砂漠の死闘
そこのおぬし。そうおぬしじゃ。おぬしが持っておるそれは、あの砂漠に生えているとげ草じゃないのかの?
なに?しらんじゃと?
おぬしそれをしらんで運んでおるのか・・・・・。
それはの、あの英雄があそこで生きることができるものを持ち帰ったのが始まりじゃぞ・・・・。
どれ、それでは聞かせてやろう。すべての始まりの剣の話をの。
「デルバーよ、砂漠化のなぞはとけたのか?」
マルスは魔術師に確認していた。
「そんな早くわかったら苦労せんわ。せかすのもたいがいにせい!」
デルバーと呼ばれた魔術師はそう言ってマルスに不満をぶつけた。
「おまえが止めるから、ここで待ってるんじゃないか、俺はこの目で見たことを信じる方だ。まず、見る。そして考える。これが俺の方針だ。」
マルスは自分スタイルを語っていた。
「そのせいで、どんな犠牲が出るかもしれんじゃろ。今回のは今までとは違うぞ。お前さんのロマンとやらに付き合ってたら命がいくらあっても足りんわ。」
デルバーはまたもいら立ちを隠せなかった。
「おいおい、そんなに怒ると禿るぞ。だいたい、お前の目玉が飛んでいかんから悪いんだろうが」
マルスはそう言ってデルバーを責めていた。
「簡単に言ってくれるがな、あの魔法もかなり魔力を使うんじゃ。お前の望む距離を見ようものならわしは倒れるわ!」
デルバーは魔法にも限界があると話していた。
「だから近くに行こうと言ってる。」
マルスは出発したくてうずうずしていた。
「堂々巡りになるじゃないか。まあ、まて。おぬしは食料の調達でもしておるがいい。最低でも、5日は砂漠の中じゃ。」
デルバーはそう言ってその距離を告げていた。
「なに?そんなにあるのか?そりゃすごいな。お前の目玉はそんなに飛ぶのか?」
マルスはデルバーの目を感心していた。
「そんなわけなかろう。限界までわしが飛んで、そこから視界を飛ばしたんじゃよ。あとは上まで飛んだ距離と角度からわり出したにすぎん。おぬしもその知識は持っておろう。」
デルバーはそう言って意外に物知りな、マルスに感心していた。自分の半分しか生きていないのに、実にいろいろなことを知っていた。
「まあな・・・・。」
マルスはあいまいに答えていた。
「まあ、あとはあいつの合流も待ってから出発しよう。アテムで合流してもよかったけど、ベルンからの方が近いんだろ?」
マルスはそう確認していた。
「いったんブルーメ村で最終確認するにせよ、ものを仕入れるにはベルンが最適じゃよ。それに、あいつの足は速いから、もうベルンにやって来とるかもしれんしな。」
デルバーはそう言って興味なさそうに答えていた。
「相変わらず嫌いなんだな。」
マルスはおかしかった。
「虫が好かんだけじゃよ。気にせんでええ。」
デルバーはそう言って鼻を鳴らしていた。
「やあ、噂してたようだね。デルバー。相変わらずでうれしいよ。」
そう言って挨拶してきたのは、エルフだった。
「よう、ネルフマイヤー。元気だったか?」
マルスはそう言って片手をあげてエルフに挨拶していた。
「ふん。相変わらず年を取らんの。」
デルバーは興味なさそうにそう言っていた。
「自分でも興味ないことを他人に言うのはどうかと思うよ。あと、頼まれてた司祭を連れてきた。」
ネルフマイヤーはそう言って、司祭を紹介していた。
「お初にお目にかかる。私は、アテムで修行している司祭、レーバーと申します。剣聖マルスに宮廷魔術師デルバー。この度は王家直々の依頼に私のような駆け出しを選んでいただけて光栄です。」
そう言って司祭は挨拶していた。
「よろしく、レーバー司祭。俺のことはマルスでいいよ。」
そう言ってマルスはレーバーに握手を求めていた。
「よろしくな司祭殿。わしもデルバーでかまわん。」
デルバーはそう言って軽く会釈をしていた。
「で。デルバー。どこまでわかった?」
ネルフマイヤーは興味深そうに聞いていた。その瞳は挑戦的でもあった。
「お前さんのように遊んでおらんわ。大体のことはわかっておる。しかし、確証がない。お前さんの意見も聞きたいので、魔導映像にしておいた。」
デルバーはそう言って魔導映像を見せていた。
「なんだかんだ言ってもデルバーも認めてるんだな。」
マルスは軽く笑って、デルバーを挑発していた。
「ふん。好かんでも、実力はみとめとる。」
デルバーはそう言って視線を魔道具に移していた。
「ほう、これは砂嵐だね。中に何かいるようだね。なんだろう。形的には、地竜か・・・?」
ネルフマイヤーは自分の答えが納得でき無いようだった。
「それにこの砂嵐、なんだか暴走した風の精霊のようだ・・・・」
精霊魔術師としての意見をデルバーは求めていた。期待通りの答えにデルバーは満足そうにしていた。
「推定で地竜。しかし、精霊力が感じられると見える。どちらにせよ、あの砂嵐を突破しないことには、中のものと対面できん。」
デルバーはそう結論していた。そしてその仮定を証明するためには、行かなくてはならなかった。
「そこまでわかっているなら、あとは実際に見て行こう。出発は明日。今日中に食料30日分各自で用意。いいな。」
マルスは決断していた。
この臨時のパーティは国王によりマルスに依頼されたものだった。
フリューリンク領の東の村で突如として起こった砂嵐と砂漠化により、フリューリンク家の領地はかなり飲み込まれていた。
仮に、そのまま砂漠化が進むと、フリューリンク領は完全に孤立することになる。
国王は決断が速かった。
最高の剣士である剣聖マルスを呼び出し、砂漠化の原因調査を依頼していた。そして補助として、自分の家庭教師でもあった宮廷魔術師のデルバーをつけていた。
マルスとデルバーは何度か王の指示で行動を共にしていた。お互いに認め合った2人は、効率よくどんな依頼も片付けていた。
しかし、今回の依頼はかなり難問だとデルバーは考えていた。
「ただの砂嵐には見えん。砂漠化はどんどん進んでいる。何かがくるっとる。」
そうデルバーは考えていた。
