配信一回目:終了
「おねえちゃん、チートってなに?」
「あとで教えてあげる。とりあえずラッキーをもふもふしていなさい」
「はーい。もふもふもふ……」
『なにこれかわいい』
『子犬も嫌がるどころかめっちゃ気持ち良さそう。なにこの癒やし空間』
『子犬www 狼だからなw』
子犬と言いたいのはとても分かる。見た目子犬だからね、仕方ないね。
『チートはないとして、えこひいきの疑いはあるんじゃね?』
「んー……。それは私じゃ否定できないけど、ないと思うよ。一応、私は仕組みを聞いて納得したし。教えていいっていう許可をもらってないから、内緒だけど」
『仕組みがあるってことは、やろうと思えば俺たちもできるのか』
『すっごい気になる』
「内緒だよー。ちなみに誰でもできる可能性はあるけど、少なくとも私には無理だ」
テイムしたい、という考えですら敵意判定を受けるなら、一般プレイヤーはほとんどが難しいのではなかろうか。れんちゃんみたいに、ただただ純粋に仲良くなりたいとか思えないよ。
「私はいつの間に、こんなに心が汚れてしまったんだろう……」
『急にどうしたw』
『哲学だな……。結論、生まれた時から』
「うん。れんちゃんと比べたら私は生まれた時から汚いね」
『だめだこいつ、はやくなんとか……、手遅れか』
『草』
ほっとけ。
「でもちょっとした特別扱いは感じてるよ。いろんな表記の違いとか。例えばステータス表記だけとっても、私たちはstrだけど、れんちゃんはちから、だし」
『小学生にも分かりやすく、かな』
『わざわざれんちゃんのためだけに変更入れたのか』
『優しい』
「あとは、びっくりしたのはテイムした時。みんなならテイムに成功しました、だろうけど、れんちゃんの場合は友達になれました、らしいから」
『なにそれかわいいw』
『運営いい仕事してるなw』
『確かにえこひいきだけど、それなら許せる』
うん。まあシステム的には優遇されてるわけじゃないしね。それでもこれがあるなら優遇も、なんて思われるかもしれないけど、それならもう勝手にそう思えばいいと思う。
『ところでミレイさんや。一つ聞きたいことがあるんだがね』
「はいはい。なにかな?」
『なんでミレイもれんちゃんも初期装備なの? 着飾ってあげなよ』
「あー……」
痛いところを突かれてしまった。
いや、ね。私も最初は考えたんだよ。配信するんだし、いい服を買ってあげようかなって。でもれんちゃんが服にまったく頓着しないんだよね……。毎日同じ服だから仕方ないのかもしれないけど。
れんちゃんが初期装備なら私もそれに合わせよう、ということでこうなってる。
「せめて時間があれば、買っておいても良かったのかも」
『時間とは?』
「一昨日れんちゃんがこのゲームを始めて、昨日もふもふするれんちゃんがかわいくてスクリーンショットを投稿して、もっと自慢したくなって、今日配信してます」
『行動力の化身w』
『まさかの三日目w』
『何よりもたった二日しかないのに小さいウルフとフィールドボスをテイムしてるって、どんなプレイスタイルだよw』
「あ、ちなみにその二匹をテイムしたのは初日です」
『ええ……』
『草も生えないw』
『生えてるじゃねえか』
ふむう。服。服か。でも私もあまりゲーム内の衣装に詳しいわけじゃないんだよね。
「明日あたり、れんちゃんと一緒にセカンにでも行ってみようかな」
『服を買いに?』
「うん。生産者さんが作った服もあるだろうし。まあ、予算は少ないけど……」
私は基本は戦闘スキルメインだったけど、のんびりスタイルだったからお金はたくさん持ってるわけじゃない。それでも、服ぐらいなら買えるかも。
「ちなみに参考程度に聞きますが、一番高い服はおいくらまんえん?」
『M単位。つまり百万以上』
「無理」
『知ってた』
『普通は無理だわなあ』
『安心しろ、何かしらエンチャントされたようなものがその値段だから』
服や鎧に特殊な魔法効果をつけるものがエンチャントだ。なるほどそんな効果があるのなら、高くなるのも頷ける。さすがに買おうとは思えないけど。
「それじゃ、明日はれんちゃんと一緒に行こうかな。れんちゃんれんちゃん」
「もふもふもふ……。もふ?」
「いやいつまでもふってるの!? 心なしかラッキーがぐったりしてないかな!?」
いつの間にか、気持ち良さそうな顔をしていたラッキーが疲れたような顔になってる。それはそれでかわいいけど、もふり過ぎではなかろうか。
「れんちゃん。明日は買い物に行こっか。服を買いに行こう」
「服? これでいいよ?」
ラッキーを頭に載せたれんちゃんはとても不思議そう。視聴者さんも困惑を隠せないようで、どうして、なんて言葉が並んでいる。れんちゃんはこういう子なのです。
「私がかわいい服を着たれんちゃんを見たいの。だめかな?」
「んー……。よく分からないけど、いいよ」
とりあえず許可をもぎ取りました。一安心だ。
「ありがとう。お礼に、お買い物が終わったらテイマーズギルドの放牧地に行こうね。他のテイマーさんのモンスターと触れ合えるよ」
「行く! 行きたい!」
れんちゃんの瞳が輝く。素直なのはいいことだけど、服より動物っていうのは本当にれんちゃんらしい。
「じゃあ明日は買い物だね。明日も同じ時間に配信するからね」
後半は視聴者さんたちに向けたものだ。私が終わろうとしていることに気が付いたみたいで、でも特に引き留められることもなく、配信を終えることができそうだ。
「それじゃあ、そろそろ終わるよ。れんちゃん挨拶」
「はーい。ばいばーい」
『かわいい』
『おやすみー』
『ばいばい』
メニューを開いて、配信を終了させる。そこまでやってから、視聴者数を見てなかったことに気が付いた。それを見て、思わず絶句してしまった。
「おねえちゃん?」
「い、いや、なんでもないよ」
さすがに視聴者数千人はびっくりだよ……。大丈夫かこの国。
配信を終えた後は、ディアにもたれてのんびり過ごす。れんちゃんはお腹にラッキーをのせて、もふもふに挟まれて幸せそうだ。
「配信はどうだった?」
「んー……。自慢したりない……」
それはまあ、確かに。れんちゃんは結局もふもふし続けてただけだしね。でもかわいかったので、私は満足です。
「おねえちゃん」
「ん?」
「お金、大丈夫?」
それはどっちの意味だろうか。リアルなのか、ゲームなのか。どっちも、だろうなあ。
「大丈夫大丈夫。れんちゃんは気にしなくていいからね。もっともっと遊びましょう」
そう言って、れんちゃんを撫でてあげる。するとれんちゃんは気持ち良さそうに目を細める。やっぱり私の妹は世界一かわいい。
壁|w・)今更ながらの服問題。当然初期装備のままでした。
てなわけで、次はお買い物です。
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ではでは。