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2.あり得ない現実

「ルリス……ウェン……」

 ロシェルの記憶には少なくともそんな地名は無い。

 しかし自分はヨーロッパ……いや、地球の他の国を全て回った訳でも無いのでまだ知らない国があってもおかしく無いだろうと判断する。

 もしかしたら……と思ったロシェルは、男にこんな事を聞いてみる。

「ええと……俺は船の事故でここに漂着したんですか?」

「は?」

 その質問に対する男のリアクションは、ロシェルが見ても明らかに呆気に取られているものであると分かった。

「何を言っている? この湖は船など1隻も停泊していなかったし、念の為にこの町の人間が少し湖に潜ってみたが船の残骸なんて物は無かったと言う報告だぞ」

「……何で、俺はびしょ濡れだったんだ……」

 だとすれば、自分は一体どうしてずぶ濡れだったのだろうか?

 幾ら考えてみても答えは出て来そうには無かった。


 だが、その答えは男が解消してくれる事に。

「それは多分、この国独特の天気の影響だと思う」

「天気?」

「そう。このルリスウェン公国の天気は晴れている日が少ない。曇っている日が多くて、雨の日も同じ位多いんだ。だから君は恐らく、雨に打たれたままあそこに意識を失って倒れていたんだろうな」

 確かにアフリカなどでは干ばつが多い地域も多くあるが、雨や曇りが多い地域はなかなか聞いた事が無い。

 この点に関しても世界中の全ての気候を知っている訳では無いから何とも言えないが、自分が住んでいるヨーロッパのアイルランドやフランスでは突然雨が降って来たり1日中曇っている日が多かったりと言う事が多い。

 だとすれば、ここはヨーロッパなのだろうか?


 そして、そこまで考えていたロシェルは1つのシンプルな解決策に行き着いた。

「そうだ! 頼みがあるんですけど……世界地図ってありますか?」

「世界地図? あるけどそんな物どうするんだ?」

「今の俺が居るこの場所と、俺の国の場所を照らし合わせてみればどうやって俺がここまで辿り着いたか分かるかもしれませんよ!」

「成る程な。確かあった筈だからちょっと待っていろ」

 そう言って、男が部屋を出て行っておよそ5分。

「あったぞ」

 ロシェルの元に戻って来た男は小脇に大きな地図を抱えている。それを見てロシェルはホッと息を吐いた。


 が、次の瞬間ロシェルはまたしてもめまいを覚える事になってしまった。

「……えっ!?」

 何だ、この世界地図は。

 驚きの声と共に出て来たロシェルの心の第一声がそれだった。

 明らかにこれは世界地図では無い。

 そんなロシェルのリアクションが気になったか、男がロシェルに問いかける。

「……どうした?」

「あ、あの、これは世界地図では無いと思うんですけど」

「……え?」

 今度は男の顔に驚きの表情が浮かぶ。

「何を言っている? それは紛れも無いエンヴィルーク・アンフェレイアの世界地図だが」

「え、エンヴィ……あん……?」

「え?」

「…………は?」


 お互いに混乱状態に陥ってしまったらしいと言う事は理解出来たのだが、一体何から聞いて良いのかと言う事も2人に共通していた。

「ま、待て落ち着け……君はその、あれか? 記憶喪失なのか?」

 男が口にしたまさかの予想に、ロシェルはほぼ間髪入れずに首を横に振る。

「俺が記憶喪失? まさか! 俺は自分の事はちゃんと言えますよ!」

「ならば自己紹介してくれ」

 疑いを微塵も隠そうとしない男のその頼みに、ロシェルは若干ムッとしながらも答える。

「ああ良いですよ。俺はロシェル・バルトダインです。生まれ育ったのは地球のヨーロッパにある、ガラダインと呼ばれている国です。年齢29歳、家族構成は自分と父と母とあと弟が1人。職業はガラダイン王国海軍の軍人、階級は……今は少佐ですが、望んで手に入れた地位ではありませんのでいずれは中尉に戻りたいです。こんな所ですね」

 そのロシェルの自己紹介に対して、男はポリポリと右の人差し指で自分の頬を掻いた。

 そして、物凄く気まずそうな顔をしてこの一言。

「……何処か違う世界の人間だったんだな、君は」

「はい?」

 いきなりこの男は何を言い出すのか、とロシェルは言葉が出なかった。


 そんなロシェルのリアクションを見て、男は更に続ける。

「まず、ここは地球と言う世界では無い事は確かだ。私が生まれる何百年以上も前からエンヴィルーク・アンフェレイアの名前がついている世界だからな。それからヨーロッパと言う場所やガラダインと言う国の名前も初耳だ」

 初耳にしては、余り驚いていない様なたんたんとした口調で男は話し続ける。

 そして男が発した次のセリフで、ロシェルにとってここが異世界だと言う事が決定的になってしまう!

「それから、君の身体からはこの世界に生きている人間や動物、それから魔獣と言った生物に例外無く必ず存在している筈の魔力を身体から感じ取る事が出来ない。君の様な人間を見たのは初めてだよ」

「……魔力?」

 聞き慣れない単語に、ロシェルの表情は固まったまま口だけ動いている状況に。

 この男の言っている事が事実だとしたら、自分はもしかすると……と現実的にあり得ない結論にロシェルは心の中で達しようとしていた。

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