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孤高の英雄

いよいよこの話も最後になるかの。

英雄マルスの生きざまは、どうじゃったかの?

わしは、思うんじゃよ。

英雄と英雄でない人の違いはどこにあるのか。

それはの、英雄は自分のできることをとことんまでやり遂げた人間を言うんじゃよ。

例え、自分とのつながりを断ち切ってでも、自分にできることをしたマルスはまさに孤高の英雄と呼ぶにふさわしいとわしは思う。

さあ、孤高の英雄マルスの最後の輝きを見せようかの。

俺は夢を見ていた。


その夢に自分は出ていたが、俺の体は、俺の思う通りにはならなかった。

見たいと思わないことを見せられる夢物語。


アデリシアを亡くしたこと。

ヴィーヌスに呪いをかけたこと。

それは俺の心に刻まれていた。すべてを夢としたかった。悪い夢だと思っていた。


メルクーアにひどい仕打ちをしたこと。

俺の中で後悔と共に何か大事なことがあった気がしていた。


ルナを生贄にするべく、誘拐を見逃すように指示したこと。

俺はこんな子供を犠牲にすることは見たくなかった。見たくもないことを見せられていた。


そして何か重要なことを忘れている感じがしていた。

メルクーアと共に何かを守る誓いを立てた。


なにを?


おれは、すべて夢を見ているのではないかと思いたかった。

目を覚ますと、そこにはアデリシアがいて、その笑顔で俺を包んでくれる。子供たちの笑い声、メルクーアの厳しくも優しい声。

いつまでのいつまでも幸せはそこにあった。


しかし、俺自身がおれにそれは夢ではないと告げていた。


見たいものを見るわけでもなく、聞きたいものを聞くわけでもない。そして何も考えることのできない夢物語。


それが現実だと告げていた。


なんなんだ!


俺はそんな現実はいらない。体はまったく俺の自由に動かない。俺の意志は届かない。これが現実だというのか?

おれは、その何かに抗っていた。


それでも、俺はわかっていた。

ただ、夢と思いたかっただけだということをわかっていた。


俺にはやらねばならないことがある。


何か守らなくてはいけないことがある。


それは大事なことだ。

そのために俺はすべてをかけていたはずだ。

しかし、それが何か思い出せないでいた。


今度こそ、守れ。

俺の意識はそう告げていた。







乱暴に開けられたドアを放置して、銀髪の少年は部屋に遠慮なく入ってきた。


「騒々しい。伯爵ともあろうものが、礼節をわきまえずなんとする。」


俺は不快感をあらわにしてそうつぶやいていた。

そして、俺から発せられた圧倒的な威圧感で、銀髪の少年は最初の勢いを亡くして、ただ立ち尽くしていた。


「それで、いきなり何の用だ。人の用事も確認せず、来訪の先触れもなしとは、失礼もいいところだぞ。」

少し声を落として俺は、銀髪の少年に来訪理由を聞いていた。


「お父様はヴィーヌス姉さまをどうなさるおつもりです。」

銀髪の少年は勇気を振り絞って尋ねていた。

お父様?俺を父と呼ぶのか?


銀髪の少年にはもはや、先ほどの怒りは消えていた。今は恐怖に支配されないように精一杯に気を張っているようだった。


「何のことかわからんな。」

俺は銀髪の少年に、そう告げていた。


「とぼけないでください。お父様がオーブ子爵領にヒドラの群れやテーバイドラゴンを使っていたことはわかっています。そして、なによりお姉さまを使ってリライノート子爵を害したことも分かっています。何故愛し合う二人に、そのようなむごいことをなさるのか。」

銀髪の少年はそこで一呼吸おいて先を続けた。


「お父様は、ヴィーヌス姉さまを愛していないのですか」

銀髪の少年の声に、俺は反応していた。ヴィーヌスを愛していないだと?知った風な口をきくな。愛がどれほどのものか、子供に何が分かるというんだ。


俺はいらだちを感じていた。そして俺もいら立ちを感じているようだった。


「愛していないだと!?」


「小僧が知った風な口をきくな!」

荒々しい感情が込められた言葉に、銀髪の少年の体は硬直した。


「お前に、お前のような奴が愛の何たるかを語るか!ただ守られるだけで安穏としていたやつが、愛を語るか!」

俺は魔剣クランフェアファルを抜き放った。


ダメだ!

