配信四十三回目:ひよこもふもふ
れんちゃんが近くまで来たので、ヒヨコを手渡す。ヒヨコを受け取ったれんちゃんはヒヨコと見つめ合って、おっかなびっくり撫で始めた。ヒヨコさんはとても気持ち良さそうです。
「わあ……。もふもふふわふわ……」
れんちゃんの顔もとろとろです。肩の朱雀がちょっと不満そうなのは気のせいかな?
「れんちゃん。ひよこはそっと優しく手で包んであげるといいらしいよ」
「つつむの?」
「そう」
首を傾げながら、れんちゃんはひよこを手で包む。ちゃんと顔を出してあげてるところはさすがというべきか。れんちゃんなら言わなくても大丈夫だとは思ったけど。
ヒヨコはしばらくじっとしてたけど、やがてうとうととし始めて、眠ってしまった。
「わ、わ……。おねえちゃん、ヒヨコさん、寝ちゃった……!」
「うん。手の中でヒヨコが寝たらいい抱き方なんだってさ」
「そ、そうなんだ……」
じっと、眠ってしまったヒヨコを見つめるれんちゃん。かわいい。にまにましちゃう。そしてれんちゃんの周りに集まってくるヒヨコたち。れんちゃんはまだ気付かない。
『かわいい。死ぬ。死んだ』
『成仏して』
『れんちゃんかわいい。ヒヨコもかわいい』
『かわいいとかわいいでもう無敵だな……』
本当にね。見ていて私も幸せな気持ちになれる。
少しして、周りのヒヨコに気付いたらしい。一瞬だけ体を強張らせたけど、すぐに寝てしまったヒヨコをそっと地面に置いて、次のヒヨコを抱いた。そのヒヨコが眠ったら、また次のヒヨコ。
気付けばれんちゃんの周りのヒヨコは全部熟睡してた。すごいねれんちゃん。
『一羽も寝かしつけられなかったミレイとは雲泥の差だな』
『誰の側が安心か、ヒヨコもよく分かってる』
「うるさいよ」
ほっといてほしい。まさかれんちゃんが戻ってくるまで一匹たりとも寝なかったのはびっくりだ。ちょっとだけへこみそう。いやでも、れんちゃんのかわいさで相殺かな! うん! 間違い無い!
『ミレイの顔から察するに、ろくでもないこと考えてるな』
『わかる。わかりたくないけど』
『もうそれなりの付き合いだからな』
「だからうるさいよ」
ヒヨコはあくまでおまけ要素だ。いや本当に。鶏親子の説明文にも、おまけでヒヨコが五羽ついてきます、て書かれてるほどに。まあ、コメントから察するに、ヒヨコを目的で購入した人も多いみたいだけど。
鶏をペットにしていると、鶏の巣から毎日卵をもらえるのだ。ゲーム内の一日につき一個、つまりリアル一日で四個もらえる。当然だけどゲームなので孵ることもないので安心。そもそもとして有精卵か無精卵かすら分からないけどね。
「というわけで、れんちゃん」
「ん……。なあに?」
「鶏の巣はどこに置きたい?」
巣、というよりも、卵を置いておく入れ物に近い扱いだろうけど。よくあるいかにも鳥の巣、というような形状だ。目立つわけでもないから、どこでも問題ないと思うけど。
れんちゃんは少し考えてたみたいだったけど、子犬たちのいる柵の側に置くことにした。置いた瞬間、鶏たちが集まってくる。雌鶏が巣の中に入ると、ぽん、と軽い音がした。
雌鶏がやれやれすっきりしたとでも言いたげに、巣から離れる。まさかと思って見てみたら、早速卵が入っていた。うん、その、なんだ。えっと……。
『ふんみたい』
「やめてくれないかな!?」
『草』
『誰もが思いながら黙ってたのにw』
『誰もいない時に産卵するようにしとけよw』
もうちょっと、やりようがあったよねこれ。こんな言い方するとあれだけど、ちょっと汚いというか……。
『ちなみに器官は当然違うけど、出口は肛門で同じなんだぜ』
「それ今言うことかなあ!?」
『え、いや、マジで?』
『マジだぞ』
『もちろん流通してるリアル卵はちゃんと洗われてるから安心しろよ!』
「つまりこれは?」
『…………』
「黙らないでもらえる?」
いや、まあゲームで何を言ってるんだって話なんだけどさ。リアリティのあるゲームだから、やっぱりちょっとこう、忌避感というか、うん……。どうしよう……。
「おねえちゃん?」
れんちゃんの視線が痛い。観念して食べるとしよう。
「れんちゃん、鶏さんが毎日卵を産んでくれるから、毎日食べられるよ」
「ゆでたまご!」
「そうゆでたまごもだ! あれ……? れんちゃんそんなにゆで卵好きだったっけ?」
『あの大きい卵のあたりで食べたくなってたんだろ』
『どこかの心無い視聴者さんの発言のせいでな』
『冷酷な視聴者っているんだな』
『ごめんなさいごめんなさい、いやでもそんなに言われること……?』
それならまあ、分からなくもない。お預けされちゃったからね。早速作ることにしよう。
「というわけで、朱雀。火をお願いできるかな!」
私が言うと、小さく頷いて飛び始めた。私のお願いもちゃんと聞いてくれるみたいだね。
さてさて。野外で料理をしようと思ったら色々と準備がいるところだけど、ここはゲーム、そのあたりはちゃんと快適にできるように配慮されてる。
アイテムのたき火セットを使うと、ぽんと軽い音とともに薪が出現。しかもちゃんと燃えやすいように組まれた状態。さらに言うと、効果時間の三十分が過ぎるまで燃え続ける親切設計。
「ちなみにリアリティを求めるなら自分で薪を組んでもちゃんと燃えるらしいから、そっちの方がいい人は自分でやってね。私は面倒だしできる気がしない」
『おなじく。あれ、意外と難しいよな』
『そうか? 慣れたら簡単だぞ』
『その慣れるまでが大変だって話だよ』
便利なものはどんどん使う主義なので私は気にしない!
「朱雀。お願い」
朱雀が薪の上でぱたぱた羽ばたく。すると火の粉がいくつか落ちて、薪が燃え始めた。
「おお……。なんだこれ」
「わあ……!」
れんちゃんもちょっと驚いてる。これは、ちょっと幻想的な光景だ。
朱雀の火の粉で燃える火は、金色だった。特別感がある。すごい。でも色以外は特に変わったことはなくて、あの独特なぱちぱち音もちゃんとある。
壁|w・)ぴよぴよ。ひよこはすごくかわいいのです。
ちなみに卵はちゃんと自動洗浄されている……かもしれない……。
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ではでは!