翌日、4人はベルンを後に一路東に向かっていた。
魔の森はこの街道沿いにその姿を現していた。
「マルスのおかげで、ここも通りやすくなったみたいだね。」
ネルフマイヤーはそう言って魔の森を見ていた。
「そこにいた蜘蛛は大したことなかったが、その先にいた熊はやたらしぶとかったよ。」
マルスはその時のことを思い出しながら、そう話していた。
街道沿いの間の森は、マルスが退治して強い魔獣、妖魔といったものはいなくなっていた。
「ここも普通の森になっているよ。」
ネルフマイヤーは楽しそうだった。彼は何と言ってもエルフだ。森の安定は好ましいのだろう。
一行の旅は順調だった。のどかな草原地帯に街道が1本伸びていた。ベルンからアテムへ向かう街道は、人の往来もまばらであった。マルスが森を解放しているといっても、まだそれは街道のすぐわきにその姿を見せている。人々の気持ちはまだそこから妖魔や魔獣がやってくる恐怖を覚えていた。
「もうすぐブルーメ村だ。」
マルスの目の前に村が見えてきた。オーブからアテムへと向かうちょうど中間に位置するその村は、この付近で唯一安定した営みができるところだった。
しかし、その村も、砂漠化の脅威を恐れていた。
「すみません、村長さんはいますか?」
マルスは顔見知りを見つけると、そう声をかけていた。
「マルス様、お久しぶりです。今日はどちらに向かわれるのですか?」
男はそう言ってマルスの行動を聞いていた。その目は期待にあふれていた。
「砂漠の方だよ。」
マルスは短くそう伝えていた。
「やった!マルス様が解決してくれる。」
男はそう言って喜んで、村長を呼びにかけて行った。
「まだ何もしとらんのに、大した信用じゃの」
デルバーはあきれてそう言っていた。
「仕方ないだろう、この村にとってマルスは救世主だよ。」
ネルフマイヤーはそう言って肩をすくめていた。言葉ではそう言っているが、彼もまた、あきれているのが分かっていた。
「人間繰り返されると、それが当たり前になります。マルスさんの行為が人々に安心感を植え付けたのでしょう。よいことですよ。」
レーバー司祭はそう言って深く頷いていた。
「信頼と依存は別物じゃぞ。マルスとてできないことはある。そこのとこを理解するかしないかの問題じゃよ。わしはマルスがどんどん独り歩きしているように思えてならん。」
デルバーはマルスのことを心配していた。
「へー。君がそんな風に考えているなんてね。意外だったよ。君はもっと他人に対して無関心だと思ってた。」
ネルフマイヤーはそう言って目を丸くしていた。
「こいつは危なっかしいんじゃ」
デルバーはそう言ってそっぽを向いていた。
「ははは、デルバー心配ない。どんな時でも、俺は俺の力で解決するさ。お前たちはお前たちのやることをやっているといい。最後は俺に任せてくれたら必ず結果を出して見せる。それに、人に感謝されるのは何度あってもいいもんだ。デルバーもそこを理解したらもっと友達ができると思うぜ。」
最後にはかわいそうな人を見る目で、デルバーを見ていた。
「むむ。おぬし何か勘違いしとらんかの。わしはそんなさびしいもんではないぞ?」
デルバーが否定していた。
「お二人とも、村長が来たようですよ。」
レーバーはとりあえず二人をなだめていた。
「マルス様、いつも村を守っていただきありがとうございます。おかげさまで、この村も安心して繰られています。聞けば今度は砂漠の方に向かわれると、これで私どももさらに安心できます。ありがとうございます。」
そう言って村長は頭を下げていた。
「まだ解決できるとは決まっておらんぞ」
デルバーは鋭く言い放った。
「いえ、私どもはただ信じているだけですので・・・・。」
その雰囲気に気圧されて、村長はかろうじてそう告げていた。
「まあ、今回はまだ様子見だからな。すぐに帰ってくる。すぐに解決できそうならそうするが、今回はこのデルバーも珍しく慎重になってるんで、まずは様子見だ。」
マルスはそう言って村長にすぐにどうにかなるものではないことを告げていた。
「けど、このマルス。依頼されたことを中途半端にはしないから安心してくれ。大体の元凶はつかめているみたいだしな。」
そう言ってマルスは笑顔を見せていた。
その笑顔は人々を安心させるものだった。
「ありがとうございます。ご入用のものがあれば何なりと申し付けください。」
村長はそう言って期待のまなざしでマルスを見ていた。
「乾燥した食べ物と、水を分けてもらえるとうれしい」
レーバーはそう言って、これまでの道中で消費したものを補充しようとしていた。これからしばらくすると砂漠に入る。そこからは食料が生死を分けるものとなるだろう。
「わかりました。皆様の分をご用意させます。」
そう言って村長は村の中心に向かっていった。
「このまますすむのか?」
ネルフマイヤーはマルスに確認していた。
「ここで一泊しても仕方ないだろう。砂漠の淵まで行ってから野営したほうが、次の日の行動が楽になるかもしれん。それに、砂漠での行動は夜から明け方にしておく方がいいかもしれないしな。」
マルスは冷静にそう告げていた。
「魔法の外衣はあるものの、体力は減る可能性があるか」
ネルフマイヤーはその意見に納得していた。
「まずは、砂漠の状態を見て、それから行動を決めよう。」
マルスは再びそう宣言していた。
2日後、一行は砂漠の前に到着していた。その砂漠化は予想以上だった。
「これって、どう思う?」
マルスはデルバーに確認していた。
「どうもこうも、これは異常じゃよ。砂漠化ではない。大地が枯れとる。」
デルバーの足元で、砂漠との境界が進んでいた。草がみるみるその身を枯らしていった。
「これは・・・・大地の精霊が悲鳴を上げている・・・?」
ネルフマイヤーはそう言って遠くを見ていた。
「ここに入っても大丈夫なんでしょうか・・・・」
レーバーは不安そうにそう尋ねていた。
「入ることには問題はなかろう。あそこの植物はあの中でも生きておる。あれはとげ草じゃな。乾燥に強い植物だ。」
