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魔獣侵攻

おぬし、このアリはなぜこうも乱れずに歩けるのかわかるかの。

それは個々がシンプルなルールに従って行動しておるからじゃよ。そして全体として機能するようになっておる。これが小さな生命の生き方じゃ。

では魔獣はどうかの。

魔獣は個がすべてじゃ。中には群れるものもあるが、個として社会を形成するものじゃ。

絶対的な数が少ないのは、そのためじゃわい。

では、魔獣が集団として機能した場合のことを考えたことがあるかの?

そうじゃ。

おぬし歴史を知っておるの。

それが魔獣侵攻じゃ。

これはわしの生まれる前の話。

魔獣侵攻と英雄誕生の話じゃわい。


「すごい・・・こんなものがあったなんて。」

魔術師はその財宝の価値におどろいていた。


「おいおい、でもこれって俺らの手に余るんじゃないか?」

戦士はその価値の恐ろしさに身震いしていた。


「そうだな、俺歴史に名前のこしたいけど、これを使ったなんて残したくないな・・というか使った時点で終わりだよな。ふつう。」

盗賊は自分の価値観を披露していた。


「これはしかるべきところで管理してもらうのがいいだろうね。」

神官が具体的な案を出していた。


「しかるべき所ってどこよ」

魔術師はその候補をある程度考えていた。


「そりゃ、冒険者組合とか?教会とか?」

戦士が適当に候補を上げた。


「そんなところダメでしょ。普通に警備がいて、厳重で、一般人が立ち入れないところよ。」

魔術師は戦士の意見を否定していた。


「なると、王国しかないよな。ここはアウグスト王国に預かってもらうか。報奨金がたのしみだな。」

盗賊はその見返りにたんまり謝礼をいただく算段だった。


「それにしても、良くこんなものが今まで使用されずにいたよな・・・・」

神官はそれが使われずに良かったと思っていた。


「秘宝クラスだったりして。」

魔術師はそう願っていた。これ以上物騒なものは勘弁してほしかった。


「そうだな・・じゃあ持ち帰ろう。」

戦士はその壺を持ち帰るため、台座ごと魔法の袋に入れていた。


「形が違うからわかるかもしれないけど、一応ここに注意が気もあるからそのほうがいいだろうね。」

神官は戦士の判断をほめていた。


「いや。単にこれにも価値があると思っただけで・・・・」

戦士は照れていた。


「あなたらしいわね」

魔術師の声に、パーティ全員が笑っていた。その発見は世紀の発見として王国の歴史に刻まれていた。しかし、発見者の記載はのちに削除されていた。

それは唯一生き残った魔術師が、自分たちの行為をのちの世に汚点として刻まれないように希望したためと言われていた。




「そしてこれが、3種の召喚の壺じゃ。左から魔獣召喚の壺、妖魔召喚の壺、そして悪魔召喚の壺。となっておる。このうち、悪魔召喚の壺はすでに機能しなくなっておる。発見時からそうらしいが、理由はわからん。」

デルバーはそう言って若い魔術師に説明していた。


「デルバー師。具体的にはどういうものなのですか?」

若い魔術師は自分の役目上、その効果について説明を求めていた。


「そうじゃの。大体はそこの台座に書いてあるが・・・。まあいいじゃろう。いずれもその名のものを召還するために使うもので、召喚されたものは召喚したものの命令を忠実にこなすようになっておる。ただし、それは術者によって強制力が違っての。中途半端な力で呼び出せば、その支配は逆転するようじゃ。簡単に言えば、主導権争いに負けた方が勝った方を好きにできるみたいなものじゃな。」

デルバーはさらりと説明していた。


「では、私が使うとどうなりますか?」

若い魔術師は興味を持って聞いていた。


「おぬし、何を考えておる?」

デルバーの目が鋭く光った。


「いえ、興味だけです。そんな命知らずではありません。」

若い魔術師はあわてて弁解していた。


「ふむ、まあいいじゃろう。大体のものはそう聞くでの。おぬしの実力なら妖魔召喚で中級妖魔を呼び出した段階で精神を支配されるじゃろ。魔獣ならまず無理じゃの。」

デルバーはそう言って、若い魔術師を脅していた。


「なるほどです・・・。」

若い魔術師はそう言ってその壺を眺めていた。


「ところでおぬし、ヘルブスト公爵家と何かあるのかの?」

デルバーは若い魔術師に聞いていた。


「はい。私の母方の実家がヘルブスト公爵家にゆかりのあるアンファング男爵家でして、そのおかげで、こうして宮廷魔術師の資格を得ることができました。しかも、いきなり宝物庫管理人にしていただけるのは、公爵家のお力添えと思っております。」

