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言葉のつるぎ

ほれほれ、喧嘩かの。なになに?そうかそうか。それはそれは。

ん?絶交とな?

ふむ。おぬし、それでよいのかの?

おぬしの言葉は、いまこの子との間に深い傷をつくっとるぞ?

なんじゃと?みえんじゃと?

それはそうじゃ。

体の傷はみえても、心の傷は見えんからの。まして、絆の傷ならなおさらじゃて。

言葉は諸刃の剣なんじゃよ。

使えば己も傷つくぞ?


そうじゃ、この話を教えてやろう。言葉を使って抗い続けた話じゃよ。

これを聞けば、おぬしもわしの言うことがわかるじゃろ。ほっほっほ。


相変わらず、俺の動きは制限されたままだった。


しかし、俺はそれでも、俺にできることをすると決めていた。

いま、俺は俺の意志で自由に行動することはできない。


俺には、見る目と聞く耳、そして考える頭があるだけだった。

しかし、短い時間でもそれらを使って活動する方法はあった。


手紙。


俺は言葉の力で俺を追い込むことにした。

今の俺は、まだ英雄としてふるまっている。それは、俺自身を縛っている鎖でもある。


俺はその戒めに悩まされたが、今度は俺自身がそれを使う番だ。


まずはメルクーアの状態を改善しなくてはいけなかった。


メルクーアの子はヘリオスと名付けた。しかし、ヘリオスもメルクーアも不義の親子として屋敷の中で言われているようだった。


「アイオロス、夜中にすまないな。これを王都に届けるように。急げよ。」



俺は、初めて自分以外の力に依存した。



しばらくして、その効果が発動した。

「なんだこれは?いったいどうなっている?」

俺はその知らせをうけて驚いているようだった。


王都からの承諾のしらせ。

俺とメルクーアの婚姻について王が了承したことを告げる手紙だった。



「くそ、いったいどうなっている。」

俺の怒りの矛先はその対象を見つけることができずにいた。


俺は思わず笑っていた。


たとえ俺でも、俺の思考は読み取れない。俺の記憶は読み取れても、俺の思考までは読み取れ無いようだった。


しかし、強い感情は違ったようだ。


「くそ!またしてもやつか!」


俺は俺の笑に反応したようだった。

というよりも俺に向けた嘲笑に反応したということか。

俺はどうやら、そういうものに反応できるということだ。


いや、違うな。俺はその可能性を否定した。


これは認識の問題だ。俺の体を「あの俺」が動かしている。しかし、「あの俺」は俺ではない。「あの俺」を俺としてみるから俺の感情も伝わるのだ。

では、どうする。

同じように呼べばいい。俺も「あの俺」のことを奴と呼ぼう。


俺の中で認識が変わった。


奴と俺の間にあった何かが外れた感じだった。


これでいい。これでおれは奴に挑む。

確か「ペンは剣よりも強し」だったよな。

俺は格言を思い出していた。俺は魔剣クランフェアファルに屈した。

だから、今度はペンを取る。


アデリシアの残した希望。

俺の新たな武器

この二つが今の俺のすべてだ。


同時にそれは俺が俺以外の力を信じることにつながったようだった。


その後もおれは夜中に書斎いき、手紙や記録を書く生活を続けていた。

屋敷の人間はそれが習慣としてだれも奇異には思わなくなっていた。


奴の方から屋敷の人間に話しかけることはない。


奴にもたらされるのは奴が望むことだけだった。


ヴォルフとヴィルトシュヴァインには注意が必要だった。あいつらは俺に忠実すぎた。

盲目的に奴に従っているからだ。しかし、あいつらはその役目上屋敷にいることはほとんどなかった。


アイオロスの方は、まだ自分の判断を残している。

できる限りあいつを使って考えさせよう。いつか、自分自身で判断できるようになってくれることを信じることにした。


俺はなるべく強制的な介入は控えていた。俺自身の活動が停止する。これは状況変化に対して常に後手に回ることを意味していた。


先手を取らねば、ただでさえ、一年以上も後手を踏んでいる。


おれがふさぎ込んでいるときに、悲しみの精霊石が破壊されていた。

これでは、精神の精霊のバランスが崩れてしまう。さまざまな異変が起きたのはその時からだった。

女王が何とかしているのかもしれないが、奴はその女王までも封印しようとしていた。


幸いヘルツマイヤーが居場所を変えていたので、すぐには見つかっていない。

しかし、アイオロスを使って、そのほかにも精霊石を破壊させていた。


