配信108回目:森の中のスライダー
三分ほどかな。滑ると、地面にかなり近くなって、走る電車の隣を滑り始めた。到着間際か、それとも発車直後の設定なのかは分からないけど、電車は私たちと併走するスピードだ。中の人もしっかり見えるようになっていて、れんちゃんが手を振ると中の人も振り返してきた。
うん。その。すごいけど、力の入れるところを間違えてないかな……。いいんだけどね……。
しばらく電車と走り続けて、やがてプールに飛び込んだ。
ペンギンに回収されていくれんちゃんを見送りながら、周囲の景色を確認する。いつの間にか、プールの敷地内だ。あのビルが乱立する都会の景色はどこかに消えた。
『はえー。これはマジですごかった』
『ちょっとプール行ってくる』
『ちょっと滑り台行ってくる』
『ほーん。つまり、れんちゃんはもう見なくていいと』
『誰も今すぐ行くとは言ってねえだろ明日だ明日!』
『こいつらwww』
今日で終わりじゃないから、また別の日に見るのもいいと思うよ。多分、配信で見るよりも実際に見る方がすごいと思うから。
これは森の中を滑るのも期待できそうだ。楽しみだね。
プールを泳いで、れんちゃんの元へ。れんちゃんはそわそわしながら私を待ってくれていた。
「お待たせ、れんちゃん。どうだった?」
「すごかった!」
「あははー。そうだね」
「もり!」
「次は森だね。楽しみだね」
きっと森の中を滑っていくのも楽しいと思う。
今度はラッキーを頭に乗せて、子供のペンギンを抱いていく。一緒に滑りたいと思ったのかな。もふもふなペンギンを抱っこしてれんちゃんは幸せそう。他のペンギンは羽をぱたぱたと振りながらお見送り。あれはあれでかわいい。
そうしてまた並んで、転移で長い滑り台へ。また私たちを迎えた山下さんは、どこか楽しそうに笑っていた。
「次は森ですか?」
「はい! お願いします!」
「ふふ。かしこまりました」
山下さんがまた軽く手を振ると、今度は周囲の景色が森になった。どこの森かは分からないけど、大きな山の頂上みたい。ここから山の下まで滑っていくっていう内容かな。
「あ、おねえちゃん! くま! くまー!」
「うん?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるれんちゃんの視線の先には、小さな熊。子供の熊らしくて、川の中で腕を振ってる。魚を捕ろうとしてるのかも。
『俺もこのスライダー滑ったけど、あの熊いつも魚とってるぞ』
『まあただの背景みたいなもんだし』
『でもかわいい』
『それは認める』
熊か……。シロクマはテイムしてるけど、普通の熊はまだだね。熊を探すのも悪くないかも。特に子供の熊ならかわいいし。
「山下さん、熊ってどこに行けばテイムできます?」
山下さんに聞いてみると、困ったような笑顔を浮かべながらも答えてくれた。
「湖の側にレアモンスターとして出現しますよ」
「なるほど。すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。頑張ってください」
レアモンスなら、ちょっと頑張って探さないといけないかもね。
それじゃあ、改めてウォータースライダーだ。多分、今日はこれが最後になると思う。
さっきと同じようにれんちゃんは私の足の間へ。ラッキーは頭にしがみついたままで、代わりにペンギンがれんちゃんに抱かれてる。後ろかられんちゃんを抱きしめる私はとても役得だと思う。
たまに心配そうに見てくれるからね。それがとても愛おしい。
「うえへへへ……」
「…………」
『ミレイ気付け、れんちゃんがうわあ、という目で見てることにw』
『急にうへるなw』
『逃げられないれんちゃんがかわいそうだよ』
「うるさいよ」
そこまで言わなくてもいいと思う。
それじゃあ、改めて。森の中のスライダーへ出発だ。少し体を押して、滑り始める。いつもと同じように、すぐにほどよいスピードになった。
都会のコースと同じように、周辺の景色は森の中に様変わりしてる。ビルに見えていた人の代わりとでも言いたげに、木々の間にはたくさんの動物たち。
日本の動物図鑑でも見るような動物も多いから、本当に景色用なんだと思う。魔物というよりはやっぱり動物だね。もちろんかわいいけど。
「わあ! わあ! おねえちゃんおねえちゃんどうぶつさんいっぱい!」
れんちゃん大興奮。周囲をきょろきょろ見回しては歓声を上げてる。
ゲーム内では見ない動物も多い。モデルになった森はあるかもしれないけど、生息してる動物は間違いなく適当だと思う。遠くでパンダが歩いてるし、コアラがのんびりしてたりするし。あ、ムササビもいる。かわいい。
「かわいい……!」
れんちゃんはしきりにそう言うけど、私としてはこれを言いたい。
「興奮してるれんちゃんもかわいいです」
『わかる』
『それな』
『まんま動物園にはしゃく子供だw』
確かにそんな感じだね。
「いいなあ、おともだちになりたいなあ……」
そしてこの反応も予想通りだった。でも、どうしようかな。あの動物たちをモンスで見た覚えがないんだけど。
「どうしよう」
そう呟くと、視聴者さんが教えてくれた。
『公式のお知らせにあったけど、そこにいる動物たちは近いうちにモンスとして実装されるらしいぞ』
『すでにあれだけ動いてるんだし、実装はわりと簡単なのかも』
『つまり、もふれる!』
それを聞いて安心した。運営さんには是非とも急いでほしいと思う。
長い時間を滑りながらたくさんの動物たちに興奮しつつ、少ししてウォータースライダーの出口にたどり着いた。プールにぽちゃんと落ちたれんちゃんを、ペンギンより先に抱き上げる。そのままプールサイドへ。
「ふふん。今回は私の勝ちだね、ペンギン。君たちはまさしく、強敵かっこともかっことじるだったよ……」
『強敵と書いてともと読む、というのをやりたかったんだろうけどw』
『かっことかっことじるを口に出すなw』
『ていうかお前は何と勝負してるんだよw』
『妹のテイムモンスに勝ち誇る姉がいるらしい』
『アホかな? アホだったわ』
「うるさいよ!」
アホアホ言わないでよ! 少し悲しくなってくるから!
壁|w・)なお、「かっこともかっことじる」は早口です。
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ではでは!






