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27.拉致監禁

 前からやって来たその長物を持っている集団には、まず足元に転がっていたワインのビンを拾い上げて投げつける。

 それは槍の男に弾かれてしまったが隙を作るには十分だったので、その隙をロシェルは最大限に活用。

 一気にジャンプしつつ両膝を前に突き出す、ムエタイならではのジャンピングニーでワインのビンを弾き飛ばした男を蹴り飛ばして、男の後ろの連中もろともぶっ飛ばす!

 ……筈だったのだが。

「ぐおぇっ!?」

 その男の斜め後ろから突き出て来た、青いショートヘアの女が持っている杖がロシェルの左脇腹を的確にド突く。

 ジャンピングニーの途中でそれをやられてしまったロシェルの身体は空中でバランスを崩し、変な体勢になって地面へと叩き落とされてしまった。


「よおし、やったぜ!!」

「このまま拉致するぞ!!」

 空中で若干の重力がある状態で、そしてジャンピングニーの助走によってスピードがついた状況で杖に突っ込んでしまう形になってしまったロシェルは、ムエタイで受ける場合とは比べ物にならない程の脇腹の痛みですぐには起き上がれそうに無かった。

 結局、この逃走劇で逃げ切る事に失敗してしまったロシェルはそのまま抵抗を続ける事が出来ずに謎の襲撃者達の手によって捕らえられてしまったのである。


 ロープで身体をグルグル巻きにされて大きな木箱に放り込まれ、荷物の様に数人に抱えられてロシェルは運ばれる。

 箱に押し込まれて運ばれる間にも何とか箱を壊せないか抵抗してみたが、蹴る事が出来ない様に膝を折り曲げて太ももとくっつける形でロープで固定されてしまった為に大した抵抗は出来ずに終わってしまった。

 望みはペルドロッグの騎士団員達が路地裏の異変に気がついてやって来る事だったが、ロシェルを捕まえた連中はさっさと裏路地から退散する事に決めてなるべく人気の無い路地を選んで進んだ為にそれも叶わなかった。


 そんなロシェルの身体はその集団のアジトらしき場所に連れて行かれてしまった。

「うぐう……」

 荷物を運んで事件に巻き込まれる事になった自分が、今度は自ら荷物にされるなんて。

 よっぽど荷物と言う存在に縁があるのか、それとも呪われているのかは分からないが今の状況はロシェルにとって非常にまずい展開である事に間違いは無さそうだった。

 ロシェルが連れて来られたのは、町外れの古い倉庫を改築した様なバーの一室。

 ここでまるでゴミの様に乱暴な手つきで、若干湿った石造りの床に箱から出された。

(うう、くっそー! 一体ここは何なんだよ? 木箱の隙間から何か見えるかと思ったけど見えねーしよぉ!)

 これでも軍人として状況判断の大切さは分かっているつもりのロシェルは、精一杯冷静な考えをしようと縛られたままの状況で周りを見渡す。

 バーの倉庫であると言う事は、ワインの匂いがムンムンと鼻の奥にまで漂って来る視界一杯のワインのビンにワインの樽と、ワインの貯蔵庫にこうして連れ込まれた状況だから分かったのだ。


 それでも今自分が縛られた状況である事に変わりは無いので、出来る限りの状況判断をする。

(薄暗くて良くは分かんねーけど、この貯蔵庫の中はそこまで広く無さそうだな。でも目の前には男も女も含めて大体……20人位か? この人数を相手にここから今の状況で逃げるのは……)

 まずはこの足のロープが解けない限り絶対に不可能だなと考えるロシェルに、先程まで自分がやっていた路地裏のパルクールチェイスの発端になった最初のあの男が話しかけて来た。

 どうやらこの男がリーダー格の様だ。

「あの爆発事件の事を知りたいのか?」

「……ああ、そうだよ。俺が疑われてるままじゃ気分悪りーし。館の爆発事件は一体誰の手によって引き起こされたのかと言う事を聞きたいんだ」

 そうロシェルが言えば、男は腕を組んで何処か誇らしげに言った。

「あの爆発事件は俺達の仕業さ。そして、お前にはここで死んで貰う事になる」


 が、それに待ったをかけたのがロシェルだ。

「おーいおいおいおい待て待て待て!! 殺すつもりなのは分かるが、殺すなら殺すで最後に何であんな事件を起こしたのか、それを聞かせてくれたって良いだろう? その謎が分からないまま死んだんじゃ、俺も死んでも死に切れないと思うんだ」

 何処か諭す様な口調でそう願い出るロシェルに、男の斜め後ろに立っていたあの杖の女が歩み出て来た。

「一言で言えば口封じね。あの館の人間は子供から大人まで、全て私達の手下だったのよ。元々あの館の孤児院は経営に困っていた様だし、私達が上手く裏商売の話を持ちかけて取り分を分けてあげると言えば、すぐに飛びついて来たわ」

「えっ……!?」

 まさか子供まで使っていたのか? とロシェルは絶句せずには居られなかった。

 そんなロシェルの心境を知ってか知らずか、今度はリーダー格の男がその女のセリフに続ける。

「ああそうだ。最近取り分を少し増やしてくれってうるさかったんだよ。だからもう目障りでなぁー? 俺達だってボランティアでやってるんじゃねーっつの。これも世渡りだよ、ははははっ!」

 その笑い声を含んだセリフに、自分の中で何かの糸がぷっつり切れるのがロシェル自身でも分かった。

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