配信七回目:ライオンさんとトラさんと
穴はとても深かったのですが、不思議な力で落ちるのはゆっくりでした。そのまま地面に着地して、周囲を見回してみます。
薄暗い、いかにもな洞窟です。ゲームやアニメに出てきそう。
「王道? な洞窟! わくわくするね!」
『わかる』
『すっげえリアルだから余計にな』
『冒険してるって気がする』
「うんうん!」
ぴちょん、ぴちょんとどこかで落ちる水の音が雰囲気を際立たせています。本当に、天然の洞窟に来ているかのようです。
「でも、ここにいるのってライオンとトラだよね? こんな洞窟に……?」
『それ以上はアカン』
『そこまでリアルさを求めるとほとんどのゲームは成り立たなくなるからな』
『多分住んでる一部が定期的に狩りに出てるんだよ』
「ふうん……。そうなんだ」
とりあえずれんは、頭にのってすぴすぴ寝ているラッキーを軽く叩いて起こします。ラッキーはすぐに欠伸をして起きてくれました。きょとん、と首を傾げるラッキーを腕に抱きます。
「ラッキー、どっちに行けばいいかな?」
洞窟は道のど真ん中から始まりました。前にも後ろにも道があります。ラッキーはくんくんと鼻を動かすと、目の前に向かってわん、と吠えました。
「ありがとう」
たくさん買って貰ったエサをラッキーに与えます。ラッキーは嬉しそうにぱくりと食べました。
『へえ。小さいウルフにはそんな能力があるのか』
『ますます欲しい……』
『やめとけ。れんちゃんを知った連中が試そうとしたけど、相変わらずすぐ逃げられて何もできなかったらしいぞ』
「そうなの? 大人しい子なのに」
ラッキーを撫でながら進みます。途中の分かれ道も、ラッキーに教えてもらって、迷わず進みます。はずれの道も気になりますが、今は後回しです。
やがて大きな部屋にたどり着きました。そこにいたのは、
「ライオンさんだ!」
部屋の中央に堂々たるたたずまいの、たてがみが立派な雄ライオン。それを守るような布陣の雌ライオン。そのさらに周囲に座るトラたち。
「トラさんっていつからライオンさんの部下になっちゃったの?」
『それはあれだよ。ゲーム的な都合ってやつさ』
『気にしちゃだめなやつ』
「そっかー」
ライオンさんたちを見てみます。みんな寛いでいるみたいです。大きな猫みたいでかわいいです。
れんちゃんが部屋に足を一歩踏み入れると、全ての視線がこちらへと向きました。
『ヒェ』
『ゲーム的には大して強くないけど、本能というかなんというか、今でも怖い』
『分かる』
そしてれんは。
「かっこいい!」
そう言って、駆け出しました。
『躊躇なく行ったー!』
『まじかよww』
『さすがに草』
『いやでもやばくないかあいつら全部アクティブだぞ!』
ああ、なるほど、とちょっとだけれんは思いました。だからみんな焦ってくれていたのか、と。普通ならアクティブモンスターは、こちらが何もしていなくても襲ってくるモンスターらしいです。れんのことを心配してくれていたのでしょう。
でも、れんは知っています。山下さんが教えてくれました。敵意がなければ襲われないって。
果たしてトラたちはこちらをじっと見つめるだけで襲ってはきませんでした。
「わあ……。おっきい……」
どことなく警戒されているような気もしますが、一先ず襲われる心配はなさそうです。座っているトラに近づいてみます。トラはこちらをじっと見つめるだけです。
「さ、触ってもいいかな……? 怒るかな?」
『それよりもどうして襲われていないのか、これが分からない』
『お、おう。エサでも上げてみればいいんじゃないか』
「エサ!」
早速エサを取り出して、トラに近づけます。トラは一瞬だけ身を硬くしたようですが、すぐにれんの持つエサに鼻を近づけてひくひく動かしました。
「かわいい……」
『え』
『あ、うん』
『カワイイナー』
どうやら理解してもらえなかったようです。こんなにかわいいのに。
トラはしばらくエサの臭いを嗅いでいましたが、やがてべろんと大きな舌で食べてしまいました。もぐもぐと少しだけ口を動かして、すぐに呑み込んでしまいます。そしておもむろに立ち上がりました。
「おっきい……」
