31.帰る手掛かり
そこまで考えて、ふとロシェルはもっと有益な情報を得られそうな場所の話を思い出した。
自分自身が先程クリスピンに願い出て利用許可を貰ったばかりの、この城の書庫よりも更にタイムリーな情報を得られそうな場所だ。
「あ、そうだ……確かコラードさん言ってましたよね。南の町の方が規模が大きい分、色々な情報があるって」
そう話を振られたコラードはきょとんとした顔つきになる。
「南の町? ああ、そこに行きたいのか?」
「ええ、出来ればそこに行った方がもっと地球への情報を集められるんじゃないかと思います」
しかしそのロシェルの提案に、コラードは首を横に振ってストップをかける。
「それは無理だな」
「え? 何で?」
「団長から聞いてるんだが、大公から直々にこのペルドロッグから出る事を禁止されているんだろう?」
「あっ……」
今までずっとバタバタしていた上にあの襲撃事件があったせいもあってすっかり忘れていたのだが、以前に熱血なこの公国の大公から、まだ疑いが晴れた訳では無いから都から出る事は許さない……と言われていたのを思い出したロシェル。
「あーくっそー……そうだった、そう言えばそうだったぜ……俺ってまだ容疑者なんだよな。それに大公直々だったら都から抜け出そうにも、厳重な警備体制が敷かれてるのは想像が出来るぜ……」
と言う事は結局、このペルドロッグの中で出来る限りの事をするしか無いと言う結論に達した。
「それに、君はあの集団に誘拐されたせいでこの城からも出られないのだろう? ならばますます行動範囲が狭まったと言う事だな」
「そうなんですよねぇ……ああ、俺の地球への帰り道って見つかるのかな?」
がっくりとうなだれて頭を抱えるロシェルの肩を、今まで色々な戦場を駆け回り、そして色々な依頼を達成して来た公国のベテラン冒険者が叩く。
「そこまで悲観する事もあるまい。こっちの世界だって悪くは無いぞ」
そのコラードの励ましに、ロシェルはブンブンと首を横に振る。
「いや十分悪いでしょ。爆発事件の容疑者に仕立てられるわ、変な集団に誘拐されて何かをされかけるわで。俺だって軍人だからこう言う荒事には慣れているつもりですけど、それでもさぁ……」
ポジティブで血の気の多いロシェルだってやはり人間。
こうして落ち込む時もあるんだ……と自分で自分の分析をしながらどうすりゃ良い? と自問自答をしてみる異世界の海軍軍人。
そんな落ち込むロシェルだったが、城から出る事が出来ないんだったら……と立ち上がってコラードにこんなお願いをしてみる。
「……あ、コラードさんはこの国の人間でしたよね?」
「ああ、そうだが」
「それでしたらその南の町の事も知っているんでしょ? 前に少しだけ話して貰った気がするんですけど結構バタバタしてて全然覚えていないから、今こそじっくりその南の町の事について教えて下さい。メモもしますから覚えられますよ」
将来的にその町に行く事になった時に、きっと役に立つと思いますから……と言うロシェルに対してコラードは頷いた。
「まぁ、私の知っている事であれば別に構わんが。確かにペルドロッグからは結構な距離があるからな。だったら今の内に情報を仕入れておくのも悪くは無いだろう」
と言う訳でコラードからOKを貰えたロシェルは、改めてその南の町の事を教えて貰う事になった。
「南の町はレフォールって言って、実はこの都よりも前に出来た町なんだ」
「ここよりも?」
「そうだ。そして元々このペルドロッグはそっちのレフォールにあったんだけど、当時はまだ地面の整備がなかなか技術的に進まなくて、200年位前に今のこの場所に移転したと言う歴史がある」
「あ、だったら元々のそこのレフォールって言う町は古都だったって訳ですね?」
「そうなる。だから地盤が良いこの場所に移転した今でも、そっちのレフォールの方が栄えているのはそう言う理由があるんだ」
確かにシドニーとキャンベラみたいな関係では無いけれど、都の方が規模が小さいのにはちゃんとした理由があったんだ……とロシェルは少なからず感心していた。
「前にもこれは少し話したと思うが、レフォールの町の方が大きな図書館もあるし冒険者達が集まる大きな酒場もあるし、もしそっちに行ける機会があればそのレフォールの町で情報収集をしてみるのだな」
それを聞いて、ロシェルの目にも少しだけ光が戻って来た。
「そうですね。そっちに行ける時が来るのを今は願うばかりですよ。でも……今はとにかくこの城から抜け出す訳には行かないから、ひとまず書庫の閲覧許可も取れた事ですし少しでも色々な情報を見ておけるだけ見ておかないと」
疑いが晴れるのは一体何時になるのだろうか?
城下町でまた自分が狙われる様な事態を避ける為にこうして軟禁されている以上は、身の安全を保障されているだけでも感謝するべきなのかもしれないなと思いつつもロシェルは疲れた身体を休める為に軍服を脱いで用意された夜着に着替え、そのまま意識を遠のかせて行くのであった。