デルバーはそう言ってその植物を指さしていた。乾燥に強いだけで、感想を好むものではないと説明した。
「デルバー。あれを回収しておいてくれ。少なくとも、このスピードで進んでる砂漠化の中で、あれは1月以上あそこで生きている。この砂漠化の理由がわかるかもしれん。」
マルスは足元で進む砂漠化の速さととげ草までの距離で大体の日数を計算したようだった。
「おぬし、そういうことが本当に早いの。確かにそうじゃな。」
そう言ってデルバーはとげ草を魔法の袋に詰めていた。
「よし、予定変更だ。視界のよい日中を進んで、いこう。体力が厳しくなったらその時点で変更。まずは、この砂漠化の実態観測だ。」
マルスは楽しそうだった。
「ほんとにおぬしはぶれないな。それがロマンというものなのか?」
デルバーはそう尋ねていた。
「デルバー。知らないことやわからないことを知った時の喜びはお前も分かるだろう?それを知るために行動する。これがロマンだよ。いま俺は無性に興奮している。知らない現象を解き明かす衝動に駆られている。そのためにはこの状態を観測することが不可欠さ。」
マルスは興奮した声でそう告げていた。
「うんうん。未知がきみをまってるんだろ?」
ネルフマイヤーはマルスの先を話していた。
「ふっふっふ。ようやく理解したらしいな。お前たちともそこそこ付き合ったからな。理解してくれてうれしいぞ。」
そういうマルスはうれしそうだった。
「そこそこか・・・・」
デルバーは少しさびしくなっていた。デルバーからするとかなりマルスには付き合っているつもりだった。ふとネルフマイヤーをみると、同じような表情を浮かべてデルバーを見ていた。
「おぬしと同意見じゃったとはな。」
小さくため息をつくデルバーだった。
中心と思えるところにたどり着くのに、さらに5日を要していた。そして、一行はそれ以上進めないところまでやって来ていた。
あまりの砂嵐に、目も開けられないありさまだった。デルバーの結界の中でかろうじて一行はそれを見上げていた。
「すごいなこれは、高さにして50メートルくらいか・・・。上空の雲が変化していないのは自然のものではないな。幅は100メートル。しかし、この竜巻は移動していないな。吸い上げてはいるが、自身は動いていない。中心点がずれないのはそこに何かがいる証だな。」
マルスはそう判断していた。ためしに自分の予備の剣をその渦に軽く突き立ててみた。
マルスの剣が勢いよくはじかれて、マルスは体制を崩していた。
「ほほう。」
マルスの目が、凶暴になっていた。
「デルバー。俺の前だけ、結界解除だ。顔だけは保護してくれ前がみえんのでな」
そう言ってマルスは不敵な笑みを浮かべていた。
デルバーは肩をすくめて言われたとおりにしていた。
「飯綱」
マルスは剣を上段から揮っていた。一瞬大きく竜巻がさけて、中心部が見えていた。しかし、すでにその傷はふさがれていた。
「大飯綱」
マルスは力をためた後、さらに大技を出していた。しかし、それも先ほどよりも広範囲にそして、先ほどよりも少し長めにその傷を開いただけだった。
「ふむ、これでは通れんな。デルバー。お前の方はどうだ?」
マルスはデルバーに確認していた。
「これは結界の一種じゃよ。砂嵐に見えるが、その本体はさっきみえた土竜じゃな。あいつが展開しておるのじゃろう。ただ、土竜の姿はしておっても、何か違和感を感じるな。」
デルバーは珍しく、結論を先延ばしにしていた。
「あれは土竜じゃないよ。精霊さ。」
ネルフマイヤーはそう言って真剣に竜巻を見つめていた。
「いずれにせよ、いったん戻ろうマルス。これは俺たちだけじゃ無理だ。ちょっと爵だが、姉上に相談したい。」
ネルフマイヤーはそう言って作戦の練り直しを提案していた。
「わしも同意見じゃ。マルス。わしの魔法も効果がない。それにおぬしのおかげで、本体は見えた。いったん報告しても問題はあるまい。その上で対策をとろう。」
デルバーは今の状態ではそれしかないと告げていた。
「しかたないな。ここでいろいろあがくより、いったん離れて見つめるのもいいかもしれん。それにネルフマイヤー、お前の姉上とやらに聞くと何かわかるのか?」
マルスはその存在を初めて聞いて驚いていた。
こいつの姉とは一体いくつなんだ、そうマルスは思っていた。
「君の考えていることはわかるよ。マルス。でも女性に年齢はタブーだからね。少なくとも私の年齢の倍以上は生きていると思うよ。」
ネルフマイヤーはそう言ってはぐらかしていた。しかし、その知識はとんでもないものだと期待できる。
「少し気難しいところがあってね。自分の気に入ったものにしか教えないという困った性格なのさ。今回のことも相談してみても答えてくれないかもしれないので、期待はしないでくれ。」
ネルフマイヤーはそう言って肩をすくめていた。
「仲のいい姉弟なんじゃな・・・・。」
デルバーがそう評価していた。
「君の感覚ならそうなのかもね・・・」
ネルフマイヤーはそう言って笑っていた。
「よし、いったんブルーメ村まで帰ろう。」
そう宣言したマルスは、先頭に立って歩き始めていた。
方針が決まれば、マルスの行動はいつも早かった。
「いや、マルス。悪いが北上だ。たぶんそこにいる。」
ネルフマイヤーはそう言って方向を指し示していた。その目は真剣そのものだった。
砂漠を北上し、一行は奇妙な風景を見ていた。それは、砂漠と森の抗争に思えていた。
どこかで砂漠化が起きると、その周りから取り囲むように森が侵食し、その砂漠化を取り込んで森の一部にしていた。そしてその場所を拡幅するかのように、下草が生い茂っていた。
「まるで波打ち際のようじゃの。」
デルバーはそう感想をつぶやいていた。
「森も必死なのさ。こっちだよ。」
ネルフマイヤーはそう言って歩き出した。まるで何かに導かれるように、森の中を進んでいった。しばらくすると、森の中に1軒の小屋が立っていた。
「姉さん。いるかい。僕だよ。」
