第12話 ~冒険者ギルド
活動報告にコメントをありがとうございます。
それを見た結果、無理のないように挿絵を入れていこうかと思います。
旧作とは微妙に違う挿絵にしていこうかな、書き直しってヤツです。リメイクですし。
まぁ物語中心にいきますがね。
ーティルー
金のことを考えてニヤついていると、
「そういえばティルさん、生産ギルドへは登録の為に来たんですよね? …ということは冒険者ギルドの方も未登録だったりします?」
エイミーさんが思い出したかのようにそう聞いてきた。…冒険者ギルド? …冒険者の話題は今し方していたところだが、俺自身は冒険者ギルドに登録しとらんじゃないか。生産ギルドへ登録したのだから、冒険者ギルドにも登録した方がいいかね? 生産の出来る冒険者を目指しているわけだし。
明日辺りに総合ギルドへ行って、冒険者ギルドエリアの受付にて登録でもしよう。そう思った矢先、
「直ぐにでも登録しましょう! 草原狼を討伐したということを伝えるついでに登録するんです! 一刻も早く伝えて、北の草原の脅威が無くなったことを冒険者の皆さんへ伝えなくてはいけません!」
再びエイミーさんが興奮し、俺の腕を掴んで引き摺ろうとしてくる。まぁエイミーさんの細腕程度では、この俺を引き摺り連れていくことは不可能。体格が違うのだよ、体格が。
「私が冒険者ギルドへ案内しますから、早く行きましょうよティルさん! 重要なことなんですから!」
…そこまで言うなら明日行くのは止めて今日行くか、総合ギルドではなく直接冒険者ギルドの方へ連れていってくれるようだし。生産ギルドと同じように、他のPC達よりも先へ行ってしまう俺ってばラッキーだな。やはりNPCとの仲を深めることこそがF.E.Oを楽しむコツであり、先へと進む為の鍵となるんだろう。
エイミーさんに引っ張られながらも個室内を片付け、綺麗になったことを確認してからエイミーさんの案内で冒険者ギルドへと向かうのであった。
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エイミーさんの案内で迷うことなく着いた冒険者ギルド、生産ギルドから少し離れた場所に居を構えていた。所々に傷の付いた建物が荒々しく感じ、冒険者達が集う場所…と見ただけで分かる。それに様々な装備で身を包んでいる者達が周囲に複数人おり、生産ギルド周辺とはまた違った雰囲気がある。これはこれでファンタジー! と内心興奮してしまう俺がいる、…冒険者ギルドとは男心を擽る場所のようだ。まぁ…俺の場合なんだけどね、他の者がどう思うかは知らん。
エイミーさんを先頭に中へと入る際、周囲の冒険者達は俺達に視線を向けていた。エイミーさんはともかく、俺に対して何かを探るような…計っているような…そんな視線を。その視線が妙に気になって顔を向ければ、揃いも揃って視線を外し顔を背ける。そしてコソコソと何かを話している姿がホント気になるんだけれど、エイミーさんから離れるわけにもいかない為に気になる気持ちを振り払ってギルド内へと足を踏み入れた。
…で俺は受付にて、登録の為の手続きをしている。俺の背後では、エイミーさんが受付嬢に対してガンを飛ばしていることが凄く気になっている中での手続きだ。…何故にガンを飛ばす?
