配信六十一回目:リアルでも送ります
『服装は魔女だけど、やってることは竜騎士とかそんなんだよな』
『服装が魔女なだけで、実はスキル構成は近接では』
『魔女 (ドラゴンナイト)』
「魔女だから」
不満げにルルが頬を膨らませる。これ以上は私は何も言わないでおこう。いつか空飛ぶ箒とか実装されたらいいのにね。例え課金アイテムでもルルなら絶対に買うと思う。
さて。ご飯の続きだ。ということで座り直すと、すぐにれんちゃんはルルの方へと向かった。
「ルルさん!」
「ん」
ルルも分かってるみたいで、すぐに空狐のそらを召喚する。相変わらずの小さいふわもこ毛玉のキツネだ。かわいい。
れんちゃんは早速そらをだっこしてご満悦だ。にこにこしてる。そしてれんちゃんの頭の上ではラッキーが嫉妬してる……、と思う。そらを睨んでる気がする。
んー……。私もキツネ、だっこしたいな。ということでクロを呼び出して、抱き上げる。クロも十分にかわいいのだ。
「あ、クロ!」
れんちゃんが気付いた。クロがれんちゃんに飛び移った。そらとクロをまとめて抱いて幸せそうなれんちゃんとってもかわいい。とってもかわいい、けど……。
「あれー……?」
私のテイムモンスのはず、なんだけど、な……? いや、れんちゃんが喜ぶならもちろん何の問題もないんだけど。ふにゃふにゃれんちゃんを見てるだけで幸せです。
『実はクロはれんちゃんのテイムモンスだった……?』
『ミレイの人望のなさがよく分かるな』
『まあミレイだし』
「うるさいよ」
アリスはいつの間にかれんちゃんの写真を撮りまくってる。もちろん私も撮る。ルルも撮る。かわいいは正義です。
そんな賑やかな、ささやかなパーティも終わって。レジェに地上に戻ってもらいました。出迎えてくれるもふもふたちをとりあえず撫でよう。子犬もかわいいけど、成犬もかわいい。狼だけど。
『尻尾振りながら走り寄るとか、かわいいがすぎる』
『実家の犬を思い出した』
『俺も。たまに帰ると嬉しそうにじゃれついてくれるんだよな』
『わかる。会いたくなってきた』
たまに動物の動画でもそういうのあるね。私は、リアルでは動物を飼ってないから分からないけど。飼いたくないわけじゃないけど、どうせ飼うなられんちゃんの病気が治ってからがいい。
ウルフたちをわしゃわしゃと撫でる。隣ではれんちゃんもシロを撫でてた。どうして私の方にシロが来ていないのか、これが分からない。いや、いいけどね。れんちゃんかわいいからね、仕方ないね!
「またミレイちゃんが気持ち悪い顔してる」
「ひどくないかな」
『事実だから仕方ない』
『ひどいと思う前に直す努力をですね……、いや無理か』
『無理だな』
「うるさいよ」
「あはは……。えっとね、ミレイちゃん。改めて今日はありがとう。こうして誕生日をお祝いしてもらうのは久しぶりだから、すごく嬉しかった」
「そうなの? リアルは?」
「小学生の間は友達と誕生日パーティとかやってたんだけど、中学生になってからはなかったかな」
そういうもの、なのかな。こればっかりは人によりけり、というよりも学校の雰囲気次第かも。
アリスは抱いていた子犬をれんちゃんの隣に下ろした。レジェの背中にいた時から抱いてた子だ。名残惜しそうにアリスが撫でると、子犬はその手をなめてから、れんちゃんの元に戻っていった。
ちなみにルルはそらを抱いてる。ルルの腕の中でうとうとしてるそらがとてもかわいい。
「ああ、そうだ。アリス、ちょっとこっち」
「え?」
アリスの手を引いて、その場を離れる。カメラの役割の光球はれんちゃん追尾に設定だ。いってらっしゃい、と手を振るれんちゃんに私も手を振って、こそこそと。
十分に離れて、というより、れんちゃんの家の反対側に行く。ここなら間違っても、配信で映ったり音を拾われたりしない。ちゃんと確認済みだ。
「ミレイちゃん? どうしたの?」
困惑するアリスに、言う。ダメで元々だ。
「ねえ、アリス。リアルの住所とか教えてもらったり、できる?」
これは、明らかなマナー違反。絶対にやっちゃだめなやつだ。これだけで、友好関係が破綻してもおかしくない。だから、ちょっとだけ緊張してたんだけど。
「え? うん。いいけど」
なんともあっさりと承諾されてしまった。私の方がびっくりだよ。
「い、いいの? ほんとに? リアルのやつだよ?」
