配信一回目:準備
「やる!」
配信の打診をしてみたところ、れんちゃんは即答だった。断られるだろうと思っていたからびっくりした。
「え、あの、いいの?」
「うん! みんなに見てもらうんでしょ? 見てもらう! 自慢する!」
それを聞いて、妙に納得してしまった。血は繋がってないけど、私の妹だなあ、と。
つまりれんちゃんは、テイムしたラッキーとディア、それにたくさんの草原ウルフを自慢したいのだ。私が妹を自慢したいように、この子は友達を自慢したいのだ。
分かる。分かるよれんちゃん。その気持ち、とっても分かる!
今、ここに! 私とれんちゃんの利害は一致した!
「よし、じゃあれんちゃん。早速だけど、今日は配信してみよう!」
「うん!」
と、ここまでが病室でのやり取りなわけだ。
帰宅した私は早速ゲームマスターの山下さんに連絡した。するとすぐにゲーム内で会いたいと言われたので、ログインして山下さんと会ってみた。
「正気ですか?」
大変失礼ではあるけど至極真っ当なお言葉でした。
「だ、だめですか?」
「だめ、とは言いませんけど……。佳蓮さんがそれをやりたいと言っているなら、止めはしませんけど……」
なんとも不思議な表情。山下さんが何か悩んでいるのは分かるけど、それが何なのかは分からない。私が首を傾げていると、山下さんは少し考えながら口を開いた。
「佳蓮さんもやりたいのなら、こちらとしては構いません。お二人なら妙なことはしないと思いますし……。ですが、佳蓮さんのテイムモンスターを見せるのですよね?」
ラッキーとディアのことかな。それはもちろん出すことになる。むしろれんちゃんはあの子たちを自慢するのが目的みたいだし。かわいいからね、気持ちは分かるとも。
「必ず、心無い言葉をぶつけられます。これに関しては、断言します。それでも、大丈夫ですか?」
「あー……」
なるほど。ちょっと考えてなかったけど、当たり前だ。きっと、チートとかそんなことを疑う人も出てくると思う。罵詈雑言も、きっとある。
「そのことも、一度佳蓮さんに話してみてください。それでもやってみたいということでしたら、こちらでもできる限りのサポートはさせていただきます」
「すみません。ありがとうございます」
その後は色々と細かい部分を決めてから、時間になったのでれんちゃんに会いに行くことにした。
で、話した結果のれんちゃんの反応は。
「別にいいよ」
とってもあっさりしたものだった。これには私の方が予想外です。
「いいの? 私が言うのもなんだけど、やめた方がいいかもしれないよ」
「だいじょうぶ。いやならやめるよ!」
「あ、はい」
それもそうか、とも思う。れんちゃんの目的はこの子たちだものね。変な悪評が立ってパーティに入れなくなった、なんてことがあっても、関係ないのは確かだ。多分気にせずここでもふもふし続けてる気がする。
「それにね、そういう怒られるのも、いいかなって」
「れんちゃんが変態さんになった!?」
「おこるよ?」
「ごめんなさい」
いや、でもだって、そんな怒られるのもいいとか言われたら、いわゆるMな変態さんになったと思うと私は思うのですよ。私だけですかそうですか。
「あのね、そうじゃなくて」
「うん」
「わたし、他の人を知らないから」
「あー……」
納得した。してしまった。
れんちゃんは病室から出ない。出られない。だから、れんちゃんの世界はあの部屋で完結してしまっている。れんちゃんにとって、他の人というのは、家族を除けば主治医のおにいさんと、れんちゃんのことをよく知る看護師さんの二人だけ。
もちろん検査とかで会う人もいるけど、稀にしか会わない人はいないものと大差ないだろう。あの子にとっての他人は家族含めても五人しかいなくて、五人ともれんちゃんを叱るということがあまりない。れんちゃんが良い子だから叱る必要もないだけなんだけど。
だから、れんちゃんにとっては、人の悪意ですら珍しいものなんだと思う。見てみたい、と思うほどに。こればかりは、私には理解したくてもできない感覚だ
けれど、うん。れんちゃんがそれでいいなら、やってみよう。
というわけで、配信準備です。まあ準備といっても、タイトルやコメントを考えるだけで、あとは自動的に設定してくれるんだけどね。
「ところでれんちゃん。さっきから、ラッキーが私をよじ登ろうとしてるんだけど」
「うん。かわいいね」
「いやかわいいけど」
さっきから、小さい足で私の足をのぼろうとしてるんだけど、まあ当たり前だけどうまくいってない。私が座ってるならともかく、立ってるし。だからなのか、前足でぺふぺふ叩かれてるだけになってる。
仕方ないので抱き上げてみる。何故かとっても嬉しそう。
「れんちゃんれんちゃん。この子ちょうだい」
「は?」
「いやごめん。冗談だからそんなに怒らないで」
びっくりした! れんちゃんのマジギレなんて初めて見たんだけど! 怖い!
幸いすぐに怒りは治まったみたいで、れんちゃんは私が呼び出していたシロをもふもふしてる。とりあえず、一安心。
ラッキーを頭に載せて、改めて準備だ。
えっと、とりあえずタイトルは、テイマー姉妹のもふもふ配信、でどうだろう?
壁|w・)短いですが、これ以降だと区切りが難しいので……。
次回、ついに配信開始です。
……でも更新はちょっと遅くなるかも……。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。