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リオの店  作者: コココ
2/5

リオの店って…

# 一郎


ティアドロップのレンズが


あなたの涙をかくす


レンズの奥の瞳が


哀しく潤む


レンズ越しに


私を見詰める


あなたの瞳が


見える


僕を


僕を




# お盆


お盆休みも終わり、今日からリオの店も開店よ


みんな、お盆何してたの?


ママはね、両親のお参りに行ってきたの


小さな納骨堂があって、二人はそこに入ってるの


ママも将来そこに入るのよ


今思うとかわいい二人だったのね


生きてるうちはなんだか大変そうだったけど


また、恋人同士に戻って、気ままに楽しく仲良く暮らし


てくださいって


私がそっちにいったら、よろしくね、ケンカしないで仲


良く暮らそうねって


父には白い、母には薄紅色の菊を、二つ合わせて供えて


きたの



# 父母


骨箱って言うのかな


父の骨箱を、手にとって見たの


ずしっと重たいのね


61才で末期で引き離されるやうにして逝った事思い出し


たわ


足や手の骨もしっかりしていて胸の辺りに緑の液体が不


自然にあったのを覚えているわ


薬だったのね


焼くときには、親戚から、「兄さん!」って大きな声がか


かったわ


父も辛かったでしょうね


母の骨箱は、羽のように軽かったの


85才で逝ったのよ


寝たきりのような暮らしも、長かったのね


本当に軽いの


長いこと大変だったと思うわ


父の重さと、母の軽さを感じたら…


父の重さと母の軽さを感じて、少し泣いて帰ってきたの




# 大丈夫


そして最後はみんなの無事と幸せを、長く長く手を合わ


せて祈ってきたの


頼りなかった父が優しく大丈夫だって言ってくれて、頑


固で、勝気だった母がお茶目に笑っていたわ


さぁー後はママに素敵な恋人が出来ればいいだけね


頑張りましょ!



# 待ち人


あら、サトミちゃん、どうしたの?そんな顔して…、最


近来ないって?…さみしいって?…会いたいって?…


大丈夫よ、そのうち来るわよ


いい事よね 待つ人がいるって


あっママの待ち人が来た


いらっしゃい


最近、雨が続いてるわね…



# いつもの店内


ほらほら、サトミちゃん、いつ来るかわからないんだか


ら、化粧直し、綺麗にしてきて…


お客様、今日は、何にします?


えっ…もう日記書くの?


それはいいんだけど…


えっ…書いたら、後で見てって…


ええ…もちろん、それはいいんだけど…


はいはい、メモと鉛筆


ハイ、消しゴム(カウンター下から出す)