なにが?

俺の心を激しく揺さぶる何かがあった。


一瞬ののち、銀髪の少年の横を衝撃波がおそっていた。硬直した銀髪の少年にはなすすべもなかったが、その攻撃は少年には当たらなかった。



よかった。

俺はなぜかそう思っていた。

なぜ?

何故かわからない。しかし、この銀髪の少年の存在は、俺の心を激しく揺さぶっていた。


「ん、光を屈折してるのか・・・この剣の前では精霊の力は及ばないはずだが・・・。いや、このわしの網膜に入る光そのものを直接干渉してきたか。おまえ、その知識をどこでえた?いや、この世界では・・・」

俺の雰囲気は若干やわらいだが、銀髪の少年の体は硬直したままだった。


「ふん、まあいいわ。おまえにも、いろいろ計画を邪魔されたからな。」

俺に殺気が漲ってきた。


やめろ。

とめろ!

やめさせろ。

とめろ!!

何かが俺にそう叫んでいた。


「せめて、この手で葬ってやろう。なに、心配するな。お前の姉もすぐに逝くことになるのだから。」


この銀髪の少年の姉?

姉の名をヴィーヌスといった銀髪の少年の姉が逝くだと?


その時、俺の頭にメルクーアの声が響いていた。

「そして、あの子が再びあなたの前に現れた時、力を貸してあげてください。」

その瞬間、俺の意志とは関係なく、俺の思考とも関係なく、俺の体は立ち止まっていた。それは、俺の無意識下に仕込まれた呪いの発動のようでもあった。


「くそ、またじゃまをするか・・・」

頭に手を当て、立ち止まった俺はそうつぶやいていた。


頭を振って、再び銀髪の少年を見た俺は、魔剣クランフェアファルをその首に叩き込んでいた。



しかし、俺には分かっていた。

この攻撃は当たらない。この攻撃は意味を持たない。

なぜなら、俺には見えていた。

銀髪の少年を守る少女たちが必死にその身を挺して守っている姿を。


緑の髪の少女はその願いをかなえるべく祈っていた。

黒髪の少女と青い髪の少女は俺に自分の背中を盾にして、少年にしがみついていた。

銀の髪の少女は少年を覆い尽くしていた。


そして、妖精。彼の胸で祈っていた妖精は満足そうな顔をしていた。


俺の剣が銀髪の少年の首をはねる瞬間、少年の体は光に包まれ、どこかへと飛び去って行った。



そして、おれは理解した。

ヘリオス、今の俺のすべてをかけて守るもの。


アデリシアの最後の願い。

(おねがいよ、マルス。あの子は、あなたと、メルクーアと、私の子供なの・・・・・)


メルクーアの最後の願い。

「そして、あの子が再びあなたの前に現れた時、力を貸してあげてください。」


そして俺が見つけたもの。

「希望」


そして俺はすべて思いだし、俺の夢を打ち破っていた。








「久しいな、ヘリオス。よもや今一度会えるとは思わなんだ。」

奴の声に目の前の全員が体を硬直させていた。


聖騎士パラディン聖騎士パラディン、戦士、修道士モンク、魔術師、魔術師といったところか。なかなかいい組み合わせだとおもった。


しかしヘリオスは奴の威圧をものともしていなかった。

俺はその桁外れな力に驚いていた。以前あった時とは、まるで別人だった。



「お久しぶりです。父上。お元気そうで何よりです。」

ヘリオスはやんわりと挨拶を返していた。その声を聞き、呪縛が解かれたように、皆が息を吐いていた。


ドクン

俺の鼓動が激しく自己主張しているように思えていた。


「お前は本当に楽しませてくれたよ。お前のおかげで、俺は今最高に楽しいと言える。この男も本望だろう。この男の言葉を借りると、ロマンというらしいな。」

おれは、正直奴にロマンを語ってほしくなかった。


「僕は父上と話させてもらいます。聞いていますか?父上。あなたを解放しに参りました。」

ヘリオスは奴を無視していた。


「ふっこの男の意識はすでにない。もうこの体は俺が支配している。」

残念だったな。俺の意識はここにある。


「僕は父上と話しているのです。関係ない人は黙っててもらえますか?父上、あなたの大切な家族からあなたを解放してくれと頼まれました。あなたの息子のヘリオスです。あなたの娘のヴィーヌス姉さま。プラネート姉さまもあなたの開放を望んでました。僕はあなたを解放しに来ました。聞いてますか、父上。あなたの息子がこんなに必死に話しかけてるんですよ。あなたの見ているそれは、夢ではありませんよ。」

