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34.思い出したあの話

 だが、そのロシェルの疑問はコラードも同じ事を思っていたらしく、ロシェルに代わって代弁をしてくれるのだった。

「私もその演説は聞いていたが、それって大々的に国民に言って良いのか? 戦争とか色々と不安がる人間も居るだろうに。それとも自分の力を誇示する為か?」

 コラードのストレートな問い掛けに、クリスピンは至極真顔で答える。

「貴方もこの国の人間なら分かるだろう? やられる前にやる……それが大公の考え方だからな。他国への誇示……もそうだが、自分の国がきちんとした装備を準備していると知れば他国からの脅威に怯える事も無くなるだろう。国民の少しの不安よりは安心感を取った形になる」

 そのやり取りを横で聞いていたロシェルは複雑な気持ちになりながらも、これ以上は自分が踏み込んで良い事では無い気がした為に口をつぐんだままで居た。


 2人の会話もそこで終了し、丁度中庭までやって来たと言う事もあってせっかくなのでこの辺りで昼食を用意して貰う事になった。

 中庭には休憩が出来るテーブルセットが幾つも並べられている、まるでオープンテラスの様な場所が存在しているのでそこに昼食を持って来て貰う事にする。

 今日は雲はあるにせよ太陽がさんさんと降り注いでいるので、唐突な雨の心配は無さそうだとコラードも分析する。

「城の内部に関してはこんな所だ。後はその兵器開発以外の話で何か気になった事や質問はあるか?」

「内部の話って言うか……雑用をするんですよね? 具体的にはどう言う事をやるんですか?」


 それを知っておいた方がスムーズに作業に入る事が出来るだろうと思い、ロシェルは仕事内容を聞く事にした。

「そうだな……例えば書類を騎士団の上の人間に届けて貰うとか、魔術師達の研究施設は結構色々な物が散らかっているからそこの掃除を手伝って貰うとか、後は馬の世話を一緒にやって貰うとかそんな感じだ」

「本当に細かい事なんですね」

「ああ、私が最初に言った通りだろう?」


 だけど、ロシェルが思い出したのはどうやら兵器の開発についての話だけでは無かった様だ。

 仕事の内容も説明して貰って、メイドに運んで来て貰った料理を食べている時に思い出した内容を言う為に自分よりも立場のある異世界人2人に向かってロシェルは口を開いた。

「ああ……あの、この飯の後コラードさんにお願いがあるんですけど」

「私に?」

 何だか神妙な顔をしながらそう言い出したロシェルに、コラードはきょとんとしながら次のセリフを待つ。

「はい。あの……この世界に来たばっかりの時、コラードさんに俺がムエタイの戦い方をお見せしましたよね? そしてその後に俺もコラードさんの戦いを見せて貰って、その流れで手合わせをしませんかってお願いしたと思うんですけど」

「そう言えばそうだったな」


 しかしあの時はあいにく手合わせのスタート寸前の所で雨が降って来てしまったので、その手合わせを中止して家の中に逆戻りする事になった。

「そうか。今日は晴れているから私との手合わせをしようと言う訳だな」

「はい。城の仕事をする様になったら時間も取れなくなるでしょうし。ですよね、クリスピン団長?」

「ん……ああ、色々やって貰う事はあるからな。しかし鍛錬場でやるとなると、今は騎士団がまだ鍛錬をしている筈だしな……」


 悩むそのクリスピンの声を聞いたコラードが、ならばとこんな提案をする。

「だったら、この中庭は広いだろう。ここで手合わせをさせて貰っても宜しいか?」

「ここで?」

「そうだ。審判は騎士団長の貴方が務めれば問題はあるまい?」

 それでどうだろうか? と問い掛けるコラードに、クリスピンはやれやれと言った感じで頭を横に振った。

「分かった。しかし食べたばかりで……と言うのは身体に良くないから、この昼食を終えて30分位休憩と準備運動をしてからやる事にしよう」


 と言う訳で、あの時出来なかった手合わせが騎士団長の目の前で行える事になった。

 場所は今3人が昼食を摂っている場所から見える、大きな噴水がある広場だ。

「あの噴水の前は正方形に近い形の場所だから、騎士団の鍛錬場で使っている石舞台よりも少し広い位だからな。広さとしても問題は無いだろうが、あの場所で良いか?」

「俺は大丈夫です」

「私も構わんぞ」

「では決まりだな。後で御前達に鍛錬用の武器を持って来る」

 だが、それを聞いてロシェルがポツリと呟いた。

「武器か……」

「え?」

「何か不都合でも?」


 怪訝そうに聞いて来る2人の異世界人に、ロシェルはちょっと困った表情を見せる。

「俺のやっている武術は武器も確かに使う事はあるんですけど、そもそもが素手での戦いをする武術なんです。だから武器よりは素手の方が実力を出せるんですけど」

「そうなのか? でもそれではお前は不利じゃないのか?」

 ロシェルはクリスピンの問いかけに一旦は縦に頷いたのだが、それでも手合わせなので武器は断る事にする。

「武器に対抗する為の戦い方は習っていますし……素手で何処まで通用するか、それを試してみたいんです」

「分かった。そこまで言うならお前の意見を尊重しよう。ただし危なくなったら私が止めに入らせて貰うぞ」

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