ヴォルフとヴィルトシュヴァインはベルンや王都に工作をかけていた。

いろんなことが後手に回っているありさまだった。


これ以上は後手に回るわけにはいかない。

俺はそう思っていた。





「兄上お久しぶりです。」

俺はその言葉に意識を向けざるを得なかった。奴の支配の間を抜けて、この俺の支配に戻すには、なかなかエネルギーを必要としていた。

おれは自分の中で待機モードと覚醒モード、緊急モードという風に状態を設定していた。


普段は待機モードで記憶することだけにとどめ、気になることがあると覚醒し考えるようにしていた。


目の前の人物は起きておかねばならなかった。

実家であるモーント男爵家を継いだ弟のエンデュミオンだ。その妻のメーネを伴っていた。そして、メーネの腕には、赤子が抱かれていた。


「名は何と言ったかな」

奴はエンデュミオンに尋ねていた。


「兄上、ルナです。兄上のところのヘリオスとは1歳違いです。将来、兄上のところに嫁に出すかもしれませんので、挨拶させておこうかと思いましてね。」

エンデュミオンは気が早いことを言って笑っていた。


「あれに期待する方がおかしい。あの銀髪は俺の血を引いているのかもしれんが、俺の力は宿っていない。髪の色がそれを物語っている。金色でない子供は所詮出来損ないよ。その点、ルナは違う。健やかに育てよ。ルナ。」

そう言って奴はルナを見ていた。


(やばい。)

俺の中で何かが警告を出していた。

奴はルナを何かに利用する気だ。何かまではわからないが、この感覚を信じることにした。


「まあ、少し年が離れるが、そういうならウラヌスだろな、次男なので逆にこちらから送ってやろう。」

奴は尊大な態度を崩さなかった。


エンデュミオンとメーネが微妙な顔つきになっていた。


「では、挨拶してきますね。」

エンデュミオンは誰にとはいわず、部屋から出て行った。


「ルナか、使えるかもしれんな。あの力は俺の血を引いていないのだがな・・・」

奴はあんな赤子までも利用しようとしていた。


(くそ!)

俺はやるせない思いでいっぱいだった。




「アイオロス、メルクーアとヘリオスをつれてこい。今すぐにだ。」

支配を取り戻した俺は、夜中に二人を呼び出した。


「マルス、いったいこんな時間に何事です。」

ヘリオスをその腕に抱き、警戒心を最大まで高めたメルクーアがいた。その必死の形相は俺に安心感を持たせていた。


「そんなに警戒するな。今の俺はお前たち親子に何もしない。」

おれはそこで、言葉を切った。


「アイオロス、この部屋に今から誰も近づけさせるな、むろんお前もだ。」

俺はそう言ってこの場に3人だけにしていた。


メルクーアは再び警戒心をあらわにしていた。


「だから、何もしない。少なくとも今は。ただ、覚えておけ、俺は危険だ。」

自分で言うのもなんだが、警戒心は解かない方がよい。


「今日、エンデュミオンがきたか?」

俺はそう尋ねていた。


「はい、ヘリオスに紹介してくれました。将来があるかもしれないからと。この子もルナに興味がったようで、必死にその手を伸ばしていたわ」

メルクーアの表情はその時を思い出したのだろう、柔らかなものになっていた。


しかし、ヘリオスの方は相変わらず弱弱しいものだった。本当に生きていけるのかと思うくらい、弱弱しかった。

メルクーアにしても大魔導師と呼ばれるほどの存在だ。いまでも俺の副官としてその実力は抜きんでていた。その子にしてはお粗末なものだった。


屋敷の誰もが陰口をたたいているのは俺の耳にも入っていた。

むしろ聞こえるように言っている奴もいた。ウラヌスだ。


俺の息子なのに、性根が腐っていた。

奴の影響をまともに受けている。そういう感じだった。


(俺と、メルクーア、そしてアデリシアの子供。)

精霊の加護を受け、古代語の力を操り、信仰系魔法をつかう3人の魂を分けた存在。そのものの力がこんなものなのか・・・・。


俺はいつになくヘリオスをじっと見ていた。

その雰囲気に害するものではないと判断したのか、メルクーアは俺にその顔を見せるようにしていた。


その時、俺の中でヘリオスに対して違和感が生まれた。

見ようとしなければ見えない違和感。それはそういうものだった。


なにかこう、つつまれて・・・


俺はあわててその場から後ずさった。


「希望なのか」

思わず小さくつぶやいた。そう言えば、最初に見たときにあの子は光に包まれていた。


そういうことなのか、アデリシア。君は俺にそれを伝えたかったのか?