若い魔術師はそう言ってデルバーに出自を自慢していた。


「おぬし、名を何と言ったかの」

デルバーは若い魔術師の名を聞いていた。最初に聞いたが忘れていたのだった。


「これは、お人が悪い。わたしはディープ=ツー=アンファングですよ。デルバー師」

その顔は明らかに、家柄を誇っていた。


「(やれやれじゃの・・・こういう手合いが多いから貴族は好きになれん。)」

デルバーは心底貴族を面倒な存在だと思い始めていた。


「では、わしはこの任務を外れるので、今からはおぬしの管轄じゃ。ここのかぎの魔術認証を変えるので、ここにおぬしの魔力マナを通してくれ。」

デルバーは同じく自分の方に同じ動作をしていた。


「よし、これでおぬし以外はこの場所の扉を開けれん。後はよろしく頼むぞ。」

デルバーはようやく終わったこの仕事の、最後の作業に入って正直ほっとしていた。


「では、この引き継ぎ書にサインを頼むの。わしのは書いてあるから、おぬしが書いて事務官に渡してくれ。」

そう言ってデルバーは引き継ぎ書をディープに渡して出て行こうとした。


「あっ」

小さく悲鳴が聞こえたので、デルバーが振り返ると、そこには申し訳なさそうな表情をしたディープがいた。


「どうしたんじゃ、おぬし。」

仕方なく、デルバーは訳を尋ねた。


「申し訳ございません。引き継ぎの紙をあの隙間に落としてしまいました。」

ディープはそう言って魔道具が散乱している箇所の床の隙間を指さしていた。


「なんと・・・・」

デルバーはうんざりしていた。

今からあの山をどかさないといけないのかという思いが顔に出ていた。


「デルバー師。私も実は引き継ぎ書を作成しておりまして、もしよろしければサインをいただけると、これで済みますが・・。」

ディープはそう言って引き継ぎ書をデルバーに渡していた。


「おぬしなかなか見どころがあるの。」

デルバーはそう言ってほめておいた。この後用事があるので、ここは早く済ませたかった。

しかし一応の確認をする。

偽造の魔法はかけられていない。王国宮廷魔術師の引き継ぎ書の形式通りの記載になっている。


「よし。これでいいじゃろ。」

そう言うとデルバーはサインをしていた。


そしてその場を去ろうと、出口に向かったデルバーは、後についてこないディープに声をかけた。


「ほれ、おぬしが一緒でないとわしも出れんわ。」

デルバーは壺を見るディープをみてそう告げていた。


「ああ、そうでしたね。わかりました。」

なぜか不機嫌になっているディープにデルバーは少し警戒しておいた方がいいのかと思っていた。


「(まさかの・・・・)」

デルバーは魔術師という人種をある程度信頼していた。兄弟子ははともかくとして、宮廷魔術師はその思考や言動、そして行動を厳しく確認されてから合格する。

魔術師の中でも、ひときわ自制が効く者たちだと認識していた。公爵家の推薦とはいえ、その試験は絶対だった。

デルバーは自分の感が長らくの平和で鈍ってしまっているのではないかと考えていた。


「(何か忘れているのか・・・)」

再び襲いくる言い知れない不安感を自ら無理やり封じ込め、デルバーは宝物庫を後にしていた。


「ほれ、これでいいか」

ディープは事務官に引き継ぎ書を提出していた。


「たしかに。しかし君もすごいね。宮廷魔術師になってまだ日が浅いのに、いきなり宝物庫管理官だなんてね」

事務官はそう言ってディープを持ち上げていた。


「まあ、調査団にも入ってたから、実力を認められたという感じかな?でも、それも困ったもんだよ?デルバー師からの頼みごとまでやってくるからね。」

そう言ってディープはもう一枚の紙を事務官に見せていた。


「ん?魔道具設置業務引き継ぎ書?なんだこれ?」

事務官はそう言ってそんな話は聞いていないと帳簿をめくっていた。


「そりゃそうだ。デルバー師が申請を忘れたらしい。だからこうして俺が文書を渡されたんだよ。はら、ちゃんとサインもあるだろ。」

そう言ってディープは正規の書類であることを確認させていた。


「ほんとだ。しかしあのデルバー師が申請を忘れるなんて信じられないな。」

事務官は訝しんでいた。


「英雄マルスが久しぶりに王都に来るからじゃないか?」

ディープは考えられることえを伝えていた。

「なるほどね・・・あのデルバー師も英雄に会うのは楽しいということか。わかったよ」

事務官は納得したようで、引き継ぎ書を受け取っていた。

「で、どこに設置するんだって?」

事務官は鍵を渡すのに、その場所を確認していた。


「ああ、大規模転移魔法陣のところだよ。」

ディープはその場所を事務官に告げていた。






宝物庫の仕事を引き継いだ後、デルバーは多忙を極めていた。その多くは貴族との会合であったが、約束の場所まで行くと、ほとんどキャンセルになったり、場所を再度変えられたりしていた。

その合間をぬって自宅にはデルバーの魔術講演を聞きに来たという若い魔術師がきていた。

デルバーはそう言った雑事に追われる日々にうんざりしているころ、その人物はやってきた。



「久しいの。元気じゃったか?」

デルバーはそういってマルスに挨拶していた。


「まあ、元気といえば元気だが、これからのことを思うと憂鬱になる。」

マルスはこれから王との謁見だと伝えていた。それは特にたいしたことではないのだが、そのあとが問題だった。


「あのじゃじゃ馬。謁見後にテラスで待つといってきた。」

マルスは今日来たばかりだったが、きてすぐに侍女が使いにやってきていた。ハンナは実家の都合でお役目を降りていたので、新しく来た侍女だった。


「マルス様。確かにお伝えいたしました。ゆめゆめお忘れなきように。」

侍女はそういってマルスをしっかりと見つめていた。


「・・・・・わかった。」

マルスはそういうしかなかった。そう言わなければ帰るそぶりを見せなかったからだ。


「なあ、デルバー。王都に来なくていい理由ってないものか・・・・」

マルスはデルバーにそう尋ねていた。


「さあの・・・お主のところで新しく古代遺跡でも発見されたならば昨年同様来なくてもよいかもしれんがの。そうそうそういうものはあるまい?」

そういってデルバーは昨年の古代遺跡の成果を思い出していた。今日までの鬱積が晴れる気分だった。


「ああ、あの遺跡はあたりだったな。何といったか。そうだ魔獣のツボだ。あれの台座が見つかったんだよな。あれ、何か特別なものだったよな。」

マルスはあまり覚えていなかったが、その壺には興味を持っていた。


「ああ、魔獣の壺と妖魔の壺じゃ。ともに台座ごと王都で保管されておるが、あの遺跡のものは特別性じゃ。なにせ実力を伴わなくとも、ある程度のものを呼び出すことができるからの。」

そういってデルバーはあの台座についてしばらく詳しく話していた。


「それがお前の今の成果か?それ以外に何かあったのか?」

マルスは興味深そうに聞いていた。

もともとマルスはこういったことにかなり興味を持つ性格だった。未知に対して貪欲だった。そして、それを解明するための行動力もあった。

最近では、人々のためを考えて行動することが多かったが、これには興味を持ったようだった。

「それはつまり、俺でも使用可能ということか?」

マルスは興味本位で尋ねているようだった。


「お主自分のことをもっと知るべきじゃろうて・・・。おぬしなら台座なくてもそこそこのものは呼び出せるわい。その桁外れな力は規格外じゃ。」

デルバーはそういってため息をついていた。


「なるほどなるほど、ということはあの調査に来ていたひよっこ魔術師でも可能なのか?」

マルスは質問を変えていた。


「そうじゃの・・・・あそこにいた・・・?」

デルバーはそういってあの時いた魔術師を順番に考えていた。


「そうじゃ、あのときじゃ。どこかで見た顔じゃとずっと思っておったが、そういうことか。わかったわい。マルスよ感謝するぞ、これですっきりした・・・・すっきりした・・?」

