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1.若き軍人、異世界で働く

「ロシェル、こっちも頼むよ!」

「はーい!!」

「それが済んだらこっちも頼むぞ!!」

「はいはーい!!」

 町の人間に頼み事をされ、バタバタと慌ただしく動き回る青年が1人。

 その青年は、この世界の常識を根本から覆してしまう体質の持ち主だった。

 しかし、その事を町の人間達は特に気にする事も無くこの世界で身寄りが無い彼の事を受け入れてくれている。


「ふうー、疲れたぜ……」

 青年の名前はロシェル・バルトダイン。

 地球と言う世界から、このエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界にやって来てしまった異世界人の男である。

 そんな異世界人の男である彼は、現在は自分を保護してくれている町の手伝いをして過ごしている。

 そんな生活が続いて早2週間。

 今のロシェルが居る場所は、ペルドロッグと呼ばれているこのルリスウェン公国の都だった。

 そして、このエンヴィルーク・アンフェレイアにやって来る前のロシェルの職業は、ヨーロッパに存在するガラダイン王国の王国海軍所属の軍人、階級は少佐だった。


 そもそも何故、その様な王国軍人の少佐である彼が今こうして異世界と言うあり得ない場所に居るのかと言うと、それは地球での出来事にさかのぼる。

(今、軍の奴等は結構な騒ぎになってんだろーな)

 他国との演習中にいきなり俺が忽然と姿を消してしまったんだから……とロシェルは思い返していた。

 2016年の11月16日から22日まで行われる他国との合同軍事演習。

 それも2ヶ国では無く、自分が所属しているガラダイン王国軍とヴィサドール帝国、プラスドイツ軍にロシア軍の4ヶ国の合同演習だ。

 その4ヶ国の合同演習は陸海空全てのジャンルの軍人達が参加する事が義務付けられており、ロシェルもまた海軍佐官の1人として参加していた。

 海に出て演習をしていたのだが、その中でも少し休憩を取れたロシェルは戦艦の休憩室で1人で束の間の休息を味わっていた。


 だが、その休憩も終わって演習を再開するべく同胞の軍人達の元へと向かおうとしたロシェルは、休憩室の椅子の下でキラリと光る物を見つける。

(何だこりゃ?)

 その光る物が気になったロシェルが椅子の下に白手袋をはめた手を突っ込んで、光る物を掴んだ次の瞬間に強烈なめまいに襲われる。

「うっ……!?」

 めまいに堪えきれなくなって、思わずガクリと手を突っ込んだままの体勢で床に突っ伏す形になってしまったロシェルが次に意識を取り戻したのは、見知らぬ木製の天井が広がっている状況だった。


 最初は医務室にでも運ばれたのかと思ったのだが、それは明らかに軍人の格好をしていない人間が部屋に入って来た事でロシェルの心が否定した。

(何だ、この男は……)

 くすんだ金髪に、シワの入っている顔に髭を生やした……顔立ちだけでも29歳のロシェルより一目見ただけで年齢が上であると分かるその容姿。

 だが、顔立ちよりもロシェルの目を引いたのはその格好だった。

 茶色いシャツは日常生活の中でも見慣れた衣服だが、そのシャツに覆い被さっている何本もの黒いベルトにプラスして、両方の肩にこれまた覆い被さる形で取り付けられている黒と白のシマウマを連想させるツートンカラーの肩当て。

 そして何よりもその男が背中に背負っている、明らかに武器と分かる長い……斧だか昆だか凄い微妙なフォルムをしている獲物がロシェルの意識を奪う。


「気が付いた様だな」

 年相応と言うべきか、深みのある低い……それでいて何処か安心した声色でそう男は呟いた。

「……あ、あの、ええと俺は、あー、その……」

 一体何から聞くべきなのか。

 この状況にまるで頭が働こうとしていないロシェルのそんな姿を見て、男は水に濡らしたタオルを手に持ってロシェルの寝ているベッドに苦笑いしながら近づいて来た。

「聞きたい事も言いたい事も沢山あるのは分かるが、まずはこれで顔を拭いて落ち着け」

「あ、ああ。どうも……」

 自分自身でも落ち着かなければならないと悟ったロシェルは、男が差し出したタオルを受け取って目の周りを中心に顔全体を拭った。

「落ち着いたか?」

「おかげで。それで、早速なんだけど……」

「分かっている。何でも聞くが良い」


 男のそのセリフにロシェルはまず、自分が何故ここに居るのかと言う事を聞いてみる。

「君はこの近くにある湖のほとりに倒れていてな。私がここまで運んで来たのだ。全身がずぶ濡れだったから着替えさせておいたぞ」

「あ……」

 そう言われてロシェルは今気が付いたのだが、自分の身体を見下ろしてみると確かに何時も自分が着ている白い詰め襟の軍服では無く、簡素な白いシャツに黒い長ズボンの格好だった。

「ありがとうございます、助かりました。……ところで俺の服は?」

「外で乾かしてある。もう乾いているだろうから着替えるか?」

「いや、聞きたい事を全て聞いてからにしますよ」


 着替えるのは別に後でも出来るから、と首を横に振ったロシェルは次の質問に移る。

「ここは一体何処です?」

「ルリスウェン公国の都、ペルドロッグの郊外だ。住みやすくて便利な場所だから、郊外にしてはなかなか人も多い。近くにはさっきも言った通り、君がほとりに倒れていた湖がある」

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