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23.大公からの提案

「そなたは一先ず釈放だ。今の所は証拠が不十分だからな」

「大公!?」

「えっ、本当ですか!?」

 驚きの表情と声をしたのは騎士団長とロシェルはほぼ同時だった。

 コラードは声にこそ出さないものの、目を少し見開いて口も少しあんぐりしていた。

「仕方あるまい。この者達が犯人であると言う明確な証拠が無い訳だからここにずっと拘束しておく訳にもいくまい」

 諭す様な大公の口調に騎士団長はうっ、と言葉を詰まらせた。

 だが、釈放されるにしてもただ釈放される訳では無いらしい。

「しかし、そなた達の疑いが晴れた訳では無いからな。それにそちらのそなたは異世界からの来訪者。住所も仕事も無いのだろう?」

「…………はい、その通りです」

 コラードにもし出会っていなかったとしたら仕事にありつけなかった可能性は大いに高まる。だけど今の状況を考えると果たしてそれが良かったのか悪かったのかが良く分からない複雑な心境がロシェルの心をグルグルと駆け巡っていた。

 そんな複雑な心境に悩まされている異世界からの来訪者に、ルリスウェン公国の熱血漢な大公はこんな提案をした。


「聞いた話によれば、そなたは今の我が国と同じく異世界からの来訪者との接触があったと言うエスヴァリーク帝国の騎士団長の元へと行きたいらしいな?」

「そうです。その帝国の騎士団長に話を聞けば何か分かるかも知れませんから」

「だったら先立つ物が必要だろうから、この城に住みつつ城の手伝いや城下町の民の手伝いをして金を稼ぐと良いだろう。城の者や民には騎士団を通じて御触れを出しておく」

 それに異議を申し立てたのは騎士団長だった。

「お言葉ですが大公、この様な身分の知れない者を城に置く等……何をしでかすか分かりませぬ。もっと色々な方法が」

「口を慎みなさい」


(……!?)

 大公のそれは、思わずロシェルまでもがゾクッとしてしまう程の声色だった。

(何だ今の……殺気!?)

 再び黙ってしまった騎士団長に向けて大公は更に続ける。

「これは私なりに考えた決断だ。だからこそ、そなた達騎士団に頼んでいるのだよ、団長」

「私達に……?」

 腕を組んで考え込む騎士団長はなかなか答えが出ない様である。

 すると、それを見ていたコラードが今まで黙っていた分の言葉をその口から吐き出した。

「……もしかして金を稼がせると言うのは表向きの話で、本当は私達がこのペルドロッグから逃げ出す事が無い様に騎士団を使って監視する目的があるんじゃないのか?」

「あ……」

 ベテラン傭兵のその予想を横で聞いていたロシェルもはっとした顔付きになる。


 コラードのその予想に、大公は若干気まずそうな顔をした。

 どうやら的中した様である。

「……ベテランの傭兵だと言うだけあって、そなたはなかなか鋭い方の様だ。つまりそう言う事だ。このペルドロッグ中の騎士団員達がそなた達を見張っている。何か怪しい行動や目立つ行動をしようとすればすぐに分かるからな。私も一国の主だから、国内の治安を守る為にもこうするしかあるまい」

 やっぱりただ単に金を稼がせる訳にはいかないらしいので、城に住んで貰うのも防犯の観点かららしいと言うのがロシェルにも分かる。

 だけど、まだロシェルには疑問が残っていたのでそれを聞いてみる事にした。

「俺が城に住むのは決定したとして、コラードさんはどうなるんです? 俺と一緒に城に住むんですか?」

 コラードにも容疑が掛かっているのは相変わらずなので、もしかしたら自分と一緒に城に住むんじゃ無いのかなと考えたロシェルだったが、大公は首を横に振った。

「この者に関しては都から出て行く事は禁止とする。しかしギルドにも登録出来ているし、郊外に住居だってある。つまり都から出られない以外は今まで通りの何時もの生活をして貰えば良い」

 当然見張りはつけさせて貰うがな、と大公は念を押した。


 こうしてロシェルの城での生活が始まったのであるが、具体的に何をするのかと言えば城の雑用の手伝いをしたり、大公にも言われた通り城下町の民の困り事を解決したりと言う非常にアバウトなものであった。

 だけどロシェルの心は複雑だった。

(衣食住を提供してくれるだけありがたい事だけど、何時までもここに居る訳にもいかないだろうなー。俺はエスヴァリーク帝国に行かなきゃいけない訳だし、そもそも今回の爆発事件の容疑だって晴れちゃいねーんだしよぉ)

 特に後者……爆発事件の犯人として疑われたままと言うのはロシェルにとっては当然気分が良くないものであるが故に、この国を出てエスヴァリーク帝国へと向かう前には何としてでも解決しておかなければ後々遺恨を残す事になってしまうだろうと強く思っていた。

(この世界も住み続ければいずれ慣れて来るんだろうけど、俺はやっぱり住み慣れた地球の方が良いからな。地球に帰る為にもいっちょ頑張りますか!!)

 その為にはまずはこの都で働きながら、何とかして事件の情報を集めて行くしか道は無いだろうと信じて、ロシェルは地球へと帰る為の生活をスタートさせた。

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