表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/625

29.異世界人である事のリスク

「クリスピン団長、後の処理が全て完了いたしました」

「ああ、ご苦労。報告書をそこへ」

 執務室で仕事をする自分の元へとやって来た騎士にそう告げて、若きルリスウェン公国の黒髪の騎士団長、クリスピン・オムスは今回の事件の内容を同じく執務室に呼びつけた異世界人とベテラン傭兵に話し始める。

「さて、今回の事件の内容だが……ロシェル、お前が暴れ回っていたと言う情報があるがこれは本当だな?」

「そうです、それは間違いは無いです」

「全く、どうしてこうも立て続けに問題を起こしてくれるのやら。ええと……これか。先程お前にまた事情聴取をした時の調書も預かっている。先に言っておくが、これ以上問題を起こされるとこちらとしても面倒は見切れん様になるぞ」

 確かにクリスピンのその言い分は分かるが、ロシェルとしては心の中がモヤモヤして仕方が無い。

「自分だってこんな問題、起こしたくて起こしてる訳じゃねーですよ」


 そのモヤモヤからか変な言葉遣いになってしまったロシェルだが、クリスピンは気にもせずに続ける。

「確かに最初の事件は異世界人である事を利用されていた訳だし、今回は先にあのならず者達に追いかけ回された。それも分かる。しかし、私も騎士団を統括する立場の人間だからな。こうもトラブルが多いとなれば……そして、そのトラブルの発端になっている人間とこうして話しているとなれば、私だって見過ごす訳にも行くまい。お前も向こうの世界で1人の軍人として活動しているのであれば、私の立場だって分かると思うのだがな」

「……」


 確かに軍人は国を守る存在である事は、当の軍人であるロシェルには痛い程に理解出来る。

 でも、自分が疑いを掛けられたままエスヴァリーク帝国に向かうのは非常にムカついて仕方が無い上に、自分の存在を狙う輩が居るとなれば迂闊に動き回る事は無理だろうと言う結論に達する。

(それにエスヴァリーク帝国に向かう途中で、またあいつ等に俺が襲撃されるリスクだって十分に考えられるしな……)

 ならばその襲撃者のグループを潰すと同時に、今回の爆発事件の自分に掛かったその容疑をしっかりと晴らしてからエスヴァリークに向かうのが絶対必要な事なのはロシェルにも簡単に想像がついた。


「だったらやっぱり、この襲撃事件もしっかり決着をつけなければいけないでしょう? 俺を散々追いかけ回したあの連中はどうなったんです? 捕まえたんでしょ!?」

「……お、おい落ち着け!」

 段々ヒートアップするロシェルが、クリスピンの机に詰め寄ってバンッと白手袋をはめた両手を叩き付けた所で、その2人のやり取りの様子をさっきから無言で見守っていたコラードに引き止められる。

「気持ちは分かるが少し落ち着け。今自分がやるべき事は分かる筈だろう?」

「……ちっ!」

 物凄く不服そうに舌打ちを漏らしつつロシェルは引き下がる。


 詰め寄られたクリスピンは相変わらずの冷静な態度を崩さず、先程ロシェルの調書を抜き取った書類の束の中から別の書類を抜き出した。

「これがお前を追いかけていたと言う人間達の調書だが、どうもこの事件は簡単には終わりそうに無いらしい」

「え?」

 一体どう言う事なのだろうかとロシェルが首を捻る。

「お前が異世界人だと言う事はもうこの都では話題になってしまっているが、爆発事件の当事者のお前をこのまま生かして置く訳には行かない様だ。と言うのも、お前を追いかけて来ていたこの調書の連中は、ただ単に別の人間からお前を捕らえる様にとの命を受けて路地裏で襲撃したらしい」

「え……」


 思わずロシェルは絶句してしまう。

 誰かが自分の命を狙っている。あの爆発事件についてこれ以上触れられてはいけない立場の人間が、自分を口封じの為に殺そうとしている。

「俺が異世界人と言う事で、この世界に身寄りの無い今がチャンスだと思ってるって事ですかね……?」

「それは分からん。しかしその可能性は高いかも知れないな。今はお前が騎士団にやって来た住民からの依頼の一部を色々とこなしてくれているおかげで顔が知られる様になって来ているし、信頼だってされて来ているだろう。だったらこれ以上味方が増える前にお前を殺してしまえば良いって話になるだろうからな」

「あー……確かに」


 思わず腕を組んで納得してしまったロシェルだが、考えてみるとあの路地裏で自分を襲って来た理由も分かる気がした。

「でも普段は城の中に居る訳ですから、なかなか俺を捕まえるチャンスは巡って来ない……か」

「迂闊に城に忍び込む様な事なんて、それこそ自爆行為以外の何者でも無いだろう」

 横で今までの話を聞いていたコラードが、そのロシェルの考えに付け加える形で呟いた。

「そうなると厄介だな。また城下町で依頼をこなすとなれば君が狙われる可能性も十分にある。こんな言い方は不謹慎だが、エスヴァリークに向かう前に殺されても何ら不思議では無い」

「え、ええ……」

 確かに不謹慎ではあるにせよ、コラードの言い分は最もなのでロシェルは頷くしか無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