ネルフマイヤーは、少しおびえた声でそう告げていた。
「ネルフマイヤー、今はあなたの相手をしている暇はないのだけれど・・・。それと、お客人。あいにく私は人間となれ合うつもりはないので、そこは勘弁してもらいたい。」
声だけが、そう告げていた。
「姉さん、そういうことはまず挨拶してから言ってくれないか。一応僕が連れてきたんだし・・・・。」
ネルフマイヤーは微妙な顔になっていた。
「ああ、そうだな。それは失礼したよ。」
小屋から出てきた人物を見て、全員息をのんでいた。
「初めまして、私はヘルツマイヤーといいます。この愚弟が迷惑をかけているのでないですか、それはこの者の責任なので、この愚弟に文句を言ってくださいね。」
そう言ってヘルツマイヤーは優雅に挨拶をしていた。
「美しい。」
思わずマルスはそうつぶやいていた。ヘルツマイヤーはマルスをさげすんだ目でみていた。
「いや、御不快に思ったら申し訳ない。ただ、そこに花が咲いていた時に漏れた言葉だと思っていただければいい。素直な感想だ。」
マルスは悪びれた様子もなく、そう告げていた。
「・・・・まあいい。それで愚弟。何用か?」
ヘルツマイヤーはネルフマイヤーに尋ねていた。
「姉さんもあれを止めてるんだろ?僕も見てきたよ、あれを止めるには、あの方の力が必要なんじゃないかと思ってね。」
瞬間ヘルツマイヤーは表情を硬くした。
「そんな怖い顔をしないでよ。この人たちは信用できるよ。僕が保証する。」
そう言ってまだ紹介していないことに気が付いて一人ずつ紹介していった。
「剣聖マルスか、うわさは聞いていた。なるほど、確かにその存在ならばあるいは・・・。」
ヘルツマイヤーは何やら考え込んでいた。
「一ついいかの。無礼を承知でいうが、あれは上位精霊で間違いないかの?何かが原因で暴走しているように思える。土竜の姿はしていても、あの周囲は通常の空間ではなかった。」
デルバーは道中考えていたことを話していた。
「ほう、そなたが宮廷魔術師デルバーか。さすがというべきか。その通りだよ。その目はどこまで見えていた?」
ヘルツマイヤーは興味深そうにデルバーを眺めていた。
「これは仮説じゃがな。あれは土の上位精霊ではないか?そしてあの場所はこの世界ではないな。伝え聞く精霊界というものか?いずれにせよ、こちらからの干渉はすべてはじかれたので、別空間じゃ。あの竜巻は空間のはざまで巻き上げられたものじゃな。そして、砂漠化は大地の上位精霊が暴走することにより水と大地の精霊バランスが崩れて起きておるのじゃないのか?」
デルバーは自分の見解を語っていた。
「これは驚いた。そなた、それを自力で見つけたのか?」
ヘルツマイヤーは初めて感情を表したかのように驚いていた。ネルフマイヤーも同じような顔をしていたが、すぐに満足そうに頷いていた。
「正直精霊のことはよくわからん。ただ、あの場所で試したことをいろいろつなげただけじゃ。確証がないから聞いておる。」
デルバーは早く何らかの情報をよこせという顔になっていた。
「おぬしも面白い人間じゃな。よかろう。気に入った。マルスとデルバーよ、小屋の中に入るがいい。そこの司祭。おぬしはそこで待っておれ。おぬしの神とやらに反するかもしれんので、魔法が使えなくなるかもしれんのでな。」
ヘルツマイヤーはそう言って二人を案内していた。
「すまないね。」
ネルフマイヤーはレーバーにそう言って小屋の扉を閉めていた。
一人取り残されたレーバーは静かに頷くと、その場に腰を下ろし、瞑想を始めていた。
「ここは・・・」
マルスは体の違和感にとまどっていた。自分の体が見えているが、無いような状態。そういう感覚だった。
「ここは妖精界だよ。マルス。デルバー。君たちをある方にあわせようと思ってね。」
ネルフマイヤーはそう言って二人を追い越し、ヘルツマイヤーの横に並んで歩いていた。
「なんだろう、この感覚。俺は知っている・・・・・。」
マルスはそうつぶやいていた。
突如視界が開け、光があたりを照らしていた。あまりにまぶしい光に、マルスとデルバーは目を開けることができなかった。
「精霊女王、謁見をお許しください。この者は剣聖マルス。そしてこちらは魔術師デルバー。真理を探究するものです。」
ヘルツマイヤーの声が響いていた。
やがて光はおさまり、その存在は二人を眺めていた。
「剣聖マルス。そなた・・・・」
精霊女王はマルスを見て驚いたようだった。そして小さく頭を振ってため息をついていた。
「俺はあんたを知っている。なんとなくだが、あの時の感覚にそっくりだ。あんたが俺をこの世界に引きずり込んだのか!」
マルスは精霊女王にむかって吠えていた。
「無礼な!」
思わずヘルツマイヤーはそう叫んでいた。
「いいのです。」
精霊女王はヘルツマイヤーを制して、マルスに向き合っていた。
「剣聖マルス。確かに私はあなたの世界と交信しました。しかし、もともとはあなたの方から仕掛けてきたのではなかったかしら?」
精霊女王はマルスにそう語りかけていた。
「う・・・それは・・そうだが・・・。」
マルスはそれ以上言葉が出なかった。
「それとこれは重要なことですが、私はあなたを招いていません。それは断言します。あなたを招くことは、この世界を混乱に導くことになります。あなたは今後さまざまな困難に直面していきます。そして、あなたの存在は世界をいかようにでも書き換えることになるでしょう。」
精霊女王はそう言って悲しい顔になっていた。
「ここにたどり着いたのは、何らかの意思が働いたのかもしれませんが、それは私ではありません。そして、この世界で異質なあなたは道を選ばなければいけません。ここで、その存在を消すか、それとも英雄となりその存在を確定させるかです。あなたはこの世界にとって招かれざる存在であることを認識してください。異世界人よ。この世界に同化するには、この世界の人に認められるしかないでしょう。」
そして、女王は宣言していた。
「今の私には、あなたを元の世界に戻すすべを知りません。」