ヘリオスは声の限り叫んでいた。


ああ、わかっているヘリオス。何とかお前の声が届いていることをわかってもらいたいが、今の俺にはそれもかなわぬ。


「無駄だと言っておろう!」

奴はいきなり剣を抜き、ヘリオスにその真空の刃を向けていた。


「あっぶねぇ、いきなり飯綱イヅナかよ」

戦士は驚いていたが、その顔には余裕があった。


「ちぃ、またそれか。」

奴はいらだちを隠せないようだった。


「焦ってますね。あなたの態度が父上の状態をよく物語ってますよ。さて、確証も得られたわけですし、そろそろはじめましょうか。」


ヘリオスはそう言うと魔法を全開していた。


詠唱も、魔法名を唱えることなく、ヘリオスの魔法は一瞬で完成していた。


7つの同時魔法発動をたった一瞬で行っていた。

おれは、これで理解した。


もはやこの俺は何の手出しも出す必要はないことを。


これまで俺たちがやってきたことを、しっかりとこの目で焼き付ければいいことを。


息子が立派に成長した姿を、俺はこの目で見守ることにした。その声を聞くことにした。その考えを感じることにした。

必要あれば、俺を呼ぶがいい。しかし、お前の成長。俺は本当にたくましく思う。


戦士が前に立つと、奴は伏せていたゴーレムを展開させていた。

「さあ、ここまでこれるかな?」


余裕のやつに呼応すべく、修道士モンクと戦士の攻撃は、一撃でゴーレムを、見るも無残な姿へと変えていた。


「ほう、なかなか楽しませてくれる。」

奴はさらにゴーレムを起動させていた。


大飯綱オオイヅナ

戦士は残りのゴーレムを切り捨てていた。


「ほう、お前もその技が使えるとはな。どれ、相手をしてやろう。久しぶりに楽しませてくれ。」

奴は戦士に興味を持ったようだった。


「ボクもいるんだけどね。」

修道士モンクはそう言って戦士の横に並んでいた。


「ふははは。いいぞ。久しぶりに楽しめそうだ。さあ。かかってこい。稽古をつけてやろう。」

奴はそう言って手のひらを上に向けて手招きしていた。




仲間にも恵まれたようだな、ヘリオス。メルクーアが導いたのか?

俺はお前に何もしてやれなかった。

しかし、お前は奴のたくらみをことごとく砕いてここまで来た。

俺はお前の成長を、俺の最後の瞬間まで見守ろう。




修道士モンクはその時自身をさらに加速させていた。そして、戦士が飯綱イヅナを放った瞬間に奴の側面から正拳を叩き込んでいた。


それは飯綱イヅナに追いつくほどの速さだった。

修道士モンクの正拳が奴の腹部に直撃する瞬間に、戦士の飯綱イヅナを奴は、体を右回転することで避け、そのまま修道士モンクの拳も避けていた。正面と左側面からの攻撃を右回転して避けた奴はその剣を修道士モンクの後頭部に叩き込んでいた。


金属音があたりに響き渡った。

戦士の大剣が奴の剣をはじいていた。そのまま戦士は体を回転させ、その回転を乗せた大剣で奴を上段から叩き割ろうとした。


しかし、奴はすかさず回転し、戦士の背中に剣を振るっていた。


まさにその瞬間を狙って、修道士モンクの足払いがやってきていた。

奴は戦士の大剣を大地に打ち込み、その勢いで二人と距離を取っていた。


「さすが、剣聖」

戦士は舌を巻いていた。


「だが、これはどうだ!」

戦士はその大剣ににあわない連撃を奴に叩き込んでいた。

上段からの振り下ろした後、その勢いをそのまま自分の回転に合わせて真横からの一撃に変え、それをそのまま斜目下方向に変えていた。そしてその動きを途中で止め、今度はその軌道から斜め上の軌道に変えていた。

