配信一回目:ラッキー紹介
『どういうこと?』
『運営と行政が許可を出したってことは、それなりの理由があったってことだろ。間違い無く楽しい話じゃない』
ああ、それだけで察する人もいるのか。当然と言えば当然だけど、でも少し驚いた。気付いても、何も言わないと思ってたし。
『まあそれ以前に、ミレイの妹っていったら、あの子だろ?』
『おや?』
『なんだ、知り合いか?』
「え、誰? 知ってる人?」
コメントしか流れてなくて名前まではないから分からない。せめて声があれば分かるけど、仕方ないね。
『エストだ』
『おま、正真正銘の上位プレイヤーじゃねえか!』
『なんでこんな配信にいるんだよ!』
さりげなくバカにされたような気がするけど、けれど、その名前を見た瞬間の私の反応は一つしかない。これ以外あり得ない。
「うげえ……」
『めっちゃ嫌そうwww』
『顔w 顔がひどいことにw』
『そこまで嫌がらんでも……』
「おっと、失礼」
エストはちょっとしたことで知り合った私の知り合いだ。何かしらイベントがあると常に上位に名前を連ねるプレイヤー。つまり、正真正銘の、
「廃人さん……」
『事実だけど。事実だけど!』
『エストがここまで嫌われるって珍しいなw』
まあ、うん。なら説明役とかは任せてもいいかな。だからもう放っておこう。そうしよう。触らぬ変人になんとやら、だ。
れんちゃんの元まで行くと、れんちゃんは頭にラッキーを載せたまま草原ウルフに乗って頬ずりしていた。我が妹ながら大丈夫かいろいろと。
『おお、幼女だ』
『これは間違い無く、幼女!』
『幼女! 幼女!』
「へ、へんたいだー!」
『お前が言うな、シスコンw』
「さーせん」
否定できないので謝っておく。れんちゃんはかわいいからね。変態さんを大量生産しても致し方なし! れんちゃんかわいいからね!
「れんちゃん」
「あ、おねえちゃん」
れんちゃんがこっちを見る。私の少し上を浮かぶ光球と流れるコメントを見て、首を傾げて。すぐに配信のことを思い出したのか、あ、という顔になった。
「お、おねえちゃん、もう始まってるの?」
「始まってるよ。れんちゃんがウルフにだらしない顔で頬ずりしていたのもばっちり撮ったよ」
「ええ!? ひどい! おねえちゃんのばか! だいっきらい!」
「え」
あ、まって、そのことば、結構心にきちゃう。すごく痛い。心が痛い。
「れんちゃんに嫌われた……」
膝を突いて、がくりと落ち込む。するんじゃなかった……。
「あ、あ、おねえちゃん、ごめんね、ちがうの、きらいじゃないよ、だいすきだよ」
「本当に……? 許してくれる?」
「うん。怒ってない。おねえちゃん、だいすき」
「れんちゃんありがとうかわいいなあああ!」
「わぷ」
れんちゃんはなんて優しいんだ! 思わずぎゅっと抱きしめて頬ずりする。はあ、もちもちだ。ここまでリアルとか、すごいね運営。れんちゃんいい子!
『なるほど姉妹だ』
『てえてえ』
『てえt……いや違うだろw』
れんちゃんがもぞもぞ動いているので放してあげる。もう少しなでなでしたかったけど、うっとうしがられると泣きたくなるから。立ち直れないから。
「おねえちゃん、えと、カメラ? って、どれ?」
「それ。そのぼんやり光ってるやつ。ちなみに黒い穴がレンズみたいなもの、なのかな? で、上の黒い部分がみんなのコメントね」
『れんちゃんこんちゃー』
『幼女! 幼女!』
『れんちゃんはれんちゃんでいいのかな?』
なんか変な人がまじっている気がするけど、まあネットゲームなんてそんなものだから。
れんちゃんを見ると、少し緊張しているみたいだったけど、丁寧に頭を下げた。
「初めまして! れんです! えと、テイマー? です!」
『えらい』
『挨拶できてえらい』
『ミレイとは全然違うな』
「はいはい挨拶忘れてすみませんでしたよ」
『ところでれんちゃん。その頭にのってるのって、もしかして……』
やっぱり気が付く人もいるか。れんちゃんは頭の上のラッキーを撫でて、言う。
「えと、私が初めてテイムした子です。らっきーです。ラッキーウルフ、なんだって」
「察してる人もいるみたいだけど、あの逃げる小さいウルフね」
『マジかよあれテイムできたのか!』
『かわいい! すごくかわいい! もっと見せて!』
そのコメントに、れんちゃんがぱっと顔を輝かせた。ラッキーを持ち上げて、ずいっと光球に近づけて。さすがにそこまで近づけると、視聴者さんからはラッキーの顔、というかお腹しか見えてないんじゃないだろうか。
「この子はね! すごくもふもふしてふわふわしてるの! すっごく甘えてきてくれて、かわいくてかわいくて! すごく、すっごく! かわいい!」
『なるほど姉妹』
『れんちゃん落ち着いて落ち着いて。見えないから。お腹しか見えないから』
『お腹だけで分かる圧倒的ふわふわ感。しかし近いw』
「あ、ごめんなさい」
慌ててれんちゃんがラッキーを下げると、それはそれで不満なのか、もう少し、もうちょっと、というコメントが流れてきた。どっちなんだよ、と思わず呆れてしまう。れんちゃんも困惑してるみたいだ。
ネットゲームだからね。いろんな人の意見があるから、全部聞いていたらきりがない。
『すぐ逃げるのにどうやってテイムしたん?』
当然くるよね、その疑問。私は山下さんから答えを聞いてるけど、れんちゃんには話してない。というより、それ以前にれんちゃんはすぐに逃げられることすら知らないと思う。言ってないし。
「え? 逃げなかったよ? 近づいたら、こっちを見てたの。だからおねえちゃんからもらったエサをあげたの。手のひらにおいて近づいたら、ぺろぺろなめてね。すごくかわいかった!」
『なるほど、わからん』
『かわいさだけは伝わった』
『チートでもしたんじゃねえの? もしくは運営のえこひいき』
そういう意見も出てくるだろうね。れんちゃんは意味が分からなかったのか首を傾げてる。仕方ない、代わりに答えよう。
「チートはない。なんなられんちゃんはずっと運営に見守られてるから、すぐにばれる」
『つまりそれって、仮に俺らが無理矢理聞き出そうとしたら……』
「いわゆるBANじゃないかな?」
『ヒェ』
おっと、他の視聴者さんたちからも当たり前だろうが、馬鹿か、とすごく突っ込まれてる。仮にだから、と言い訳してるのが面白いけど、私としては助かった。わざわざ説明しなくて済んだからね。
壁|w・)もふもふ自慢するれんちゃんはかわいく書けてるでしょうか……。
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ではでは。