配信五十四回目:恩を仇で返す
「えっとね……。ごめんね、れんちゃん。ちょっとお金が足りなくて……」
「え……。あ、うん……。そう、なんだ……」
ああ! 見て分かるほどにしょんぼりしちゃった! どうにかしたいけど、こればっかりはどうにもならない……! ルールはルールだから……。
れんちゃんが馬好きさんを見る。馬好きさんもれんちゃんとミニチュアホースを見る。それだけで、察しちゃったんだろう。れんちゃんはミニチュアホースを最後に一度だけ撫でて、私にくっついてきた。
こんな時でも、れんちゃんは我が儘を言わない。言われても何もできないけど、でもどうせなら私は怒られたかった。泣くのを我慢するのを見ると、私が泣きたくなる。
当たり前だけど、馬好きさんは悪くない。馬好きさんだって、ずっとミニチュアホースを探してたみたいだし……。私たちは、たまたま見つけてしまっただけだから。だから、うん。うん……。
「この馬はいくらだ?」
「二千万だ」
「買おう」
「まいど」
あっさりと、目の前で買われてしまった。
ミニチュアホースがれんちゃんを見て、そして馬好きさんの方へ。馬好きさんはミニチュアホースを見て、一度だけ撫でる。
そして言った。
「ところで俺は見て分かるように、すでに多くの馬を育てている」
「え? あ、うん。そうだね?」
「小さいとはいえ、今更馬を飼おうとは思えなくてな。誰か俺の代わりに育ててもらえないものか」
「あー……。あはは……」
『なんだこの大根芝居』
『お前クソ野郎死ねとか思ってごめんなさい』
『え? つまりこれって、そういうことか?』
「あ、あの……」
れんちゃんが馬好きさんを見ると、馬好きさんはにっこりと笑って、
「れんちゃんになら、任せられると思うんだけど」
そう言って、出てきたのはトレードの画面。馬好きさんが出すのは、権利書かな、これ。
「ああ、もちろん何もいらない。そのまま完了を押してくれ」
「え、あ、えっと……」
さすがにれんちゃんが混乱してる。笑いそうになるのを堪えてれんちゃんに頷くと、れんちゃんはぱっと顔を輝かせて完了を押した。ちなみにれんちゃんの画面は全部ひらがなです。
権利書がれんちゃんの手に渡って、ミニチュアホースがれんちゃんの側にやってきた。
「わあ……!」
れんちゃんがミニチュアホースを抱きしめる。ミニチュアホースもどことなく嬉しそうだ。うんうん。良かった良かった。
『おい馬好きィ! お前回りくどいんだよぉ!』
『悪くないとは分かってても心底軽蔑しそうになった』
『なんでわざわざこんなことやってんだよw』
いや、本当にね。正直かなり焦ったよ私は。
「配信を見ているのは俺だけではないだろう? ミレイが銀行に行っている間に買われても不思議じゃない。それなら俺が先に買っておいて、譲ってしまえばいいと思っただけだ」
『お前マジでいいやつじゃねえか……』
『見直したぞ馬好きィ!』
「あっはっは。照れるからやめてね」
あ、素になった。恥ずかしかったのか顔が赤い。いい人だね本当に。
「馬好きさん。えっと、足りないけど、今ある分だけでも……」
「ああ、いらんいらん。この世界の馬を布教できたと思えば安いものだ」
「ところでそのロールプレイ、似合ってないです」
「そういうのやめてくれないかな!?」
『草』
『恩を仇で返す、それがミレイw』
『これはひどいwww』
いや、だって、いかにも騎士とか武士とかそんな人だったら分かるんだけど、馬好きさんは武士というよりも俳優さんの方面でのかっこよさなんだよね。かわいいの方にかたよっているというか、なんというか。
だから、うん。
「似合わない……」
「泣いていい?」
『いやでも、ごめん、人のロールプレイにあんまり口出しするのはだめだと分かってるけど』
『わるい、馬好き。正直似合ってない』
『なあ馬好き、どうせなら鎧武者とか、そんな感じで顔を隠したらどうだろう?』
「お金は先ほどなくなった」
『あ、はい……』
『やばい、理由が理由だから何も言えねえ』
うん。ちょっと申し訳ない。せめて私の手持ちを受け取ってくれたらと思うけど、なぜか頑として受け取らないし。かっこいい鎧を買うお金にはなると思うんだけど。
「あのね、ミレイさん。僕にもプライドってものがあるんだよ。いつも楽しませてもらってるから、そのお礼と思ってプレゼントしたんだ。だから、黙って受け取ってほしい」
「あ、一人称僕なんだ」
「しまったあああ! 気をつけてたつもりだったのにいいい!」
『草w』
『草に草を定期』
『なんだこの馬好き、おもしろいぞw』
ちょっといじりがいがあると思っちゃいました。
さて、でも何かお礼ぐらいはやっぱりしたいよね。さっそくちっちゃい馬と遊び始めてるれんちゃんを見ると、特に。なぜかかけっこしてる。楽しそう。
『馬好きさん。ちょっといいかな。私、アリスだけど』
「え、あ、はい。何でしょうか」
『うん。ロールプレイはもういいの?』
「今日は諦めました」
『あ、はい』
『正直すまんかった』
『反応があまりにも面白くて』
「いいよもう……」
馬好きさんは苦笑い。怒ってるわけじゃないみたいだから、一安心だ。
『鎧は武者風でいいの? よければ作ってあげる』
「まじっすか!?」
『あ、うん。も、もちろん』
『食いつきやべえw』
『まあ金があっても依頼できるわけじゃないのがアリスだからなあw』
ちなみにれんちゃんの服のために受注件数はさらに減ってるらしいです。いや、ほんと、申し訳ない。
『引き受けてあげる。馬好きさん、コンセプトとかある? ロールプレイのきっかけとかあれば、イメージしやすくなるよ』
「ああ、それは……」
これ以上は私はあまり聞かないでおこうかな。れんちゃんの方に意識を向ける。
「ごろーん」
寝転がってる。れんちゃんのお腹の上にお馬さんの頭。お腹にのった頭をなでなでもふもふ。平和だなあ……。
れんちゃんを眺めていたら、馬好きさんの話し合いは終わったみたいだ。気付いたら隣に立っていた。
「終わった?」
「ああ、終わった。感謝する」
「う、うん……」
急にロールプレイに戻られるとちょっと焦っちゃう。
馬好きさんは少しだけれんちゃんを見ていたけど、すぐに私に視線を向けてきた。
「その、ミレイさん。さっきはお礼はいらないって言ったけど……」
「あ、いります? がんばって二千万貯めるので……」
「違う! そうじゃなくて……」
なんだろう。歯切れが悪い。いつの間にか素になってるし。よほどのことじゃない限り引き受けるけど。今回は本当に助かったしね。
「何でも言ってね。できる限りやるから」
『いま』
『なんでもするって』
『言ったよね?』
「死ね」
『ド直球の罵倒w』
『ありがとうございます!』
『ここには変態しかいないのかw』
『お前も含めてな!』
変態ばっかりとは言わないけど、変な人はたくさんいると思う。困ったことに。悪い人のコメントは運営さんが弾いてくれてるみたいだから安心だけど。
壁|w・)馬好きさんは筋骨隆々の武者男……になりたい、細いイケメンさんです。
お馬さん大好きさんです。
というわけで、ちっちゃいお馬さんが加わりました。のんびり屋さんです。
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