デルバーはすっきりするどころかますますその違和感を覚えるようになっていた。


「まて・・・なぜあのものは母方の姓をなのったのじゃ・・・・しかもあの貴族特有の優越感の顔はなぜあそこでしていた?」

デルバーはあの時は自分との身分の差を思っての顔だと思っていた。しかし、そうでない理由があるとすれば・・・。

「マルスよ、すまん。少し用事ができた。アデリシア姫によろしくの。」

デルバーはそう言ってマルスを残して走り去っていた。


「おいおい、俺が相談したかったのは、まさにそのことなんだがな・・・・。」

マルスは消えていったデルバーにそう文句を言っていた。



デルバーは宮廷魔術師の事務所につくと、事務官に向かって訪ねていた。


「すまんがお主、少し調べてはくれんかの。」

デルバーは有無を言わさぬ表情で、事務官に調査を頼んでいた。

事務官は引きつった笑みを浮かべて、その申し出を受けていた。


「今度、宝物管理官になったディープの家名を教えてくれんかの。」

デルバーは火急の用件じゃと告げていた。


「ディープ・・・・、ディープ・・・・・。ディープ=ツー=ハッカーですね。デルバー様」

事務官は得意そうにそう告げていた。


「ハッカー家じゃと?それはどういう家系じゃ?」

デルバーは聞いたことがない家名について説明を求めた。

貴族の家名をいちいち覚えてられないと思うデルバーは、ついついそのことを記憶の片隅から追い落とす傾向にあった。


「えっとですね。ハッカー家は代々ベルンの代官職の一つ、経理管を担当する家柄ですね。」

そう言って、事務官はその続きの資料を読んでいた。


「しかし、ベルンでの政権争いになるのかもしれませんが、ギルドの幹部会に退陣させられたようですね。ここ数年は経理管は違う家が任されていますね。」

事務官はそれでほかにはありませんかという調子で、最後を締めくくっていたが、デルバーのその表情を見て驚いていた。

「デルバー様、どうかされましたか?」

事務官は思わずそう尋ねていた。


「いや、思い過ごしかもしれんが・・・・。ところで、アンファング家とヘルブスト公爵家の関係はどのようなものかの・・・。」

デルバーは最後にその確認をしておこうと思っていた。


「デルバー様、本気でお尋ねですか・・・?」

事務官は声を潜めてその意思を確認していた。


「むろん本気じゃ。何か不都合があったかの?わしは自慢じゃが、貴族のことはよく覚えんのじゃ。」

デルバーはそう言って早く言うようにせかしていた。


「・・・・アンファング家はヘルブスト公爵家の不義の子を入れる家ですよ。つまり、公にはできませんが、代々ヘルブスト公爵の血を継ぐ者たちです。」

それは、もともとの王家の血を継いでいることでもあった。


「確認する。宮廷魔術師の資格審問で、アンファング家は審問を受けるか。」

デルバーはそう確認していた。


「いいえ、準4大貴族とみなされていますので、アンファングを名乗るものには、例外的な審問となります。事実上ヘルブスト公爵が容認されれば問題はなくなります。」

事務官はそう言って容認されないということはあり得ないと告げていた。


「なるほど・・・・・」

デルバーは自分の感が告げていたことはこういうことだったのかと考えていた。

そして、急に不安になっていた。


「お主、至急警備兵を集めてくれ。場所は宝物庫。大至急じゃ。」

デルバーは先ほどとうって変わって大声でそう命令していた。

有無を言わさぬその調子に、事務官は敬礼し、行動した。


「よし、わしは先に行く。」

そう言ってデルバーは宝物庫に向けて走っていた。


「王城も転移できれば良いのじゃが・・・・」

デルバーは転移阻害装置をいまは忌々しく思っていた。





「なんということじゃ・・・・。」

デルバーはその場で立ち尽くしていた。


デルバーが到着した時には、宝物庫の扉は開かれていた。そして外の警備兵はのどを切られて死んでいた。


デルバーは慎重に中に入って、盗難されたものについて確認するべく、その場所を目指していた。

宝物庫の中の様々な宝物には手も付けず、やはりその二つがなくなっていた。


「なんということじゃ・・・・」

デルバーはそういうしかなかった。

立ち尽くしているデルバーに事務官が声をかけていた。


「デルバー様。至急ハイス王にご報告されては・・・門番に確認しましたが、半日はたっていると思われます。今から追いかけても仕方がないと思われます。」

事務官は遠慮がちにそう伝えていた。


「そうじゃの、ここはお主に任せてよいかの?」

デルバーはそう言って、宝物庫を後にし、王に会いに城の中を進んでいた。


「何に使うのかは明白か・・・ベルンが危ないの。」

茫然自失とした様子から、一変してデルバーは行動していた。





「デルバー様、今はモーント辺境伯様の謁見中です。お控えください。」

謁見の間の衛兵にとがめられたデルバーは、その耳に向かって怒鳴っていた。


「火急の用件じゃ。マルスがいると話が早い。わしは入る。責任はわしが取る。」

そう言ってデルバーは扉を開けていた。


「デルバー。そちの声、ここまで聞こえておったが、何用じゃ?」

王は玉座を離れて、マルスと談笑していた。

マルスも手を挙げて、デルバーに挨拶を送っていた。


「王よ、一大事じゃ。」

息切れをしながら、デルバーはその重大さをどのように伝えるか迷っていた。


「王よ。ベルン陥落の危機じゃ。そしてそれは王都にも向けられるやもしれん。至急対策を取らねばなりません。」

デルバーは原因も、理由もなく、ただ結果のみを先に伝えていた。


「デルバーよ、落ち着け。そなたらしくない。いったいどうしたのじゃ。」

ハイス王はデルバーの肩をつかんで、そう言っていた。


「魔獣召喚の壺と妖魔召喚の壺が盗まれたんじゃ」

デルバーは原因を話していた。


「犯人と思われるのは、ディープ=ツー=ハッカー。母方のアンファングを名乗り、宮廷魔術師の地位を得て、宝物庫係になっとる。そして、モーント辺境伯領の台座調査にも同行しておるんじゃ。」

デルバーは事実を伝えていた。


「また、ハッカー家はベルン代官職をはく奪され、ベルンを憎んどるのやもしれん。」

デルバーは動機をつかんでいた。


「じゃから、あの古代遺跡の台座で、魔獣や妖魔を召喚する可能性が高いとおもうんじゃの。場所的に、ベルン。そのあとは王都が考えれるの。そして、モーント辺境伯領になだれ込む可能性もあるわな。」