「・・・・・・」
マルスは考え込んでいた。その時に頭にあったのは、いろんな人の笑顔であった。感謝されたときの自分の気持ちにマルスはうそをつけなかった。
「よし、英雄になろう。」
マルスはすぐにそう宣言していた。
「自分の可能性を信じてみよう。この俺がこの世界にどれだけのことができるかわからないが、俺のできることでこの世の中を救ってみよう。」
この世界はいろいろな困難に満ち溢れていた。生活の中に死が隣り合わせのところすらあった。
「少なくとも、明日を考えて生きることができる世界に。」
それがマルスの誓いだった。
「マルスよ。私はこれまでのそなたの行いを見ていました。そなたは英雄たる器といえましょう。そして、そなたにこの剣を授けましょう。これは聖剣ジークシュヴェルト。勝利をもたらす剣です。精霊女王の加護のもと、英雄として歩みなさい。」
そう言うと女王は少し悲しそうな顔で告げていた。
「英雄の最初の試練は、土の上位精霊ガイアを鎮めることです。」
マルスは立ったまま、その剣を受け取っていた。
「あんたの願いを受け取ろう。しかし、俺はあんたのために英雄になるんじゃない。俺はこの世界に連れてこられた。それには何らかの意味があったのか、無かったのか。それを俺自身で検証する。俺は、英雄になるために、この世界に呼ばれたのか、どうなのか。英雄になり、英雄であり続けることでそれを見定める。」
マルスはそう宣言していた。
「ふむ、精霊女王よ。マルスが異世界人だといったな。それはこやつの持つ不可思議な力と関係あるのかの。」
デルバーは最初の衝撃から立ち直って、そう女王に問うていた。
「真理を探究するものよ。それを知ってなんとする。」
女王はデルバーに静かに聞いていた。
「どうもせん。ただ、知りたいだけじゃ。ただ、その力を解明するために、この先もこやつを監視しようと思うがの」
デルバーは即答していた。
「ふふ、愉快な考えをする。あくまで、知りたいためというか・・・。」
精霊女王は頷いていた。
「魔術師デルバー。そなたに、この護符を与えよう。そなたが、真理を追究する意志があるのであれば、それはそなたに道を開けるであろう。しかし、心しておけ、真理を得る代償は自ら差し出すのです。それが受け入れられたならば、その代償に応じた知恵を授かるでしょう。」
精霊女王はそう告げていた。
「ところで話は元に戻るが、あのガイアといった上位精霊のもとには、どうすればたどり着くのかの。」
デルバーはそれが気になっていた。
「一度だけならここから入れます。しかし、ここから入った場合、二度とここからの侵入はできないでしょう。あの子もくるってしまったとはいえ上位精霊です。そう簡単に自分の領域を侵させはしないでしょう。」
精霊女王は上位精霊の力を正しく認識してもらうためにそう話していた。
「入れさえすればいい、俺に任せてもらおう。」
マルスは高らかにそう宣言していた。
「女王、気になっておったんじゃが、そもそもなぜガイアはくるってしまったんかの」
デルバーはその原因について質問していた。
「本当のところは私にもわかりません。しかし、ガイアは古い上位精霊です。精霊の中でも最古参の一人です。この大地の誕生と共に彼は存在しています。」
憂いを秘めたその瞳は、見るものを悲しくさせるものであった。
「彼は、自分の存在に終焉の時が来ることが分かっていました。そしてその後継たる精霊を大地の結界石に触れさせて、名を与えていました。その名をエンキといいます。」
女王はそう告げていた。
「女王、そんな簡単に上位精霊の名前を言ってもいいのか?」
デルバーは不思議に思っていた。
精霊は契約時に自身の名を術者に告げるということを聞いていた。その名を明らかにするのは、自分の認めたものだけであることも伝え聞いていた。
「ええ、通常ならばいいません。なぜなら、彼はもはやこの世界に存在することはできないからです。」
精霊女王はそう言って悲しみに沈んでしまった。
「ここからは私が話しましょう。」
そう言ってヘルツマイヤーはデルバーにこれから話すことは真実だが、他言は無用と言って語っていた。
上位精霊になるには、それ相応の力が必要になること。
上位精霊になるには、精霊石が必要になること。
精霊石を破壊されると、その属性の精霊が上位精霊を持つことができなくなること。
その精霊石はもともと、女王の体の一部であること。
精霊女王はその力のために、周期的に転生している。今の女王は転生してあまりたっていないので、新たな精霊石を作り出す力はないこと。
女王の転生には女王結界石が用いられ、これが女王の記憶と力を引き継ぐ要になるということ。
デルバーは衝撃を受けていた。そして、精霊の真理にふれて、興奮していた。
「それで、ガイアの身に何が起こったんじゃ。」
デルバーは話をせかしていた。
「その精霊、エンキもろとも精霊石が破壊されたようなのです。しかも、ガイアの目の前で。」
そう言ってヘルツマイヤーは魔道具を発動させていた。
その映像には、丸い石の上に、怪しく光る剣が刺さっているものだった。
「あなたたちには見えないかもしれないが、この石の上にエンキが横たわっています。その腹部に深々と魔剣クランフェアファルが刺さっています。この魔剣は精霊の力を封じる剣です。その剣で致命傷を負わされたので、いずれエンキは存在を消されるでしょう。ガイアの目の前で。異変が起きたのはそのあとです。」
ヘルツマイヤーはそう言って、いったん言葉を切っていた。
「私たちは、これがガイア発狂に関与しているとみています。しかし、一度その存在を失ったものを呼び戻す手段などなく、ガイアの悲しみが狂気に変わったのは砂漠化が激しくなった頃です。」
ヘルツマイヤーはそう考えていた。
「しかし、いったい誰がそんなことをするんだ?」
マルスはその意味が分からなかった。そうやって何か利益になるのだろうか
「そこまではわかりません。ただ、人間が関与していると考えています。」