言いようのない感情が込み上げてきた。しかし、それを出すわけにはいかない。

あまりに大きな感情の記憶は肉体に記録される。そうすれば、奴の知るところとなる。


(落ち着け、これは真剣勝負。心を乱した方が負けだ。)


俺は静かに呼吸を整えていた。


味方は今、俺の心にしかいない。そして敵は俺。そして守るものも表立っては守れない。


(困難な状況だ。しかし、これぞ俺の求めたものか。)

ロマンというにはあまりに無粋。しかし俺にはそれでよかった。


(抱かせてくれとは言えない。そうしたものはメルクーアに残る。メルクーアには俺を最大限に警戒してもらわなくてはならない。)


メルクーア。アデリシアがお前に託したように、俺もお前に託そう。

俺は俺の力を信じるのではなく、相手を信じる力に賭けた。


呼吸を整えた俺は再びヘリオスを見るたびに近づいた。


「ふむ、やはり何も感じぬ。この出来損ないめ。」

俺は心を殺して告げた。


「メルクーアよ、お前の働きだけが、この子を生かしていることを忘れるな。今日エンデュミオンが何を言ったかしらんが、この出来損ないにそんな未来があると思うか?」


俺は、言葉のつるぎをメルクーアに突き刺した。それは、俺の心にも突き刺さった。


(俺を憎め、メルクーア。ヘリオスを守るために。)


「俺はその出来損ないに何の価値も見ていない。お前の価値がその子の価値だ。悔しかったら、お前自身で鍛えてみろ。そうすればお前にもわかるはずだ。しかし、その子をどうするかは俺が決める。お前は俺の言うことを聞いていればいい。」


俺はメルクーアとの間にあるものを、言葉のつるぎで切り付けた。


「マルス。こんな夜中に私を呼びつけ、ヘリオスを侮辱し、あまつさえ私に再度脅迫するのですか。」

メルクーアの瞳に怒りが見えた。


(それでいい。メルクーア。その力ヘリオスを守ってくれ。ほかならぬ俺自身から。)


お前とは分かり合えないだろう、メルクーア。

俺はお前を傷つけて、お前との間にあった信頼すら断ち切った。


許せとは言わない。理解してくれとも言わない。

お前の中の英雄マルスを殺すことが今の俺にできる唯一の方法だ。


目的は一緒だ。二人でヘリオスを守ろう。しかし手段は違う。そして、この同盟は俺に知られてはいけない。


だから、メルクーア。今日から俺はお前にとって憎むべき対象になろう。

警戒すべき対象になろう。


そして、おれは分かり合うことを許されないこの同盟者に最後の希望を託すため、言葉のつるぎを最大にして抜き放った。


「その銀髪が何よりの証。俺の力を持つ者は金の髪を持つものだ。その子はお前の子であることは確かだが、俺の力は何一つ受け継いではいない。みろ、その弱弱しいまでの力を。お前も知っているだろう、アデリシアと俺の子はみんな生まれた時から金色の髪を持つにふさわしい力にあふれていた。俺とお前の子では、俺の力は受け止められなかったのだ。だから、お前が証明して見せろ。その子が俺の子であることを。しかしせいぜい気を付けることだ。この屋敷にはお前を疑っているものも大勢いる。その子が俺の子であると疑っているものもな。そして、俺もその一人だがな。」


