9.唐突な申し出
その一方的な侵略戦争の話も一段落ついた所で、コラードがまだ話していなかったこの公国の残りの部分について話してくれた。
「それじゃあルリスウェンの続きだ。私達が居るこの町は、さっきも言った通りルリスウェン公国の首都でペルドロッグと呼ばれている。公国の政治や経済の中心地で、大公がいらっしゃるのはヴァニール城と呼ばれる場所。しかし、このペルドロッグよりも更に大きな町があるのはこれもさっき話したな?」
「はい。南に随分進んだ所ですよね?」
「そうだ。だからこそ、君が元の世界に帰れる様に頑張ってみると言うのであればこのペルドロッグである程度情報収集をして、金も稼いでからその町に行くと良い。本来なら公国の研究所とかに話をつけて色々とそうした異世界人の情報を集めるべきだと思うが、初対面で異世界からやって来ました、と言われても信用出来ると思うか?」
ロシェルはそのコラードのクエスチョンに苦笑いで首を横に振った。
「魔力を感じる事が出来ない、と言うだけでは信用しきれないんじゃ無いですかね。この世界に現れたって言うその異世界人達の情報が、このルリスウェン公国にも届いているなら話はまた変わって来ると思いますけどね。……でも、傭兵の貴方が知っている事ですし何よりも騎士団長が殺される事態にまで発展した訳でしょ?」
だったらもしかすると、このルリスウェン公国の研究所とかにまで伝わっている可能性もあるんじゃ無いですか? と予想を口にロシェルは出してみるが、コラードの顔は渋いものになる。
「いや、それがだな……シルヴェン王国の方はどうやら内密に事が進められていたみたいで、この国まで詳しい噂は届いていない。そしてソルイールの方も殺された騎士団長とその仲間達が全員逮捕されて一掃され、そっちの話の方が大きくなってしまってな……。その騎士団長の陰謀の話で、異世界人の事は注目されにくくて気がついてみれば人々の記憶から薄れて行っている状況だな」
「へ、へぇ~……」
ロシェルは思わず苦笑しか出なかった。
「でも……異世界人の事はまた注目されているみたいじゃ無いですか。コラードさんもご存知なんですよね?」
「ああ、私みたいな傭兵の元にも異世界人の情報は届いているからな。丁度その時私はソルイールに居たものでな。だから異世界人の情報を聞いて興味が出た私は、傭兵として仕事を請け負う傍らで異世界人を探していた」
「それで……まだ見つかって無いんですよね?」
「ああ。情報が少なすぎるし、魔力が無いと言う人間は君に出会うまで私は見た事が無かった。その内見つかるんじゃないのか? この世界の傭兵は私以外にも沢山居る訳だからな」
「です、ね……。俺が対象じゃなくて良かったですよ。下手したらそのソルイール帝国の人間に殺される所でした。そのソルイールに現れた人と同じく茶髪だけど、まだ中年には行ってないですから」
すると、ここでコラードからはこんな質問がロシェルに飛んで来る。
「君は軍人だったな?」
「え? ええ……」
「その……君は戦う事が出来るのか?」
「まぁ、それなりにはですけど」
それを聞いて、ロシェルにこんな提案をコラードは持ちかけた。
「私に君の戦い方を見せて貰えないだろうか?」
「ええ!?」
何をいきなり……とロシェルは思っていたが、別に手合わせをするとかそう言う類のものでは無い様である。
「戦う事が出来るなら、それ相応の「型」と言う物があるのでは無いのか? 剣士なら剣の型を覚えて、槍使いなら槍の方を鍛錬で習得する。君も戦う事が出来るのであれば、そうした戦い方の「型」があると思うのだが?」
「ああ、ありますよ」
「であれば、それを見せて欲しい」
そのコラードからの申し出を別に断る理由も無かったので、ロシェルはベッドから身体を起こしてその申し出に応じる事にした。
「分かりました。ですがその前に、俺の服はそろそろ乾いてるでしょうから着替えても良いですか?」
「ああ構わんぞ」
が、それに呼応するかの様にロシェルからも願い事が1つコラードにやって来た。
「もし宜しければ、コラードさんの戦い方も見てみたいです」
「私の?」
まさか自分にもそう提案されると思っていなかったのであろうコラードは、ロシェルのその申し出に若干驚いた表情を見せて問い掛けた。
「はい。その背負っている物が武器なんですよね? この世界での戦い型って言う物がどう言う物か見ておきたいのは俺も同じです。この先、対立する人間が出て来ないとも限らないでしょ?」
ネガティブではあるが、この先の事を見据えているロシェルのセリフにコラードは1つ頷いた。
「分かった。それでは私も自分の戦い方を見せよう。それとも手合わせの方が良いか?」
コラードの質問に、ロシェルは薄い笑みを浮かべながら頷いた。
「手合わせなら俺も構いませんが……まずはお互いの戦い方のテクニックを知っておいた方が良いかもしれませんね」
こうして、結局は手合わせと言う形になってしまうのであった。