そう言ってヘルツマイヤーは、映像の一部を示していた。
そこには、全身鎧の残骸があった。それは無残な形に変形していたが、全身鎧であった。
「これは・・・帝国のものか。しかも、この全身鎧、中央騎士団のものか。」
デルバーは帝国3騎士団のうち、中央騎士団の紋章をみていた。そして、鎧がひしゃげた理由はガイアの攻撃によるものだろう。
「なるほど、しかしガイアを元に戻す方法はないのかの・・・・」
デルバーはそれが無理なことを百も承知で聞いていた。
「君も酷なことを聞くね。」
ネルフマイヤーはそう言ってデルバーをにらんでいた。
「一応、聞いたまでじゃ。すまんかったの・・・・。」
デルバーはそう言って非礼をわびていた。
「もう倒すしか仕方がないのか。ガイアよ。安らかに眠れ。」
マルスはそう言って黙とうをささげていた。
「おぬし、気が早くないか?」
デルバーはその場の意見を代表して聞いていた。
「なに。遅いか早いかの違いにはさほど意味はあるまい。結果が大事だからな。」
マルスはそう言って剣を腰に下げていた。
出発の意志。それはマルスにとって結果を確かめることだった。
「おい。レーバーはどうするんじゃ。」
デルバーはそう言ってネルフマイヤーに尋ねていた。
「そうだね。つれてこないと・・・・いや、いいか。眠らせて連れて行こう。」
そう言ってネルフマイヤーは行動を開始していた。
「よし、行こう。」
マルスは宣言していた。
「しかし、こう寝覚めが悪いのは勘弁していただきたいものですな。」
レーバー司祭はそう言って文句を言っていた。
「まあ、仕方なかろう。祝福を頼む。」
デルバーはそう言って祝福を依頼していた。
「全体祝福」
レーバーの祝福により、勇気が湧いていた。
「ほほう、レーバー殿はそっち系かの。」
デルバーは意味が分からないことで感心していた。
「なんとでも言ってください。あとは治療に専念します。」
レーバーはそう言って守りの態勢に入っていた。
「よいとも。ではわしも。」
「魔法付与」
「上位保護結界、上位魔術防御結界」
「全体浮遊」
立て続けに、味方に魔法をかけて行った。
「それでは、始まりのあいさつをわしの方からさせてもらおうかの。」
「大渦巻」
デルバーの魔法が地竜を中心にして発現していた。
いきなりの大水と大渦により、地竜は動きを封じられていた。そこにマルスの剣が襲い掛かっていた。
「大飯綱」
マルスの剣先が真空の刃を作っていた。聖剣ジークシュヴェルトの持つ力により、その威力は何倍にも高められていた。
苦悶の表情でガイアはマルスを見ていた。
「・・・・・・・・」
ガイアは何事かを話しているようだったが、マルスにはわからなかった。
突如、地面が揺れていた。マルスたちは浮遊していたので、その効果を十分に実感していた。
「飛んでるのではなく、浮いているところが憎いじゃろ。」
デルバーはそう言ってガイアに杖を向けていた。
「大瀑布」
デルバーの魔法により、水圧を受けて、ガイアは地面に打ち付けられていた。
「よし、デルバー。そのまま押さえておけ。」
そう言ってマルスは一気に距離を詰めて、ガイアのもとにたどり着き、その肉体を切り刻んでいった。
「余裕なようですな。」
レーバー司祭はそう判断していた。
マルスの圧倒的な力もそうだが、デルバーの魔法も効果的に働いていた。マルスが防御しきれない部分に、障壁を展開させ、しかも、その足場まで障壁で作り上げられていた。
次にどこに動きたいか、それを知っていないとできない芸当だった。
「なんだかんだ言って、いいコンビなんだな。」
レーバー司祭は自分にやることがないので、気楽に、そう観戦していた。
「・・・・気を抜くのは早いですよ。ガイアのあの姿は、真の姿ではありませんので。」
ネルフマイヤーはそう言ってレーバー司祭をたしなめていた。
その時、マルスの剣が土竜の首を落としていた。
巨大な首を地面に落とし、その活動を急激に低下したそれは、地面に伏せたまま動かなかった。
その時、デルバーは嫌な感じに襲われていた。なぜかあの全身鎧のイメージが沸き起こっていた。
「上位保護結界」
「上位保護結界」
「上位保護結界」
とっさに3枚保護結界を重ね掛けしていた。
それは一瞬の差だった。デルバーが三枚の結界を張った瞬間に、その圧力は合計4枚の結界をぶち破り、マルスたちにその圧力を与えていた。
自らの体に強大な力の塊が打ち付けられた感覚があった。しかし、そのものは見えなかった。
岩石の塊と化した、ガイアはその巨大な腕を再度構成していった。
「腕を作っている?」
デルバーはその危険性を察知し、次々と結界を重ね掛けしていった。
「上位保護結界」
「上位保護結界」
「上位保護結界」
「上位保護結界」
「上位保護結界」
「上位保護結界」
デルバーの実力では6枚までは重ねることができるこの上位保護結界は、個人結界だけでなく、集団の結界としても優秀だった。その結界4枚を簡単に突破した先ほどの攻撃は脅威だった。
「何が起こったかわからんが、こりゃ危険極まりないの。」
自らも血を流し、かなりの痛みが体中をかけめぐっていることから、何らかのダメージを食らったことは明白だった。
デルバーが視線をマルスに移すと、いつも以上にダメージを受けているマルスに驚いていた。
「おかしいわい。あ奴があれほどのダメージとは。」
デルバーはマルスにかかる防御効果はかなりのものになっていることを知っていた。
「全体回復」
レーバー司祭の魔法が完成した。全員かなりの傷が癒えていった。
「わが友、ワタツミ。盟約に従い、その力を示せ。」
ネルフマイヤーはそう言って自身の横に半身半漁の乙女を召還していた。
「水の障壁」
その効果は絶大だった。巨大な岩石の腕の一撃を完全に防いでいた。
水の上位精霊の力による水の障壁により、再びガイアの攻撃は効果をなくしていた。
「なんじゃあれは」
デルバーはマルスの体に異変が起きていることを見ていた。