デルバーはそう言ってマルスのほうを見ていた。


「面白い。その挑戦受けてやろう。」

マルスはそう言って、デルバーの肩をたたき、よく言ってくれたと感謝していた。

「王よ、このような緊急事態ゆえ、俺は辺境伯領に帰還します。」

マルスはそう言って王に挨拶をしていた。

「あと、デルバーお前の方で、アデリシア王女への説明を頼む。」

そう言ってマルスは王女に会えなくてとても残念だと笑顔で言っていた。


「お主・・・じゃが、しかたない。」

デルバーは苦虫を噛み潰したような顔で、そう告げていた。

颯爽と身をひるがえして、マルスは謁見の間から立ち去っていた。


「デルバー。そのほうが飛んで召喚前に止めれないものなのか?」

ハイス王はそのほうが確実ではないかと告げていた。


「王よ、少なくとも、宝物庫が破られてから半日は経過していると思われます。あそこが破られることはないと過信していたため、見回りも立ち寄らぬようになっております。最後の見回りは明け方ですが、その時は前日の門番だったようです。門番が交代後に殺害されたところを見ると、そうみて間違いはないでしょう。」

デルバーは時間的にもすでに召喚されていると考えていた。


「よし、将軍を集めよ。それと、宮廷魔術師を総動員して、兵をベルンに飛ばす準備を整えよ。」

ハイス王は決断し、近習にそう告げていた。


「なんじゃ、この胸騒ぎは・・・」

デルバーは新たな胸騒ぎに不安を抱いていた。この感覚は信じたほうがいいことはすでに自分でもわかっていた。

様々なことを思い浮かべ、デルバーはその原因を特定しようとしていた。


しかし、どれも当てはまらなかった。

その時、謁見の間にアデリシア王女が乗り込んできていた。

アデリシア王女は周囲を見渡し、マルスがいないこととデルバーがいることをみると、デルバーの方に険しい顔で、近づいてきた。


「デルバー。マルス様はいずこに。」

その迫力に、デルバーは気おされていた。


「アデリシア様。今しがた、マルスは領地に戻りました。ベルン近郊で大規模な魔獣発生の恐れがあるため、それに備えるためです。」

そう言ってデルバーはアデリシアの顔を見ないように頭を下げて、そのあとの言葉を繋げていた。

「マルスよりアデリシア姫に言伝があります。突然の帰還により、挨拶をせずに去ることをお許しください。とのことでした。」

デルバーは、マルスの言っていないことまで付け足していた。


「そうですか・・・・それは仕方ありませんね。」

アデリシアは納得したようで、そう答えていた。


「しかし、デルバー嘘はいけません。マルス様はこのアデリシアを極端に避けています。それもあの魔剣によるものかと思うと、私は悔しく思います。」

アデリシアはデルバーの狂言を看破し、そう告げて帰っていった。


デルバーは頭を下げたまま、動けずにいた。


「この胸騒ぎは魔剣なのか・・・・」

デルバーはそうつぶやき、大量の汗をかいていた。




「よし。もう間もなくだ。」

ディープは恍惚の表情で台座に召喚の壺を収めていた。

一番左に魔獣召喚の壺。真ん中に妖魔召喚の壺をはめて、一息つくと、魔導具を発動させるため意識を集中した。


「まずは妖魔召喚から行ってみるか・・・」

ディープの頭に生意気なデルバーの顔が浮かんでいた。

「下賤のくせに・・・」

しかし、その実力は及ぶものではなかったので、自然と安全な法を選んでいた。

「下級の妖魔ならまず問題ない。いでよ・・・。」

発動の言葉をつむぎ、意識を壺に向けていた。

壺の中から何かが聞こえるような気がしたときに、それに向けて命令する。

手順書の通りにディープは取り行っていた。


「下級妖魔召喚」

ディープの求めに応じて、1体の下級妖魔が現れていた。それは思念でディープに語りかけていた。

「そうだ、お前の一族に命令する。ベルンを滅ぼせ。」

妖魔は何かを叫ぶと、壺の中から1体、また1体と下級妖魔がでてきていた。

最初それは水滴のような出現方法だった。

しかし、それはどんどん早くなり、怒涛のように下級妖魔が壺の中からあふれ出ていた。


あふれ出た下級妖魔は整然と遺跡内部を進み、地表に出て、隊列を整えていた。

最初に現れた1体の妖魔は、完全にこの妖魔の群れを掌握していた。


下級妖魔の王とでもいうべき存在であった。


下級妖魔の王は何事かを叫ぶと、隊列を整えたところから、進軍を開始していた。あやしげな瞳は破壊への欲望に染まっているようだった。


「素晴らしい!」

ディープは叫んでいた。下級妖魔の王は一族1万をベルンへと向かわせると宣言していた。

1万の下級妖魔を召喚しても何ら疲れはなかった。

「いける。」

ディープは台座の効果を確認していた。


「よし、次は中級妖魔だ。」

ディープは同じ作業を行っていた。先ほどよりも少し疲れたが、中級妖魔も1万召喚に成功していた。

「次は上級だ。」

ディープの目は血走っていた。

そして、何とか上級妖魔を5000召喚したのち、ディープは立ちくらみを感じ、その場で倒れていた。


意識を取り戻したディープは、自分がどれほど気を失っているのかわからなかったが、目的はまだ果たされていないと確信していた。

この遺跡からベルンまでは通常徒歩で10日ほどかかる。だからまだまだ妖魔を召喚し、魔獣を召喚し、この世界を、自分の一族を追いやったベルンを。自分の一族を蔑む王都を滅ぼす。

それがディープの望みだった。

「おれは、召喚王ディープ様だ。」

自らの言葉に酔いしれたディープは、自分の姿に気が付いていなかった。限度を超えた力の反動は、ディープの生命で賄われていた。今、ディープは10年年を取っていた。

台座の注意書きには記されていた。

(分不相応な力の行使は、おのれの時間で賄われる)

