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第1話



「司令官。前線の戦闘兵団より入電、まもなく攻撃部隊の展開が完了します」


 様々な電子音の鳴り響く司令室に、通信兵の若者の声が響いた。


「うむ」


 A合衆国の総合軍司令官である私、ジェームズ・T・カミングスII世は、部下の声に軽くうなずいた。


 ここはA国の中枢にある、軍の指令基地。目前の巨大スクリーンには大きな地図が映し出され、それぞれの地域に輝点が蛍のように灯っている。この点ひとつひとつは、我が軍の兵団を現していた。


 そして地図が表すもの――それは「R連邦」の南に拡がる広大な領土だった。


 ここ数十年でA国の財政は急激に悪化、社会に多種多様な歪みを引き起こした。このままでは国庫が枯渇するのは時間の問題だった。そこで大統領が取った手っ取り早い解決への道、それが他国への接収行為だった。


 目標は広大で肥沃な平原を有するR連邦。土地は資産。土地は金である。かなり前から極秘裏に調査されていたのだが、R国が有する大地に埋まっている天然資源の価値は計り知れなかった。


 いちど目をつけたらあとは因縁をどう付けるかの問題だ。原始の時代から基本的な喧嘩の仕方は変わっていない。幸い我がA国には最新の軍備と高度に組織化された軍隊があるものだから、話が早い。


 世論はあれどいったん照準が定まると、因縁は罵り合いとなり簡単に国同士の喧嘩へと発展した。国交が断裂してからは、事態が一気に戦争へと進んだ。


 A国の軍隊が戦地に赴けば、それだけでR国の命運は尽き、首都から降伏の旗が上がるまで三日もかからないと各国の軍事評論家たちは予想していた。


 だが実際はどうだろう?


 宣戦布告から二ヶ月が経過した今もR国は存在しており、なんら通常と変わらない経済活動を行っているように見えた。


 それもそのはずでR国の荒れ地で行われた最初の戦いで、我がA国の軍隊がことごとく壊滅させられたのだ。


 A国はR国の軍事レベルがお話にならないぐらい低いと判断していた。それが大きな間違いだった。ようするに舐めきっていたのだ。


 R国は自軍に厳しい情報統制を強いていた。だから彼らの軍隊の構成・規模・兵器に関するA国の知識は殆ど更新される事がなかった。


 この敗戦で前の総司令官は精神的に病み、ろくに会話もできない廃人のような存在になってしまったらしい(彼は帰国後まもなく軍法会議で処された)。


 そしてこの私に司令官の任がまわって来たというわけだ。


 この大役を前に、私は多くの戦いを制してきた者だけが知る高揚感に包まれていた。


「必ずやA国の全人民の期待に応えます」失敗が死よりも辛い不名誉であることを充分承知していた私は、この言葉を胸に刻み込んだ。


 すぐに軍の情報機関の長と話をすることにした。R国の不気味で得体の知れない軍部の動きが気になったからだ。


 私は売られた喧嘩を買う前に徹底的に相手を観察し、そこからどう撃退するかの戦略を練る性格(たち)である。特に敵の情報を正確に漏れなく把握することには、時間を惜しまない。


 よって私の最初の指令は、敵国の中枢に大量のスパイを送る事だった。


 結果を得るまでに多少の時間を要したが、ついにR連邦国の部隊構成や最も重要な兵器の情報まで、漏れなく入手する事に成功した。


 私はこの情報をすべて「レッド・ノート」と呼ばれるデータベースにまとめ、全部隊に配信した。中身を徹底的に覚え込ませ、どのような敵が現れても問題なく対応できるよう計画を練り上げさせた。


 この完璧なまでの成果を大統領に報告した時の彼の賛辞が忘れられない。この戦争が終われば、私の戦歴はさらなる輝き放つだろう。そう確信していた。



 ついに二度目の進軍の日がやって来た。


 最初に、洋上に展開した第六艦隊が、雨のようなミサイルを敵の大地に叩き込んだ。その混乱を利用して、隠密行動を行うチームが即座にR国の各地に散って行った。


 先程、ステルス爆撃機が最初の任務から帰還した。先陣に展開されていた対空砲火を行うユニットをあらかた叩いたと報告があった。


 あとは待機している我々の揚陸艦、艦上から飛び立つ戦闘ヘリ、垂直離陸が可能な攻撃機が、じわじわと敵を追い詰めていくだろう。


 この電撃作戦で、R国は反撃もできぬまま降伏の白旗を掲げるに違いない。


 私は、司令官だけに座ることが許された大きな椅子の背もたれに体を預け、タバコに火をともした。強い香りの漂う最初の一服を味わう。


 司令官という職務とこいつは似ている。香しい煙とこの手に全てを把握しているという快感。このふたつは何度味わっても良いものだ。


 私が次の煙を吐き出した時、司令室の計器のひとつからブザーがビィと鳴り響いた。


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