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16.最後の配達先

 とにかく今はこの荷物配達の依頼をしっかりこなして信頼を得る事と、1時間と言う多めの時間の中で少しでもこの国の都であるペルドロッグの地理を頭に叩き込む事に専念しようとロシェルは自分自身に言い聞かせた。

(図書館とかに行けば地図とかもあるかも知れねーけど、自分の足で歩き回って地理を覚えるのとは若干違うからなー)

 本当はこの都の地図をコラードから借りる事が出来れば良かったのだが、別れ際にその事をコラードに聞いた所、彼は地元の人間であるからこそ地図を持たなくても都の隅々まで歩き回れると言うので、世界地図や他の国の地図しか持っていなかったのが惜しい所であった。

(後で図書館で聞いてみるか)

 その目的を忘れない様にしながら、ロシェルはペルドロッグの街中へと歩き出した。


「……ええと、ここで良いのか?」

 その建物を見上げて、ロシェルの口からそんな疑問が思わずこぼれてしまう。

 街の人間に何度も道を尋ね歩き、何とかロシェルは無事に2ヶ所目までの配達を終わらせて最後の3ヶ所目の配達場所まで辿り着いていた。

 だが、ロシェルの目の前に鎮座しているその建物は配達先と言うには不釣り合いな1軒の館だった。

 そして、この館に来る前に街の人間から不穏な噂を聞いていた事もロシェルの不安を増大させる原因の1つになっていた。

(最近、ここには不審な奴等が出入りしているって話だったけど……コラードさんはそれを知っててこの依頼を受けたのか?)

 しかし、この館で配達も最後だし……とロシェルはその不安を首を横にブンブンと振って強引に打ち消し、その館の入口のドアへと足を進ませて行く。


 この館の外観からしても非常にボロボロであり、所々の塗装が年月の経過によって剥がれてしまっていたり窓が割れてしまっていたりと言う事が館の入口に近付いて行くに連れてより鮮明になって来た。

 ロシェルの記憶の中の、地球の似た雰囲気の景色で言うのなら、まるで市街地の裏路地に存在しているスラム街の荒れ様を思い起こさせる館だった。

(いかにもストリートチルドレンとか、それからホームレスとかがねぐらにしてそーな場所だぜ……何だか気味悪いな)

 そう言う連中が居るかもしれないから、いざと言う時にはさっさと退散しようとロシェルは心に決めつつ入口のドアについている、館の外観に負けず劣らずの錆びた茶色のドアノッカーをゴンゴンと2回ドアに叩きつける。

 が、館の中からは何の反応も無い。

(……あれ?)

 留守なのか? とロシェルは思いもう1度ゴンゴンとドアノッカーをドアに叩き付ける……が、中からはやはり何も反応が無いままだ。


 その後も何度かドアノッカーをドアにぶつける作業を繰り返してみるものの結果は同じ。

(あちゃー、こりゃー参ったなぁ)

 このままでは日が暮れてしまう……と悟って、ドアをグイッと館の中に向かって押し込んでみる。

「……ん?」

 そのドアはロシェルの力に反発して来るかと思いきや、力に従ってギギギィ……とホラー映画等で良くありそうな古い開閉音を立てつつ開いてくれた。

「……うわ……」

 思わずそんな声が口から漏れてしまう程、ロシェルは館の中の状況に絶句した。

 床はボロボロ、壁も一部崩れており、足元は少し歩くだけでホコリまみれなのが良く分かる位に手入れも何もされていない事が薄暗い中でも明らかだった。

(真面目にこの館で配達先って合ってんのかよ……?)

 これでもし間違っていたら、この依頼をして来た人間を恨んだって仕方が無いだろうな、と思ってしまう位に人の気配が無いのだ。


 だが、それ以上に気になるのはこの館に出入りしていると言う不審な人物達の目撃情報であろう、ともロシェルは思わずにはいられなかった。

(そんな人間達が出入りしているって事は……ただの館じゃ無いかも知れねーぞ、こりゃあ……)

 決めつけが良くないのは自分でもロシェルは分かっているのだが、自分の直感が何か危険な雰囲気を感じ取って頭の中に警鐘を鳴らしている。

 それでも、今のこの館には人の気配が無い為にどうする事も出来ないし、この屋敷の中を勝手に散策する訳にもいかないのでロシェルは館の中に向かって大声を上げた。

「誰か居ませんかーっ!! ギルドからの届け物に来たんですけどーっ!!」


 すると、その大声に反応したのか奥の階段の方からドタドタと慌ただしく1人の女が下りて来た。

「はいはーい!!」

 その女は館の明かりをつける……が、身なりは酷い物であった。

「ええー……」

 茶色の胸まであるロングヘアーはボサボサで手入れもされておらず、顔も化粧なんてしていないスッピンのまま。しかも靴が片方ずつ違う状態であり、片方がサンダルの片方がブーツ。

(何て格好だよ……)

 館の状態に先程絶句していたロシェルだったが、その館の状態に見合っていると言って良いであろう女の状態に再び絶句しながらも尋ねてみる。

「え、ええとこちらに配達したい物があるんですけど……」

「ああ……ギルドからよね。何かしら?」

 女はさして自分の状況に気にする風でも無く、ロシェルが持って来たその小包を受け取った。

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