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32.書庫

 翌朝。

 ロシェルは朝の身支度を終えて、いよいよ城の書庫へとコラードと一緒に向かう事にする。

「やっぱり広いんですかね?」

「レフォールの図書館よりは広くは無いだろうが、それでも大公が住まわれる城の書庫だからな。狭いと言う事は無さそうだ。……実際は一般開放されていないし、私も入った事は当然無いからあくまで想像だがな」

 コラードがそう言いつつ、城の兵士が書庫まで案内してくれると言うので2人は大人しく後ろをついて廊下を歩いて行くと、やがて赤い両開きのドアの前までやって来る事が出来た。

 そのドアの上には「書物貯蔵庫」と金の枠組みで出来たプレートに黒文字で書かれているのでここで間違い無いだろう、と2人は確信する。

 書庫ではお静かにお願いします、と兵士から注意をされてからその両開きのドアが開かれる。

 2人が歩いて来たこの書庫の場所があるのは城の地下1階なのだが、大きなシャンデリアが幾つも天井から吊るされていて十分に明るさを確保してくれているので目が疲れる心配は無さそうなのが救いだった。


 だけど別の心配が2人にはあった。

「うっわあ、こりゃー1日2日じゃ終わりそうに無い量ですね」

「城の書庫だからな。この多さは想像はしていたが実際に目にするとやはり多いな」

 その本の量の多さはさすが大公が住んでいる場所ならでは、と言う位の規模だ。

 区分けがしっかりされているとは言え、両手の指を10本全部使っても収まりきらない程の本棚の数とその本棚の間に出来ている通路の数は、それだけでこれから行う地球へのヒントを掴む作業の過酷さを無言の圧力でロシェルとコラードに伝えるには十分だった。

「区分けされているのがせめてもの救いか。それじゃあ、手分けして色々探してみよう」

「分かりました。じゃあ俺はこっちの列から行きますよ」

 またあの時の噴水広場の時と同じ様に、大体体感時間で1時間位探してから一旦見つけた書物を持ち寄って色々と調べてみようと約束して、2人は膨大な本の山の中へとその身を進ませた。


「えっ……と、今の所はとりあえずこれだけですね」

 約束通り、大体1時間位した時にロシェルとコラードはそれぞれ本を持ち寄って1つの丸テーブルにやって来た。

 と言っても気になる本を2~3冊ピックアップして来ただけだ。

 余り多すぎると読むのに時間が掛かってしまうだろうし、書庫の外に書物の持ち出しは禁止されているのでこの書庫の中で読み進めるしか無いのだった。

「俺、あんまり活字って得意じゃ無いんだよなぁ」

 確かに士官学校へと入って、そして卒業するだけの頭脳はロシェルにもあるのだが、別に決して楽にその士官学校の試験を突破した訳では無い。

 むしろどちらかと言えば、士官学校の試験の為に頭がオーバーヒートする位まで勉強漬けだった苦い思い出がこの異世界の書庫の中で本を目の前にして甦って来ていた。

 そんな自分のトラウマを少しでも克服出来るかな、とロシェルはひとまず自分が膨大な書庫の本の山の中からチョイスした中の1冊をまず1ページめくる。


 そして15分後。

「おい……おい?」

「はっ、はい!?」

「イビキかいてたがそんなに疲れていたのか?」

「あっ……」

 自分にとっての活字は、どうやら強力な睡眠薬として本当に有効なんだ……と反省と後悔と感心が入り交じった感情を抱きつつ、コラードに肩を叩かれそして揺さぶられて文字通り叩き起こされたロシェルは思っていた。

「うー……俺、本当に読書って苦手なんですよ」

「……地球に帰りたいんじゃないのか?」

 呆れた口調でコラードがそう呟き、気を取り直して2人は地球に帰る為のヒントを探して読書を再開。

 寝ないで頑張ったロシェルはその後に本棚とテーブルを3回往復して2時間以上眠気や頭痛と戦いながら自分の帰る道のヒントを探し続けた。


 が。

「だ~めだっ、全っ然これっぽっちもヒントになりそうな文献なんてありゃしねえ!!」

「こっちも芳しくないな」

 リアクションは対照的ながら、成果が出ずに終わってしまったと言う事は同じらしい。

「こりゃー時間掛かるぜ~」

「そうだな。しかしその元の世界に戻る為の手がかりがもしかしたらこの書庫の中に眠っているかも知れないだろう?」

 だったらやるしか無いんじゃないのか? とコラードに言われて、ロシェルは不慣れな読書のせいで重たくなった身体にムチを入れて椅子から立ち上がった。

「そうですよね……あー、何でこんな事になったんだろうなぁ……」


 1人の軍人として普通に合同訓練を受けていた筈が、気がついてみれば異世界の城の書庫でこうして頭が痛くなる原因の読書をしていると言う、余りにも目まぐるしくて非常に気力を削がれる事態になっているからだ。

 それでも今のこの状況では、この膨大な書庫の本をまだまだ読んでいかないと元の平穏な生活を取り戻す事は出来ないだろう。

 だったら結局やるしか無いか、とロシェルが再び本棚に向かって歩き始めたその時、書庫の扉が開いて1人の人間が調べ物をする2人の男の元にやって来たのだった。

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