ディープはこのことを読んでいたが、召喚に時間がかかると思い込んでいた。


「よし、つぎは魔獣だ。下級妖魔のように数を増やせるか・・」

ディープはもはやその壺しか見えていなかった。

「魔獣召喚。なんでもいい。数を、できる限りの数を。」

ディープはそう望んで魔獣を召喚していた。

壺の中から、それを了承した感覚が伝わってきた。

そして、1体の魔獣がディープの前に現れていた。


ライオンの身体、美しい人間の女性の顔と乳房のある胸、鷲の翼を持つ魔獣は静かにディープを見下ろしていた。


「なっ、スピンクス!?」

ディープは絶叫していた。こんな上級魔獣を召喚した覚えはなかった。

スピンクスは静かにその意思を伝えてきた。

「(お前は出来る限りの数といってきた。それをかなえるには私がお前の力を使い、この壺からあらゆる魔獣を召喚するほうが確実と判断した。)」

スピンクスはそう言って、その爪をディープに軽く押し当てた。


そして、その爪についた血を壺の中にいれていた。


「(お前の時を食らっておく。いでよ。わが魔獣たち。)」

スピンクスはそういうと、中から魔獣が次々とあふれ出していった。様々な魔獣が1万体召喚されたとき、スピンクスは目の前の干からびた男に賞賛を与えていた。


「(意外に使える男であったな。褒美にお前の望みはかなえてやる。お前の意思もわが意思となった。)」

スピンクスはその男にそう告げると、干からびた体を踏みつけて、遺跡の外に歩き出していた。


「(よし、時はきた。わが魔獣たちよ、人間の町ベルンを壊しつくし、王都を蹂躙する。)」

スピンクスは思念を飛ばし、その意思を魔獣たちに伝えていた。

あらゆるところで咆哮がおき、それを理解したと伝えていた。


「(すすめ)」

スピンクスは自らも歩みながら、魔獣の群れをベルンに向けていた。



「マルス様。妖魔の群れ推定2万5千。構成は下級妖魔1万、中級妖魔1万、上級妖魔5千といったところです。」

ヴォルフは見てきたことを告げていた。


「目標はベルン。それ以外にはないようです。後続は今のところありません。」

ヴィルトシュヴァインは自分の役目を果たしていた。


「そうか、こっちに来ないなら、あっちを守るか。」

マルスは決断していた。


「よし、ベルン守備隊はおおよそ千だったな。俺の軍兵士2千騎士5百では心もとないか。しかし、軍団移送コアトランスポートでもそんなにすぐには転送できないから、当面うちが粘るしかないな。どうせフリューリンクからは援軍は来ないだろうしな。」

マルスはそう言って、軍を進発させていた。マルスはどちらのも対応できるように、あらかじめベルンとモーント領マルスの間に陣を張って警戒していた。この距離で行くと、2日前にベルンに到着できる。そうマルスは確信していた。


「ベルン守備隊に通達しろ、王都側の門を開き、女子供年寄りはいつでも逃げる準備をしておけと。あと、この手紙にあるように、町の外壁前にも防護柵を設置するようにと。」

マルスは自らの軍が展開しやすいように指示していた。この5日間でベルンには頑張ってもらわねばならない。そして、万が一に備えて、避難も開始しておくことが必要だった。


「トラバキの商人に連絡して、ベルンに食料を輸送するように指示しておけ。文句言うようなら、王の命令だとでも言って無理やりでもいいから持ってこさせろ。」

マルスは補給の指示をしていた。


「王都の方はデルバーがやるだろうから任せよう。俺は俺のことで手一杯さ。」

楽し気に笑うマルスをみて、兵士たちはその緊張を和らげていた。


「俺達にはマルス様がいる。」

兵士たちはこの上ない安心感を持っていた。それは、盲目的な信頼であったが、マルスはそれを利用していた。


士気向上


これは個人の戦いではなく、軍団の戦いにおいてなくてはならない要素だった。これにより、マルスの軍はその実力を10倍の戦力差でも発揮することになった。


「メルクーア、お前実戦は初めてだったよな。」

マルスは自分のそばにいた魔術師を見て、声をかけていた。


「はい。デルバー先生のもとで修業はしていましたが、実戦経験はありません。今回が初めてなので、いろいろ先生に教わっていました。」

まだ幼いメルクーアは、その年齢に似合わない実力の持ち主だった。すでに14歳にして上級魔法のほとんどを収めており、召喚魔法を特に得意としていた。


「あーデルバーから教えてもらってるならいいか。まあ、俺から言えるのは、そんなに緊張しても始まらない。だな。どちらにせよ、ここからあと2日は進軍だけだしな。」

マルスはそう言って笑っていた。


「そうですね。私も柄にもなく、緊張してたんですね・・・。」

メルクーアはそう言って笑い返していた。


「その調子だ。お前の魔法もあてにしているからな。派手にぶっ放せよ。マルス軍にメルクーアありだ。」

マルスはそう言って豪快に笑っていた。





「どうする・・・これを知らせると大混乱だぞ。」

「まずは、我々の避難と、家族、そして財産の保護だ。」


「といっても隠し通せるものでもあるまい。守備隊の方は外壁前に着手しているぞ。マルス辺境伯からも、女子供年寄りを優先的に避難させておくように指示が来ている。」


「そんなもの、われわれの財産のほうが優先度は高い。英雄はしょせん街の外の人間だ。ベルンの人間の価値はベルンの人間で決める。」

「では、いつ知らせる・・・・」

「我々の避難が済んでからだ。それは絶対だ。それが嫌なら、お前は残ってベルンを守れ。」

「馬鹿なことを言うな。2万5千の妖魔だぞ、英雄の軍を合わせても、10倍の妖魔にどうやって勝つんだ。仮に聖騎士が駆けつけたとしても2倍だぞ。」

「だからきれいごとを言ってる場合じゃないだろ。」


「だとしても、最低やる義務はあるはずだ。」


「だったらお前がやれ。ただし、情報の漏洩はお前の家族の命で償ってもらうからな。」


ベルンのギルド幹部会は、もめていた。ただ一人、やるべきことをすべきだと主張した男は、その他大勢の幹部たちに白い目で見られていた。

そして、家族を人質にされ、情報を街の人に知らせることを阻止されていた。


「どうすればいい・・・・・」

男は迷っていた。


「じいちゃん、どうした?」

小さな男の子がその男を心配そうにみていた。


「なんでもない、なんでもない・・・。ほれ、お前も早くいくんじゃ。」

男には自分の家族を守るしか方法はなかった。




「何じゃ、なにがおこったんじゃ!」

デルバーはあたりの惨劇に自分の目を疑っていた。


大規模転移魔法陣

これは王都から各都市に軍団移送するための専用魔法陣だった。しかも、連続使用できるので、100名単位で10回繰り返すだけで、1000名の兵士をその都市に移送できた。この魔法陣が設置している場所が50名しか入れないため、一度の転移は50名となっていたが、事実上、宮廷魔術師が総出でかかれば、1時間で王国軍1000名を送ることが可能だった。