どれも一流の攻撃だ。しかし、相手が悪かった。

「そんな大振りはあたらんよ。」

バックステップでかわした奴は、涼しげにそう告げていた。


「まあ、俺一人じゃないんで。」

戦士がそう言った時、奴は腹部に強烈な痛みを感じて、後ろに飛んでいた。

そこには修道士モンクが正拳を叩き込んだ姿があった。


「なっ」

奴も俺も、なぜそこに修道士モンクがいるのか理解できなかった。


俺は絶えず2人の位置は頭に入っているはずだった。それは奴も同じだろう。


不可解なことはほかにもあった。

どうも、実際の映像と感じる気配にずれがある。そんな感じだった。


俺はそこに違和感を感じていたが、奴も感じ始めたようだった。

ならば、気配の方をあてにすればよいはずだった。奴と俺は自然とそう考えていた。


その時、後ろでヘリオスが何かを仕掛けてくるのがわかった。

何をしてくるのか楽しみだった。


たのしい。


俺は素直にそう思っていた。

俺は純粋に、成長した息子と手合わせしている気分になっていた。



奴は戦いのさなか、いつもよりも息が乱れていた。

やけに息苦しそうだった。

ヘリオス何かしたようだったが、詳しく探ろうにも、さすがに2人の攻撃はきびしかった。気をそらすと、一気に急所に叩き込まれるので、見た目以上に神経を使っていた。


息を整えようにも息がすえない。そのとき、俺の近くで、火花が散るのが見えた。それに奴も気が付いたようだった。


オゾンか。俺は瞬時に判断した。あの魔法はスパークさせたのか。地味だが俺には効果的な魔法だ。疲労はしなくても、酸欠にはなる。そうすると動きもにぶる。


「ちぃ。オゾンか。貴様、やはりその知識。こちらの世界のものではないな。」

奴は俺の知識にアクセスして、正解を導き出していた。


大きく飛びのき、息をと問えた奴は、再びヘリオスに問い直していた。

「どうなんだ?」

奴は真剣そのものだった。


「それは、こちらも聞きたいですね。オゾンを知っているということは、あなたは父上の記憶も引き出せるのですか?」


ヘリオスは警戒しているようだった。

あちらの世界の物理常識をしっていると、もはやこういう対策は不可能だ。

「いいだろう、答えてやろう。その通りだ。俺はマルスの知識を持っている。」

奴はそう答えていた。


「そうですか・・・。」

そう間をおいて、ヘリオスは二人に下がるように話していた。

「お二人ともご苦労様でした。あとは僕が引き受けます。お二人は、ほかの人の支援に回ってください。」

肩で息をしている二人に向かって、ヘリオスはそう告げていた。


「ああ。まかせた。やはり、想像以上だった。」

戦士はそう言ってヘリオスの肩をたたいていた。


「負けたら組手1000回だよ。」

修道士モンクもヘリオスの肩をたたいて行った。


「はい。」

ヘリオスは二人に返事すると、奴の方に近づいて行った。


「あなたの想像の通りです。」

ヘリオスはそう言うと空間を閉鎖していた。


「あなたには魔法が効きませんが、効果を表したものはあなたにも影響しますね。」

そう言ってヘリオスは閉じた空間を幾層も作っていった。


頼もしい仲間に頼もしい力。

本当に立派に成長したな。ヘリオス。






「それで、この中に俺を閉じ込めて、出れないようにするのか?甘いな。」

そう言って奴は飯綱イヅナをはなっていた。

空間が割れ、その先が見えていた。


しかし、その傷は徐々に閉じていき、元の空間に戻っていた。


「なるほど、積層型に閉じ込めているのか。まあ、出れることは証明したわけだが、小細工はもういいのか?」

奴は油断のない目でヘリオスを見ていた。


「ええ、準備は終わっています。本当はあなたとはあまり話したくはないのですが、父上が寝坊していますので、仕方ないです。しばらく付き合ってください。」

そう言ってヘリオスは自らを加速させて奴の懐に飛び込んでいた。




おいおい、ちゃんと起きてるよ。もはやお前の勝利はゆるぎない。奴は気が付いていないが、ここは精霊の力にあふれている。魔剣はそれを抑えるのに必死だろうよ。それでも魔剣は押し負けている。もはや、この魔剣にいつもの力は発揮できんよ。



