表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

剣聖

ほっほっほ。今日はすごく日差しがええの。


そうじゃ、今日は剣聖の話をしてみようかのこれは英雄がまだ6歳のころの話じゃ。

なに?いきなりじゃと?

わしも年じゃからの。そんな細かいことなど覚えとらんわ。しかも、この話はわしの生まれる前の話じゃ。

ええから聞くがよい。


「ミュラー先生、そろそろ休憩に入りませんか?後ろのものがややへばっております。」

立派な体つきの青年が白髪の男にそう声をかけていた。


「ジークよ。ついてこれんもんは置いていくがよい。」

男はそう言って青年をいさめていた。しかしそれでも、木陰に移動すると、その石の上に腰かけていた。どうやら休憩をするようだった。


「じいちゃんも大変だね。」

その声は木の上から聞こえてきた。


「何やつ。」

ジークと呼ばれた青年はその声の方を見ていた。


「あんた、俺の存在に気づいてなかったのかい?じいちゃんなんかさっきから俺にビシビシさっきはなってくるから面倒になってさ。声かけたんだど、なんかようなの?」

少年はそういうと木から飛び降りていた。

その身のこなしは優雅で、一部の隙も見当たらなかった。


「わっぱ。名は?」

ミュラーと呼ばれた男は、少年にそう聞いていた。


「あれ?じいちゃん。人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀でしょ?それともなにかい、ぼけて、そんなことも忘れちゃったのかい?」

少年は堂々とそう告げていた。


しばしにらみ合う二人の前に、周囲の温度が下がって行くようだった。

「ふはははは。いい度胸だわっぱ。非礼をわびよう。わしはミュラーというものじゃ。で、わっぱ。おぬしの名は?」

ミュラーは面白いものを発見したと思っていた。


「俺は、マルス。それでいいだろ?正直家名は名乗りたくないな。後ろの兄ちゃんがうるさそうだし。おれ、じいちゃんの相手するほど暇じゃないし。」

そう言って、マルスは周囲を注意深く観察していた。


「ふはははは、面白い。面白いぞわっぱ。どうじゃわしのもとにこんか?わしがおぬしをもっともっと強くしてやる。そうじゃな。おぬしならわしのすべてを教えてもよい。」

ミュラーはそう言って楽しそうに笑っていた。


「遠慮しとくよ。」

マルスは即答した。


「俺、人に教わるの苦手なんだ。それに、自分の力でたどり着くから面白いんじゃないか。人の手を借りたら、そこで楽しさが半減だよ。」

そう言ってマルスは目を瞑った。

「それに、面倒事も多そうだしね。」

マルスはそう感想を告げていた。


「そこまでだ、小僧。剣聖ミュラー様に向かって罵詈雑言許し難い。小僧だとて容赦せん。発言を撤回し、先生に謝れ。」

周囲を取り巻く青年の一人が怒気をあらわにしていた。

「ほら、こんな子供に大人が寄ってたかって・・・こんな剣に興味ないね。あんたらも、このじいちゃんを満足させられるだけの剣気を養ってから俺に文句をいいな。」

マルスはそう言って挑発していた。


「ほほう。」

ミュラーは目を細めて、そのやり取りを見ていた。


「小僧。ほざいたな。先生に対する侮辱、その身で持って償え。」

そう言って剣を持った青年がマルスに突っ込んできた。

渾身の力を込めて振り下ろした剣は、避けるまもなく、少年を頭から切り裂いていた。


はずだった。


「あのさ、殺気がバレバレ、重心がバラバラ。そんなんじゃマキだって割れないよ?」

少年は打ち下ろした剣のすぐ横にいた。

「おのれ!」

青年はその剣を横に振るい、両断しようとした。

しかし、最小限の動きで、その剣先を交わした少年は、足元の石を蹴とばしていた。


「いてえ。」

その石を膝に当てられた青年は、剣の重心を狂わされて、転倒していた。


「ほら、足元がおろそかだから、そうなる。」

マルスはまだ、剣も抜いていなかった。


「小僧、覚悟はいいか?我らを侮辱した罪は償ってもらう。」

そう言って男たちはマルスを囲んでいた。


「さっきも言ってたけど、それって完全にあんたらの問題で、あのじいちゃん関係ないじゃないか。なんだよそれ。どこでも大人は勝手だな。」

マルスはそう言って呼吸を整えた。


「言っとくが、これからは無事で済むとおもうなよ。」

マルスの顔つきが変わっていた。


「ふはははは。お前たち、やめておけ。命が惜しくなければ止めはせんが、そこで命を終えては、お前たちの頂には届かんぞ?」

ミュラーはそう言って男たちを解散させた。


「すまんな。マルス。おぬしの言う通りじゃ。おぬしの実力が分からんものと一緒に教えても仕方あるまい。では、こうしよう。おぬしの家にこれから厄介になろう。弟子どもは帰らせるので、それならいいじゃろ?」