そしてベルンに向けて50名の聖騎士パラディンが転移を待っていた。

いつも通りの手順で、デルバーは宮廷魔術師を指揮し、自身もあとで瞬間移動する予定だった。


そして転移が始まる直前、転移魔法陣が爆発していた。


あたりはけが人の苦痛のうめき声であふれていた。爆発の中心にいた聖騎士パラディンは見るも無残な姿になっていた。

自身も手傷を負いながら、デルバーは何が起こったのか確かめるために現場に降りていた。


「なんなんじゃ・・・」

デルバーはこの惨劇がなぜ起きたのかわからなかった。


「デルバー師。申し訳ありませんが、ご同行をお願いします。」

黒い腕章をつけた男たちがデルバーを取り囲み、デルバーの手に封印魔道具をはめていた。


「なんじゃ。無礼な。おぬしら監察官の出る幕ではないわ」

デルバーは自身に起きた、いわれなき、魔力封じの魔道具拘束を解くように命じていた。


「申し訳ありません。デルバー師、あなたにはこの魔法陣破壊の容疑がかけられています。おとなしくしてください。」

男は静かにそう告げていた。


「なんじゃと!?」

デルバーは晴天の霹靂とのいうべき事態に、それしか言えなかった。




「わしはしらん。何かの間違いじゃ」

デルバーは取り調べでそう言い続けていた。

「それよりも、軍団はどうなった。ベルンは・・・」

デルバーはベルンが気がかりだった。


「デルバー師。あなたもいい加減白状したらどうですか。あなたのサインで魔道具設置をディープに依頼する作業指示が出ていますぞ。」

そう言って、男はデルバーにその書類を見せていた。

デルバーはそれを見て、すべてを理解した。


「あの若造・・おぬしら聞くんじゃ。これは陰謀じゃ。わしがサインしたのは宝物庫の管理引き継ぎの書類であった。これはあの若造がたばかったんじゃ。たのむ、わしをベルンに行かせてくれ。マルスが危険なんじゃ。」

デルバーは必死に嘆願していた。


「英雄が危険なわけないでしょう。それこそ、あなたが英雄を害するのではありませんか?聖騎士の移動を阻止して自分だけが転移する。怪しいじゃないですか。」

男は聞く耳を持たなかった。


「マルスとて人間じゃ。疲労もするし、武器は摩耗する。多くの数の前には、個の武力は敗れることもある。魔獣の壺はそういう壺なんじゃ。わしがいかねば、マルスが危ない。」

デルバーはもはや半狂乱になって叫んでいた。


「あーもういい。今日はもうぶち込んでおけ。」

男はそう言って再度牢に入れるように指示していた。


「英雄に限ってそんなことないだろう。」

男は鼻で笑っていた。





「おうおう、これは、これは、敵さん勇壮だね。」

マルスは妖魔軍団を前に、余裕の笑みを浮かべていた。

後ろにベルン守備隊を残し、街の外壁近くに自分の兵を配置していた。

城壁にはメルクーアたち魔術師を配置し、自分は最前線で馬にまたがっていた。

聖剣ジークシュヴェルトを抜き、天に突き出した。

メルクーアは合図に従い呪文を詠唱していた。まだ短縮できないが召喚できる最大の隕石をお見舞いするために、詠唱していた。

しかし、その詠唱は途中で遮られていた。

「(精霊魔法!?)」

自身の言葉も発することができなくなり、メルクーアは混乱していた。効果範囲から逃れなくては・・・メルクーアはそう思ってあたりを見たが、ここは城壁だった。前後にはそれほどのゆとりはない。距離はあくが、左右に動くしかなかった。

「私も飛べたら・・・・」

飛行魔法が使えない自分をのろっていた。


「ほほー魔法では敵さんの方が分があったか。」

マルスは初手で巨大魔法をつぶされたが、さほどこたえていなかった。

まあ、仕方ない。魔術師たちは適当に支援しろ。あとは俺たちの出番だ。


そう言って騎士団を前にだし、歩兵は弓を構えていた。


「弓、三射。2射目で騎士団突撃。いくぞ!」

マルスは自身の馬を駆って飛び出していた。1射目がマルスのはるか前方の妖魔たちに降り注ぐ、2射目で騎士団が動き出し、その上を矢が飛んで行った。


矢による騎士団の誘導ののち、体制の崩れた妖魔は騎士の突撃に蹂躙されていた。


そこに3射目が襲い掛かっていた。


マルスはそのまま右に方向転換し、ざっくりと妖魔の群れをえぐっていた。そしてそのまま右に回り込んで、妖魔の一団を騎士団と共に反包囲して、いた。

「騎士団!突撃!!」

マルスの号令のもと、反包囲された部隊は前後左右の突撃にあい、恐慌状態に陥っていた。そして、そのまま別の部隊に逃げ込んでいった。


「よし、いったん陣に戻る!」

マルスはそう宣言して、自陣に帰還していた。


「どうした?」

自陣の混乱を不思議に思ったマルスは、そばの兵を捕まえて問いただしていた。


「姿隠しをつかった精霊術師による暗殺です。弓隊隊長がことごとくやられました。

兵士はそう告げていた。」

「厄介な敵だな。」

マルスは前途多難な状態に少しうんざりしていた。


「おいおいデルバー、もうやっちゃうぜ?」

マルス困難な状況を前にして、自分の力を最大限に生かそうと、集中し始めていた。






メルクーアはこの状況の中、必死に教わったことを思い出そうとしていた。

「私にできること。私にできること。」

そうつぶやいて、姿隠しを次々と暴いていった。

味方魔術師団も体制を整えつつあった。


「いいかいメルクーア。どんな状況であっても、人が一人でできることは限られておる。しかし、人は一人ではないんじゃ。お前さんが得意なことで役に立てれば、お前さんの苦手なことを手伝ってくれる。それが、仲間というものじゃよ。」

メルクーアはデルバー先生の言葉を思い出していた。

そしてメルクーアは大事なことを思い出していた。


「もし、わしが何らかの事情でマルスの隣に立てんとき、その時はおぬしにすべてを託す。マルスが戦場で無防備になった時、それはマルスがマルスでなくなる時じゃ。その状況は生み出していかん。なにがなんでも状況を打破するんじゃ。」

真剣な目でデルバー先生は訴えていた。


ふと見ると、マルス辺境伯は剣を無防備におろしていた。


「いけない。でも、私に何が・・・・・。私はメルクーア。デルバー先生の弟子。私の得意なことは、召喚魔法。」

そう言って決心したメルクーアは、自分の持てる最大の魔法を発動しようとした。


「おねがい。みなさん、少しの間私に誰も近づけないで!」

周囲にそう叫んで、呪文の詠唱に入る。

まだ、詠唱破棄も短縮もできない。自分の持てる最大の魔法。メルクーアは目を閉じて集中し、詠唱を始めた。


「我、漆黒の闇をゆく汝を求む。あまたの空、あまたの地、あまたの海を渡るものよ。汝が理は我にあり。我、汝が理を知るものなり。我、汝の道を示すものなり。我、汝に道を作るものなり。わが意を持って汝を天空の意志とせん。汝は天空のつるぎなり。我に購うもの、汝が敵とみなす。我、汝の力を持って天空の裁きとせん。」