「…それでは、ティル様の情報を確認させて頂きます。」
冒険者ギルドの受付嬢が一瞬、エイミーさんを鋭く睨み付けてから水晶板を操作する。彼女の名はフィオラ、緑色の髪が鮮やかな眼鏡美人のエルフだ。エイミーさんが言うには堅物エルフとのこと、…確かに笑顔が無いほぼ無表情…いや、僅かに顔が強張っている。俺の視線を感じたのか、更に強張り固くなって…って俺が原因かよ! てっきりエイミーさんのガン付けに対してかと思ったよ、冒険者ギルドの受付だから俺のような奴には慣れているんじゃないの? 俺ってNPC冒険者以上の悪党顔なわけ? 俺も自然と口元がヒクついてしまう、…そのことに対して。
微妙にショックを受けた俺は、水晶板を操作しているフィオラさんの反応を注視していると、
「このLVでこのステータス…、スキルも見たことのないモノがありますね。魔物討伐数はさほどでもな…っうぇっ!? 不殺の草原狼を討伐したのですか! 冒険者殺しのユニークモンスターを…!しかもPTではなくソロで…ってソロですか!?……これが神の使者であると言われている客人冒険者様の力、…規格外であると認めるしかありませんね。」
やや強張り気味のフィオラさんは操作をする度に声を上げ、違う意味で震えだしながらも俺を畏怖の目で見てくる。エイミーさんが興奮して喜ぶ程の狼討伐は、冒険者ギルドではちょいと反応が違うらしい。ユニークの恐ろしさを知っているからこその反応か、生産ギルドのエイミーさんとは受け取り方が違うみたいだ。
狼討伐を知ったフィオラさんは目を閉じて深呼吸をし、改めて俺に視線を向ける。先程とは違い強張っていた表情も柔らかくなり、恐怖とか畏怖とかの感情は消えて好感度? 友好度? よくは分からんけども、俺を見る目が劇的に優しくなったような…気がする。
「ティル様、貴方のお陰で北の草原の脅威であった草原狼は討伐されました。それにより北の草原による見習い冒険者達の活動が活発になることでしょう。生産者や商人、街の方々も未だ危険に変わりありませんが以前よりも、北の草原にて活動される方々が増えることでしょう。全ての者に代わりまして、このフィオラがお礼を言わせて頂きます。北の草原を解放して下さり、ありがとうございます。」
そう言って深く頭を下げるフィオラさん、そこまで感謝されると何とも…ねぇ?
軽く話を聞いてみると北の草原は総じて魔物が弱く、見習い冒険者達もよくそこで狩りをするのだそうで。…しかしある時、突如として現れた草原狼により見習い冒険者が殺される事件が発生。連続して素材採取の生産者、各地を渡り歩く商人クラン、街の外れにある畑の様子を見に行った住人等も殺されたとのこと。
安全の為に腕の良い冒険者PTを討伐に向かわせるも一人を除いて全滅、生き残った者に話を聞けば、『奴にはこちらのありとあらゆる攻撃が一切通じない、確実にこちらの命を狩る化物だ!』との言葉を残し、その時の傷が癒えることなく引退した。そして最悪なことに北の草原だけではなく、各地に似たような魔物が出現し猛威を振るった。
その後の討伐も失敗が続き、いつしか北の草原へと向かう者は少なくなっていった。それでも生活が懸かっている以上…活動しないわけにもいかず、それにより週数人の犠牲者を出しながら何とか活動してきたそうな。
何とか草原狼を討伐出来ぬものかと、一人の神官が儀式を経て神に尋ねた。神託により返ってきた言葉は、『それらの魔物は総じてユニークモンスターという、各地に現れるそれらの魔物は不殺なり。討伐しようと思うことなかれ、戦意を向けねば襲い来る魔物少なし。近々神の使者たる客人が遣わされる、不殺の魔物は客人の来訪により除かれる。…時を待つべし。』だったようで。その神託により討伐は断念、客人の来訪を待ちつつユニークを警戒しながら今まで行動していたらしい。
意外に重い内容、NPCに厳しい世界観のようですな。…そんなことがあったのなら、多く存在するユニークを1匹でも討伐されたら嬉しいわな。……それにそんなことを聞いたら、出来る限りユニークを討伐しなくてはという使命感が出てくる。他のPCが聞いたらどんな反応を示すか分からんけど、少なくとも俺はそう思った。この世界に限ってNPCは生きている、それを出来る限り守りたいと思うのは変なことだろうか? …とにかく、俺は決意を新たにF.E.Oをやってやるぜ! と思ってみたり。…でも、無理はしませんよ? 俺の知るNPCさえ守れればいいや、と思う俺がいるんで。
…このことを他のPCに話してみようかな? どんな反応をするのか本当に気になる。ユニークに関することを聞いてモヤモヤと考えている俺に、
「今回の件について当ギルドはティル様に大変感謝しております、つきましてティル様へお渡しするギルドカードは特別な物となります。特別なギルドカードは当ギルドの支部長権限により発行されます、故にユニーク討伐の件を含めまして支部長へと報告させて頂きます。ティル様にはもう暫くお待ち頂くようお願い申し上げます。」
そう言って一礼をし、この場を離れようとするフィオラさんに対しエイミーさんが、
「チンタラと手続きなんかしてないで、さっさと速やかに発行しなさいよ! フィオラさんは事務関連だけが取り柄なんだから、…それが出来ないとあれば残るのは貧相な身体だけでしてよ?」
…と、とんでもないことを言い放ちました。え…何? 何でエイミーさんはフィオラさんに対してそんなことを言うの? ギルドに来た時からフィオラさんにガンを付けていたよね? 何となくは分かっていたけど仲が悪い?