嘲りと嘲笑、侮辱に誹謗


俺はメルクーアとヘリオスに罵詈雑言を浴びせかける。

言葉のつるぎは容赦なくメルクーアにあびせかけた。


それは同時に許されない痛みが俺を切り裂いていた。しかし、それを表に出すわけにはいかない。


「その銀髪は罪の象徴。お前の不義がこの子で証明されているのだ。」


最後のとどめのつるぎをメルクーアに突き刺したとき、メルクーアの中で英雄マルスの断末魔が聞こえたようだった。


「いいでしょう。マルス。あなたに証明して見せます。アデリシアの望みもありますので、私はここを去ることができません。私はどこかであなたに甘えていました。今日でそれは終わりです。そしてヘリオスの成長をその目に焼き付けるといいわ。この子の髪は単なる私の銀色ではないことをその曇った目でみるがいいわ。この子の髪は白金。私の銀とあなたの金を超えるものよ。」

メルクーアは燃えるような瞳でそう言い捨てて去って行った。


これでいい。

俺はそう思っていた。


これで、メルクーアは俺に対して甘えを持たないだろう。奴に対して最大の防壁になるはずだ。そして、俺を見返すために、あの子を本気で鍛えるだろう。


そしてそれを見て心動かされる存在がいる。

プラネートにヴィーヌスだ。

心優しいあの子たちなら、アデリシアの血を特に強く受け継ぐヴィーヌスならヘリオスを自分の意志で守ってくれるはずだ。


そのとき、おれはヴィーヌスにしたことを思い出していた。


(やばい・・・・ヘリオスを一番大事に思った時、ヴィーヌスはヘリオスを傷つける・・・・。)

しかし、どうしようもなかった。あの指輪は呪いだ。あの呪いの解除にはデルバーでさえ困難なはずだ。


今更後悔してもし方がない。


俺はそう考えるようにしていた。手段はヴィーヌスとの接点を少しずらすことだ。それについてはアイオロスを使えば可能だろう。


あとはルナか・・・・

ともかく、今はまだ大丈夫だ。警戒だけするように仕向けるか。


そう思い俺は手紙を書いた。



お前たちにはその子は分不相応だ。

いずれその子を貰い受ける。

それまでせいぜいかわいがっておくことだ。


この文面であれば、なにかでやつに知れても大丈夫だろう。


これでいい。英雄マルスはアデリシアと共にすでに死んでいる。

しかし、人々の心には生き続けている。それを殺すには、俺がそうしなければならない。


そうしなければ、奴の脅威を知らせることができない。

俺には言葉のつるぎとペンしかない。しかも、言葉のつるぎは奴が寝ているときに目の前にいるものにしか使えない。


ならば書くしかない。

その絆のすべてをペンで切り刻む。


奴に疑いの目を向けてもらわなければならない。

奴を警戒してもらわなければならない。


すべてはそこから始まると信じて、俺は俺の心にその諸刃のつるぎの力を持って絆を断ち切っていった。


俺はアデリシアを亡くした。しかし、アデリシアの希望まではなくさない。

それを守るためにはなんだって捨てよう。


それが俺の戦いだ。


どうじゃ?諸刃の剣の力は?

言葉はの、人を幸せにもするが、人を不幸にもする。

関係を築くこともあれば、壊すこともできる。

言葉は剣

その剣は諸刃にて、使い手を選ばぬのじゃよ。

道具じゃからの。


そのものの意志で守るのか害するのか。しかし、守るために害することもできる。

要は使い方なんじゃよ。


じゃから、害意を持ってやすやすと抜いちゃいかん。

道具は正しく理解して使ってやらんとの。

火は温めてくれるが、使い方を間違えるとやけどするじゃろうが。あれは火が悪いのか?

そういうことじゃ。

英雄はそれを正しく理解しておったのじゃ。

そして、自分との絆をあえて断ち切ることで、自分が危険だと知らしめることにしたんじゃよ。

人の心の中にある像はなかなか変えられんからの。何せ人の心じゃから。

それをするには、上書きしかないんじゃよ。


孤高の英雄は、自らを貶めることで、自分が脅威であることを訴え続けたんじゃ。

誰からも理解されない戦いに身を置く決心をしたのは、さすがに英雄だけはあろとわしはおもんじゃが、どうかの?

ほっほっほ。こりゃいかん。語り部が意見を押し付けてはの。

わしはただ、事実を話しておるにすぎん。どう考えるのかはおぬしらじゃよ。ほっほっほ。


おお、ミヤ。おぬしはよくわしの心を読んでおるの。わしをまたくるんでくれんか・・・。痛みがはげしくての・・・・。

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