メルクーアは目開け、目標を定めた。

「天空の裁きを持って、その身をうがて!隕石召喚(メテオライト)


メルクーアのはるか上方より、多数の小さな光が集まっていた。その光はやがて強い大きな光となり、あたりを揺るがす轟音となっていた。


大小さまざまな隕石が、メルクーアの召喚により妖魔の群れに襲い掛かっていた。

隕石は大地をこがし、大地に深い傷跡をつけていた。そして、それを避けた妖魔も、周囲の熱で、その命を失っていった。最後に、大きな隕石が上位妖魔の集団に襲い掛かっていた。

必死に精霊魔法で抗うも、巨大な隕石は止まらなかった。


その瞬間、大地が揺れていた。その揺れはベルンの人々を恐怖の底に陥れるものになっていた。


「デルバー先生。約束は・・・・まもりまし・・・た・・・・」

メルクーアはそう言うと意識を失っていた。



マルスはその様子を見て、最初、余計なことをと思ったが、頭を振って、その意識を振り払っていた。


「でかした、メルクーア。だれかメルクーアを保護してやれ。魔力マナぎれだろう。」

近くの騎士にそう伝えると、いまだに土煙でよく見えない前を注意深く観察していた。


マルスは妙な気配を感じ、左に体をずらしていた。


ちょうどその時、何かがマルスのいた場所をすさまじい速さで通り過ぎ、後ろの騎士にあたっていた。


「ハイマンティコアか。」

絶命した騎士に刺さっている針をみて、マルスは冷静にその正体を看破していた。



土煙がゆっくりと晴れていく。


マルス辺境伯軍は、そこに信じられないものを見ていた。


「早く逃げないと」

本能が誰もの頭に、そう告げていた。


「もうだめだ!」

城壁に上がっていたベルン守備隊はなまじ視界が良いために、見なくてもいいもの、見たくはなかったものを見てしまっていた。


「なんなんだ・・・あの数。魔獣があんなにいるのか・・・・」

その場でちからなく、座り込んで、守備隊の人間は考えるのをやめていた。


ベルンの城壁からはよく周囲が見渡せていた。

マルス辺境伯が魔の森を解放し、ベルン郊外はのどかな草原地帯に変化していた。

ほとんど遮蔽物のない草原。

それがベルンの城壁から見る風景だった。


今はその草が見えなかった。そして遠くの風景も空を飛ぶ魔獣により視界を遮られていた。


その日ベルンの城壁から見えるのは、ただ魔獣だけだった。


ベルンの街の人々は混乱の中、城壁に上った人が力なく、崩れ落ちるように座り込むさまを見て、絶望したのだと悟っていた。

しかし、それを見ていない人は、やはり逃げることをあきらめきれなかった。


王都へ。


それが彼らの生きる希望となっていた。


「まあ、仕方ないわな。これは。」

マルスの口角は無意識にあがっていた。


その時、ハイマンティコアの大群から無数の針が飛来していた。

次々とその針で絶命するモーント辺境伯軍にあって、マルスはひたすら立ち尽くしていた。

その攻撃をかろうじてのがれたわずかな人は、我先にベルンの街に逃げていた。


ベルンの街は大混乱になっていた。


モーント辺境伯の軍が住民の安全を顧みず、われ先へと王都側の門へ向かっていった。

混乱の中の突入により、ベルンの街は死傷者の数を増やしていった。


その時、誰の耳にも雄叫びが聞こえていた。

それは魂の咆哮だった。


城壁にいた人は、その咆哮を発した人を見ていた。

そして、口々にその名を呼んでいた。


「マルス。」

「マルス。」

「英雄マルス。」


その名を言った人はみな、立ち上がる勇気がでていた。

城壁に上がった人々はその姿を見て自然と叫んでいた。


「マルス!」

そのものの名は、言うものに力を与えていた。

そのものの名は、聞くものに安心を与えていた。


ベルンの街の人々は、壁の向こう側で、戦っている英雄の存在を意識して、そのすべてをゆだねていた。


跪いて、マルスと唱えるもの。

両手を組んでマルスと唱えるもの。

怪我をして、動けずにただマルスととなえるもの。

死んだ母親のまえで、周囲の声をまねてマルスと小さくつぶやく子供


いつしか、その声は大きな意志となり、マルスに届いていた。


「いいぜ。まとめて面倒見よう。くっくっく。これぞロマン。この大軍一人で片づけて見せよう。」

一人対一万。マルスの無謀な戦いが始まった。


マルスの剣技は絶大だった。

大飯綱オオイヅナにより空間ごと切り裂かれていた。

鳴神ナルカミによりマルスの剣は視認不可能なほどであった。


それらは剣聖ミュラーがあみだし、マルスによって完成したものだった。


しかし最も多く効果的につかっていたのは自分で開発した剣技だった。


ミズチ

薙ぎ払うその剣技は一度に多数の魔獣を葬っていた。


城壁の上に人が集まり、その雄姿をみて英雄の連呼へとつながっていった。


「ちょいとまずいな。」

マルスは少し重くなってきた手と足をほぐすように距離を取っていた。

聖剣ジークシュヴェルトもかなり刃こぼれが目立つようになっていた。


「まずいな・・・・。」

ほんの少しの集中力の低下が、マルスに巨大な疲労感を味あわせていた。


再度後退し、距離を取って呼吸を整えるマルスは一度抱いたその感情を無理やり押し込めようと努力していた。


「我にゆだねよ。」

その声は頭の中から響いていた。


「我の力を欲せよ。」

再びその声は語りかけてきた。


その時、魔獣の攻撃で、ついに聖剣ジークシュヴェルトが折れていた。

呆然とその剣を見ていたマルスに、多数の魔法が襲い掛かっていた。

マルスの意識の中で、そのものはマルスに告げていた。


「お前はこんなところで終わるのか?」

マルスは否定していた。


「お前はこんなところであきらめるのか?」

マルスはあきらめないと叫んでいた。


「お前は誰も救わないのか?」

マルスは救ってみせると宣言した。


「お前は誰も愛さないのか?」

マルスは沈黙した。考えないようにした。思わないようにした。

必死に抗い続けていた。


「お前は誰を救いたいのだ?」

その問いにマルスは一人考えてしまった。そしてあわててその考えを否定した。


「やめろ」

「わが使命果たすべきはアデリシア」

「やめろ!」

「汝との契約を完了セリ。」

「やめてくれ!!」

マルスの魂が叫んでいた。その声に自身のありとあらゆる力を込めて叫んでいた。



「汝との契約を完了セリ。」