『今度こそやばいのでは!?』
『逃げて! れんちゃん逃げてー!』
そしてトラは、れんのほっぺたをべろんと舐めました。
「うひゃ! び、びっくりした……」
『ええ……』
『懐くの早すぎませんかねえ……』
『れんちゃんのピンチに頭を悩ませていたはずが、いつの間にか肉食獣とのほのぼの動画を見ていたらしい……』
一匹目の後は、どんどんと周りからきました。トラはもちろんのこと、雌ライオンもたくさん寄ってきます。エサはたくさん用意していたので、みんなにせっせと配っていきました。みんな嬉しそうに食べてくれます。そんなに美味しいのかなこれ。
「…………。あむ」
『いきなり何食べてんのれんちゃん!?』
『いや、分かる。どの動物もモンスターも、美味しそうに食べるもんな』
『テイマーはみんな試す。そして後悔する』
「まず……」
何でしょう。この、表現の難しい味は。なんか、すごくすごくねばっこい肉団子でねっちょりしていて、お肉の味なんてせずにむしろ苦みがあってとても不味い。
れんが呆然としている間に、そのかじられたエサを横からトラが食べてしまいました。なんというか、ちょっとだけこの子たちの正気を疑ってしまいます。
『れんちゃんの表情がwww』
『分かる。分かるよれんちゃん。そういうものだと割り切るしかないよ』
『まさか食べる人なんているとは思わなくて適当に味が設定された、気がする』
そうなのでしょうか。そうかもしれません。あまりに不味すぎます。
最後に近づいてきたのは、たてがみりっぱな雄ライオンでした。
「はい、どうぞ」
ぺろん、とそのライオンも食べてしまいます。美味しそうで満足そう。あと、ふわふわそう。
『れんちゃんの視線がライオンに固定されてるんだけど』
『れんちゃんにとってはあれももふもふ枠なのか……?』
『いや、でも、気になるのは分かる』
そっと手を伸ばして、たてがみに触れてみます。すごく、ふわふわ。
「はわあ……」
これは、いい。とてもいいもふもふです。
『れんちゃんの顔が!』
『すっごいとろけてるwww』
『いいなあ、俺も触ってみたい』
もう、幸せです。左手でエサを持ちながら、右手でもふもふ。幸せなのです。
しばらくなでなでさすさすしながらエサを上げ続けていると、ぽろんと何かのメッセージが出てきました。
『友達になれました!』
あ。
「おともだちになれたよ」
『うっそだろ』
『ライオンはテイムの難易度高いはずなんだけど』
『いや、まあ戦いもせずにエサを上げ続けていたら妥当、なのか……?』
難しいことはよく分かりませんが、れんとしてはちゃんとお友達になれたので満足です。ちなみに雌ライオンとトラもテイムしていました。それぞれ二匹ずつです。
「あのね、ライオンさん」
たてがみのライオンに言うと、ライオンはじっとこちらを見つめてきます。とりあえずもふもふ。
『れんちゃんwww』
『なんだろう、ライオンが困惑しているように見えるw』
「もふもふもふもふ……。あ、そうだった! ねえライオンさん。白虎さんってどこにいるの?」
なぜかコメントさんたちが騒ぎ始めました。何しようとしてるの、危ないから、とか色々言われていますが、れんの目的は最初から白虎と遊ぶことです。
ライオンはこちらをまじまじと見つめ、やがてその場にぺたんと座りました。そしてこちらをまた見つめてきます。乗れ、ということでしょうか。
「乗っていいの?」
こくん、とライオンが頷きます。れんは破顔してライオンにまたがりました。ライオンがちょっと大きすぎて、他の雌ライオンやトラに手伝ってもらったのは内緒です。
『なんだこのほのぼの』
『乗りたくても乗れなくてしょぼんとするれんちゃんを他のライオンやトラが手伝って乗せてあげる。いい』
『誰に向かっての解説だよw』
壁|w・)遭遇から懐柔まで一話で終わってしまった……。
次は、白虎に会いに行きます。
5000ポイント突破のお礼?の夜間更新でした。
次は6000ポイント……、こえてる……。
明日も夜間更新します! やってやりますとも……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。