ヘリオスの動きをよんだ奴は、飛び込んだヘリオスの首を、一瞬ではねたと思っただろうな。

俺は気配で見ている分よくわかる。

ヘリオスは動いていなかった。


「ちぃ、いつの間に」

奴はその気配に対して一閃し、その反動で、距離を取っていた。


「本当にすごいですね。ふつうだと、やられてますね。」

ヘリオスは最初の位置から動くことなく、そう言って感心していた。


しかしヘリオス。油断するな。もとは俺の体。奴も気配を呼んでくるぞ。光のトリックはもう通用せんぞ、どうする?


俺はこんな時だが、非常にわくわくしていた。


息子がどんな強さでこの俺ともいうべき奴に挑むのか。

いや、もはや奴が挑んでいると言ってもいいかもしれなかった。まだ実力を十分に出していないヘリオスを、おれは最初に見た光、そして俺が感じた希望と共に見ていた。


そして奴は目を閉じて、気配を探るようになってきた。


どうするヘリオス?

ヘリオスが少し移動しようとしたときに、奴は攻撃を放っていた。

小さな気合の声と共に、ヘリオスのすぐ横の空間に亀裂が入っていた。


「外したか・・・しかし、次は逃さん。」

そうして奴は居合の態勢に入っていた。


次元障壁ディメンショナルバリア

俺はヘリオスの魔法に感動した。次元の壁とは恐れ入った。あれでは気配は探れんぞ。しかし、ヘリオス欠点がある。

お前はその壁の後ろにいる。俺の奥義なら、その壁を壊せるかもしれんぞ?


通常の攻撃では、次元の壁を超えることはできていなかった。


「おもしろい。実に面白い。」

奴は楽しそうに笑っていた。

俺もそれに同意した。


「ではこちらもいいものを見せてやろう。大蛇オロチ流というのはその奥義から名付けられたものだ。」

そして奴は体をかがめると、一気に居合を8つ放っていた。


八大竜王閃ヤマタオロチ


圧縮された居合の斬撃は、竜の形となり、次々と次元の壁にかみついていた。一つ一つが光となって、ついに次元の壁を割っていた。


「すごいですね。」

ヘリオスはその余波を避けながら、奴にそう告げていた。

次元の壁で遮断してなお、ヘリオスの体に傷を負わせたその技はまさしく脅威的だった。


油断したのではないな。それでもまだ余裕なんだ。

おれは、ヘリオスこそ、次元が違うのだと認識した。


「これは、僕一人では厳しいですね。」

そう言ってヘリオスはすべての精霊を呼び出していた。

「シルフィード、ベリンダ、ミヤ、ノルン、フレイ。君たちの力を借りるよ。」

「みんなの力を僕に。」

そう言ってヘリオスは光と闇。水と大気をまとっていた。そして炎を背負ったその姿はまさしく太陽のように輝いていた。


「ちっ、余裕な態度もそこまでだ。」

奴は一気に距離を詰めていた。


ヘリオスに向けて切り下されたその剣をはじいた瞬間に、ヘリオスは魔剣に向けて魔法を放っていた。


「氷のアイスコフィン」「小爆発ミニマムエクスプロージョン

ヘリオスの魔法を受けて、魔剣は一瞬凍りつき、爆発していた。しかし、すぐに何事もないようになっていた。


「無駄なことを。そろそろ終わりにしてやる」

奴はそう言って見下していた。


おわったな。


俺はヘリオスの考えがよくわかった。精霊の世界に連れて行き、魔剣の力の大半をそこに費やし、魔剣自体の防御を減らしていた。そして魔剣と言えども魔力マナを得ている以上、自分の力で魔力マナを切るわけにはいかなかった。だから、剣はほんの少しの緩衝域をつくっていた。それは所持者と同じものだった。