マルスが突然移動して、ガイアの腕に激突していた。かろうじて剣でその身を守っていたが、どう見てもおかしな動きだった。
「マルスよ、おぬしなにをしておる。」
デルバーはマルスにそう問いかけていた。なぜガイアに突撃しているのかを聞いていた。
「知らん。何もしてないが攻撃をうけている。」
マルスはガイアを見ながらそう返事していた。
攻撃をうけている
マルスはそう表現していた。
デルバーはその言葉の持つ意味と自分の見ていることに矛盾を感じていた。そうしているうちに、マルスはまたガイアに突撃していた。
「どうもおかしいの。」
デルバーはそう言ってマルスの足元に光をともした。
マルスはまたガイアに突撃していた。そして、光はマルスのはるか後方にあった。
「なんと、マルス以外の大地を動かしとるのか・・・浮いとるからか・・・」
ガイアはこの大地と共にあり続けた上位精霊だ。大地の方を動かして、浮いているマルスに距離を測らせず攻撃していた。マルスから見ると攻撃が来ていることに変わりないが、相手は攻撃準備なくその間合いを詰めていることになる。
一流の剣士は予備動作も含めて攻撃を自然に予測している。
マルスは特にその感覚に優れていた。
これまでさほどダメージを受けないのも、自然とそういう感覚で戦っていたからだった。
しかし、今はそれが通用しない。それが予想以上の効果を発揮していた。
「位置が変わるとか、普通ではありえんの。」
デルバーはこの攻撃を封じる手段を考えていた。
「ちっ、厄介な。」
マルスはデルバーからの指示で、自分に起きていることを理解していた。しかし、頭で理解していることと、感じていることのかい離が大きすぎて、体が反応していなかった。
「ええい!」
マルスはいらだちの声を上げていた。
そうしている間にも、攻撃は続いていた。こちらからの攻撃は巧みに急所を外されている。位置を微妙にずらしているのだろう、岩石は破壊できても、すぐに再生していた。
ガイアは狙いをマルスに絞っているようで、デルバーたちには攻撃していなかった。
「ふっ、タイマンというやつか。面白い。」
マルスに闘志がみなぎっていた。
「さしものデルバーも、すぐには対策をねれないか。情報が少なすぎるからな。」
マルスはそう言って自分の考えに驚いていた。
「なぜ、今そう思った?」
マルスは驚きだった。自分はなぜ、デルバーに対策を求めたのか?
「なんたること!」
そう言ってマルスは大声で笑っていた。
「いかん!」
デルバーはマルスが無防備になったのを危険視して、ガイアに攻撃を仕掛けていた。
「大瀑布」
デルバーはガイアを頭から押さえつけた。
「大津波」
ネルフマイヤーはそう言ってガイアの足元を固定していた。
「完全回復」
レーバー司祭はマルスの傷を回復していた。
「さあ、ここから先は俺たちだけで戦おう。」
マルスがそう言った時、ガイアからすさまじい力が放たれていた。
それはマルスを残して、デルバーたちに襲い掛かった。
「な、結界がはたらかん!」
魔法の結界を通り越し、その力はデルバーたちを押しのけていた。ダメージはない。しかし確実にその効果は表れていた。
抗いようのない力に吹き飛ばされて、デルバーたちは砂嵐の結界外に飛ばされていた。
「マルス!」
思わずデルバーは叫んでいた。
そして、デルバーはみた。不敵に笑うその笑顔を。仲間をすべて飛ばされてなお、その顔は楽しそうだった。
「マルス、おぬし・・・・・。」
デルバーはマルスの考えが分かってしまった。
「くそ、またわしは何もできんのか・・・・・」
デルバーは己の未熟をそのこぶしに込めて大地に振り下ろしていた。
「デルバー。マルスはそう望んだんだ。もう我々ではどうしようもない。」
その方にそっと手を置き、ネルフマイヤーはそう言って砂嵐の中を見ていた。もはや飛ばされたときの通路はなく、ただそこに砂の壁があるだけだった。
「こうなったら信じるしかあるまい・・・・」
ネルフマイヤーは悔しそうにその手に力を込めていた。
「デルバーよ。それは斥力というやつだ。覚えておくがいい。」
マルスはその力の正体をそう告げていた。
誰も聞くことのない説明は、自分を一人だと認識させるためだった。
「そうさ、所詮は一人の力に、最後は自分の力に頼ることになる。それならば、そもそも一人ですればいい。」
マルスはそう言って感覚を研ぎ澄ませていった。
呼吸を落ち着け、ガイアを見る。
先ほどまでの焦りはなかった。先ほどまでの義務感はなかった。
「これは俺の戦いだ。」
やるかやられるか。命を懸けた戦いだった。
マルスから余分な感覚がなくなっていた。
仲間の顔も、位置も、今は気にならなかった。
暗い世界の中で、マルスとガイアはそこに一つの線でつながっていた。
とたん、その線が手繰り寄せられていた。
「大飯綱」
マルスの真空刃がガイアを両断した。
「ぐおおお!!」
その時、はじめてガイアは苦痛の咆哮を放っていた。大地を揺るがすその咆哮は、デルバーたちにも聞こえていた。
「やったのか?」
レーバーがそうつぶやいていた。
「まだじゃな。しかし、きいとるようじゃの。」
デルバーはそう言って悲しい思いに包まれていた。
これでは出会ったころと同じだった。結局自分しか信じない。マルスはそういう意思を示していた。そして、その効果も実証している。
「マルスの攻撃が初めてガイアに届いたんだろうね・・・・」
ネルフマイヤーはそう言って、自分たちの魔法はなんの効果もなかったことを口に出していた。
「そうじゃの・・・・」
デルバーはネルフマイヤーがわざとそう言ってデルバーに反論させようとした気持ちが分かっていたが、今はそれにこたえるだけの精神力はなかった。
「マルス・・・・」
デルバーはこれまでマルスが孤立しないように色々とかかわってきたつもりだった。
精霊女王との会話で異世界人であることを聞いてなお、その気持ちは強いものとなっていた。
しかし、それはマルスの方から断ち切られてしまった。
