配信一回目:開始
午後七時前。カメラの役割になる光球がふわふわ浮かぶ。この光球が私たちを撮影して、皆さんにお届けする、らしい。淡い光の光球には小さい黒い点があって、これが向いている方向を撮影している、とのことだ。光球そのものは配信者である私を自動追尾して、思考を軽く読み取って私が撮りたいものを撮ってくれる。
で、その光球の上には大きめの真っ黒の板みたいなものがある。ここに、誰かが書き込んだコメントが流れてくる、という形だ。一応設定で、視界にそのまま表示されるようなこともできるらしいけど、私だけ見れても仕方ないからこの形式にした。
主役のれんちゃんは、ウルフたちと追いかけっこの真っ最中だ。まあ、うん。勝手に始めよう。
というわけで、七時になりましたので配信開始をぽちっとな!
わくわく、わくわく!
…………。
うん、まあ、初配信にいきなりコメントがつくわけが……。
『初見』
「なんかきた!?」
『ひでえw』
「あ、ご、ごめんなさい。いや、正直なところ、誰も来ないと思ってました」
『大手のゲーム配信だから初放送でもそれなりに来る』
『もう結構来てるぞ』
『百人。一回目でこれなら十分では』
そんなばかな。半信半疑で視聴者数を見て……、あれ? どうやって見るんだっけ?
「すみません。視聴者数ってどうやって見るんですか?」
『うそだろwww』
『コメントの右下にちっちゃく出てるぞ』
「ありがと! ……おお、ほんとだ。百人こえてる」
言われて黒枠の右下を見てみると、視聴者数の欄があって人数が書かれていた。百二十人。十人いくかな、程度しか思ってなかったからびっくりだ。
「百人も、何するか明記されてない配信に……。暇なの?」
『辛辣ぅ!』
『ははははは。その言葉は俺にきく』
『まあなんだかんだと、やっぱりゲームは男の方が多いからな』
『女の子の配信、しかも姉妹、数が取れないわけがない』
「はあ……。そんなもんですか。退屈な配信だと思いますけど、ゆっくりしていってください」
『あいよー』
『ところでもふもふは? もふもふは!?』
おっとそうだった。れんちゃんを探すと、真っ先にディアが視界に入る。いやあ、さすがに大きいから一番目立つね。
『あれってフィールドボスか? てことはここは、ファトスのお隣?』
「あ、いえ。妹のフィールドです」
『待って。それって、フィールドボスをテイムしたってこと?』
「ですよー。我が最愛の妹のテイムモンスターです。もふもふです」
そう言った瞬間、なんか大量のコメントが流れ始めた。やっぱりフィールドボスがテイムされてるってのは衝撃だったらしい。気持ちは分かる。とても分かる。
ディアは追いかけっこには参加せずにひなたぼっこをしているみたいなので、手招きしてみる。すぐに気が付いてくれて、こっちに来てくれた。のっしのっしと、貫禄がある。改めて見るとかっこいい。
『うわ本当にテイムしてやがる。情報! 情報はよ!』
『まてまて落ち着け。テイムしたのは妹さんだろ? 主に聞いても仕方ないだろ』
『そう言えば完全に流れてたけど、自己紹介してくれ』
なるほど自己紹介。そう言えばしてなかった。光球に向き直って、こほんと咳払い。わざとらしい、なんてコメントが流れたけど、私は気にしない!
「皆様初めまして。今日から配信を始めましたミレイです。この配信では妹がテイムしたもふもふをのんびりうつしていきます」
『戦闘とかは?』
「予定はないです。のんびりまったり配信です」
『把握』
よかった。戦闘しろ、とか言われたら面倒なところだった。
きょろきょろ見回す。この先はれんちゃんに聞かれたくないからね。視聴者さんたちが不思議そうにしているので、すぐに視線を戻した。
「というのが妹の方針です」
『ん?』
『おや?』
「私の目的はもふもふをもふもふする妹がとってもかわいいので自慢したいだけです。妹がとってもかわいいので。とっても! かわいいので! 大事なことなので三回言った!」
『草』
『把握www』
『シスコンかw』
「ああそうだよシスコンだよ文句あるかこの野郎! れんちゃんかわいいからね、仕方ないね!」
『自分で言うなw』
『やべえ久しぶりにぶっとんだ配信者だw』
『で、その妹さんはどこ? ミレイと同じ美人さん?』
『もしくは妄想の中の妹とか』
「ぶっ殺すぞ」
『ヒェ』
まったく。失礼な視聴者さんだ。いや、私も沸点低くなりすぎかな。どうにも、れんちゃんが絡むと怒りやすくなりがちだと思う。もう少しのんびりしていきましょう。
「妹はれんちゃん。美人というか、かわいいよ」
『どういうこと?』
「んー……。見れば分かる!」
というわけで、改めてれんちゃんを探します。れんちゃんれんちゃんどこですか。いや、その前に側まで来てくれたディアの相手かな。
『でけえ』
『間近で見ると迫力あるな』
『紛う事なき初心者キラーだからな。調子に乗った初心者を絶望にたたき落とす』
「うんうん。私も苦労した。勝てるかあほ、とか思った」
『わかるw』
みんなが通る道だと思う。
そんなことよりれんちゃんを探しましょう。
「ディア。れんちゃんを探したいんだけど、乗せてもらってもいいかな?」
ディアは頷くと、私が乗りやすいように寝そべってくれた。なんてかわいい子なんだ。よしよし、のどをもふもふしてあげよう。ここ? ここがいいの? うりうり、かわいいやつめ。
『いや、妹さん探せよw』
「は! そうだった!」
ディアの頭を撫でて、その背に乗る。ディアがゆっくりと立ち上がった。おおう、見晴らしいいね。いい景色だ。
視聴者さんもあまり見ない光景に興奮してるみたい。まあ大きいウルフに乗るなんてみんな初めてだろうからね。
さてさてれんちゃんは、と……。追いかけっこはもう終わってるみたいで静かだ。でも、すぐに見つけることができた。草原ウルフが三匹集まっていて、その中心でもふもふしていた。
「見つけた!」
『え? ちょっと待って、小さくない?』
『まてまて落ち着け、制限に引っかかる。ミレイさんよ、妹さんは何歳だ?』
「七歳。今年で八歳」
『アウトじゃねえか!』
『チートか!?』
「ほんっとうに失礼だね。説明してない私も悪いけど」
まあさすがに黙っておくわけにはいかないとは思ってる。それに、仮にもれんちゃんは一度だけとはいえテレビに顔を出しているのだ。気付く人もいるだろうと思えば、早めに言った方がいいと思う。
ディアから下りて、もう一度撫でてかられんちゃんの元へと向かう。
「れんちゃんに関しては特例で許可をもらってるの。もちろん、行政にも届けてあるよ。なので、ちゃんと公認です。疑うのなら運営に問い合わせてもいいよ」
『はえー。なにそれずるい』
そう言われるのは分かっていたけど、実際に言われるとちょっとだけ頭にきてしまう。口を開こうとしたところで、
『本当にそう思うのか?』
そのコメントに、口を閉じた。
壁|w・)姉にブレーキなどあるはずがなく、最初からぶっ飛んでます。
でもれんちゃんの出番がなかった……。
2000ポイント突破のお礼、になるかは分かりませんが……。
今日の夜もこっそり更新します。
内容はこの続きではなく掲示板回になります。
配信一回目の直前に差し込み投稿しますので、ご注意ください。
時間は帰宅して家事を終えてからなので、やっぱり未定です……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。