俺は嫌な奴オーラを出しているエイミーさんに驚きつつ、ピタリと立ち止まったフィオラさんの後ろ姿を見る。心なしか少しだけ寒くなったような…、これはプレッシャー? …放っているのはフィオラさん!? 俺がそのことに驚愕していると、フィオラさんはゆっくりとこちらを振り向き…ギロリッ!
「…他ギルドである肥えたエイミーさんは黙って貰えるかしら? …その不快な身体が目障りなので。」
殺意を込めた鋭い目でこちらを睨み付けてくる、…正確には後ろにいるエイミーさんにだが。その言葉を吐き捨てて、再び歩を進め奥へと消えたフィオラさん。……女の人って恐いね?
フィオラさんの捨て台詞? それを言われたエイミーさんはさぞやご立腹…かと思いきや、何てことはないニコニコ笑顔だった。
「あははははは♪ 持たざる者の嫉妬は心地よいですね! 貧相な受付嬢であるフィオラさんを待つのも勝者の余裕です。…ねっ! ティルさん♪」
……先程の軽いやり取りの中でエイミーさんが勝利したのか? …どこら辺に勝敗があったのか、俺には分からない。分からないが分かったことがある、エイミーさんとフィオラさんは犬猿の仲だ。…彼女達の過去に何があったのか? …何かスゲーしょうもないことでズルズルしてそう、俺は密かにそう思った。
…暫くしてからフィオラさんが戻ってきて、彼女から手渡されたギルドカードはキラキラ輝くクリスタル仕様。生産ギルドで貰ったカードは普通のスマホって感じだったが、冒険者ギルドで貰ったコイツは豪華だ。手に持ち見ているだけで溜息が漏れてしまう、特別なギルドカード…素晴らしいじゃないか!
「このクリスタル製のギルドカードは先も申し上げましたが特別製です、ユニークモンスターを討伐しました客人冒険者様専用のギルドカードとなります。これをお持ちの方は様々な点で優遇させて頂きます、例を挙げるのであれば受付での事務対応でしょうか。」
ユニークを討伐したPC専用のギルドカードか、…ということは俺以外でもユニークを討伐すれば貰える物ってことだな。基本PCはレアに弱いからな、このことを掲示板に挙げればユニーク討伐に躍起となることだろう。それ即ちNPCの身が安全になるということ、…暇があったら挙げることにしよう。
…で、フィオラさんが言う受付での事務対応の優遇について。本来であれば魔物討伐や採取系の依頼は、依頼を受けてから討伐や採取等をするものである。依頼を受けていなければ、魔物を討伐しても報酬は貰えないしギルドポイントは上がらない。そもそも採取系は納品が出来る筈もなし、無駄になるわけである。しかしこのギルドカードを所持する者は、依頼を受けていなくとも受付が依頼を受けたものとして処理をしてくれる。
自分勝手に討伐した魔物は対象の依頼があれば、その依頼を受けたものとして処理をしてくれるということだ。採取とかも同じようなもので、受付に採取のことを伝えれば対象の依頼がある時に限り処理をしてくれる。普通ならば討伐数はノーカンとなり、依頼を受けてから改めて討伐しなければカウントされない。採取系も依頼を自分で探し、改めて受付へ行って処理をして貰わなくてはならない。…それを考えると破格の対応と言えるだろう、最初にも言ったが自分勝手な行動を受付では依頼として自動的に処理をしてくれるのだから。ギルドの優遇特典…スゲーな、他にも色々あるようだけど…それは追々ってことで。
優遇特典の一つを教えて貰ってから、自身の登録が終わっていることを伝えられた。登録を終えたとのことでギルドランクについて説明される。ギルドランクはSS・S・A・B・C・D・E・Fに設定されており、一つのランクに+と-、ランクFであるのならF+・F・F-と、一つのランクで3つに分けられる。細かく3つに設定した方が冒険者の生存率が高まる、出来る限り生きて帰ってきて欲しいからそうしたようだ。そうなったのはユニークの登場により冒険者の数が減ったという事情もあるらしい、…そりゃそうだろうなぁ~と俺は思った。
