ。情操教育に悪影響がうんたらかんたらで世の中のお父さんお母さんたちが動いてしまった結果だね。

 中学生以降なら現実と虚構の区別ぐらいちゃんとつくだろうとこういう制限におさまったわけだ。まあ、中学生も制限時間は決められてて、自由に使えるようになるのは高校生からだけど。

 先生は運営会社と市役所にわざわざかけあってくれて、特例として許可が下りた。先生には感謝しかないよ。多分私だけだと絶対に無理だった。


「というわけで。お医者さんにはちゃんとお礼を言っておいてね」

「うん!」


 すっごく嬉しそうなれんちゃんの笑顔。私はもうこの笑顔が見れただけで満足だ。

 でも、本番はここから。ゲームで失敗すると、笑顔が曇るどころじゃないと思う。


「今日は夕方六時から。先生と一緒にゲームの設定をしてね。設定の注意事項はこの紙を読んでおくように。特に初期スキルは要注意!」

「うん……」


 れんちゃんはすぐに手渡したA4のプリントを読み始めた。これなら大丈夫そうかな。


「では、れんちゃん!」

「あ、はい!」


 私が大声で呼ぶと、れんちゃんがすぐに顔を上げた。どきどきしてるのがよく分かる、ちょっとほてった顔。


「ちょっと早いけど、私は帰って急いで宿題を終わらせます!」

「うん……」


 ちょっと寂しそうだけど、でも、大丈夫だ。


「だかられんちゃん。今日の夜は、あっち側で会おう!」


 はっとした様子のれんちゃんは、すぐに何度も頷いてくれた。

 れんちゃんを撫でて、手を振ってから病室を出る。さあ、急いで宿題を終わらせないと!


壁|w・)お姉ちゃん(に相談された主治医の先生)はがんばりました。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おじさんこの時点で泣いちゃった…… 涙もろくなって仕方ないわ…… 歳かな……
[良い点] 姉妹二人共かわいいこと [気になる点] 紙を読むってなんでしょうと思いました。全くの無光空間ではない感じですかね? [一言] いつか読んだ気もするけどその形跡がないので始めから読ませていた…
[一言] 今までのゲームなら光を見る必要があるから出来なかったけどフルダイブ系VRならその必要が無いから出来るんだねぇ...技術の進歩に感謝
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