ミュラーは強引に押しかけるようだった。


「いいけど、爺さん。あいつが何というかわからんよ?」

マルスはそう言って一人の青年を指さしていた。


「ジーク。おまえは少なくともわかっただろう?彼我の実力をわからんほど愚かではないはずだ。」

ミュラーは言っても聞かないであろうことはわかっていたが、忠告だけはしておいた。あとで問題になった時の言い訳にしたかった。


「いいえ、これは決闘です。先生は見届け人としてお願いします。ロヴァルには遠く及びませんが、これでも腕に覚えはあります。」

ジークはそう宣言していた。


「(ロヴァルならこの戦いに参加もせんよ。いい勝負にはなるだろうがな)」

ミュラーは自分の技の半分を会得した剣士についてそう評価していた。あと数年もすれば自分をしのぐかもしれない才能の塊に、自分は情熱のすべてを傾けていた。

しかし、それ以上の逸材が目の前にいる。この興奮を抑えるのに必要な人間はこの場所にはいなかった。


「貴族が決闘といったからには、命のやり取りだと認識しているんだろうな。兄ちゃん。」

マルスは明らかに不快に思っていた。

こんな訳も分からないことに付き合わされて、正直辟易していた。


「しかたない。マルス悪いが付き合ってやってくれ。この世の最後の慈悲と思って。」

ミュラーはとんでもないことを言っていた。

ジークはミュラー門下でも実力者として知れていた。そのジークをすでにいないものとして先生は扱っていた。

その態度と、表情に周囲の青年たちは怒りを覚えていた。

今まで必死に努力していた弟子よりも、子供の方を選んだ師匠を憎んでいた。


「おいおい、なんかおかしなことになってるみたいだぞ。もう勘弁してほしいよ。」

マルスはそう言って帰りたい宣言をしていた。


「すきあり!」

決闘開始の合図を持たず、ジークはその首に剣をたたきこんでいた。

子供が偉そうに。強がっていても、所詮はこども、そのスピードには自信があるようだが、駆け引きには無知のようだった。

愉快に思うジークの視界が突如崩れていた。

おかしい、なぜこんな足元を見ている?ジークは訳が分からなかった。

「隙なんてないよ。だいたい、あんた切られてるのわかってないでしょ?」

そう言ってあきれ顔で見下す顔を憎々しげに見つめたときに、世界が傾いていることに気が付いた。

「あれ・・・・」

それがジークの発した最後の言葉だった。その横で血を吹き出しながら立っている体が合った。


「だいたい、殺気がそれだけ漏れてたら、気が付かない方がおかしいでしょ。」

マルスはもう聞いていない首を蹴とばしていた。体にあたったその首は、体を倒していた。


「なんだ?魔法か?」

男たちが動揺していた。


「そんなことないじゃん。そんなんも分かんないから見放されるんだよ兄ちゃんたち。」

マルスは一斉に挑発していた。こういう手合いは残しておくとたちが悪いことは知っていたからだ。

「なあ、爺さん。あれ片付けていい?」

一応マルスは許可を求めていた。


「ふーむ。資金源としてはよかったが、まあ仕方ないな。また集めればよいか。それよりも、厄介になる話はまとまったでいいんだな?」

ミュラーはそう言って移動を始めようとしていた。


「ちぇ。わかったよ、あっちの屋敷だから。」

そう言ってマルスは森の奥の屋敷を指さしていた。


「ん。じゃあ先に言っておく。まあ、せめて痛みなくしてやってくれ。」

ミュラーはそう言って歩き出していた。


「先生・・・・おのれ、小僧。」

青年たちは師匠に見放されたことをすべてマルスのせいにしていた。


「自分で努力せずにいると、こうやって責任転嫁する。あんたらの実力がなかったんだけど、あんたらが謙虚に修行してたら、あの爺さんの気持ちに気が付いたと思うけどな・・・。まあいいや。せめて苦痛なく送ってやるよ。」

そう言って、マルスは剣を腰に差したまま、体勢を低く沈めていた。


マルスの周囲の温度が下がっていた。

その時、一斉に青年たちが襲ってきた。6人がかりの隙のない攻撃だった。

しかし、青年たちが動き出すよりも早く、マルスの剣が空を裂いていた。


ミズチ


蛇のように横一文字に振るわれたその剣は、目にも止まらない速度で、さやに戻っていた。


首だけおいて体が一斉にマルスに挑んできた。

その動きはでたらめでかわす必要もなかったが、血を吹き出して突っ込んでくるので、自然と後退していた。

バランスを崩して倒れるまで、体はでたらめに動いていた。

まだ死んだことに気がつかない。そんな哀れな状況だった。


「首を残して動く伝承ってこうして起きたのかもしれないな。これは書き留めておこう。」

マルスは思わぬところから、発見につながったことに喜んでいた。


「お兄さんたち、あなたたちは貴重な発見に発見につながったよ。無駄死にじゃなくなってよかったね。その名を残したいところだけど、名乗ってないからわからないや。」

そう言ってマルスは自分の懐から紙を出すと、そこに何やら書いていた。


「記録と保存は基本事項だからね。」

そうつぶやいて今日はもう帰ろうと思った。


「そう言えば、爺さんが来てたんだな。剣聖って言ったっけ。まあ退屈はしなさそうだな。」

マルスはまんざらでもない表情をしていた。


どうじゃ、マルスと剣聖の出会いじゃ。衝撃的じゃろ。これで剣聖の技を盗んでいくマルスはますます強くなっていったそうじゃ。

どれ、今日はもう帰るかの。

シルフィや今日もお願いするでの・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