インパクトの瞬間なら接触しているので、魔剣に魔法が通用する。さっきのそれで証明済みだった。

しかも急速凍結のあと燃焼ときた。これでは魔剣の鋼の部分が摩耗する。


実によい作戦だ。

おそらく魔剣を破壊するのにこれ以上のことは俺には想像できなかった。

というよりも、俺は想像できなかった。



奴は自分の首を絞める斬撃の嵐をみまっていた。


その一つ一つが必殺の威力を持ってヘリオスに襲い掛かっていた。ヘリオスは手甲と手甲剣でそのすべてを防いでいた。


防御もしっかりできている。魔術と共に武術まで納めていたのか。


おれは鼻が高かった。



そして、その間、「氷のアイスコフィン」と「小爆発ミニマムエクスプロージョン」を魔剣とぶつかる刹那に繰り出していた。


意識せずとも魔法は出るのか。本当にすごいやつだ。


もう何度目かわからない斬撃の嵐をみまった後、明らかな疲労を見せいていたヘリオスに、奴は語りかけていた。


「ほら、どうした。息が上がっているぞ。お得意の魔法を繰り出してみろ。精霊をけしかけてみろ。どうせ魔術師はこの俺の前では無力だがな。」


奴は優越感に浸っていた。

奴には全く疲労はなかった。

ただそれだけだった。


俺はお気楽な奴に同情していた。今剣をよく見ればわかる。すでに亀裂が入っていた。



「あなたは早く父上から情報を引き出した方がいいですよ。僕が何をしていたか、父上ならわかっていますから。」

ヘリオスは肩で息をしながらそう告げていた。


「ふ、馬鹿なことを。」

奴はヘリオスの首をはねるため、渾身の力でその剣をふるい、ヘリオスはその剣を手甲剣で防いでいた。


もう幾度となくぶつかりあった魔剣クランフェアファルと聖剣ジークシュヴェルトが激突した。


その瞬間、魔剣クランフェアファルは勢いよくその刀身を2つに分けていた。


「なんだとー!」

折れた剣を驚愕の表情で見た奴は、苦痛の悲鳴と叫びをあげていた。

その時、ヘリオスは背後に瞬間移動し、奴の頭を持って魔法を発動していた。


さあこい。俺はここにいる。

俺はヘリオスがこの場所を目指していることを知っていた。俺を夢からさめさせようとしたのは、このためだ。

俺はヘリオスを呼びつつけた。



同調チューニング

ヘリオスの魔法は完成した。




おれの前にヘリオスが立っていた。

そして振り向くと、隣には奴がいた。


奴は憎しげにヘリオスをにらんでいた。


俺は胸が張り裂けそうな思いでいっぱいだった。

何を話せばいい?

今更父親らしいことを言うのか?

そう考えているとヘリオスの方から話しかけてくれた。


「初めまして、父上。マルスと呼んだ方がいいですか?それとも別の名前がいいですか?」

ヘリオスは俺にそう語りかけていた。


「マルスでいい。俺の息子にして、メルクーアの子。ヘリオス。お前の声は届いていたよ。」

わざわざ昔の名前を出すことはなかった。俺はお前の父親でありたかった。


そして、俺は力を込めて、手足の束縛を引きちぎっていた。


「礼を言う。」

解放された俺は、簡単にそう告げていた。



「馬鹿な!その呪縛は簡単には敗れないはず。」

奴はそう叫んでいた。


「簡単なことですよ。魔剣を破壊したからです。あとは、父上の心次第でしたが、楽しめましたか?」

ヘリオスは奴にそう説明し、俺に同意を求めた。


「ああ、楽しかった。特に次元の壁を出されたときには興奮したな。そしてあれを打ち破ったおまえの剣技にも感動したよ。もう一人の俺。俺はいままで長い間夢だと思うようにしていたが、こんな楽しいことに参加できないのは正直悔しかったさ。」

俺はそう言ってヘリオスの気持ちにこたえていた。


「やはり、あなたは想像した通りの人でした。さあ、みんな待ってます。英雄として凱旋しましょう。」

ヘリオスはそう言って俺に手を差し伸べていた。


「それはできんよ。」

俺はヘリオスの申し出を断っていた。


「少なくとも、俺は夢を見ているつもりだった。アデリシアのことも、ヴィーヌスのことも、夢の中だから耐えられたんだ。しかし、もう無理だ。アデリシアのいないこの世界。そしてメルクーアもいなくなったこの世界に俺だけがいても仕方がない。」


