配信四十二回目:かんかん!
「こわいの?」
返答は、ありません。なので、ラッキーも腕に抱いて、二匹まとめてぎゅっとします。
「こわくないよ……」
そうしていると、二匹とも落ち着いてきたみたいでした。
『ママ味を感じる……』
『ままー!』
『お前ら大丈夫か……?』
『わりとやばいかもしれない』
のっそりと、大きな男の人がルルさんの前に立ちました。筋肉もりもりの男の人です。その人はルルさんをじろじろと見て、鼻を鳴らしました。
「はん。魔導師だろお前。こんなところに何の用だ」
ちょっと、怖い人です。思わず二匹を抱く力が強くなってしまいます。ラッキーもそらちゃんも、れんのほっぺたを舐めてきました。
「ん……。見学。この子が、体験したいらしいから、案内した」
そう言って、ルルさんがれんを前に出します。ちょっと、やっぱり怖いかも。
けれど、男の人はそれを聞いて破顔しました。
「なんだよそれを先に言えよ! でもこんな嬢ちゃんが? 大丈夫か?」
「が、んばります……」
「おう! がんばれ!」
男の人が大きく笑いながられんの背中をばしばしと叩きました。
鍛冶も手動と自動があるそうですが、さすがに鍛冶はほぼ全ての人が自動だそうです。
そして鍛冶の自動でのミニゲームは、ハンマーで小さな剣の光っている箇所を叩くというものでした。力を入れれば入れるほど、いいものができるそうです。
なので、れんは張り切りました。
「ていっ!」
「ぐはあ!」
振り下ろした手には、なにもありませんでした。ハンマーはどこへ。
視線を上げると、少し遠い場所にいる、筋肉もりもりなおじいさんが頭をおさえていました。おじいさんがゆっくり立ち上がって、こちらに振り返ります。おじいさんの手には、れんが持っていたハンマーが。
『なあ、これやばくないか? やばくないか?』
『いや、待って、本当に待って。こういう時ってどうなるんだ!?』
『運営さーん! 山下さーん! 助けてあげてー!』
コメントがたくさん流れていきますが、れんの視線はおじいさんを向いたままです。
おじいさんがこちらに歩いてきます。どう見ても睨まれています。怒ってます。当たり前です。
す、とルルさんが間に立ちました。
「おう。このハンマー、そこの嬢ちゃんか」
「ん……。ごめんなさい」
「あん? お前じゃないだろ。黙ってろ」
おじいさんがれんの前に立って、そして。
ハンマーを渡してくれました。
「気ぃつけろ。俺だから良かったが、一般人なら死ぬからな?」
「う、うん……。ごめん、なさい……」
「あーあー、泣くな泣くな。ほれ、教えてやるから。いいか? ちょっと力みすぎなんだ。持ち方は……」
なんだかよく分かりませんが、とても丁寧に教えてくれました。
『優しい世界』
『ここのNPCってみんな人ができてるよね……』
『お前らもちょっとは見習え』
『おまえもなー』
おじいさんに教えてもらいながら、かんかんします。かんかんします。かんかんかん、と光っている箇所を叩きます。なんだかとっても楽しいです。かんかんかんかん。
そうしてできあがった小さなナイフは、とてもではないですが出来がいいとは言えませんでした。けれど、れんにとってはこれで満足です。大事に使おうと思います。
「まあ初めてにしちゃ上出来だろ。がんばったな、嬢ちゃん」
そう言って、おじいさんはあらっぽく撫でてくれました。
鍛冶ギルドを出た後は、次の場所へ、なんて最初は思っていたのですが、ちょっと疲れちゃいました。やっぱり人が多いと疲れてしまいます。アリスさんやルルさんがいてくれて、本当に良かったと思います。
「れんちゃん、次はどこに行くの?」
「んっと……。あのね、ちょっと疲れたからね、帰ろうかなって……。だめかな?」
「ん……。いいと思う。無理する必要はないから。一人で帰れる?」
「うん。だいじょうぶ」
最後にそらちゃんをぎゅっと抱きしめて、次にニーズヘッグちゃんにも抱きついて。どうせなら、ニーズヘッグちゃんとも遊びたかったな、とちょっとだけ後悔します。でも、それはまた、次にしましょう。
「ありがとうございました」
ルルさんにぺこりと頭を下げると、ルルさんはうっすら笑顔を浮かべて頭を撫でてくれました。
「それじゃあ、ホームに帰るね」
『うい。おつかれー』
『気をつけてな』
『気をつけるも何も一瞬だけどな!』
『そう言えば、途中からミレイいなくないか?』
『確かに……』
・・・・・
壁|w・)ちょっと遊びすぎたかもしれない……。
今回は短めになってしまいました。申し訳ないです。
次回は、ミレイ視点に戻りまして、れんちゃんと合流です。
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ではでは!