「うん。ミレイちゃんなら悪用しないって知ってるから」
どうしよう。結構嬉しいかも。そんなに信用してもらえてるとはさすがに思ってなかったから。
「ミレイちゃんのは教えてくれるの?」
「それはもちろん。聞く以上は教えるよ。まあ、私はある程度は知られてるけど」
病院とか隠してないからね。毎日面会に通ってることから、近くに住んでることはみんなが予想してると思う。そしてそれは正解だ。
でもまあ、さすがに住所そのものは誰にも教えたことはないけど、アリスならいいかなって思ってる。アリスならきっと、悪いことには使わないだろうから。
「それじゃあ……。とりあえず電話番号、かな。あとで送るから」
「うん」
電話番号さえあれば、メッセージや画像が自由にやり取りできるサービスがある。誰もがスマホに入れてるアプリなので、問題なく使えるはずだ。入れてなければ、電話番号なんて聞かなかっただろうし。
こそこそっと電話番号を交換して、れんちゃんたちの方に戻ることにした。
「ただいまー」
『お、戻ってきた』
『何の話してたの?』
『やらしいことですね』
「追放でいいかな?」
『ごめんなさい!』
変なこと言わないでほしい。
さて、れんちゃんはと探してみると、空狐のそらをころんと転がしてお腹をわしゃわしゃしていた。好きだねそれ。
「もふもふわしゃわしゃ」
見てわかるほどにふわふわだ。見た目は本当に子狐。子狐よりも可愛らしいかもしれない。
「子狐よりかわいいのに、最強格のモンスなんだよねこの子」
『ぶっ飛んだ戦闘能力です』
『戦った感想としては、キマイラより強敵だった』
『うそやん』
『マジだよ』
キマイラって一応ボスのはずなのにね。
でも実際のステータスや技で考えると何とも言えないらしい。というのも、体のサイズも関係してるのだとか。空狐は小さい上に素早いから、攻撃を当てにくいんだって。
「ルルはよく倒せたよね。魔女なのに」
「がんばった」
「あ、はい」
えっへん、と胸を張るルル。頑張った程度でどうにかなるとは思えないんだけどね。
れんちゃんがそらのもふもふに満足したところで、その場は解散することになりました。
ログアウト後。自室のベッドに寝転がりながら、スマホを操作する。教えてもらった電話番号から、アリスにメッセージを送ってみる。ちゃんと届くかな?
さて送信、としようとしたところで、電話が鳴った。
「わわ……」
びっくりした。通知を見てみると、知らない番号……、あ、いや、アリスだ。
「も、もしもし」
恐る恐る電話に出てみると、何度もゲームで聞いた声が耳に届いた。
『ミレイちゃん?』
「う、うん。ミレイです。アリス?」
『アリスだよ。ふふ、電話で声を聞くのは初めてだから、変な感じだね』
「そ、そうだね」
正直なところ、心の準備をする時間が欲しかったです。ゲームでは頻繁に会ってるけど、電話だとちょっと緊張しちゃうから。
『じゃあ、この番号でメッセージ送るね。住所と名前だけでいいの?』
「うん。助かる」
『でもどうして? 何に使うかは聞いていいよね?』
それは当然だと思う。それに、心配しなくても変なことに使わない。きっと、アリスなら喜んでくれる、はず。
「れんちゃんのお手紙がリアルにもあります」
『え』
「れんちゃんのお絵描きがリアルにもあります」
『え』
「誕生日プレゼント、送ってあげる」
『ほんとに!?』
「ほんとほんと」
れんちゃんには送れるか分からないよと言ったんだけど、それでもれんちゃんが頑張って書いたものだ。できれば送ってあげたかったから、聞けて良かったよ。
『うわあ……。すごく嬉しい。ありがとう、ミレイちゃん』
「いえいえ。無事に届いたられんちゃんにも言ってあげてね。きっと喜ぶから」
『うん。もちろん』
アリスならその辺はしっかりしてるだろうから、心配はしてないけども。
その後は一時間ほど、のんびりとお互いの日常について話して、電話を終えた。うん、時間を忘れかけた。危なかった。
ちなみに。それ以後、ちょくちょくメッセージのやり取りをしたり電話をしたりしています。
壁|w・)アリスは気軽に会えない場所に住んでいるので、リアルで会えるのはまだまだ先です。
……え? 番外編? クリスマス? なんのことですか?
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ではでは!