俺の役目は終わっている。お前を守りきったこの瞬間。俺は満足していた。


「それに、新しい英雄には、敵役が必要だ。おれの英雄としての最後の役割は、この世界の礎となることだ。たとえそれが、俺の英雄の名を落としてもな。」

俺は奴を羽交い絞めにしていた。


「こいつも元々は俺だ。こいつが世界に振りまいた災厄は、やはり俺が、しっかりと責任を取らなければなるまい。」

そして俺は奴を吸収した。


「これで、お前は俺を放置できないな。」

俺は清々しい気分でいっぱいだった。


「あなたの本当の名前は何ですか?」

ヘリオスは俺が異世界人だと知っているのだろう。この世界に紛れ込み、英雄として過ごした俺とそうでない俺のために祈りをささげてくれるつもりなのだろう。


しかし、俺はお前の父親だけでいい。

お前をむごく扱った父親。

お前を人知れず守った父親。

そしてお前の成長に満足して逝く父親でよかった。


「その名はとっくに捨てたよ。もし気になるのなら、俺の書斎の机に手記を残してある。それをよめば、俺がどこから来たのかもわかるだろう。しかし、俺はマルスだ。もはやそれ以外の何者でもない。」

そう言って俺は目を閉じていた。


しかし、どうしても心残りはあった。

おれは、その願いをかなえるために、最後の願いをヘリオスにしていた。


「最後に一つ頼んでいいか?」


ヘリオスは無言で頷いていた。

俺はヘリオスに近づき、そして優しく抱きしめていた。

「思えば、お前をこうしてやるのは、初めてだな。ヘリオス。立派になった。」

俺はヘリオスの頭をなでていた。


この姿、アデリシアに見せてやりたかった。

この姿、メルクーアに見せてやりたかった。


「父上・・・・やはりだめなのでしょうか。」

ヘリオスはその感情から離れられないようだった。


「だめだ。男は引き際が肝心だ。俺はここで敵役として死ななければならない。その上で、お前たちが次の時代を作るんだ。」


俺はもはやお前にしてやれることはない。

ならば、お前の生きる時代の礎として、この身をささげよう。


我が息子よ。もし、俺を父親として認めてくれるのならば、俺の生きざまをその胸にいれ、俺のようにならないようにしてくれ。

俺は俺の生きるようにしかできなかった。

だから、おれの生きざまをみて、お前が歩む糧としてくれ。

俺のように悲しいものを作るものにはならないでくれ。


ああ、アデリシア、メルクーア。俺たちの子はこんなに立派になった。

1つ残念なことは、家族で昔話ができないことだ。

まあ、それも仕方がない。

後は俺たちの分まで、ヘリオスが生きてくれる。

おれはただそれだけで、満足だ。


「ありがとう、息子よ。」

おれは、最後に笑うことにした。


これで、わしの話はおわるがの。孤高の英雄マルスから始まったこの世界の出来事は、実は他にも影響を及ぼしておった。

あのマルスが破壊させたものは、この世界に大きな変化をもたらし、その結果としてその分の異世界人を招く結果となっておった。

この後、ヘリオスはその者達とかかわっていくことになるが、それはまた別の話じゃよ。

わしはこれでこの話を終えるがの、聞きたくなったら呼ぶがよい。

わしは、孤高の英雄マルスの生きざまを伝えていくのも仕事じゃよ。

ほっほっほ。

シルフィード、ベリンダ、ミヤ、ノルン、ホタル、フレイそしてミミル。今日は全員で挨拶じゃ。わしの自慢の娘たちじゃぞ。これ、ミミル髪の毛を引っ張るな。いつまでたっても・・なに?もういい加減その爺の変装はやめろとな?いやいや、わしも年をとっとたらこんな感じじゃと思うんじゃがの。ミヤよ、そう膨れるでない。娘では不満なのかの?

まあ、家に帰ってから話そう。

ではの、またじゃ。

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