「わしにもっと力があれば、マルスを引き留められたのだろうか・・・・」
誰に聞くわけでなく、デルバーはそうつぶやいていた。
「はっはっは。ようやくつかめたよ。おまえがな。」
マルスは、理解していた。今のガイアはただの岩石の塊を操っているだけで、それをいくら攻撃しても無駄だということを。
「ガイアに攻撃をしなければ痛くもかゆくもないよな。」
マルスはそう言って、ガイアの本体を探っていた。
「そこだ!」
マルスの真空刃がまたもガイアに苦痛の雄叫びを上げさせていた。
「さっきまでの手品はもう使えんぞ。俺にはそのからくり、理解できたからな。」
マルスは概念としてとらえていた。手繰り寄せられる感覚を覚えた以上、その予備動作もしっかりと認識していた。
ガイアはこの大地全体を動かしたわけではなかった。
ガイアとマルスの間にある大地の位置を瞬間的に書き換えたのだった。
マルスはそれを綱引きの綱として認識し、それが引き寄せられる感覚を発動条件として認識した。あとはそれが来た時に、直線状にある本体に攻撃を当てるだけだった。
「さあ、今度は何を見せてくれる?」
マルスは戦いのさなか、ますます集中していった。
幾度かの激突ののち、ガイアはその巨体を維持できなくなっていた。
「それがお前の姿か・・・・」
それは女性の姿をしていた。傷つき、倒れこんだその先に精霊石が横たわっていた。
ガイアはそこをめざして、自身の体を動かしていた。
やがて、ガイアはそこのたどり着き、動かぬ存在になっていた。
「なるほどな・・・・あれがエンキか」
マルスは小さくつぶやいていた。ガイアが手を伸ばしたその先に、男性の姿をした精霊が、その剣に貫かれていた。
ガイアとエンキは手をとり、ともに動かぬ存在になっていた。
「・・・・・せめてもの情けだ。」
マルスはそう言って、エンキの体から剣を引き抜いていた。
あたりに淡い光が集まって、ガイアとエンキを包んでいた。
「ともにあれ。」
マルスは短くその言葉を紡ぎ、ガイアとエンキのこれからを祈っていた。
マルスには、それが笑顔であるように思えていた。
「う・・・・・」
マルスは強烈な意思を感じ、思わず手にした剣を離していた。
「なんだったんだ・・・・・。」
マルスは手放した剣。魔剣クランフェアファルを呆然と見つめていた。
「おい、風が・・・」
ネルフマイヤーはその異変に気が付いていた。眼下で自らの思考の渦にとらわれているデルバーにその異変を告げていた。
「砂嵐が・・・・止んでいく・・・・」
デルバーはそう言って、その先に意識を集中させていた。これがやんでいくということは、マルスがガイアを倒した言うことだ。
「おい、レーバー司祭。準備しておけ。」
デルバーはそう言って駆け出していた。
デルバーの視界に入っていたのは、自らの足元の剣をただ茫然と見下ろすマルスの姿だった。
「マルス、無事か!」
デルバーはそう言って駆け寄って行った。
「ああ、デルバー。勝ったよ。」
そう言ってマルスは気を失っていた。
「レーバー司祭。早く見てくれ。」
デルバーはマルスを支えながら、レーバー司祭を読んで様子を見るように依頼していた。
「おい、ネルフマイヤー。どうした?」
デルバーは精霊石をじっと見ているネルフマイヤーに何事かを尋ねていた。
「ああ、悪いデルバー。いないよ。ガイアもエンキもここからいなくなっている。」
ネルフマイヤーはそう説明していた。
「この地にこれで大地の上位精霊はいなくなった。この先、大地が豊かになることはない。この砂漠は、もう二度と戻らない・・・・。」
ネルフマイヤーはそう予言していた。
「そうか、でも今はマルスの方が先決だ。おぬしと司祭でマルスをブルーメ村まで運んでくれ。わしは、この剣を調べてみる。どうもこの剣からは嫌な予感しかわいてこん。」
そう言ってデルバーは剣をとろうとしていた。
「やめろ・・・・これは・・・おれ・・・の・・・」
覚醒したマルスが、そう言って剣をつかんで、また意識を失っていた。
「魔法道具鑑定」
仕方がないので、マルスに持たせたまま、鑑定を行っていた。
「やはり、これは魔剣クランフェアファル・・・・。精霊の抑制効果。竜族の抑制効果。魔法遮断効果。そして・・・最愛のものを殺すか・・・」
デルバーはその呪いを理解した。強い力を持つ剣ゆえに、その代償も大きかった。
「しかし、先ほどのマルスはいったい・・・・。」
デルバーはさっきのマルスがマルスでないように思えていた。
しかし、デルバーは自身の精神的な衝撃から立ち直っていなかったので、その違和感の正体がわからなかった。
「仕方がない、マルス。剣はおぬしの魔法の袋に入れる。」
そう宣言して剣を取ると、不思議とマルスは抵抗しなかった。
デルバーは宣言通り、マルスの魔法の袋に剣を入れていた。
そして、精霊石の方を見て、静かに手を合わせていた。
「ガイアよ、エンキよ。安らかに・・・。」
デルバーはそうとしか言えなかった。
「最愛のものを殺すか・・・。エンキは本当に帝国騎士に滅ぼされたのか?」
その剣を前にして、デルバーは疑問を口にしていた。
ガイアが狂った原因。
魔剣クランフェアファル
マルスの様子。
デルバーはこの先とんでもないことが起きるような気がしてならなかった。
「自らを供物に・・・」
デルバーはその護符を握りしめ、自分の至らなさを呪っていた。
魔剣クランフェアファル。この剣こそ、マルスを英雄にし、そしてマルスを絶望に落とした剣じゃよ。エンキとガイアのことは今でもわからん。しかし、マルスはあの二人は互いに寄り添っていると感じたようじゃ。それは聖剣ジークシュヴェルトが見せたマルスへの礼なのかもしれんの。
ほっほっほ。いかんの。語り部が感想を言ってはの。
これからのマルスはこの魔剣クランフェアファル抜きにしては語れん。しかし、マルスはこの剣をしばらく封印しとったんじゃよ。
その話はまた今度ゆっくりしてやろう。
どれ、フレイ。たまには人の姿でわしをおぶって行ってくれんかの・・・。