配信五十回目:泉の広場で
本日お昼の一時からイベント開始、つまり、れんちゃんとログインする頃にはすでに情報が色々と出てるかもしれない。千はさすがに多いから、ある程度計画的に動きたいところだ。
それにしても、ケサランパサラン千匹……。やっぱり多すぎだと思う。想像するとすごい光景になるよ。
まあ、ともかく。軽く掲示板とかで調べてから、ログインした。
れんちゃんの家の前にれんちゃんがいない。私の方が遅い場合は、子犬と遊んでることが多いんだけど。ログイン状態を確認してみたら、ログインはしてるみたいだ。
仕方がないので保護者特権です。れんちゃんが迷子になった時に、今どこにいるかを具体的に教えてもらえます。まあ、れんちゃんのプライベートを考慮して、山下さんに聞く、という形になるんだけどね。
というわけで、フレンドリストから山下さんへ連絡してみる。れんちゃんが見当たりません、どこにいますか、と。
少し待つと、すぐに返信がきた。さすがに早い。
『ホームの雪山にいるようです』
あ、そっちか。お礼を送って、雪山に向かう。途中にあるかまくらとか、本当にずっとあるなあ……。消えないのかな、これ。
とりあえず池の方に向かってみると、子供のシロクマと遊ぶれんちゃんがいた。二人、というか一人と一匹でころころ転がってる。何してるんだろう。
大きい方のシロクマは、そんなれんちゃんたちをのんびりと眺めていた。なんだか親って感じがするね。
「れんちゃん」
「あ、おねえちゃん!」
れんちゃんが転がるのをやめて立ち上がろうとして、その後ろからシロクマが追突してしまった。わぷ、とれんちゃんが倒れてしまう。リアルだと痛そうだけど、ここならそんな心配はないから安心だ。
子供のシロクマが心配そうに、鼻でれんちゃんをつついてる。なんだか微笑ましい。
「びっくりした……」
そう言いながら、れんちゃんはとっても楽しそうでした。
コケランがどこにいるのか。答えは、どこにでも。
れんちゃんと一緒にファトスに来てます。まずは親のケサランパサランに会いに行きたい、ということになった。私としてもどんな姿なのか興味があるので、れんちゃんと一緒に歩いてる。目指すはファトスの中央にある噴水の広場だ。そこにいるらしい。
「おねえちゃん」
「ん?」
「人がいっぱい!」
「そうだね」
さすがはイベントと言うべきか。いつもよりプレイヤーが多いね。普段は街とは名ばかりの寂れた村、という状態のファトスだけど、今日ばかりは大勢の人で賑わってる。
当然だけど、私たちは微妙に目立ってる。主にれんちゃんが。シロの背中に揺られるれんちゃんが。ひそひそと噂話まで聞こえてくる。
何を話してるのかな。気になるけど、聞きたいような、聞きたくないような、複雑な心境だ。悪口だったら嫌だしね。
誰かが何かをしてくるかも、なんてことも少しだけ警戒してる。大丈夫だとは思うけど、念のため。まあ、何事もなく広場にたどり着いたんだけど、ね。
広場はとんでもない人だかりが、なんてこともなく。むしろ、ちょっと異様な光景だった。
「おねえちゃん、あれなに?」
「さあ……」
噴水の前に大きな光の玉がある。まさかあれがケサランパサランなのかな、なんて思いもしたけど、違うみたいだ。他のプレイヤーさんたちは、あの光の玉の中に入って行ってる。どうなってるのかなあれ。
むう。もう少し調べておけば良かったかな。私もこのゲームはそれなりに長いけど、イベントそのものはほとんど参加してこなかったんだよね。アイテムを集める形式のイベントって、正直面倒だって思っちゃうから。
れんちゃんは、とってもうずうずしてる。入りたそうにしてる。好奇心の塊かな?
みんなが入ってるぐらいだから問題ないとは思うんだけど、もう少し安心が欲しいところだ。というわけで、誰かいないかな?
フレンドリストに登録されてるみんなは、全員ログインしてるみたいだね。誰かにメッセージを送って、教えてもらうのもいいかも。この間アリスにお世話になってしまったし、ルルを頼ってみようかな?
というわけで、イベントについてちょっと教えてほしいってメッセージを送ってみた。
十秒で返信が来た。すぐ行く、だって。返信が早すぎてちょっとこわい。
「れんちゃん。ちょっと待っててね」
「ん……。うん」
ああ、ごめんね。すごく行きたそうだけど、もうちょっとだけ待ってね……!
広場の隅っこで光球にみんなが入っていく様子を見守る。いや、見守ろうとして、今までとはちょっと様子が違う騒ぎが起こった。みんなが、空を指差してる。だから私もそっちに視線を向けて、
「あ!」
れんちゃんが嬉しそうに飛び跳ねて、私はちょっとだけ頬が引きつった。
こっちに飛んでくるのは、ドラゴンだ。見慣れた、というほど見てはいないけど、それでも誰が来たのかはすぐに分かる。ルルだと思う。もちろんエドガーさんの可能性もあるけど、あの人はちゃんと転移門から歩いてくると思う。少なくとも、自分から目立とうとはしないはずだ。多分。
ドラゴンが広場の上空で制止する。そして飛び降りてきたのは、やっぱり魔女だ。
何かしらのスキルでも使ったのかな。それなりの高度だったのに綺麗に着地して、私たちの方に歩いてくる。それはもう悠然と。
これは、あれだ。オーラが違う。まさに強者の風格……!
「何やってんのばかあ!」
「ふぎゃ」
あ、オーラが霧散した。
いつの間に来たのか、アリスがルルにドロップキックを喰らわせた。べちゃっという音が似合いそうな倒れ方をしたルルを、アリスが馬乗りになって叫ぶ。
「なんで! ファトスの! 広場の! ど真ん中に! ドラゴンに乗って! 乗り込んできたのかなあ!?」
「あう……。ごめ、ごめん……。落ち着いて……」
「落ち着けるかあ!」
「ひぃ……」
うーん。カオスだ。
壁|w・)例え目立っても、最速で駆けつけたいルルさんでした。
次回は今度こそケサランパサランと会います。
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ではでは!