# リオの店風景


カウンターでは、ママと男がお箸を持つように当たり前


に手を取り合って居る


何かを話しながら、二人の手は熱弁を振るう会社の社長


のようにキビキビと動き出し、ママは男の肩を力強く叩


き、男も晴れやかに明るく笑ったりしてる


ちょっと離れたところでは、サトミちゃんが、恋人らし


き若い男のおでこの小さなたんこぶを、大丈夫?と心配


そうに撫でている


若い男は、ちょっと甘えたような目でされるがままにな


って居る


そのうちママは常連の男が差し出した何か書かれた紙


に、赤鉛筆で校正し出した


サトミちゃんはと言うと、なにやら急に、ほっぺたを可


愛く膨らませ、またプンプン怒り出し、相手の男の手の


甲を叩き出した


若い男は、目をまん丸くして居る


他のお客様も、来店し出し、リオの店は次第に活気づき


出した



# いつも…


はじめ、頼りなさげに困った顔をしていたが、ついに男


も少し怒ったのか、ドアをパタンと閉めて無言で出て行


った


サトミちゃんは、泣き出して居る


「あらっ行っちゃった」


「サトミちゃん…」


「だってだって…」


「ほらっ、早く追っかけて行きなさい!」


サトミちゃんは、上着もひっかけず、薄着で男の後を追


った


ママはまたいそいそと、熱心に、校正し出し、


カウンターの男はママの前で眠そうに頬杖を付いている



# 楽しい二人


「大変だな」


男は豆をつまみながら、さほど同情してる風でもなくぼ


そっと言った


「いいのよ あの二人は」


「楽しそうでいいわね」


ママは校正に夢中だ



# サトミちゃん


星の明かりと、夜の灯りに囲まれて、二人の寄り添う影


はずっと動かなかった


車のライトが当たっても、道行く人が振り返っても、風


が二人を揺らしても、じっと離れずにいた


薄ごろものサトミちゃんは、男の広い胸の温もりにしっ


かり包まれていた



# 差し入れ


「ママぁ、焼きそば、いっぱい作って来たよ


みんなで食べよう!」


「きゃーうれしいわん」


「こっちが豚肉抜き、こっちが豚肉いっぱいネ」


「さすがイチロウちゃん! いつも気がきくわねぇー」


「サトミちゃんは?…」


「そのうち帰って来るでしょ さぁ食べよう食べよう」



# お客様


「もう誰も構ってくれないよ


優しくしてくれるのは、ネクタイ売り場の店員さんだけ


だよー」


「あら、それでいいのよー」


「もう散々、構われたでしょ、もうそれでいいの」


「なんだか寂しいよ…」


「バカね…みんな寂しいのよー」


珍しくママも酔っている



再びサングラス


この前、サングラスを忘れていったお客様がいて


また見えたのね


カウンターで、独り孤独を肴に飲んでいるんだけど…


ぅきやー…孤独を肴に…


そう、2年前に去っていった恋人を、ママの店で待って


るのよ


前は二人でよく見えてたのよ


壁の二人のボトルも埃で白くなり、二人の名前も、もう


よく見えない…


ぁきゃー待ってるんだ独りで


そう…あの日彼女が出て行った店のドアを背に


ふきゃー


それでね


たまに光の加減で、サングラスの奥の寂しげな目が見え


るのよ


罪よねー


なんだか、誰にも見せない本心を、私だけはわかったよ


うな気になるのね


絶対そんなことないのにね


ちょっと、太宰作品に似てるわね


あれやられるわー


自分だけはわかる…みたいな


ほんと罪


もう、ままの母性本能のど真ん中に


ドキューンよ!



# リオの店のチホちゃん


あらっまたチホちゃんがいない


チホちゃん!


チホっ


あらやだ いないわ~


どこに隠れちゃったのかしら……


お客様よ…!


チホっ


ごめんなさいね お客様!



# 好きな人


チホちゃんね


好きなお客様だと、


まともにお話し出来ないのよ


恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがないんですって


人見知りなのね


(……?……)


あら出てこないわ


隠れちゃったのね…


よっぽどお客様の事が好きなのね…


(……?……)


ほんと、どこ行っちゃったのかしら


ごめんなさいね…



# 今夜は


「また来るよ…」


「本当に申し訳ありません…」



#チホちゃん


「あっ!チホちゃん!」


「そんな影から見てないで…!」


「お客様、帰っちゃったでしょ」


「全くもう、しょうのない娘ねェ」


「だって………」



# 別の夜


ママ 「あっ チホちゃん


ほらほら、ここに居て」


「………」


お客様「………」


ママ「ママも側にいるから大丈夫 ねっ」


「………」


お客様 「………」


ママ「何になさいます?


はい、どうぞ」


「………」


お客様 「………」



# 年


お客様「チホちゃんっていくつ?」


「102才」


ママ 「チホちゃん、変な冗談言わないの…!」


お客様「ほんとはいくつ?」


「2001才」


ママ 「………」



# あれっ


あっ チホちゃん…チホちゃんチホちゃん…


どこいくの…チホちゃん…


かくれちゃったわ…


ほんとにもう…ごめんなさい


# チホちゃんっ?


チホちゃん、あっ どうしてそんなところにいるの!


危ないでしょ! 何してるの!


どうしてそんなところに登ったの!


おりてらっしゃい!


ほんとにもうそんな所で何してるの


チ!…チホ!…チホちゃん!



# サトミちゃんも…


お客様「おれ、もう帰るわ」


ママ「本当に申し訳ありません…」


あ…あれっ サトミちゃん


えっ…ち?血が出た?


ど…どうして⁈…どうしてなの⁈



# チホ!


お客様「ママ、ママんとこの娘って…」

………


「かわいいでしょ…」


「ほんとにもう…みんな…」


「チホちゃん…どうするの? 好きなんでしょ…


えっ! さっき電話があったって⁈」


「話は出来ないけど、電話番号渡したって⁈」


「なんだって⁈」


「そう…また来るって…」



# リオの店のチホ


あっまた!


チホちゃん どうしてそんな所にいるの!


危ないでしょ!


降りてらっしゃい


どうやって登ったの⁈


フーじゃない


フーじゃないでしょ


ヘェー


ヘェーでもない



# 別の夜


あっお客様 いらっしゃいませ



チホ、探して来ますからね…


えっ、さっき別れて来た…


さっきまで、チホの部屋に居た…?


そ…そうなんですかぁ……


?????? ?



# ほんとにもう


チホ「エヘヘ…」


ママ「………」


ママ「よかったわね チホちゃん」







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