配信六十四回目:ケサランパサランの大穴
しろ。しろ。まっしろ。わたしはだれ? ここはどこ?
冗談はこれぐらいにして。少し待つとケサランたちが自分から動いてくれたみたいで、自由になった。周囲はまっしろ。ケサランパサランでいっぱいです。
「もふわー!」
そしてれんちゃんのテンションマックスの声が聞こえてきた。ちょっと予想の斜め上になっちゃったけど、れんちゃんとしては問題ないらしい。姿は見えないけど、楽しそうな笑い声だ。
ちなみにカメラの役目の光球とコメントも何も見えないです。どうしようかと思ってたら、ケサランたちが光球とコメントの板を出してくれた。いやあ、ありがたいね。
『なにこれすごい』
『え、この白色全部ケサランパサラン?』
『うわあ……。羨ましいような、どん引きなような』
『イベントのエリアで良かったな』
いや本当に。これ本来のエリアでやってたらたくさんの人に迷惑かけてたと思う。今回はオケランがいるイベントの専用のエリアだから、プレイヤーは私たちしかいないけど。でもNPCの人たちには迷惑かけちゃったかも。
でもとりあえずはれんちゃんのところに行かないとね。
「れんちゃんのところに行きたいんだけど」
私がそう言うと、ケサランたちがもぞもぞと動いて道を作ってくれた。その道の先にはケサランパサランたちを抱きしめてご満悦なれんちゃんが。さすがれんちゃん、ぶれないね……!
「あ、おねえちゃん!」
れんちゃんが顔を上げる。その頭の上では、ラッキーが前足で寄ってくるケサランを叩いていた。おもちゃで遊ぶ子犬みたい。かわいい。
「いっぱい!」
「いっぱいだね」
くるくる回るれんちゃん。不意に止まると、隣のケサランに抱きついて……、あ、それオケランの方か。分かりづらい。
私も側のケサランを触ってみる。もふもふだ。自分も撫でてとばかりにたくさん集まってくるのがかわいくもあるし、ちょっとだけ迷惑でもあるかな。多すぎて。
『れんちゃんも嬉しそうで一安心だな』
『れんちゃんがもふもふしてるのはケサランなの? オケランなの?』
『多分オケラン』
見た目だと分かりにくいよね。大きさは全然違うはずなんだけど、ケサランも集まりすぎてて輪郭がちょっとあやふやです。抱きつけばみんな一緒の気もする。
「もふもふふわふわ」
幸せそうなれんちゃん。顔がとろけちゃってる。私としても、喜んでもらえてとても嬉しい。コケランを譲ってくれた視聴者さんには感謝しかないね。
「もふわー!」
とりあえずれんちゃんのテンションが高いのはよく分かった。
『もふわー!』
『もふわー!』
『れんちゃんかわいいやったー!』
『れんちゃあああん!』
なんだろう。こう、私もはしゃぎたいんだけど、周囲、つまりコメントさんたちが騒いでると逆に冷静になっちゃう。ちょっと、複雑な心境です。
「おねえちゃん!」
私が何とも言えない表情をしてると、れんちゃんが走ってきた。にっこにっこの笑顔で、はい、とケサランの塊を渡してくる。受け取って、もふもふ。ついでに顔をうずめる。なにこれ気持ちいい。
「理想郷はここにあった……」
『お前は何を言ってるんだ』
「もふわー!」
「もふわー!」
『もふわー!』
『いつ終わるんだこれwww』
それは私にも分からない! もふわー!
オケランを最後に撫でて、別れを告げてホームに戻ってきました。たくさんのケサランパサランも一緒です。で、そのケサランパサランだけど。
「ホームに専用の住処ができてるわけだけど……」
雪山の側に出現したのは大きな縦穴だ。多分だけど、すごく、すっごく深いと思う。だって、あの大量のケサランが全て入ってしまっているから。
『地の底まで続いてそうな穴だな』
『別世界に繋がってそう。魔王がいそう』
『唐突に始まる異世界ファンタジー』
「いや始まらないから」
普通に底はあると思うし、それ以前にケサランが通してくれないと思う。お願いすれば、ゆっくり下ろしてくれそうではあるけど。
れんちゃんはそんなケサランパサランの穴を見て、すごくわくわくしてた。おっかなびっくり近づいて、穴に手を入れてみる。あ、ぱっと顔が輝いた。次に少し離れて、そして走って飛び込んだ。
「見事なダイブです」
『言ってる場合かw』
『ホームだから何が起きても問題はないだろうけどw』
『どんな感じなんだろうなあれ。すごく気になる』
気持ちは分かる。ディアやレジェに抱きつくのとはまた違う感じだろうね。あの子たちはもふもふはもふもふだけど、ちゃんとしっかりとした体があって、ちゃんと受け止めてもらえる。
でもケサランパサランは、それぞれはあまり大きくなくて、卓球のピンポン球ぐらいだと思う。私たちを受け止められる体なんてあるわけもなく。でも飛び込んだれんちゃんを見てると、沈むことなくふわふわ漂ってる。
「れんちゃん、どんな感じ?」
「んー……。雲の上?」
「へえ……」
『なるほどわからん』
『雲に乗ろうとしても当たり前のごとく落ちるんだが』
『マジレスすんなよ。分かるだろ?』
『ごめん。もちろん分かるとも』
とりあえず、私も飛び込んでみていいかな? というわけで、いざダイブ!
おお……。なんだろう。大量の毛玉に受け止められたような、そんな感じかな。いやそのままだけど。でもそうとしか言えない。あえて言うなら、天国です。
「これはいい……すごくいい……」
れんちゃんが雲の上って言いたくなるのも分かる気がする。雲に乗れたらきっとこんな感じなんだろうな……。
「まんべんなく全身を支えてくれて、それでいて硬い部分もなく……。このまま寝たらきっと気持ちいい……」
『実況するなよ!』
『気になるとは言ったけどさあ!』
『言葉じゃなくて実際に感じたい……!』
「ああ、うん。ごめん。でも、これはすごいよ、うん」
のんびりゆらゆら漂います。ケサランパサランすごいね。確かにこれは幸せになれるよ。間違い無い。意味合いは違うだろうけども。
「しあわせー」
「しあわせー」
れんちゃんと二人、のんびりと漂い続けました。至福。
壁|w・)ホームが拡張されました。
ケサランパサランの大穴:雪山の隣にあるケサランパサランの住処。なお、雪と保護色になっているのでちょっと分かりにくいです。
次回は、ケサランたちと遊びます。もふわー!
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ではでは!