俺達PC冒険者は死に戻ることが出来るがNPCにはそれが出来ない、NPCにとってこの世界が現実であるのだから。そう思うとこのランク設定はいいね、細かく分けてそれに見合った依頼が割り振られるんだからさ。現に生存率は高まっているようだし、そこに俺の〔投擲ポーション〕が加われば…くははははは! まぁとにかく俺としてはNPCと行動する際、出来る限り守るように立ち回ろうと密かに決意した。
因みに俺は最初からランクE、ユニークを討伐したが初登録の為にこのランクからだそうな。いきなり高ランクよりも、このランクE辺りから始めた方が良い経験を積めるのでは? …という配慮らしい。このランクから本格的な依頼が増えてくるようで、俺としてもありがたいの一言だ。初心者でランクEは異例だそうで、とりあえず地道にランクを上げていきたいと考えている。
「ティル様のご活躍を当ギルド及び私個人も含めて期待しております、…エイミーさんのご来訪は次回よりご遠慮して頂けたら幸いかと存じます。」
無事登録は終えたけれど、生産ギルドに続いて冒険者ギルドにも目を付けられたようですな。…と思いながらフィオラさんに挨拶をしてギルドを出る、その際…エイミーさんとフィオラさんがガン付けし合っていたがスルーしといた。
さてこれからどうするか、次に何をするかを決めていない。もう夜だからログアウトでもするか、…何て考えていると、
テレッテッテッテー♪
『いつもFree Emblem Onlineをお楽しみ下さり、真にありがとうございます。
ただいま冒険者ギルドシアル支部にて、北の草原の《ユニークモンスター》である【草原狼】の討伐が確認されました。
それに伴い、NPCの北の草原においての活動が解放となりました。
本日より、北の草原においてのNPCイベントが起こりうる可能性が追加されましたので、詳しくは公式ホームページの更新をお待ち下さい。』
効果音の後にこのような知らせが届いた。…俺の行動がまた、世界を解放してしまったようだ。草原にNPCが出現する可能性か、イベント…即ちクエストが発生しうる状況となったことだな? …北の草原が再び熱くなるな、色々なことで。レアも解放されとるし、さてさて…どうなることやら。
何だかイベントやら登録やら知らせやらで意外に忙しいもんだ、暇をもて余すよりはいいけどもう少しのんびりといきたい。しかしそうは言っても俺自身、ジッとはしていられない質だからな。結局のんびりとは無縁で忙しなく動くことになるだろう、自分の性格が恨めしいぜ。これからのことを考えていれば、
「気付けばもう夜ですね、ティルさん…どうします?」
隣にいるエイミーさんが声を掛けてきた。…一瞬、彼女の存在を忘れていたよ。
…俺としては特にやりたいことはない、むしろ物作りに精を出しすぎた為に休みたいまである。既に夜だし、リアルでこの後仕事だし。
「夜遅くになるのは都合が悪い、今日はここまでにしよう。それにパートナーと言っても、エイミーさんを長く拘束するのは気が引けるしな。」
エイミーさんは言わないけれど疲れている筈だ、何だかんだで手伝ってくれたり案内してくれたりしたわけなのだから。自身と彼女の身を案じて解散、それがいい。
「そうですよね、これから何かをしたら真夜中になりますもんね。…では、ここでお別れといきましょう。私の方も既に仕事は終えていますし、このまま家へ帰ろうかと思います。」
俺の提案にエイミーさんも賛同し、俺へ一礼した後に立ち去ろうとしたので、
「良ければ家まで送ろうか? 街の中とはいえ、女性一人の夜道は危ないからな。」
そう声を掛けてみた。エイミーさんは立ち止まってからこちらを振り向き、
「えっと…いいんですか? …それじゃあ送って貰えますかね? …実はちょっと恐かったりするんですよね、夜は変な人も多いですし。」
ちょっと嬉しそうなエイミーさん、素直に可愛いと思ったのは内緒だ。
そんなわけで、俺はエイミーさんを自宅まで送った。…ログアウトが少し遅れてしまったけど、エイミーさんの自宅を知ることが出来たのは幸運と言えるだろう。
旧作で活躍がなかったヒックス&ウエンツを今作では絡めていきたいと思っています。
故に内容をプラスしました、NPCにも脚光を!
勿論、他のPCも活躍させたい。
誰を絡めるかなぁ~……。
因みに次話は露店の話になります。




