配信五十六回目:れんちゃん密着配信、そのいち!
日曜日の朝。私はこっそりとれんちゃんの病室に忍び込んでいた。もちろんお父さん経由でちゃんと手続きしてるので、看護師さんたちには挨拶してから来てる。れんちゃんには内緒、てことです。
お父さんたちにお願いして朝からのお見舞いを特例で許可してもらってるから、あまり頻繁には早朝からは来れないんだけどね。
さて……。
「おはよう。朝からこっそり配信です」
『こんな時間に何やってんだw』
『この時間の配信は予想外だよ……』
『まだ七時前だぞ』
『時間が時間だから人は少ないな』
現在の視聴者さんはいつもの半分以下。むしろこんな早朝によくこれだけ集まってるなと思う。
『せめて告知ぐらいしてほしいところ』
「気付いたら見てくれる程度でいいからね。なので今日の皆さんはラッキーです。だってれんちゃんの生寝顔が見れるからね!」
『おおお!』
『生寝顔期待!』
『かわいいんだろうなあ』
盛り上がってる盛り上がってる。幼女の寝顔で盛り上がるってこいつら大丈夫かよと思わなくもないけど、まあ言ったらだめな部分だね。
というわけで、お邪魔します。
『相変わらず暗い病室だ』
『部屋の隅にある光源が逆に悲しい』
『あれでよく見えるよな』
『暮らしてるれんちゃんは分かるけど、ミレイは本当になんで見えてるの?』
慣れ、だと思う。実際のところ、私もそこまではっきり見えてるわけじゃないし。れんちゃんは、聞いてる限りだとはっきり見えてそうだけど。
そっとベッドに近づいてみる。すやすやと可愛らしい寝顔の妹だ。お供は犬のぬいぐるみ。枕元に置いてる。
「れんちゃんの寝顔かわいい。うえへへへ」
『最後で台無しだよ!』
『本当にさあ。この姉はさあ』
『寝息もかわいいなあ』
なんと。寝息まで聞こえるんだね。いや、でも、それもそうかもしれない。れんちゃんの病室は防音がしっかりされてるから、朝はかなり静かだ。だからちょっとした音でもよく聞こえたりする。
寝息とかも、こうして近づいてたらよく分かる。
「ぷにぷに」
『おいwww』
『やめたれwww』
『気持ち良さそうに寝てるんだからそっとしといてやれよw』
怒られてしまった。いやでも、れんちゃんのほっぺた、もちもちですごく気持ちいい。くせになっちゃいそう。でもれんちゃんに怒られるのは嫌なので、そろそろやめておこうかな。
「さてどうしよう。しばらくはこうしてれんちゃんの寝顔配信でいいかな」
さすがにそれはどうかな、と思ってたんだけど、コメントさんたちはそれでも十分らしい。是非それで、というコメントが目立つ。物好きだね。
というわけで、椅子に座ってれんちゃんを眺めてようかなと思ったんだけど。
七時になった瞬間、目覚ましが鳴った。
『おはようれんちゃん。朝だよ、そろそろ起きて』
「うえ!?」
『ちょwww』
『え? これミレイの声だよな? でもミレイは口を開いてないってことは……』
『目覚ましこれかよw』
私もびっくりだよ! まさか自分の声が流れてくるとは思わなかった! いやいや、本当に、びっくりだ。
これで起きれるのかなと思ったら、れんちゃんがゆっくり体を起こした。眠たそうにとろんとした様子で、こしこしを目をこする。かわいい。
そのまま私を見て、首を傾げた。
「おねえちゃん?」
「お、おはようれんちゃん」
「んー……。おはよう……」
おお、れんちゃんが抱きついてきた。すりすりと頬ずりしてくる。なにこの子すごくかわいいお持ち帰りしたい私の妹だけど!
『ミレイの表情がw』
『てえてえやなあ! ミレイの表情がなければ』
『表情で全てを台無しにするスタイル、嫌いじゃないよ』
「うるさいよ」
れんちゃんがかわいいもの。甘えてくるれんちゃんは全力で甘やかしたい。なでなでぎゅー。
「んむ……。あれ? おねえちゃん?」
「目が覚めた? 改めておはよう、れんちゃん」
「おはよう」
にぱっと笑うれんちゃんもかわいいです。
「目覚ましにびっくりしたよ」
「めざまし? んー……?」
不思議そうに首を傾げるれんちゃん。んー……、と考えて、あ、と思い当たったみたいだ。
「おねえちゃんのめざまし時計!」
「それそれ」
「おとうさんにもらったの!」
「ほう……」
うん。うん。言われてみると、お父さんに頼まれて朝の挨拶を録音した気がする。いやまさか、こんなところで使ってるとは思わなかった。
勝手に使われたのはちょっと気になるけど、でもまあ、これならいいかな。れんちゃんが喜んでくれるなら、私の全てを捧げましょう。なんて。
「おねえちゃん、今日は早いね」
「うん。暇だったからね」
「そうなの?」
「そうなの」
勉強の予復習は夜の間に終わらせてるからね。他に約束もないし、今日は一日フリーだ。だかられんちゃんを構い倒したい。
「ちなみに配信中です」
「え!?」
れんちゃんが私の持ってるスマホを見る。ぷくっとほっぺたを膨らませた。ぷすぷすしよう。
「おねえちゃん?」
「ごめんなさい」
『反省しないのかこいつはw』
『まあ、ミレイだしな。知ってた』
ひどくないかな。
壁|w・)れんちゃんの寝顔で盛り上がるコメントさん。
ミレイ「大丈夫かこいつら」
コメントさん「おまいう」
そんなわけで? 今回はれんちゃんと一緒に1日を過ごします。
もちろんゲームもするよ!
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ではでは!