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17.突然の非常事態

「おい、水魔術師はまだか!?」

「人手が足りない、もっと応援を!!」

「こっちもまだ燃えているぞ!!」

 懸命な消火活動が行われている。

 ルリスウェン公国の首都、ペルドロッグのやや外れに位置している古びた1軒の2階建ての館。その館が今、大きくうねりを上げる程の炎に包まれて燃え盛っていた。

「うわ……くっ!!」

 そしてその大火事を引き起こしてしまった原因の異世界からやって来た人物もまた、一先ず館の火事を消し止める為に木のバケツを使って周辺住民と一緒にバケツリレーの先頭で炎を相手に立ち向かっているが、ほんの気休めにすらならなさそうであった。


 事の起こりは、ロシェルがあの配達依頼で届ける事になった荷物を女に渡したのが全ての発端だった。

 依頼書にサインを貰って、ようやくこれでこの依頼も終わりだと安堵の息を吐いたロシェルが館の玄関から外に踏み出そうとした……その時。

「……え?」

 明かりを点けても、それでもまだ少し薄暗い館の中が一瞬太陽の直射日光を受けたかの様に明るくなったのがロシェルの背後からの光で分かった。

 そして間髪入れずに、館の室内の変化に戸惑うロシェルの背後で噴火の様な爆発が起こった。

 思わず館の外へと吹き飛ばされてしまう程の強い爆風と共に、つい今しがたロシェルから荷物を受け取って依頼書にサインをした女の方から大きな火柱が上がったのだ。


「うおあ!?」

 うつ伏せ状態で館の外へと吹き飛ばされて倒れてしまったロシェルだったが、ムエタイ選手として、そして軍人としてしっかり身体を鍛えて来たのでこの程度ではまだまだ問題無い。

 しかし、光の出所に向かって振り向いた方角を見たロシェルのその目から飛び込んで来るすさまじい非日常のそんな光景に、脳が理解出来る範囲を越えてしまってただ呆然とするしか無かった。

「うぇ、え!?」

 一体何が起こったのかまるで見当がつかないが、今はそんな事よりもとにかく誰か助けを呼んで来るのが優先だとロシェルは直感的に判断して、館の周辺住民達に助けを求めに行った。


 そして今、彼は周辺住民達とともに懸命な消火活動に挑んでいるのであった。

 でもこの大火事は鎮火に向かう気配が全く無い所か、逆にどんどん延焼が進んでいる状況の為に必死のバケツリレーも意味が無かった。

(くっそお、どうすりゃ…良いんだよ!?)

 生身の人間の力ではどうにもならない事は地球にだって存在しているし、ロシェルも自然災害等で身を持って過去に十分経験済みだ。

 しかし、この世界にはこうした大きな災害に立ち向かえるだけの設備や組織がどの様なものがあるのかロシェルはまだ分からない。

 だったら、今の自分に出来るだけのやり方で何とかこの火事を少しでも食い止めるべく頑張るしか無いだろう……と思っていた、その時だった。


「……!?」

 いきなりの出来事。

 ロシェルの目の前でまるで風に舞うカーテンの如くうねりを上げていた大きな炎が、まるで水でもかけられたかの様にジュワ~と音を立てつつだんだん鎮火して行くでは無いか。

 しかし、水がかかっている様子はロシェルの周囲には見受けられ無かった。

 これは果たしてどう言う事なのだろうか? とロシェルが戸惑いながらもっと周囲を見渡してみれば、自分の後ろの方で何やら長いローブに身を包んだ10人位の人間達が杖や本を片手に館に向かって手を伸ばしてぶつぶつと口を動かしていた。


(え? まさかこの人達は……!)

 あくまでもロシェルの想像の範囲内でしか無いのだが、地球で以前放映されていた映画等で見た事がある役柄にそっくりなその格好は、恐らく「魔術師」の類いでは無いのか? と推測した。

 ロシェル自身はこう言うファンタジーな世界には疎いので、最初にコラードから聞いていた説明もまだ余り理解出来ていないのが現状だが、もしこの人間達が今のこの火事を消し止める為に集まって来たのであればここは任せるしか無いであろうと思った 。

「これが……魔術……?」

 みるみる内に弱くなって行く炎の勢いを見ながら、地球の常識では考えられないその光景に呆然としてロシェルは呟いた。


「消えた……」

 あれだけの大火事だったにも関わらず、あのローブに身を包んだ集団がやって来てからあっと言う間に館の炎が消えてしまったのだ。

 一体どんな魔術を使えばここまで短時間で鎮火にこぎ着ける事が出来るのであろうか?

 地球であれば消防車の放水やヘリコプターからの空中放水等があるが、この世界においてはやはり魔術が生活に必要なものとして成り立っていると考えて良いだろうなとロシェルは考えていた。

(世界が変われば生活の仕方もやっぱ違うんだなー……)

 こう言うファンタジーな世界にはそう言う世界なりの考え方や生活習慣の違いがあるから、時間があればそう言う事柄を調べてみても面白いかも知れねーなと思うロシェルの肩をトントンと誰かの手が叩いた。

「んっ!?」

 いきなりの出来事に若干身構えながらロシェルが後ろを振り向けば、そこに立っていたのはこれまた一目見て一般人では無い……金属製の甲冑に全身を包んだ兵士達だった。

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