その声は、冷たくそう告げていた。





瞬間、マルスの体は軽くなった。あらゆる痛みがなくなっていた。


砦の人々は剣が折れて、呆然としたマルスをみて、自分たちも終わりだとあきらめていた。

マルスの圧倒的な力をもってしても、魔獣の大群という無情な力の暴力に英雄の剣も折れ、その身も風前の灯に思えていた。

人々はすがる相手を失って、ただその光景をみつめていた。




あらゆる魔法がマルスを襲い、マルスの命はそこで消える。人々の眼にはそう映るはずだった。そうなることが予見できていた。


しかし、人々は自分が偽物だと認識した。予見はすべて外れていた。


マルスに魔法が届くか届かないかの刹那の時、マルスの体から光が爆発していた。


人々はその体に光を宿し、禍々しい光をはなつ荘厳なつるぎを持つマルスを見ていた。

呆然とつるぎを見つめたマルスは、声にならない叫びをあげていた。


そして、マルスは魔獣の向き合っていた。


それからのマルスは圧倒的だった。ただ、ひたすらに剣をふるい続けていた。疲労もなく、その圧倒的な剣技で魔獣を駆逐していった。


最後に倒れたスピンクスはただ一言発していた。


「みごと」

それがスピンクスの残した言葉だった。


累々たる屍の上で、マルスはただ泣いていた。

やがてマルスはうつむいて、静かに二人を呼んでいた。


「ヴォルフ、ヴィルトシュヴァイン」

マルスは現れた二人に顔を向けずに命令した。


「例の遺跡に向かって、壺を大至急確保しろ。邪魔立てするようなら殺しても構わん。これは絶対だ。」

マルスは殺気を放って命令していた。

いつもの雰囲気ではないマルスに二人は最初驚いていたが、自らの存在にかけて、使命を果たすことを誓っていた。


もうすっかり日が落ちて、遠くに見えるベルンの街はかがり火でマルスを迎えているようだった。

マルスはそれを見ても、何の感情も抱かなかった。気を許せば、どす黒い感情に支配されそうな、そんな緊張感の中で、いまもなおマルスは孤独に戦い続けていた。





「それで、マルスはどうなったのじゃ」

すべてが片付き、デルバーは魔術審問にかけられて、その潔白を証明した。

しかし、その間に失ったものは多かった。

デルバーはマルスのことが気になっていた。そして、魔剣クランフェアファルを使ったと聞いていてもたってもいられなかった。

そして、デルバーはマルスのもとに転移していた。


「すまん、マルス。大事な時に。それでおぬし、どうなのじゃ。」

デルバーはまず不在を謝罪し、その状態を確かめていた。


「いや、お前牢屋の気分はどうだった?」

マルスはそう言って強がって見せた。


「あとでじっくり聞かせてやる。おぬしの話を先にせい。」

デルバーはマルスに迫っていた。


「ああ、気を抜いたらアデリシアを殺しに行くだろう。最近は寝ててもその衝動に駆られる。鎖で縛って寝ているよ。」

そう言ってマルスは乾いた笑いをしていた。


「何ということじゃ・・・・なにか・・・わしになにか・・・」

デルバーは自分の知識のなさを呪っていた。そして知識がないということを認識した。


「マルス。こんどこそ、おまえを一人にはせんよ。」

デルバーはマルスにそう言って、自分のできることをしようとしていた。




「ヘルツマイヤー殿よ。もう一度精霊女王に会わせてもらえんだろうか。」

デルバーはそう言ってヘルツマイヤーに頭を下げていた。


「あの剣を使ったみたいですね。そろそろ来るころだと思っていました。さあ、こっちです。」

ヘルツマイヤーはそう言ってデルバーを案内していた。



「デルバー。久しぶりですね。愉快な考えの魔術師よ。やはりあなたは求めるのですね。」

精霊女王はそう言ってデルバーにほほ笑んでいた。


「そうじゃ。女王よ。わしはもう、これ以上友を一人にできんのじゃ・・・。」

そう言ってデルバーは悲しみで顔を曇らせていた。


「いいでしょう。その護符に願うがいい。」

女王は静かにそう告げていた。


「護符よ。わしの左目と引き換えに、真実を見通す目を。わしの血脈を引き換えに、それを使う知識を

真剣にそう願うデルバーの前で、護符はその役割を終えていた。

そしてデルバーは左目を失っていた。」


「あなたは、その血脈を絶やしてよかったのですか?古き王家の末裔よ。」

ヘルツマイヤーはいらぬことかもしれないが、そう聞かずにはいられなかった。


「わしにとっては、まだ見ぬ子孫よりも、自分の認めた友をとるわい。それに、血脈は絶えたとしても、自分のすべてを伝えることはできるからの。」

そう言ってデルバーは満足そうに頷いていた。


「さて、女王。おぬしとはいずれどこかで会う気がする。その時、少しは話がしたいものじゃ。」そう言ってデルバーは意味ありげに笑っていた。


「そうですね・・・愉快な考えの魔術師よ。あなたのその決意をみて、私も決心がつきました。いずれ、違う形で会いまみえることになるでしょう。その時は世話になります。」

精霊女王はそう言ってほほ笑んでいた。



「それではわしはいろいろやらねばならんので、これで失礼する。さらばじゃ。」

そう言ってデルバーは小屋の外に出て行った。


「頼みましたよ、デルバー」

精霊女王はドアに向かって、そうつぶやき、いつまでも底を眺めていた。


これが魔獣侵攻の真実じゃ。この後デルバーせん・・は魔剣クランフェアファルの鞘を作ることで、その効果を抑えることに成功したのじゃ。そして、事件の責任を取って宮廷魔術師をやめ、王都に学士院アカデミーを作ることになったんじゃ。

どうじゃ、興味深いじゃろ。

歴史には必ず人の想いがあるもんじゃ。

学士院アカデミーはの、デルバーのマルスへの友情と贖罪が込められておる。

だからあそこでは、代々入学式典後にパーティわけが行われるんじゃよ。

そして、魔剣クランフェアファルを手にしたマルスは愛する人を守りたいために、それを殺す魔剣を手にしたというわけじゃ。そして、世界を救った。

この微妙な関係がマルスを孤独の淵に追い込んでいくのじゃ。

それを助けたいアデリシアとデルバーはどうしたのかの・・・

その話はいずれまたしてやろうて。

今日はもうおしまいじゃ。

さあ、ミヤ。そなたの力でわしの顔を隠してくれんかの・・・。年を取るとどうもな・・・


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